05 モス来襲

文字数 3,781文字

 召集がないまま、十月が終わりに近づいている。現金の報酬をシェアハウスの生活費に当て込んでいたから、ちょっと心配。
 柚香とも二週間以上会っていない。連絡しないし、連絡も来ない。

『月だよ。智太君の大学に行けるかも。お婆ちゃんが私の彼氏に合いたいって』

 夢月からはメッセージだけ来る。当たり障りない返信をしておく。

『仮面ネーチャーの召集はこれくらいの頻度だ。平和をありがたく思え』
 ガイアさんに言われる。
『それより模擬戦はどうなっている。俺のところに苦情が来た。月と連絡を取って早く進めろ』

「はい?」初耳だ。

『聞いていないのか? トリオスはUFOを落とされた損害賠償を取り下げる代わりに、三対三の模擬戦を要求した。本部も認めた。
竹生夢月(素行不良)はお前ともう一人を探し中と答えて一月近くになる。俺を関わらせるな。早く済ませろ』

 了解ですと答えて、テントに寝ころぶ……。彼女たちが、そりゃ黙っていないよな。夢月が三人に俺を加えたのはともかく、もう一人は当然――、蘭さんに連絡する。

『夢月は柚香に最初に連絡した。柚香は私に相談してきたので辞退させた。レベル198であるレオフレイムの獅子の咆哮。あの子の魔法はすべてかき消される。……昂った穂村はある意味で危険だ。私はあの子を守る義務がまだある』

 危険の意味を俺も味あわされているし、柚香も味わっている。

「俺には連絡なしです」
『夢月なら普通だ。当日に連絡するつもりだったのだろ』
「……もう一人はどうするのですか?」
『お前が探してやれ』
 通信が終わる。

 激しい戦いから遠ざかっている。Sランクに昇格したチームの胸を借りるのはありだな。それに、もう一人もあてがある。
 メッセージは面倒くさいので電話する。立て続けに五回かけなおして、ようやくつながる。

『いい加減にしろ! 私は今インスピレーションの――』
「すみませんでした。落窪さんを貸してもらえませんか?」
『はい?』

 ***

『公然の秘密である布理冥尊を抜け出た三人を、公式に確認させること』

 藍菜がリベンジグレイを模擬戦に参加させるためだした条件。いつも交換条件が待ちかまえている気もするが、そろそろあの子たちをクリアにする潮時かも。なので了承したら、さっそくモスガールジャーが視察団として来ることになった。周到なトラップに一歩踏み込んだみたい。
 二日後である土曜日午後一時と慌ただしく決まり、今はその四十分前だ。
 みんなに伝えるのを忘れていた。

「お兄ちゃん! 結局何人来るの?」

 掃除や食事の準備をしながら、桧が愛くるしい顔で尋ねてくる。おもてなしは不要と告げたのに、妹にその気はない。

「勿体ぶって司令官とエースと用心棒は来ない。参謀と黄桃緑の四名だけ」
「この狭い家に総勢九名だと? 岩飛はトビーになって食器棚を庭にだせ」
「承知しました」

 春木千由奈が岩飛にマントを手渡す。愛知で押収したマント三枚を桧に渡したら、妹はその場で千由奈に預けた。
 岩飛が黒いビキニ姿になって……その姿で棚を一人で抱えて運ぶ。外から見られるのはよろしくない。

「千由奈。家を結界で隠して」
 俺は頼むけど。

「私の結界は闇だぞ。この家だけ夜に包まれていいのか?」
 三十分前に起きたハウンドピンクの中の人が不機嫌に答える。

 それもよくないので、南極トビーに俺の上着を着させて、形だけでも手伝う。さすが精神エナジーの具現。一緒に持ちあげられて運ばれそうだ。
 風を感じた。

「ただいま戻りました」

 アナグマが浮かびながら姿を現す。くわえていたビニール袋をテーブルに置くと洗面所に向かう。洞爺湖佳の姿で食堂に戻る。死んでレベルが落ちた彼女は他人に変げできなくなったが、透明にはなれる。

「桧殿がおっしゃるとおりに精霊の力を使えば、買い物もたやすい。だが敵であった私たちを信じ、精霊のマントを使わせる勇気。ああ、どこぞの性フェロモンが満ち欠ける下劣な男の妹君とは、おお、とても思えませぬ」

「お兄ちゃんの悪口を言うな! ……椅子が足りない。千由奈、精霊の力でなんとかなる?」
 桧が、湖佳が買ってきたお菓子を並べながら尋ねるけど。

「さすがに無理。ここに四つと上に二つ。智太さんが意味なく庭キャン用に買った二脚。トビーは立っているしかないな。トビー、二階から椅子を持ってこい」
「承知しました」

 千由奈は腕を組み指示だけで働かない。というか岩飛に命令するだけだ。

「湖佳、飲み物も頼んだよね?」
 桧がコップをかき集めながら言う。

「どうせ智太殿がぼおっと立っているだけだと思い、仕事に残しておきました」
「湖佳。そろそろ許してあげようよ。――トビー、コンビニまで走って買ってこい。マントを返せ」
「いいよ。俺が行くよ」

 俺はコーラとオレンジジュースを買いにいく。気が休まる。

 ***

「はじめまして、うふふ」

 予定時刻の十分前にまず陸さんが現れた。秋が深まっても二の腕までだした黄色のヒマワリのワンピース。ムダ毛はないけど、女の子たちが固まる。

「レッド、今日はブルーの話はやめましょう。この子たちが責められた気分になるかもしれません」
「……はい」

 清見さんはまだ目を覚まさない。もう一か月以上になる。

「これがイエローですか?」
 岩飛が指を指しやがる。

 ***

 自転車のブレーキ音がした。

「レッド、お邪魔させていただきます!」
 芹澤が俺へと直立不動で敬礼する。長い黒髪と眼鏡。椅子を勧めたけど。
「ひとつ足りません。私は立っています」

「ウボツラヅラに呑まれた、所沢球団好きの奴ですね」
 岩飛がくすくす笑う。俺の隣に座りやがるし。

 ***

「相生、これは司令官から。今日の経費はモスが持つ」

 時間丁度に来たジーンズ姿の茜音から、ちょっと厚めな茶封筒を渡される。中身を確認したいけど、桧に渡す。

「妹さん、ひさしぶり。私を覚えているかな?」

 桧は首を傾げる。茜音は勝手に上座に座る。以後は全員を無言で見回す。緊張が漂う。

「ピンクですか? 実物は老けていますね」
 小声で俺に聞く岩飛以外は。

「オウムだよ。ペンギン、お茶をだせ」

 さすが参謀。本部の連中みたいだ。

 ***

「遅れてごめんなさい。……これが噂のスカシバテントか。赤色にすればよかったのに。黒猫が爆睡している」

 遅れたうえに、隼斗は庭に向かう。勝手に名前つけているし。中を覗いているし。俺のプライベート空間だぞ。

「スパロー、始めるよ」

 茜音に言われてベランダから入ってくる。秋の日差しに部活で焼けた甘めの顔。相変わらずさらさらの髪。背は俺を越していそう。
 隼斗は岩飛をにらみ、湖佳をにらみ、千由奈をにらむ。そして。

「……この人が妹ですか?」

 桧に頬を赤らめやがった!

「早く座れ。お前は元気になってからルーズだ」
 モスガールジャーの元エースが根拠なく叱る。

「智太さん、見てくださいよ」
 岩飛が肘で俺をつつく。

 隼斗を目で追う千由奈の頬もピンク色になっていた……。
 彼女の隣に座る湖佳と目が合う。隼斗のカップに雑巾を絞りたそうな顔だった。

 ***

「私がモスガールジャー参謀のアメシロだ。
レジスタンス内では、お前たちは公式には存在していない。が、いつまでもそうはいかない。今後の処遇を本部が決めるまえに、我が隊の司令官が現状を確認することになった。だが彼女をお前らの前に晒せるはずない。なので代役として私が来た。
ちなみに月がスーパー魔法少女の状態で現れるよう待機している」

 茜音が千由奈だけを見つめながら、座ったままで言う。モスの残りの三人は、彼女の用心棒か。芹澤は彼女の背後に立つ。陸さんももう微笑まない。

「アメシロ殿、まず処遇に関してお教えいただけないでしょうか? そこに本部への連行が含まれているのならば、会談は必要ございません。ただただ私と岩飛殿は全身全霊をかけて千由奈を守るだけです」

 湖佳の言葉に、岩飛が隣でぎょっとしている。

「それを決める材料を探るために来た。その態度自体も評価の対象だ」
「なるほど。つまりご機嫌を取る言葉だけを喋れとでも? ああ、ならば声高々にレジスタンス万歳と歌いましょう」

 これは評価が落ちるだろ。俺は黙ったままの千由奈を見る。……隼斗をちらちら見ていた。

「この子は変わっているけどとても素直でよい子です!」
 桧が口を開く。
「ひどい目に遭ったと聞いています。ここに来て一週間精神エナジーの枯渇に耐えていました。意図せぬ裏切りの濡れ衣にも耐えました。そして立ち直りました。
他の二人も……、悪い人じゃありません。私とお兄ちゃんが保障します。千由奈たちに罰をあたえるというのならば、お兄ちゃんが黙っていません!」

 さすが桧。俺が言いたいことを簡潔かつきっぱりと告げてくれた。岩飛も横でうなずいているし。

「分かった!」
 隼斗がいきなり手を叩く。
「桧さんはスカシバレッドに似ているんだ。あの人よりもずっとかわいいけど」

 場を読まない発言に誰もが戸惑うより早く。

「スカシバのがはるかに素敵です! スパローはその言葉を取り消してください!」

 芹澤が茜音の後ろで本気で怒りだす。

「二人ともやめよう」
 茜音が眉間に手を当てる。
「レッドの意見を聞きたい」

「桧と同じ」

「……了解。以上を司令官に伝える。シルク、お茶をいただこうか」
「そうですね、うふふ」

 尋問はあっという間に終わったと思った。
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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