09 坑道
文字数 3,397文字
名称 ダチョウラブラブ
所属地位 ねぶたランド支部長
特性
ライフ 88/88
コンディション 99%
レベル 101
名称 セイントアロー
所属地位 星空義侠団団長
特性
ライフ 195/195
コンディション 99%
レベル 176
「アルティメットクロス! アルティメットクロス!」
スカシバレッドが続けざまにソードを交差させる。くそっ。陸さんは何度目だ? 芹澤だって。
「効がぬ!」
セイントアローは避けようともしない。でもよろめく。ダチョウの精霊はジャンプして避ける。
「ブリザード!」
ペンギンがくちばしから地吹雪を発する。
「雪国おがりにそれはねべ」
セイントアローは鎧で跳ね返す。
「おらは精霊になるど、寒さが苦手だ」
でもダチョウラブラブは凍っていく。
「撃つなよ、絶対に撃つなよ」
「アルティメットクロス!」
「セインドギャラグジーゴールド!」
ダチョウにとどめを刺すべく赤いXが金色に飲み込まれる。くそぅ。
『レッド冷静になってくれ。二人は直前で離脱させた。いまは高度5000メートルに位置するモスプレイの中だ。シルクイエローは何しに来たと思わずに、さすが司令官と感銘だけして欲しい』
仮面ネーチャールートで変身したのに、モスウォッチが腕にある。変身と転生を同時にしたのか。
『必殺技をだせる瞬間に二人をまた送りこむ。――深雪も招集した。アメシロ君、スピーカーモードにして、それを伝えてくれたまえ』
『裏切り者のセイントアロー聞け! 白滝深雪が現れる。その二人に手をだしたら……ペンギンに手をだしたら、彼女は私情を捨てる!』
スカシバレッドは抜きかよ。参謀は私情を捨ててくれない。
「ズガジバレッドの
セイントアローが俺をにらむ。
「噂は流れている。柚香の身も心も弄んだすえに捨でたな。しかも、盟友のかぐや姫を選んだな。腐れ外道め」
奴の怒りが金色のオーラと化す。
「相生智太は彼女の身を穢していない。キスを何度かしたまでよ」
スカシバレッドは正直に答える。
「やがまし!」
セイントアローが紅潮した。
「あの子とキスしただと? 東京もんが……。おでは彼女と戦う。戦いで悲しみを癒してやる。蝙蝠である彼女の得意とする洞窟で待つ」
この男の目を見れば分かる。こいつはレベル上位の深雪と戦い、彼女のために敗れるつもりだ。
「そんなのは彼女の悲しみを増やすだけよ。ならば私と勝負しなさい」
『お前が言うな!』
「おめが言うな!」
アメシロとセイントアローの叫びがハモりかけた。
「ブリザード! ブリザード!」
その隙に南極トビーが四方に地吹雪を放つ。着替えたばかりの戦闘員たちが消滅する。ダチョウも浴びまくる。
「訴えてやる!」
ダチョウラブラブが叫びを残して消滅する。
「上島さん! ペンギンめ、なんてごどしやがった」
セイントアローから、さらなる怒りのオーラが湧きあがる。
「おめだけは……ゆるす!」
セイントアローがきびすを返す。坑道へと駆けていく。
『知恵足らぬ系か……。ある意味厄介だな』
司令官のつぶやきがモスウォッチから聞こえた。
『深雪と連絡とれた。いまは清見さんの病室。五分後に転生させる』
アメシロが矢継ぎ早に言う。
『それまでは南極トビーを先頭に追い詰めるように。あのタイプは降伏しない。倒すつもりでいて』
柚香が現れる……。スカシバレッドは罪悪感と巨大ペンギンとともに坑道に入る。レベル上位者を追う。
***
廃坑は狭くて明かりはまったくない。スカシバレッドは籠手からのライトを頼りに、黒ビキニに戻った岩飛を抱えて低く飛ぶ。ペンギンだとデカすぎて、すぐに挟まってしまった。
「スカシバレッドになると聖人になるんすか?」
岩飛が感心するけど、俺が貞操シールドを発動させてしまうのはもはや紅月だけ……それと、この子だけ。
「それより焼石さんはいないでしょうね。私は鳥目ですからね」
いまだ
「いざとなったら月を呼ぶ」
俺にとっての月はあくまで夢月だ。桧はただの妹だ。
「……やめるべきっすよ。そこに巫女が現れたら、別の修羅場が起こるかも」
『まったくだ。かってに呼んだらまたぶっ飛ばすからな。腐れ外道はトラップに注意しろ。義侠団は熊捕獲用にドラム式罠を使うらしい』
アメシロが割り込むが、そんなものに引っかかるか。などと思っていたら坑道が分岐した。
――こちらです
穴熊パックの声がした。
「存在を忘れていた。さすがパック」
トビーが感嘆する。
「私は隠密系なので、戦いの場でも裏方さんです。それよりも、南極トビーのブリザードは身を削りますよね? コンディションは大丈夫でしょうか?」
「そんなのは誰でも同じだろ」
「ならば次の層に降りた瞬間に精霊になられるように。頭が突っかかる程度の広場があり、そこで星空義侠団のうち十二名が待ちかまえております。タイプとしては傭兵たちに似ていますが平均レベルは50を越えています。近衛エリートに近いですな。――スカシバ殿、先手必勝ですぞ。降りるなり赤い正義の光ですからな」
この子は想像以上に頼りになるかも。スカシバレッドは見えないアナグマへと強くうなずく。
『ちょっと待って。――司令官、そこまでの人数の仲間相手に問答無用でいいのか?』
『うーん。どうしよう?』
でた。与那国三志郎の土壇場での優柔不断。
『かまうことはない』
深雪の声がした。
『古い知り合いだろうと裏切り者は赦さない。廃坑入り口に到達。ただ今よりレベル100以下を一掃する』
あの夜以来に聞く声。なのにスカシバレッドの耳に防音ヘッドホンが現れる。
「耳を塞げ!」二人に叫ぶ。
『
超音波が廃坑奥深くまでをも掻き乱す。スカシバレッドは鼻血を垂らす。
『あとは中にいる奴らでやれ。私は撤退するから指示をよろしく。ださないならば、かってに離脱して敵前逃亡してやる』
『深雪、ありがとう。司令部は了承した』
たしかに洞窟のコウモリ最強かも。柚香は姿を見せずに去っていくのか………………?
「耳を塞いだのに。あの女は手加減なしですか?」
スカシバレッドの腕のなかで、黒ビキニの岩飛がぐったりしているではないか。
「私はいまの姿では耳を覆えませぬ……」
絶え絶えなアナグマも姿を現す――。すべてが金色の光に照らしだされる。
「いまのは柚香の声だよな? なして仲間だったみんな倒す?」
鼻血と耳血を垂らしたセイントアローが浮かびながら来る。
「なしてそんた子になった? ……おめのせいが? おめのせいだな!」
スカシバレッドへの殺意。その手になにも現れない。剣闘士のくせに拳を握るだけ。
こいつは今までの敵と違うと感じる。勝てないかもと感じる。しかも狭すぎる戦場。飛龍であるスカシバレッドには圧倒的に不利。だとしても。
「二人とも耐えて」
黒ビキニを地面へ静かにおろす。その両手にスピネルソードが現れる。
勝てなくても道連れにしてやる。それぐらいならできる。
『聞いて』アメシロの小声。『五秒後にイエローとグリーンを転送させる』
俺はスピネルソードを投げる。セイントアローは金色の籠手で跳ね落とす。
「うおおおおおお!」
戦いの合図のように、俺へと突進する。
馬鹿め。逃げ場はない。
現れたシルクイエローが俺の右手を握る。左手をキラメキグリーンが握る。
同時に叫ぶ。
「「「スパイラルレインボー!」」」
残酷な螺旋が坑道を赤と緑と黄色に照らす。
連発こそ必須。
「「「スパイラルレインボー!」」」
再度の虹色螺旋。
「よぐも……」
セイントアローはなおも立っていた。その膝が落ちかける。
俺の膝も落ちかける。
キラメキグリーンが俺の手を離す。
「
彼女は全身に力を込める。そして。
「キラメキック!」
限りなくクリティカルな一撃。セイントアローが吹っ飛ぶ。そのまま動かない。金色の輝きが消えていく。
『上出来だ。拘束しろ』司令官の声。
スカシバレッドの手に手錠が現れる。
※2021年初稿。
上島竜兵さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。