13 伊勢志摩に頂点たちが集う
文字数 2,090文字
三人だけの時に、夢月の手に紅いマントが現れる。
水着姿になった夢月を見て、茜音の顔色が三重の海より青くなる。
「ち、ちょっと待ってね。……ら、蘭さん!」
「お前の頭は三重の空より突き抜けているのか? 一万歩ゆずっても模擬戦に使うな。そんなものを味方相手に使ったら、私は叛逆者ですと公言するようなものだ。よこせ! 没収だ!」
俺を殺したときよりはるかなる蘭さんの怒り。夢月は粘ったけど。
「絶対に返してね」渋々蘭さんに渡す。
蘭さんはきょろきょろしながら、スカシバイクの収納にマントを乱暴に押しこむ。俺に鍵を返しながら。
「格好良すぎる単車だな。妊婦じゃなかったら立ち合いなどせずに拝借して、紀伊半島一周したところだ。だが目立つから移動した方がいいのではないか? 和歌山から遠征してくる悪ガキにいたずらされるぞ」
「模擬戦で使いますので乗っていきます」
「水陸両用か? それともあの船に乗せるつもりか?」
定員八名ほどの細長いボートに、雨笠をかぶった船頭が棹を持って待っていた。関西組はすでに乗っている。
大型バイクを乗せたら沈みそう。有料駐車場に有料で停めて、最後に船へ乗りこむ。
「どやああああ」
亀田が白髪のそこそこ美人に変身する。タキシード姿で海に飛びこみ、船を後ろから押す。一気に加速される。
「燃料費も馬鹿にならんからな」
桑原が得意げに笑う。
船頭が座って煙草を吸う。
「蘭、おなかは大丈夫か?」
前方に座る稲葉さんが言う。
「問題ないです」
蘭さんは答えるけど、つわりもあるだろうし、おなかの赤ちゃんに何かあったら……。それでも付き添ってくれるのは、夢月が心配だからだ。
蘭さんはみんなへと。
「ここでルールを再確認しておく。何よりも重要なのは、
「こいつは十三夜を避けられる!」夢月が穂村を指さす。
「他の二人はあかんやろ」稲葉さんが答える。
「……はーい」
夢月が含み笑いをした。不安だ。
「島から離れるのも禁止。ミカヅキやサント号の使用は認める。ライフ値が半減したら退場だ。スーパームーンは十回攻撃を受けたら退場。生き残ったチームの勝ちとする」
おいしいルール。170台の金銀ならばファイナルアルティメットクロス二発で倒せる。つまり一撃で退場させられる。大技扱いしなかったことを後悔させてやる。
「雑魚二人の攻撃を十回受けてもアウトなの?」
夢月が桑原を指さしながら、蘭さんに文句をつける。
「月! ごたごた言うなら、お前ひとりで三人の相手をせい!」
稲葉さんが吠えた。
「到着したで。すぐに始めよ」
もうかよ。漁船は近くにないけどホテルは見える。どうせ結界で隠すのだろ。
船は急傾斜の島に接岸して、八人は降りる。桑原が蘭さんを過剰なまでに手助けした。いい奴じゃないか。やっぱり正義の味方だ。
「張っておく」
残った船頭の手に端末が現れる。この人も正義の味方だったのか。
島は樹木に覆われているけど、中央にバスケットボールのコートほどのスペースがあった。接近戦だ。
穂村が赤いタキシードになる。レオフレイム。さらに「変身!」
浴衣姿と変わる。真スーパースター“燃える京娘”。耳にかかった髪をかきあげる。ぞくりとしてしまう。
「私たちもほんまのスーパースターになりましょか」
二人のそこそこ美女も浴衣姿になる。タガメとクワガタの模様……。
「変身してくるね」
夢月と茜音が、裸になって抱き合うために森へ消える。かぐや姫とレインホワイトになって、樹上を越えて現れる。……スーパーになる時に抱き合わないと、茜音はアメシロのままだよな。わざわざかぐや姫に戻ったのか。
俺も手に仮面ネーチャーの端末をだす。
「変身!」赤い光に包まれる。「仮面スカシバレッド降臨!」
他に誰も名乗らなかったけど、叫んでしまったから仕方ない。ティアラが傾いてないかチェックする。
「正々堂々と勝負するように」
広場中央の端に稲葉さんと蘭さんが立つ。
トリオスと俺たちは両端にそれぞれ並ぶ。中央には紅月。俺はアギトゴールドと向かいあう。まずはこいつを狙う。
「アメシロちゃんとスカは飛びだしちゃ駄目だよ。巻き込まれちゃうから」
直前で紅月が不吉なことを言う。
「はじめ!」蘭さんが叫ぶ。
「えーと、こんな感じに」
かぐや姫が両手を空に広げる。
「これだと十五夜でちゃうな」
脊髄が凍るほどに不安だが、トリオスに目を向けると。
「ストック、フレイムオブキング。ストック、フレイムオブキング」
レオフレイムの前に炎が蓄積されだした。
「損得抜き! 損得抜き!」
アギトゴールドが炎をよいしょする。マグマのごとく膨らんでいく……。
「サント号!」
レアシルバーの叫びとともに、そのマグマを
「行け、皆殺せ!」
回転しながら俺たちへ向かってくる……。
「こんな感じだ!」
かぐや姫が頭上に目いっぱい円を描く。
「十六夜!」
とてつもない紅色の光が発せられた。目前まで来た炎のサント号を飲み込む――。