08 ノスタルジックの向こう
文字数 2,859文字
「地元のテロリストは仲間だど聞いでる」
「ガス灯温泉守るのは、星空義侠団ども聞いでる」
別れ際に佐藤と錦からとんでもない情報を得てしまった。彼らの裏切りが確定したではないか。藍菜に電話する。
『まじ? ならば巫女に待機させる。奴らも彼女と戦えないだろしね、ひひひ』
「深雪を来させるべきじゃない」
同郷で争わせるなよ。
『本人の意思は確認しとく。念のため、本部経由でトリオスにも……まだ様子見かな。代わりに智太君から
人の彼女をくそ扱いして電話を切られる。……夢月を留年させるなと、蘭さんから言われている。母親からもお願いされている。なにより危険をさせないでと手を握られた。彼女はぎりぎりまで呼ばない。もはや関西の三人セットのが強いかもしれないし……。
トリオスは九州をほぼ奪還した。アギトゴールドの『お金に羽根を生やす』というよく分からない逃亡専用技で、百夜目鬼と二度遭遇しても生き延びたらしい。出身地方で峻烈な戦いを繰り広げたレオフレイムは、レベルが211まで伸びた。タガメ女とクワガタ女も180前後になった。俺はあの二人よりずいぶん弱くなってしまったが、落ちぶれたなどと思わない。
ハデスブラックに一人でとどめを刺した深雪は、レベル198になった。俺が身を挺したのにとも思わない。仮面ネーチャーもリベンジグレイだって戦いで身を削った。俺も彼らと並ぶ男とだけ考える。
「夜桜の機嫌は直らないのか?」
芹澤が湖佳に聞く。
「彼女は頑固です。でも、代わりに岩飛殿を送りこんでくれます。
南極トビーはどうでもいいが、シルクイエローが来るのならば、キラメキグリーンと三人でスパイラルレインボーをだせる。えげつない特殊攻撃だらけのハウンドピンク一人のがチーム力は上がるけど、俺の自業自得だから仕方ない。
「岩飛さんはレベル100越えている。レベル176のセイントアローが現れても、数字の上では勝るな」
「星空義侠団二十三人全員が現れるかもしれませぬぞ」
彼女たちは単体敵リスクのなんたらの話をしているみたいだが、セイントアローとは柚香の先輩である野原宏。それよりも。
「団員が増えてないか?」
以前聞いたときは十八人だったはずだ。
「向こうから寝返ったものがいます。……もしくは義侠団が寝返ったのか」
「ともかく岩飛殿は転生ついでに転送ができぬため、睦沢殿(陸さんの苗字だ)もお付き合いしてつばさで来られます。村山駅までタクシーで迎えに行ってレンタカーを借りましょう。運転は私がします」
そう言って湖佳が女子トイレに入る。
「モスプレイは?」芹澤に聞く。
「十三時二十分に到着します」
ならば心強い…………髪を刈りこんだガラの悪そうなオヤジが女子トイレからでてきた。これはダメだろ。
「誰に化けた?」
正義の心を発動させまくるオヤジへと聞く。
「地球上で一番嫌悪する者にです。この男の免許証をなぜか持っています」
しゃがれ声で言う。
「私や千由奈の素性は当然調べておりますよね」
俺はうなずく。
三人はラーメンやそばを食べた後にタクシーを呼ぶ。
***
「千由奈ちゃんと桧ちゃんは、昨日は皇居を四周走ったそうです。今日は白山神社から護国寺を経て石神井公園を目指すそうです。かわいいお二人が、うふふ」
女装姿の陸さんに教えてもらう。自慢のつるつるした腕は、晩秋の東北ではさすがにさらさない。
「健全な精神は健全な肉体に宿るって言いますよね。千由奈さんの精神エナジーはより高まり、ハウンドピンクはさらに強くなりますよ」
健全でない岩飛が言うが、もっともだ。
はた目に謎っぽい組み合わせの五人。義理の父に変げした湖佳の運転で、3ナンバーのワンボックスカーは冬枯れ始めた山麓を進む。
隼斗は試合だから夜までは召集されない。芹澤は正規の転生が許されたので、黒いマントを没収した。彼女はキラメキグリーンで戦わせる。アラームが鳴ったので目薬をさす。
「ここ?」
俺の第一声。完全に観光地でないか。テレビの旅番組でも見た覚えある。それでいて泡々温泉同様に山あいに閉ざされている。駐車場は満タンだし、路上駐車のベンツに湖佳がクラクション鳴らしまくるし。運転手が怒鳴りこんでくるし。陸さんを見て車を移動させたけど。
「こんな場所にアジトを作れるのか?」
ベンツに代わって路駐したオヤジ姿の湖佳に尋ねる。
「銀鉱の跡地に作られているそうです。観光地である坑道とは違う場所ですな。ここから四十分ほど徒歩で登ります」
そう言いながら、アナグマの姿になる。
「私が透明になり浮かんで道案内します」
――こちらです
風に導かれるまま四人は温泉街に入る。……女装の陸さんが極めて目立つ。観光客はレトロな建物よりも俺たちに注目している。
「素敵な場所ね、うふふ」
「夜はもっと奇麗らしいっすよ」
「曇ってくると寒いですね。冬は豪雪だそうです」
「わお、ぜひ真冬に来たいっすね。陽南ちゃんはきついかな」
「ヒマワリだからですか? 特性は関係ないですよ」
「うふふ」
『昼は蝶』の三人はそれでも物見客の真似を続ける。なんだか仲良しで俺はまた空気。
――あなた方より上手に観光客に似せた見張りがいます。二十代前半の男女。10メートル離れて尾行しています
風が教えてくれる。布理冥尊か星空義侠団か。どちらにしてもここで騒ぎは起こさないだろう。すぐに温泉街を抜けて、滝を過ぎる。観光客もいなくなる。未舗装の脇道に入る。
――さらに二人が待ちかまえています。こちらも精霊の盾はまとっていません
鉄柵の前にそいつらはいた。
「ここは立ち入り禁止ですよ」一人が言う。
「おめらは関東がら来だのが?」一人が言う。
「姉ちゃんが一人精霊の盾まとってんべ?」
柵の向こうからも声がした。
「つまり裏切り者だべ。花鳥風樹だ」
さらに男が二人現れた。五十ぐらいの地元民丸出し親父と、俺と同年代の格好いい男。そいつは見覚えがある。その時は金色の鎧をまとっていた。
「大宮で会ったよな」
野原宏が俺に言う。
「目を見れば分がる。おめはズガジバレッドだ」
その手に金色の端末が現れる。隣の親父の手に黒いマントが現れる。
「転生しろ!」
みんなへと叫ぶ。俺の手に仮面ネーチャーの端末が現れる。白い渦も現れる。
赤い光と金色の光。スカシバレッドとセイントアローが現れる。
「スカシバーニング!」
雑魚敵をなぎ倒すために、正義の赤い光をだす。
「セインドギャラグジーゴールド!」
まばゆいまでの金色の光に、スカシバレッドの光は飲み込まれる。
俺も思わず目を腕で覆う。再び開けると。
「り、陸さんがやられた。陽南ちゃんも」
巨大なペンギンだけが立ちすくんでいた。
「彼の正義の光の浴びれば、レベル100以下は消滅する」
セイントアローの横で、人の顔をしたダチョウが笑う。
「じょさね」