18 ばいばい智太君

文字数 2,905文字

「偽のお姫様のマント(覆い)。精霊になれば苦しみから逃れられるのに、彼女は用いるのを耐えた。(おおとり)の精霊と化した彼女に、原理を授ける手筈でしたのに。その姿で永遠に苦しむように」

 灰色の空。白い魔女が浮かんでいる。優しい目。温かい眼差し。

「あなたは聖なる龍。月に寄り添う守護龍の気配がした。でも、偽りに取りこまれたようですね。あなたは楽園に不要です。永遠の闇に囚われなさい」

 魔女が右手を向けてくる。白い光。正面からなんてスカシバレッドはたやすく避けるけど……、いま死ぬと俺は闇に入場なのか? 原理主義だから? 悪いこと何もしてないのに?

 だとしても、この女を倒す。それで終わりだ。夢月が解放される。

『スカさん、近づいちゃあかんって。距離を開けて戦え』
 アギトゴールドの声がか細くなる。
『冷静にな。下には、ほむちゃんがいる』

『うちらは地上に行く。なにも知らないカラスが罠にかかっ』
 レアシルバーからの通信が途切れる。圏外か。

 夢月をトリオスに任せるとしても、どのみちスカシバレッドはアウトレンジができない。待ちかまえる魔女のもとへと飛ぶしかない。

「弱き姿ままの精霊よ。互いの身を削りましょう」
 魔女が両手をひろげる。
「この空に楽園の結界を築きました。生きて出られるのは一人だけです」

 また右手を俺に向けてくる。フレアが飛んでくる。
 スカシバレッドは避けるけど、見えない壁に背中が当たる。……嗜虐な魔女とともに空間に閉じこめられた。

「ほほほ。くじら雲の具現が、エナジーを照射してきました。そんなものでは楽園は滅びません。あれを浴びた私の傷はすでに癒え、精神エナジーは常に満ち足りています」

 百夜目鬼が笑いながら上空へフレアを放つ。その手を俺へと向ける。
 いまだ俺のお姫様は陸で苦しんでいる。飛びたつこともできずに弱い姿のままで。
 この老婆の笑いこそが、俺にどす黒いエナジーを授けてくれる。血の色の力を授けてくれる。

「お前を倒せば夢月も解放されるのだな?」

 レベルなんて関係ない。
 夢月を守る。柚香にしっかりと謝る。感謝する。できればもう一度抱きしめたい……なんて思わない。ともかくそれまでは生き続ける。

「ええ。ただし欲望に呑みこまれたあなたは、その麗しい娘のままですけどね。私の生死に関係なく」

『たとえ人に戻れなくても!』とか原理主義が叫んで超越化け物になったよな。それと同じ理屈か。……スカシバレッドのままなら仕方ないや。あきらめがつく。ばいばい相生智太。

「ならばあなたを殺すだけね」

 現実感皆無のまま、スカシバレッドは不敵に笑う。

「ならば遊ぶのはここまでにしましょう。竹生夢月を殺した光を授けます」
 魔女が両手を突きだす。
「白色光フレア!」

 須臾(しゅゆ)にして久遠(くおん)――。

 俺は刹那に考える。逃げ場なき結界。巨大な光。俺は一秒待たずに消滅する。
 せめて共倒れしてやる。いやしない。だから夢月を思う。

――龍になっちゃダメだよ

 柚香の声。なおも柚香を思ってしまった。あの声が無ければ、俺は血の色の龍の姿で原理を授かった。
 だとしてもだとしても、竹生夢月を守るため魔女を憎め。怒りに従え。体に力を込めろ。

 瞬時に蒸発させる光を浴びながら、鱗が全てを跳ねかえす。結界の内で身体が肥大していく。俺には狭すぎる楽園。

「な、なぜ龍になれる? なにを力に?」

 閉じこめられた魔女が驚愕の顔をする。そいつを五本の爪でつかむ。魔女が俺へと両手を向ける。

「無駄だ!」

 俺の声が炎のブレスとなる。白い光を飲みこみ消滅させる。

「俺は永遠にこの姿か?」

 魔女に問う。その声にもあぶられる。

「ひいー。今はまだ食わないでおくれ」
 俺の手で悲鳴をあげる。

 雑魚め、質問にも答えられないのか。離脱しようとしやがるから、爪が貫通するほどしっかり握る。

「食うはずがない」

 龍が白い魔女を引きちぎる。

「み、見えた……」

 俺のそれぞれの手の中で、二つになった魔女が微笑みながら消滅する。


 力が一気に抜け去る。おのれの体が縮んでいく。スカシバレッドに戻っていく。

「よかった……」

 相生智太に戻れたらなおさらいいけど。
 スカシバレッドは林へと落ちていく。……巨大な獅子が見えた。森を燃やしている。化け物だらけだ。

 ***

「スカシバはん、起きてください。えらいことになりました」
 レアシルバーに頬を往復ビンタされる。

 太ももに当たる金属が貼りつきそうに冷たい。仰向けに寝ていた。灰色の空から雪が降っている。……ここはサント号の上か。力が入らない。

「夢月は?」
 ブレスは血の色の炎にならない。覗きこむレアシルバーを燃やさずに済んだ。

「あんたは百夜目鬼を倒したのか? 露天風呂の白い光はなくなりました。彼女もいてはりませんでした。離脱したと思いますけど」
 アギトゴールドが立ったままで言う。
「それよかマントを使ったレオフレイムが興奮して暴走しました。どうにかせんとあきまへん」

「200越えのレオちゃんがマントを持っていてごっつい獅子になれると、さすがのカラスも知りませんでした。露天風呂に忍びこんできたのをこてんぱんにやっつけましたが、クロハネで逃げられました。
レオちゃんはおっきいライオンのままで蔵王山に向かいました。SNSチェックしましたが、いまのところは目撃情報ありません。なんでいまのうちに意識を取りもどさないとなりません。
ちなみに魔女を倒したですか? 龍にでもなったのですか?」

「ちょっとだけ考えさせて」

 二人へと言う。えーと。いろいろありすぎて考えられない。
 上半身を起こす。鳥肌立ったスカシバレッドの太ももが見える。心に雪月花を思う。着信がいくつもあった。折り返しで柚香へと連絡する。

『いまどこにいるの? さらにフレアを浴びてモスプレイのモニターやセンサーが壊れたから確認できない』
 安堵した声が聞こえた。

「タガメ女とクワガタ女といる。生きてはいる」
 心の中での呼称を声にしてしまい二人がひきつったが仕方ない。それよりも。
「夢月は?」

『いないの? すぐに夜桜に連絡させる。――司令官!』

 アギトゴールドが俺の肩を叩く。
「レオフレイム暴走の件、知らないようなら言うな。俺たちで内密に片付ける」
 きつい目で言う。

『確認中だって。いまから君を迎えに行く』

「まだトリオスと一緒にやることがある。それと――」
 俺は龍になった。言う必要はない。
「魔女は倒した。レイヴンレッドは逃亡した。また連絡する」

『百夜目鬼を? 智太君が?』

 通信を終える。……智太君か。
 穂村のもとに向かう前にもう一つ確認することがある。スカシバレッドは円盤の上で立ちあがる。精霊のくせに息が白い。素肌に張りつく雪が冷たい。雪は体温に溶けていく。精神エナジーが具現した存在であろうと、限りなく人に近い存在。
 俺は変身を解除しようとする。……マジでできない。スカシバレッドのままだ。無意識の癖でティアラの角度を直そうとして、ないことに気づく。俺は心に仮面ネーチャーを思う。端末は現れない。心にマントを思う。夢月の紅いマントも手に現れなかった。現れるのは変身できない雪月花端末だけだ。この子の赤髪に雪がかかるだけだ。
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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