37 彩りランド掃討戦
文字数 3,999文字
「清め賜へ、包み賜へ。清め賜へ、包み賜へ」
黒神子が廃墟へと松の結界を二重に張る。今夜は超音波もスカシバーニングクラッシュも使わない。エリーナブルーが巻き添えになる恐れがある。
『準備完了。周囲が民間施設であることを念頭にね』アメシロが言う。
『それでは作戦開始だ。モスキャノンの援護はないからな』与那国司令官が言う。
「アルティメットクロス!」
スカシバレッドが入口を吹っ飛ばす。五人が横に並ぶ。
「あなたたちはここまでだ」白滝深雪が叫ぶ。
「我々は夜に舞う」スパローピンクが続く。
「磨きあがった乙女たち」シルクイエローも。
「見目麗しき戦士たち」キラメキグリーンも。
「愛と正義を守り抜く」
スカシバレッドが一歩前にでて、不敵に笑う。その両手に、対のスピネルソードがすでにある。
「「「「「かわいこ戦隊モスガールジャーだ!」」」」」
五人の声が重なる。
「目を開けた!」背後でローリエブルーが声を上げる。
「怖くないですよ、ペンちゃんがいますからね」
「タヌちゃんもおりますからな」
アナグマだろなんて突っこまない。アジトに突っこむだけだ。
突入するなり。
「降伏だ」
「許してください」
雑魚どもが両手をあげて次々出てくる。
「戦闘員のコスチュームを出しなさい」
シルクイエローが甘い声で命じる。
戦意も士気もない奴らが言われるままに投げ捨てる。
「葉隠し!」
スパローピンクの弓からリーフ状の光が発生する。山積みされた戦闘員服を分断して消滅させる。
俺は仮面ネーチャーの端末をだす。降伏した男女へと記憶消しの周波を浴びせる。気を失った彼らを、キラメキグリーンとシルクイエローがゲームセンターの跡地に引きずる。本部に送るとか今さらしない。レジスタンスに襲われた記憶が消えるだけだが、彼らが戦闘服やマントを再支給されることはないだろう。
ここまで十七人。半数が戦わずに降伏した。まだ幹部クラスがいる。原理主義もいる。負けるはずない。
「様子はどう?」深雪が振り向かずに尋ねる。
「エリーナさんは震えている」南極トビーが言う。
『エリーナブルーは正規の転生でないので、コンディションなどは確認できない。常に気を配るように。危険と感じたら退避させて』
「はいはい」と穴熊パックが答える。「スカシバ殿、進みましょう」
「二手に分かれよう。私とシルクは地下に行く。みんなは上の階を掃討して」
深雪が俺に言う。
地下一階と地下二階は駐車場。二階はボーリング場。三階は映画館、四階はカラオケボックスだったよな。
「分かった。何かあったらすぐに連絡して」
スカシバレッドはふわりと浮かぶ。動いていないエスカレーターの上を飛ぶ。
***
『七体が降伏した。そのうち幹部が一体。抵抗した者は無し。本隊に合流する』
深雪から連絡が届いた。
「了解。こちらも三階まで掃討完了。四名が降伏。うち二名が幹部」
キラメキグリーンが隣でモスウォッチに言う。
『残りは六体。本隊は深雪とシルクと合流してから4Fに移動するように』
「上空は?」
『敵が現れたらすぐに連絡する。……仮に魔女が現れたとしても、あなたと深雪はそっちの戦いには参加しない。聞いていたよね?』
「もちろん」
そうだったのか。そりゃエリーナブルーを守ることのが大事だ。……清見さんを守る。その後に俺が守るのは。
「ブルーはどう?」
振り向かずに尋ねる。規格外の化け物は目を合わせてもいけないらしい。
「怖い」本人が返事をした。「帰してくれ、お願いだ。心がかすれていく……」
「ペンちゃんと一緒ならば大丈夫ですよ。もっとしっかり抱っこしますよ」
「ち、ちょっとお待ちを。体が薄らいできていませんか?」
穴熊パックが動揺した。スカシバレッドは精神エナジーのくせに血の気が引きやがる。どうすればいい?
「強い人がいるでしょ! 優しい人がいるでしょ! それなのに、なんで怖がるの?」
ローリエブルーが桧の声で叱咤しだした。
「お兄ちゃんも声かけなさい!」
俺まで叱咤した。
『南極トビー、エリーナブルーと退却を――』
「うるさい!」
スカシバレッドはモスウォッチへと怒鳴り返す。……冷静になれよ、俺。
「ローリエブルーよ、私はあなたの兄ではありません。今はスカシバレッドです。――そしてエリーナブルー……」
スカシバレッドは精神エナジーのくせに涙があふれてくる。
でも振り返る。清見さんであるやつれた女性を見つめる。
「あなたがいなければ、私は強くなれませんでした。ありがとうございます。だから、もう一度清見さんと戦いたいです。お願いします」
スカシバレッドは数か月前の戦いを思いだす。榛名山麓での戦い。致命傷を負ったシルクイエロー。負ける意味も知らずに捕らわれた俺。ともに散ろうと言ったエリーナブルー。……甲府盆地の戦い。無謀な戦いへの提案に付き合ってくれたエリーナブルー。手を握り無理やり引きずり起こして戦わせて、生き延びらせたエリーナブルー。
「だから目を覚ませ! 消えるんじゃねえ! 一緒に戦え!」
エリーナブルーが目を開ける。同時に廃墟に明かりがつく。館内スピーカーから、セカイノオワリのメロディーが流れだす。
『レジスタンスさんよ、俺たち六人は原理主義だ。ご想像のとおり食った。どうせ俺らは許さねーのだろ? ならば戦ってやる。一矢報いてやる。ここに来て、一緒に歌い踊ろうぜ!
おい、世界は終わったんだから、ワンナイトカーニバルをエンドレスに入れろ』
こいつは四十代だろうか? 氣志團が流れだす。
「私が倒す」
ローリエブルーの手に青白い矛が現れる。これが青龍偃月刀と心に伝わる。青と白のエプロンドレス。青白いブリム。
「一緒に行きましょう」
スカシバレッドの手にスピネルソードが現れる。
「他の者は手出し無用です」
「僕も行く」
「私もお供します!」
空気を読まないスパローピンクとキラメキグリーンが言う。
「私も行かせてください」
シルクイエローまでやってきた。
「トビーちゃんありがとう。あとはモスに任せてください。――エリーナ立てますか?」
盟友がエリーナブルーに手を差し伸べる。彼女はその手を握る。深雪に支えられながら、よろよろと立ちあがる。
「桧が行くのならば私も行く。二人で戦う」
アナグマまで訴える。
「私は行きませんよ。私の役目はここまでです」
南極トビーが脱力する。岩飛に戻る。マントを投げ捨てて、俺へと投げキスする。動きだしたエスカレーターに乗る。
彼女とはもう会うことはない。でも引き留めない。
「岩飛ありがとう」
相生智太はそれだけ告げる。
「あいつはどこに行くの? 結界が張ってあるから出られないよ」
深雪が俺の横に来る。岩飛の捨てたマントを拾う。
「これで変身すれば、もしかして智太君も男性の姿で――」
「だったら結界を解除してあげて。どうせ終わりなのだから」
スカシバレッドは受け取るだけだ。それに俺はマントで変身してもスカシバレッドだ。千由奈と何度か試して確定している。さらに力を込めれば――。
「みんな行きましょう」
スカシバレッドが先頭を歩む。
氣志團はエンドレスに騒ぎ続けている。
カラオケボックスの受付前で、やけくその面で待ちかまえている異形たち。こいつらは倒れたら精神は永遠の闇に閉ざされる。当然の報い。
「行くぞ!」
スパローピンクが先陣を切る。まだ大樹ではないけど、降りしきる木の葉のような光を発し一体を消滅させる。
「アルティメットクロス!」
スカシバレッドがソードをクロスする。一体が悲鳴も上げる間もなく消え去る。
「流れ星推参!」
キラメキグリーンがドロップキック一撃で一体を霧散させる。
一体が白滝深雪に背後から抱きつかれる。ミイラのように枯れて粉になる。
シルクイエローはエリーナブルーに寄り添っている。エリーナブルーは戦いを見ている。
「月の冠!」
メイド姿の桧が青白い斬撃を飛ばす。続けざまに三発。異形が消滅する。アナグマが安堵の面をする。
「俺らていどが最後の戦力なんてな。結果など分かっていた」
最後に残った異形が人の姿の精霊に戻る。やはり四十ぐらいのオヤジ。でも金髪リーゼント。
「これで祭りも関東の布理冥尊も終わりだ。派手に消してくれ」
スカシバレッドへと笑う。
「望みどおりにしてやりましょう」
グリーンが俺の右手を握る。
「ブルー、五人が揃いますよ」
シルクイエローがエリーナブルーを立たせる。俺の左手を握らせる。イエローはブルーの左手を握る。
「そうだね。ブルーがセンターだ」
スパローピンクが期待の目でシルクイエローの左手を握る。
エリーナブルーが扇の要になる。よろめいて、俺とシルクが支える。
ブルーが俺の目を見る。
「センターはお前だろ」叱られる。「それと深雪だ」
異形であった男は精霊のくせに泣きながら氣志團を歌っている。穴熊パックとローリエブルーは黙って見ている。
深雪が遠慮がちに来る。俺の目を見るので頷く。深雪が俺の左手を握る。エリーナブルーの右手を握る。偶数だろうと出せる。俺はモスの初代レッドと違う。いまのスカシバレッドならば
六人のエナジーが共調して、同時に叫ぶ。
「「「「「「スパイラルレインボー!」」」」」」
白色赤色桃色黄色緑色、かすかだけど青色。スカシバレッドの胸の谷間から、六色の螺旋が発せられる。
「布理冥尊、万歳!」
その叫びとともに、最後の原理主義が消滅する。
「私は戻れると思う」
エリーナブルーが座りこむ。
「でも私の戦いは終わった。陸奥、相生、ありがとう。ペンギンにもありがとうを……」
また目をつむる。
ワンナイトカーニバルだけが流れ続ける。