16 瑠璃色どころか赤赤赤
文字数 4,091文字
白髪のショートヘア。小柄で黒いタキシード。白いシャツ、首もとに銀色のリボン。まずまずかわいい。胸は残念。
「ぐおおっ!」また一人、今度は頭から突入する。「黄金のクワガタ推参!」
金髪のロングヘア。長身で黒いタキシード、白いシャツ。首もとに金色のリボン。そこそこ美人。バストは平均強。
束の間の沈黙。
巨大なライトがすべてを照らす。十二畳もありそうな円盤状の未確認飛行物体が、展望巨大一枚ガラスを割り大浴場に飛びこんできた。
ライトが消える。その上に立つ女性のシルエットへと四方からスポットライト。茶髪のミドルヘア。平均強の背丈で赤いタキシード。巨乳の下で腕を組む……。ラメ入りかよって気づくけど、こいつこそが。
「燃える獅子参上。我々こそが!」
女の叫び声に、他の二人が小型UFOに飛び乗る。
「「「日本の平和を守り抜く、トリオザスーパースターだ!」」」
三人の声が重なる。
……左右が屈んでセンターの赤に手をひらひら伸ばす決めポーズ。さすがに恥ずかしいからと、モスガールジャーでもしていないのに。
「アグル、結界が消滅した」
「ガイア、行くぞ!」
仮面の二人が声を張り上げる。
「おう!」
「おう!」
「「仮面ネーチャー、フィジカル合体!」」
ガイアとアグルが抱き合って……全裸になるのかよ! でもモザイク状の光に包まれて、顔を含めて細部が見えず安堵する。
そこから瑠璃色の巨人が現れる。ツノの生えた鬼神の面。じつに身長2メートル50センチ。
「「仮面ネーチャーラピス誕生!」」
絶妙なハモりが、浴場に反響する。
「あんたらまで、なんで変身するのですか!」金色リボンが叫んだ。
「うちらが目立たんやないかい」銀色リボンが嘆く。
「関係ないです」
赤の冷静な声。
「ウィローブルー、獅子が睨んでいますからね。アギトゴールドとレアシルバーは捕虜を連れて戻ってください」
そやなと、金色リボンと銀色リボンが俺のもとへ飛んでくる。
「あんたも男だよな。あの子に惚れたら殺すで」
「あの子に言い寄られても殺す」
睨みながら、傭兵さんたちを俺から奪いとる――。トリオスは男二人女一人のはず。レッドは女だと聞いた……この二人も男か。
「すべてをかき消す獅子の咆哮か」
ウィローブルーが薄笑いする。
「精霊になったところで、お前に勝てるはずない。――ヌメリイヌ。私を守ってくれ」
「守ります。ぬめります」
茶色いシャツの蒼柳を、巨大ウナギが囲む。
「レオフレイム。サント号は置いていく」レアシルバーが投げキスをする。
「その女に色目を使うなよ」アギトゴールドが俺を一瞥する。
二人は破壊された窓から傭兵たちを抱えて飛んでいく。
「さてと」
レオフレイムがスカシバレッドをちらりと見て、しげしげと見る。
俺も見つめかえす。端正な顔立ち。黒目がちな瞳。それでいて強い眼差し……鳥肌が立つ眼差し。
「スカシバレッド初めまして。私が灼熱の獅子、すなわちレオフレイム。そしてあなたの中身は男。でも、あの低脳レッドよりもはるかにまともな眼差し」
誰のことかは聞かない。そもそもまだ敵が残っているし、強大な敵が現れるかもしれない。本心ははやく桧のもとに帰りたい。でも戦わないといけない。
というか、戦っているのは仮面の二人だけじゃないか。
「「邪魔だ!」」
瑠璃色の巨人がヌメリイヌをつかむ。引きちぎろうとして手が滑る。
「「小賢しい」」
仮面ネーチャーラピスの眉間から瑠璃色のビームが発せられる。
「ぎゃああ……」
ヌメリイヌが消滅する。
親衛隊の瞬殺。モスキャノン以上……。アグルとガイアが合体するとレベル200は嘘でなかった。
それよりも!
「本宮から増援が来ます!」
俺は叫び、よろよろと立ちあがる……。
エナジーが欲しい。ならば柚香の顔が浮かべろ。好物のミルクレープを発見して、はにかみ笑う顔。それを守ると思えば、スカシバレッドに力はよみがえる。
「「その前に蒼柳を連れかえるか。傭兵たちと同じ目に合わせてやる」」
紺碧の巨人がハモる。
「難しいですよ」
レオフレイムが返答する。
「こいつは時空移動の達人。私がいても、いつでも逃げられる」
「そういうことだ。――関西のレッド、お前は四人で一番下だが悲観するな。レベルが高すぎるし、好みの問題だ」
ウィローブルーはまだ俺を未練たらしく見ている。
「私は百夜目鬼様の後継者を目指す者。レベル180台と190台と200。それが相手でも柳のようにかわす」
ウィローブルーが体に力を込める。巨体化して、二股の樹木の化け物と化す。幹には人の目と鼻と口。
「「貴様のその姿、初めてかもな!」」
仮面ネーチャーラピスが突進する。
樹木はパンチをさらりとかわす。仮面ネーチャーの至近からのビーム。それすらもかわす。
「フレイムオブキング!」
レオフレイムの体から正義の炎が発せられる。スカシバレッドをしのぐ業火。
ウィローブルーの体が燃えだす。
「回復」
柳の怪物が体を震わす。焦げた表皮が落ちる。
「この姿に、お前たちの攻撃は効かない」
柳の怪物がそよそよと笑う。
「毛嫌う姿になってまでも、逃げずに居残る。つまり時間稼ぎですか? ならば」
レオフレイムが諸手を上に掲げて降ろす。
「フレイムオブエンペラー!」
マグマのごとき炎があふれだす。灼熱が大浴場を包む。
「反射」
柳の化け物がぽつり言う。
灼熱を跳ねかえされやがるし!
「「逃げろ!」」
瑠璃色の巨人が窓から飛び降りる。
スカシバレッドも露天風呂出入り口へと必死に飛ぶ――。足に蔓が絡む。
炎の中を引きずられる。あちちちち!
「きゃあああ!」
甲高い悲鳴をあげてしまう。体中が燃えている。関西レッドめ……。
でも、どこからか水をかけられた。泥水?
「無様な容姿になってしまったが……なおさらそそる」
スカシバレッドは柳の化け物に持ちあげられる。
「拘束。そして私の部屋へ、事前に移――」
「焔舞!!!」
炎の向こうから、赤い影が突進してきた。
うおおおっとウィローブルーが悲鳴をあげて、俺はタイルに落とされる。巻き付いていた蔓が消える。
「真スーパースター“燃える京娘”、今宵もお待たせ。ファイヤーダイヤソードで切り裂いてやる」
つんつるてんの浴衣を着たレオフレイムが俺の前に立つ。その手には燃えるソード。
「誰を待っているか知りませんが、あなたは獅子を怒らせました。この姿になると興奮しまくりますよ。興奮した私は暴走しまくりますよ」
レオフレイムは赤い唐獅子の……関東人にはついていけないセンスの浴衣。ウィローブルーをにらんだ後に、俺を見おろす。
「スカシバさんと呼びますね。私の特性は“獅子”と“百合”。清楚なフローラルな力で、力尽きたあなたを癒します。……女に必要なのは外見でなく中身。なんて嘘。容姿こそ大事」
しゃがんでスカシバレッドの頬をさする。……まじかよ。火傷が治癒されるのを感じる。
「拘束」
「うるさい!」
しかも獅子の咆哮が言霊をかき消した。
レオフレイムはスカシバレッドを愛おしげにさする。全身を……。
胸を掴みやがった。
「……貞操シールドを確認しました。やはりエナジーが弱まり、私相手に作動できない。かわいそうに」
言葉と裏腹に鼻息が荒くなる。
一撃で気づけた。
戦いの
「束縛」
「うるさいんだよ! ちょっと待て」
獅子の雄叫び。
レオフレイムはもはや治療を投げだして、スカシバレッドの体をまさぐりだす。
「や、やめ……ああ」なんだ、この手つきは。
「ふふ。あなたは中身が男。女の喜びを知りませんね。……私が教えてあげます。まずは赤百合の力でエナジーを回復しましょう」
柳の化け物が呆気にとられて女二人を見ている。この女はかわいくて美人だけど、俺を見る目がヤバい。というかイカれている。唇が寄ってくる。
「わ、私に構わず戦って」助けてくれ。
「かわいい声。私からエナジーを授かれば、
戦場であろうと、こいつはスカシバレッドしか見ていな――。太股をさすられて、また声を漏らしそうになる。指が上にずれてくるし……。スカシバレッドのアンダースコートに手を入れやがった!
貞操の危機。お、俺は雪月花を思う。その手に現れた端末を二度タップする。
時空から紅色の光が飛びだした。一単衣の露出狂みたいなスタイルのかぐや姫が現れる。
「紅月照宵あらため、紅色戦士スーパームーン。今夜がお披露目だ! テーマソングはもう少し待って!」
凛とした顔でウィローブルーをにらむ。
「馬鹿レッド……。邪魔だ! 帰れ!」
レオフレイムが立ちあがる。
「はあ? 呼ばれたから来たのだし。……まだ私とかぶる服だし、また馬鹿って言ったな。マジで赦さない」
紅月は足もとに転がるスカシバレッドに目を向けず。
「スーパースーパーチェンジ!」
白い
……ビジョンブラッドに輝く剣。これがルビーソード。スピネルソードより太く長い。
「寂れていようが、温泉街にはお客さんがいるよね。ならば、このスタイル。スカとお前が手こずったこいつを、私は三秒で倒す!」
「離脱」
ウィローブルーが消える。
正義の赤い女三人だけになる。俺は火傷を治されたけど、コスチュームだけボロボロで横たわる。
気まずい空気感……。
『『スカシバレッド、聞こえるか』』
救世主のように、ハモり声が俺のどこかにある端末から聞こえた。
『『強力な布理冥尊が現れた。援護に来い』』
「サント号!」
盗み聞きしたレオフレイムがUFOを呼ぶ。
「スカシバさん乗りなさい」
抱えられて乗せられる。……何気に握られた胸が鉄の感触。貞操シールドが復活してきた。つまりようやくエナジーも復活、しかも独力で。
「ミカヅキ!」
女剣士がひと足先に飛んでいく。