完結 俺たちはレッドだった

文字数 3,485文字

 俺と柚香は深く反省して、もう二人きりで会うのはやめようとなった。いつか絶対に夢月にばれるし。それでもいつか三人プレイできるかななどと夢想をしてしまう。
 それでも柚香はほぼ毎日来る。町田さんを断ったから、どうしても二人きりになる時がある。

 ***

 二月になってしまった。夢月がラッコのぬいぐるみを病室に置いていった。おまじないだそうだ。

 *

「レベルが120に落ちた住吉をようやく発見した。マントを引き渡すのを拒否したから、ハウンドとともに倒した。……過去のデータを処分することに決めた。二代目赤モスの画像もだけど、どうする?」

 藍菜に三度目の見舞いで言われた。彼女は一人で来た。ボディガードも参謀もいない。
 見たいけど。すごく見たいけど。

「破棄していただいて結構です」
 もう前しか見ない。

「了解。それと、その言い方はやめよう。私はあなたの上司じゃないんだから」
 細い目をさらに細くして笑う。

「分かった。そうそう、桧の留学費用をだしてくれる件、ありがとうな」
「いきなり変われるのかい。……あれは私の気持ち。それじゃあ退院祝いで会おう」

 藍菜は来るなり立ち上がる。まだ夢月と桧を恐れている。右手のひらをこめかみに当てて俺に向ける。俺も返す。省みない女。格好いい。月の二人から逃げるけど。

『自分が尻を拭けばいい』

 仲間だった俺を救うために、魔女もカラスも妹もライオンも端から倒すシンプルな作戦。やっぱり俺と相性良かったな。皆殺しリストには、抵抗した夢月も含まれていたらしいけどどうでもいいや。柚香は生かすリストだったみたいだし。そりゃモスの一員だから当然だ。

 *

「本部もあの団体も消滅したと見ていい。ずいぶんマスコミを賑やかしたけど、僕たちまで追いようがない」

 夜勤明けの水原さんが来てくれた。過去のコードネームは仮面ネーチャーアグル。

「櫛引博士も退院した。先日会えた。記憶を失って大変みたいだけど、環境ボランティアは覚えていた。これからも地球のためにささやかに動きたいそうだ。……あの人が黒幕なんて、僕はまだ信じられない」

「俺もです」

 あの人は善だ。行き過ぎた善だった。俺や夢月と同じなだけだった。

 *

「沖縄へ見舞いに行ってきた」
 珍しく千由奈が一人で来た。
「あの方は予言がことごとく狂い、失意の底にいる。無害というより憐れだった。……三度目の死を与えたのはくじら雲。夏目さんが後継者であるはずないのにね」

 最後の配下である焼石が世話しているそうだ。基地から追いだされないらしい。
 千由奈はまた丸くなってきた。こっちのが健全かもなんて、俺はコメントしない。
 寝ころんだままの俺をふいに見つめる。

「泣いていいか?」
「はい?」
「ずっと我慢している。すごく溜まっている」

 彼女はすでに涙目だった。いろいろ背負ったままの十代半ばの女の子。
 だとしても。

「千由奈が泣くのは隼斗の胸だ」
 俺もたまには格好つける。
「あいつはどんどん大きくなる。俺が元気になったらさらに鍛える」

 千由奈は涙を抑えられなくなって。

「あなたはいつまでも私のホットレッドだ」
 それでも泣きながら笑う。

 *

 俺が退院した暁に、桧はアメリカに長期留学することになった。安堵する自分がいる。いつか気まずさが消えてくれたらいいけど、こればかりは無理かも。でも桧に何かあったら我が身に代えても守る。いつか代わりの人が現れるまでは、その言葉通りに。

 母親は日本に帰ってくる。千由奈と湖佳はどこに住めばいいのだろう。決まっている。彼女たちで決めればいい。俺よりずっとしっかりしているのだし、見守る大人にも恵まれているのだから。人生をゆっくり決めればいい。俺もリハビリの時間だし……。それくらいで二度と気を失わない。俺はレッドだったのだから、歯を食いしばる。
 精神エナジーがゼロになれば廃人になるのが、この程度で済んだ。あの子のおかげに決まっている。ありがとうスカシバレッド。

 ***

 三月になってしまった。いいかげん退院してやる。歩けるようになってやる。

 穂村から辛子明太子とモツ鍋セットが送られてきた。病室でどうすればいいのだろう。感謝だけして桧に持ち帰ってもらう。夢月は明太子を一本食べたそうだったけど。彼女も来週卒業式だ。とりあえず四月から俺の大学に通う。予定がころころ変わる。

「夢月さんはベッドに座らないでください。兄が狭苦しそうです!」
「はーい。桧ちゃんのおかげで智太君に戻れたんだから従うよ。さすがは私の妹ちゃんだ」
「籍を入れるまでは他人! お兄ちゃん! また明日来るからね!」

 桧が病室をでていく。夢月の変わらぬ態度に怒るのは仕方ないけど……。桧とスカシバレッドが似ているとよく言われた。でも違う。桧は優しさと強さが重なった意志ある瞳。スカシバレッドはやさしさを強さで隠した眼差し……夢月がベッドから降りるどころか布団にもぐりこんでくるではないか。

「こんにちは……お邪魔だった?」
 そんな時に限って茜音が初めて見舞いに来るではないか。
「妹さんとすれ違った。謝られたから謝った。泣いちゃった」
 彼女はもう泣いていない。
「一人連れてきたけど、みんなには内緒にして。――夢月ちゃんだけだから、ほら、入りなよ」

「よお」と、焼石が顔をだした。

「今日は嶺真ちゃんを連れてきただけ。これから百夜目鬼さんは一人で過ごすって。……私だって相生と夢月ちゃんとたっぷり話したいけど、まだ心の整理がついてない。だから今日は帰るけど、はやく元気な姿になれよ。……じゃあね。ありがとう。これからもよろしくね」

 心優しい参謀は来るなり去っていく。茜音も責任を抱えている。もう不要なのに。

 病室は三人だけになる。
 基本的には無口な二人。

「私からさあ、しゃべるのかよ。それとさあ夢月さあ、ベッドから出ろよ」
「やだ」

 また静まりかえる病室。容態を観察されているみたいで居心地悪い。

「語り合わなくてごめん。焼石に従っていたら傷つく人は少なかった」
 仕方ないから俺が言う。心で思うだけで充分なことを口にだす。

「私だってさあ、追いつめられるまで問答無用だったかな、どうかな。でもさあ、じっさいに難しいよ。言葉だけで分かりあえるなんて難しい」
「焼石の話し方かわいくて面白い。カラスになって、それで喋ってみて」

 互いにマントを出しあう五秒前みたいな気がした。でも焼石は夢月へとにっこり笑う。

「夢月もさあ、焼石嶺真にやさしかったね。ヤマユには意地悪だったけど。相生もさあ、こっちのほうがいいって言ってくれたよね、どうかな、どうでもいいや」
 その手に緋色のマントが現れる。
「もう精霊にならないよ。でもさあ、愛着がありすぎてさあ、自分で捨てられないんだ。だからどっちかが破って。そしたらさあ踏ん切りがつく」

 ベッドへとふわり落とす。

「えー。だったら私もいらない」
 体を起こした夢月の手に紅色のマントが現れる。
「破りっこしよ」

「やだね。二人ともさあ元気そうでよかった。茜音っちに誘われたけど、退院祝いに顔ださないからね。でもさあ結婚式は外から覗くかも。じゃあな」

 焼石も即座に帰ろうとするではないか。

「焼石はどうしているの?」
 その後ろ姿に尋ねる。

「舘林に帰った。親と過ごしている。きっとさあ、みんな暑くなるまでには再始動できる。……屋上でさあ茜音っちが待っているから」
 ドアが閉まる。


 懐かしの屋上か。あそこで俺たちは死闘を繰り広げた。

「人の力だと大変なんだよ」

 夢月はマントを引っ張っていた。びくともしない。不燃性だし。……パートナーである夢月。彼女と合体していたらどんな化け物になれただろう。精神エナジーを失って絶対に見ることができなくなったいま思うのは、一度はしておきたかった。レジスタンス経由ならば、仮面ネーチャーラピスみたいに格好よかったかもしれないし。
 まあいいや。俺たちはこれから生身で何度も合体してやる。そして、すごい男をこの世にだしてやる。男に決まっている。父母よりもすごい男に決まっている。

「退院したら一緒に破ろう」

 それまでは俺が持っていよう。布団に入れておこう。俺たちがレッドだった証。

「うん」

 夢月があらためて布団にもぐりこむ。
 いまはまだキスぐらいしかできないけど。

「蘭さんの赤ちゃんも式に出られたらいいね」
 俺は予行演習みたいに夢月のお腹をさする。

「うん。私も赤ちゃん産みたい。母親になるよ」
 お姫様が微笑んでくれた。





* * * * * * *  * * *

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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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