21 赤い蛾
文字数 2,691文字
シルクが槍を持ったまま唖然とする。
「この威力なら、変身されようが倒せるぞ! イエロー交代だ。私が空から援護する!」
ブルーが俺の手を離れ宙に舞う。
ピンクとイエローが合流しようとともに駆ける。
俺も追おうとして、膝ががくりと落ちかける。精神エナジーの放出……。
不敵に笑ってやる。
「舐めるな!」
二本足で立つ巨大サイが、ブドウ棚を破壊して立ちあがる。
100越えの幹部が最終形態になろうが知ったことじゃない。生き延びるか共倒れのどっちかだ。スカシバレッドの血はたぎりまくっている。
ブルーの銃弾が分厚い肌に弾かれる。でも
俺はピンクとイエローの手を握る。レッドへと二人のハートが流れ込む。
同時に叫ぶ。
「「「スパイラルレインボー!」」」
螺旋を受けた巨大なサイが片膝をつく。
俺も片膝をつく。――連発しないと。
サイが頭をおろす。
「リノクラッシュ!」
ツノから突き刺す波動が襲う。三人は吹っ飛ばされる。道端の
サイキックが立ちあがる。空から降りそそぐ銃弾を気にもせず、俺たちを見おろす。
俺は二人の手を熱く握る。……ピンクが握りかえしてくれない。
「地面に埋めてやる。リノクラ――」
「サバンナ野郎、喰らえ!」
銃声。さらに銃声。サイキックがよろめく。装甲のような体に穴が開いた。
藪から傭兵が一人だけ現れる。武骨なライフルを持ち、俺を見る。
「あんたが先頭で突入するならば、俺がそのケツを守る。
男子の
スカシバの目つきに、男は銃をかまえなおす――。
なぜ撃たない?
「リノホーン!」
サイキックの頭から飛ぶ巨大なツノが、傭兵の体を分断する。
男は消滅していく。
怒り。だとしても俺はピンクを見る。頭部から流血して、うつろな目。……でも。
「女だったら耐えろ!」
手を離し立ちあがる。その手にスピネルソードが現れる。
スパローピンクは俺を偶像のように見上げている。
だから背を向ける。背を見せる。
「レッド! ピンクこそ守ら――」
「お前が守っていろ!」
俺は赤く燃えるソードを掲げてサイキックへと――
宙で動けなくなる。
「サイコキネシスだよ」
巨大なサイが笑う。
「リノホーン!」
でかいツノが一直線に飛んでくる。
でも俺は……もっと化け物が作りだした凍った時空さえ解いた。目をつぶって近づく深雪の顔。疲れ果て目を閉じる柚香……。すぐ隣の寝顔……柚香の吐息!
「おりゃ!」
全身の束縛から逃れると同時に、目の前のツノをソードで弾く。また吹っ飛ばされる。畑の金網が手荒く受けとめる。
ツノは主のもとに戻っていく。
「……なるほど。これぞレッドかい。目安など当てにならない」
サイキックが俺から目を逸らし、ピンクを応急処置するイエローへと目を向ける。
「お嬢ちゃんは黒岩様に残しておこう。どうせ逃げないのだろ? リノホーン!」
「や、やめろ!」
斬撃!!!!!!
とっさに振ったソードから赤い光が
光はツノを両断する。ツノは消えていく。
「私の飛び道具を……。あれはひと晩寝ないと復活しないんだよ!」
憤怒の面のサイキックにソードから斬撃を飛ばしまくる。分厚い鱗がことごとく弾く。
ならば直接斬りつけるだけ。めりこんだ金網に肌を裂かれながら再び宙に戻る。
「うりゃああああ!」
「リノキック!」
サイの足が伸びた。
直撃。肋骨砕けた音がした。腐葉土に落ちる。またあの子の血の味を知ってしまう。
俺の体がかってに浮かびあがる。目のまえに熊手のように爪を伸ばした二本足のサイがいた。桧の手をつないで動物園で見たのよりでかいかな……。体が動かない。
でも、この子の顔だけは守る!
「リノラッシュ! リノラッシュ!」
鋭利な刃物でなぶられる。かばった手も赤いコスチュームもずたずたにされる。顔だけは傷つけさせない。
「リノストリームで戦意喪失させてやる。生身のときは口臭がキツいと疎まれるが、精霊になればそれすら力となる」
ツノのないサイが息を大きく吸いこむ。やめてくれ。早くも戦意喪失しかける。
「機会だ!」
上空からの声。
獲物を狙う鷹のように、ブルーが急降下してきた。サイキックの口になにかを投げる。空中で俺を引きずる。
くぐもった爆発音がした。
「機内で傭兵の一人からプレゼントされた特製手りゅう弾だ。使ったら女の姿でデートしろと言われた。そんな約束は守らないがな。さあ、がんばって自力で飛んでくれ」
ブルーが手を離す。
アイルランド人はスカシバよりエリーナが好みなのか、なんてどうでもいい。俺は空中で必死に浮かぶ。
空飛ぶ女医が俺の手もとを見る。
「まだ音声オフのままか? 指令部が傭兵たちに借りたレーザーによると、やはり、とてつもないエネルギー反応が向かっているらしい。両チームに撤退指令がでた。モスプレイは低空で待機しているが、シルバーヤンマーというトンボが邪魔して傭兵たちは乗りこめない。サポートに……口腔で炸裂しても立ちあがれるのか」
「蛾の群れめ!」
口から血を吐きながらサイがわめく。その手に重機関銃が現れる。
ブルーとともに空高く逃げ……俺たちが逃げたら狙われるのは。
サイキックがザマァみたいに笑う。地面の二人へと銃口を向けて歩きだす。
イエローが祠からお地蔵様を引きずりだす。ふたりの盾とするが、イエローの尻がはみだしている。
俺は斬撃を機関銃に飛ばす。サイキックの極太の手に跳ねかえされる。
「もっとでかい遮蔽物! あの木!」ブルーの叫び。
俺はソードを必死に何度も振るう。
幾重の刃状の赤い光が、祠の隣に立つ見事すぎる松の木を立て札ごと切り裂く。イエローとピンクの前に倒れる。同時に銃弾が襲う。重機関銃の弾の嵐に、彼女たちの盾となる樹肌が恐ろしい勢いで削られる。
俺はまた地上めがけて飛ぶ。
サイキックは俺が来るのを待ちかまえていた。サイコキネシスをかけやがった。脇に挟んだ重機関銃を俺へと向けやがる。
動けなくなっても動いてやる!
……たぶん、だから俺はレッドなんだ。
スカシバレッドは
「ぎゃああああ!」
レベル100越えの絶叫が盆地を揺らす。その手から機関銃が消える。