01 修羅場ハーレム
文字数 3,594文字
目が覚めたら、真っ暗な倉庫街だった。先ほどの夕立のためか、アスファルトには水たまり――。
きれいな子が俺を覗いている。黄色いシューズに踏まれて、女の子の顔は波紋に歪み消えていく。
まばらな街灯に照らされて、俺は泥水に膝をついていた。半露出した美女三人に囲まれていた。
そのうち一人は……胸に目がいってしまう。でかいうえに上半分を初日の出のごとくはみ出させている。肩にかかるは金髪。メリハリのある白人体系だけど、顔は愛らしい東洋人だ。微笑みながら俺の手を両手で握る。太ももまで露出したコスチュームは黄色だ。
その後ろで立ったまま腕組む一人は、背高く青色のコスプレで黒い長髪。体形は隣の黄色に比べると細身であれだが、知的なたたずまい。
夜に豹変しそうな美人女医様が、眼鏡越しに二十歳の大学生を見おろし観察している感じ。もう夜だった。すでにへそ出しスタイルだ。
最後の一人は小柄だ。ピンクのコーディネートで、もじゃもじゃヘアに至ってはショッキングピンク。
風船が枝にかかっちゃったのでとってください。みたいに、黒目がちな瞳に期待と望みを浮かばせて俺を必死に見つめている。小柄でおさなげな体だけど、俺は生育されたバストの谷間を覗きかける。辛うじて逸らす。
「目が泳いでいる。さすがに混乱しますよね」
金髪豊満美女が俺を抱える。胸を押しつけられる。
「まさか本当に二代目レッドが現れるとはな」
眼鏡美人は醒めた目で見おろしている。青色のスカートは短くて覗けそうだ。
「それよりも自己紹介をしようよ。僕はスパローピンク。呼ぶのはピンクでもスパローでもいいよ」
チビのかわいい子が微笑む。
「私はシルクイエローです。よろしくお願いします」
巨乳美女もにっこりと笑ってくれる。
「私はエリーナブルー」
眼鏡美人は笑わない。
「お前の名前は司令官が決めるが、合流する前に戦闘になりそうだ。便宜上、本来の名前を教えろ」
俺の名前? 本来もなにもひとつしかない。俺はようやく立ちあがる。
「
「来ましたよ。下級戦闘員が四体と中級戦闘員が一体」
質問に答えず、シルクイエローと名乗った女も立ちあがる。闇の向こうをにらむ。
俺は何故ここにいる? 露出の強いコスプレ女に囲まれている? 駅のホームでスマホをいじっていたら、俺の上に白色の光の渦が巻きだして、驚く間もなく包まれて……。
「智太さんは戦えるかな?」
スパローピンクがエリーナブルーに問う。その手に弓が現れる。
「レッドといえども顔つきが違う。おのれの特性も分からねば無理だろ。ピンクはそいつを守りながら中級を牽制しろ。1が四つに3がひとつ。合計で7レベルならば、俺とイエローで軽く撃破する」
エリーナブルーの手に軽機関銃が現れる。俺は腰が抜けてまた座りこむ。
「大丈夫ですよ。すぐに終わらせますから」
イエローがウインクする。その手に現れた槍を構える。
その向こうに遠目でも筋骨隆々な男たちが五人いた。そのほとんどは顔までぴったりと覆った黒色のユニフォーム。刀を持っているぞ。
「雑魚どもめ。邪魔をするな」エリーナブルーが叫ぶ。
「我々は夜に舞う」スパローピンクが続く。
「磨きあがった乙女たち」シルクイエローも。
「「「かわいこ戦隊モスガールジャーだ!」」」
三人の声が重なる。
エリーナブルーが空高く跳躍する。月明かりに照らされる。シルクイエローが闇を裂くように突進する。
男たちは刀を振りあげて俺たちへと向かってくる。奇声を上げている。
……これは夢じゃない気がする。俺は自分の目をこする。柔らかい指が柔らかい肌をさすった。
浜風が吹いた。肌に風を感じて、自分を抱いてしまう。柔らかいものがふたつ当たった。おのれの体を見る。尊いほどに肌を見せた赤いコスプレ衣装。
連続する銃音が
「俺、女になっているようだけど」
自分の胸を確認のためさすりながら、目のまえで弓をかまえる桃色ヘアの少女に聞く。ピンクと呼べと言ったよな。イメージカラーで呼べばいいのか。
ピンクが振り向き微笑む。
「そうだよ、智太さんも選ばれたんだから。前のレッドよりかわいいよ」
「選ばれたって?」
「日本の平和を守る正義の味方に」
そう言って彼女は弓を射る。コスチュームの男どもに向けてだ。危険すぎるが、先頭の男が刀で弾き落とす。こいつだけ全身タイツの柄が違う。朱と黒の縞模様だ。
「一体撃破!」ブルーはまだ空にいた。
「私もです!」
イエローは地上で男に槍を突き刺していた。さらに振りまわし残る二人をなぎ倒す――。刺された男が消えた?
ピンクが弓を乱れ撃つ。先頭の男にことごとく跳ねかえされる。
「ブルー! こいつは中級じゃない! トラップかも!」
「ハハハハハハハ」
朱と黒のストライプ男が立ちどまり笑う。
「残りかすどもめ。いかにもこれは罠だ。まとわりつく蛾を叩きつぶすために、わざわざ私が戦闘員服でお出ましだ。見るがいい」
どこからか黒色のマントを取りだし、身を包もうとする。
「ちょっと待て!」
傍観者であった俺は立ちあがる。俺を見て、男どもの空気が変わった。知ったことじゃない。
「これは映画の撮影か? 俺はエキストラなのか? ギャラはもらえるのか?」
いまどき実写メインなんて、どれだけ予算がないのだ。野郎どもが俺を凝視している。撮影の邪魔だと言うならば帰らせてもらう。
「新たなレッド? ついに後釜を見つけたのか」
先頭の男から怒りのオーラが漂う……。違う? 怯えている? 俺に?
「ク、クソ! 俺様の手柄にしてやる」
朱黒男があらためてマントを頭からかぶる。同時にギャーと悲鳴をあげる。胸から槍が顔をだした。倒れ込む。その向こうにイエローが見えた。
「おらおらおらあああ!」
上空からブルーが男めがけて機銃掃射する。
「お願い! 変身させないで!」
ピンクが弓を連射する。イエローがマントを槍でメッタ突きする。
このタコ殴りは通報レベルではないか。なのにスマホがなくなっている。黒色の男たちももういない。
だったら俺が、あの朱黒の怪しい男を助けなければ……その気が起きない。
ピピピ、ピピピ
俺の腕から電子音がした。でかくてダサい腕時計をはめていた。
「レッド、出て!」
汗だくのピンクが矢をつがえながら言う。俺はレッドでいいのか?
なるほどスマートウォッチだ。受信ボタンを押す。
「もしもし?」
『……お前はレッドか?』
年輩の男の声。関係者だな。
「らしいですけど、男に戻してもらえますか?」
いま起きていることすべてが意味不明だが、関わるべきでないことぐらい分かる。
なのに体と心がうずきだしている……冷静になろう。早く帰ろう。
『敵は? まだ戦闘中なのか?』
通信相手の男は俺の話をスルーしやがる。
「地面のマントに向かって、青色女が空から掃射しています。黄色女が乳を揺らしながら槍で刺しまくっています。ピンクの女の子が手のひらから矢をだして、ひたすら連射しています」
説明が面倒くさい。
『そっちのパターンか。あと百八秒でクリアだとみなに伝えろ。私の到着予定はおおよそ百五十秒後だ』
電話が切れる。106,105……と、画面がカウントダウンを始める。
「あと百秒ぐらいだそうです」
とりあえず彼女たちに声かける。
「撃ち方やめ! イエロー、確認しろ」
ブルーが空から叫ぶ。
巨乳姉ちゃんが槍で恐る恐るマントをめくる。
「穴が……、きゃっ」
地面に吸われていなくなる。
「変身されて、捕らえられた……」
ピンクが俺の横で青ざめる。ひと区切りついたのなら帰らせてもらいたい。
「俺は女装趣味ないから――!」
なにかを感じとる。女の子を抱き寄せジャンプする。
ドカアアンと足もとのアスファルトが爆発した。
「すごい、さすがレッド」
ピンクが俺に称賛の目を向けているが、俺は俺たちのいた場所を凝視する。割れたアスファルトから人が現れた。
「避けるとは、本物のレッドだな」
上半身裸の褐色肌のドレッドヘア男が俺をにらんでいる。これこそ関わりたくないので、俺は空で目を逸らす……。俺、浮いている?
ピロリンと、秒読みしていたスマートウォッチから音がした。音声が発せられる。
――識別が完了しました。
名称 トンネラー
所属地位 メインランド埋立区副支部長
特性 銅 土
ライフ 68/69
コンディション 99%
レベル 80
ボーナスポイント 不明もしくは0
「80だと? 地方幹部じゃないか」
ブルーが上空でつぶやく。
「ライフを1しか削れていない」
ピンクが嘆く。
俺はブルーを見上げる。いまの俺の目は暗視機能がついているみたいだが、白のアンダースコートだった。