01 VSモスキッズ

文字数 3,145文字

「申し訳ないが私は逃げる。軟弱者臆病者卑怯者と並べたててくれ」

 エリーナブルーがすっきりとした尻を向けて去っていく。俺とシルクイエローだけが、深夜二時をまわり更にゴーストストリートと化した大阪府西成区のモール街に残される。

 今日もスパローピンクは現れない。すこしでも注目を受けていると転生されることはない。隼斗は一人でトイレにいてもシャワーを浴びていても転生されない。元気になって退院してから気配りを浴びまくっているようだ。俺も桧に注目されまくっているだろうけど、病の子への母親の愛が別次元の証しだ。
 とにかくピンクはもう現れなくていい。再入院しない元気なままで、健康を増やしも減らしもせずに過ごせばいい。

 なのにピンクが現れる。

「スカシバレッド、ひさしぶり! 会いたかった。やっぱり誰よりも綺麗。そして、じきに最強!」

 戦地だろうと俺に抱きつく。貞操シールドは発動しないけど、修羅場の夜に限ってかよ。

「今日から町田さんが夜間だけ来るようになって、両親も安心したみたい……。こいつらなに?」

「モスキッズ。布理冥尊のたこ焼きランドの特務部隊です。その抹殺指令で、私たちは関西に転生しました」
 イエローが怯えながら言う。
「でも、私も逃げたいです。この子たちを殺すなんて、私にはとても無理です」

 心ある人間なら無理だ。
 俺たちの前には、蚊をモチーフにした保育園児が五人いる。ブーンと手を羽根のようにひろげて、発表会みたいにはしゃいでいる。
 五人合わせてレベル55だが、ボーナスポイントが75ある。つまり抹殺対象(お尋ね者)。特性は“蚊”と“童”と“群”。
 関西地区の正義の味方たちは手をだせない。そりゃそうだ。遊ぶだけの子たち全てを倒せば任務完了だが、関東のクールな正義の味方でも、子どもの姿を虐殺できるはずない。司令官が言うR15では済まない。
 モスキッズの任務は正義のヒーローからの盾となり、布理冥尊の幹部を逃げさせること。一人でも倒そうものならば他の四人が泣き喚き、強き心を持つレジスタンスさえ戦闘を続けられずトラウマになるそうだ。実体は施設の不幸な子どもたちとか、貧乏な親が売った不幸な子どもたちとか言われている。
 そんな子たちを、布理冥尊め、俺だって倒せないぞ。

 なのにピンクが現れやがって。
 ほかの三人だけならば、ミッション放棄のペナルティなど受けてやる。レベル121が119になってフェロモンが減ろうが構わない。でも壬生隼斗の健康が削られるのは避けたい。

「わあ、ピンクのお姉ちゃんだぁ」
「かわいい、あそぼ」
「ぶーん、()だじょ」

 さらにはモスキッズちゃんたちがスパローピンクを狙いだした。この子たちが厄介なのは、口に吸血用のストローをくわえていることだ。俺はライフが130あるけど、ピンクは29だけ。

「レッド、こいつら帰らせてよ」
 ピンクが俺のうしろに隠れる。

「今日のお姉ちゃんたちは逃げないんだぁ」
「じゃ、みんなで倒しましょ」
 モスキッズちゃんたちが宙に浮かぶ……。

「僕たち、目を覚ましなさい! 子どもは善の固まりです! 悪に転がってもたやすく善に戻ります。すぐにいい子になれますよ」
 イエローが懸命に諭す。園児たちはキャッキャッと笑う。

「元気なみんな、お姉さんと遊ぼうか」
 状況打開のために、俺は保育士さんのような笑顔を向ける。キッズちゃんが嬉しそうに飛んでくる。……ストローが目を狙っているよな。
「おらぁ!」

 おもわず(はた)いてしまった。
 殺意のさの字もこめなかったのに、子どもが地面で痙攣しながら消えていく……。

「カーくんがやられた。ひっくひっく」
「うわーん!! ママ、どこにいるの? もうやだよ~」
「誰か助けてよ。うえーん!」

 悪夢だ。

「だ、大丈夫。カーくんは復活するよ」

 俺は浮かんで号泣する男の子を、なにげにストローを奪いつつ、抱いてあげる。隼斗が再入院しようとかまわない。あやして泣きやんだら撤退だ。
 男の子が俺にうずくまる。なのに胸への感触がない。鉄で守られている。つまり、貞操を守るシールドが発動した。

「このエロガキめ!」

 俺の全身がスパークする。男の子がふっ飛ぶ。

 スカシバレッドに(よこしま)な心を持つものは、三歳児だろうがゆるせない。なんて心が湧きでたのか、“スカシバフラッシュ”をだしてしまった。レベル100を越えてから発生するようになった俺の正義の光を浴びると、エリート以外の戦闘員は消滅する。

「うわあ……」
「ママ……」

 エロガキどころか、ピンクを追いかけていた女の子以外みんなが溶けていく。
 トラウマでは済まないぞ。

「な、なんや、いたいけな子にあかんやろ」
 生き延びた女の子が呆気に取られている。
「じゃりン子の姿が効かんとは、ほんま東京人は薄情やな。ほな、わての正体を見せたるわ。わては分身をおいくら万円消されようが、精霊の力は減らへん。あねさんら、こてこてにしたるで」

 女の子が巨大化してバーコード親父の顔した蚊の異形と化す。
 助かった。これで心置きなく倒せる。俺の両手にスピネルソードが現れる。

「スピネルクロス!」
 か弱い姿に成り変わる下種(げす)へとソードを交差させる。

「ぎゃああ」
 モスキッズの最終形態は、X状の赤い光に瞬殺される。

 ***

「さすがは我らがレッドだ。五歳にも満たぬ子どもたちを情け容赦なく成敗することは、大阪人にも京都人にも尼崎人にさえ成し遂げられなかった。正義のためには血も涙もない非情の女スカシバレッドと、これで西にも知れ渡り恐れられるだろう」
「今回のポイント合計は136。配分は、逃げたブルーは0。さらには次回以降のポイント受け取りから100差し引く。残りの三人は各42ポイント。10ポイントは貯蓄」
「本部に貯めたのはまだ13ポイント。利息をつけてもらっても微々たるものだな。ははは」

「夏目に聞きたいことがある」
 モスプレイのシートで足を組むエロ女教師の眼鏡が光った。
「前回のミッションは傭兵たちが破壊したテナントビル屋上の補修。その前は亀甲隊が荒らしたピーナッツ畑の耕し直し。そして今回の汚れミッション。前から感じてはいたが、本部は私たちに嫌がらせをしているとしか思えないのだが」

 そうだったのか。まだ正義の味方になって一月(ひとつき)だから、地味仕事も出張もあるのだなと思っていた。
 
「……エリーナ君、夏目とは誰かな? 敵前逃亡し、上官の名前を呼び捨てたうえに間違えるとは、銃殺刑に値する行為だぞ」
「ポイントの分配が終わった時点で戦隊ショーは終わりだ」
「レベルが上がればおしまいか。悪を倒すことに尽くす者とは思えないな」
「私は平和を守るためにここにいる! そうでなければ女の格好などに……。私は亀甲隊のメンバーから噂話を聞いている。夏目碧菜、その件について答えろ」

 このチームに滅多にない殺伐とした空気が漂う。新入りの俺は様子見の傍観者だ。

「エリーナブルー、レベルが40越えたからって調子に乗るな」
 アメシロが司令官の肩から翼を広げる。司令官の頬が羽根で叩かれるのを気にもしない。
「私が相手してやる。オウムだからって舐めるなよ」

「やめなさい!」
 イエローが叫ぶ。
「機内で大声だしてすみません。でも私も違和を感じています。とくに今日の……誰も引き受けない任務を、管轄外のチームに強制させるなんて、おかしすぎます!」

「ブルー。噂ってなに?」

「子どもが聞く話ではない!」
 司令官がピンクへと声を荒げ、うつむく。
「……隼斗君ごめんね。本当にごめん。ごめんなさい……。えーと、…………み、みんな教える。で、でも今日は解散。後日私の家に集まってその時に。あの部屋は傍聴不可(クリーニング)されているから。茜音っちセッティングしといて。じゃあ、みんなお疲れさまでした」
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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