14 俺は女より女を選ぶ
文字数 4,138文字
「愉快な話に失念してしまったが、店にいた方々の記憶は消しただろうな?」
「妹を見る限り、深雪がしっかりと」
「記憶消しは我が隊では司令官しか使えない。同じ人には一度しか使えない。私たちみたいに精神エナジーが目覚めた人間には通じない。強力なエナジーが眠っている者にも通用しない。心して行動しろ。……しかし浅ましい報酬だな。お前が心の奥で望んでいたかもしれぬから、あまり言えないが」
なんとでも言ってくれ。
先頭のブルーは小言を終えると、軽機関銃に付属されたレーザー光で廊下の先を照らす。
この人は仕草が格好いい。こんな女医に診てもらいたい。でも
「レッドには不要だよね。正体だって格好よかったよ」
しんがりのスパローピンクは十四歳のくせにおべっかを使える。病室で俺を見たとき、これが? て顔をしたくせに。俺と目が合うと思いだしたように背後に弓を向ける。
「無駄話はやめましょう。逃げられますよ」
俺の隣のシルクイエローは報酬の話題を避けている。槍を握っていようが、彼女が横にいると癒やされる。十代の巨乳様にしか見えない二十三歳の男であろうが、本物の女性よりは……。
「シルクの言うとおりだ! 私たちだけで終わらせよう」
スカシバレッドが声を高める。俺の告解が原因であろうと、だらけた空気を鼓舞させる。
しかしまあ、前期試験真っ只中の招集。
数日前にカフェで起きたことと俺の報酬は、モスガールジャー隊員にほぼすべて伝えた。相談事は嫌いだが、そうも言っていられない。そして相談できるのはこの三人か与那国司令官だけだ。
「猿どもでてこい」
ピンクがかわいい声で叫ぶ。
今夜の任務は、港区再開発地域の廃ビルに偽装した敵アジトの殲滅。を済ました雪月花に代わって、残存戦闘員の掃討。もしくは
レベル60から90台の幹部五体、幹部補や戦闘員四十余体は、花と月が消滅させている。彼女たちはすでに帰宅。マンション内にひそむ戦闘員は残り三体。
「巨大な蛇たちだけがビルに入っていった。おそらく幹部も誰もが蛇に飲まれた」
先に到着していた亀甲隊の(本物の)女性隊長が、長い脚をせわしなく動かす亀型兵器の上から教えてくれた。この四人組はEランクだから俺たちより格上だ。Fランクより下はない。でも関東地区管轄の正義の味方五チームで、レッドがいるのは頂点と底辺だけだ。
今回のミッションに雪は現れなかったらしい。アメシロは呼ばれるなり帰った。おそらく俺のせいだろう。
「月とは発展しそう?」
ピンクに聞かれる。妹が、姉の恋人未満の友だちを話題にしているようだ。スパローやめてよー、とか返せばいいのだろうか。
「それはない」とスカシバではない俺が答える。
欺瞞のフェロモンで惚れられようが、そんな力に使われてたまるか。それにかぐや姫の姿で宙に浮かび、「智太君、がんばってね♡」と亀甲隊がいるのに大声で手を振られ、同じ内容を赤くでかでかと空にペイントするのを見ると、関わるべきでないと再認識できた。
そうでなくても、夜の紅月より俺のが僅差でかわいいし。昼の夢月にはかなわないけど。
『亀どもが一体捕獲とのこと。連中は待つだけなのだから追いたてるな。君たちも頑張ってくれ』
司令官からの無線は対抗意識がにじみでている。
***
鍵を破壊するなり、ピンクがドアを開ける。ブルーが軽機関銃で掃射したあと、俺とシルクイエローが突入する。エリートが二体一緒に残っていたらに備えてのフォーメーションだが、イエローは乳が邪魔そうだ。反撃されていたら蜂の巣になっていた。今後は俺だけでいいかも。
籠手から発するライトで照らす。隅で下級が震えていた。
「発見しました」イエローが槍で突く。「これで残り一体です」
中級以下は見つけ次第処分と指示されているけど……実際に殺すわけでなく、悪しき精神エナジーだけを消すのだしガンガン行こう。ほかの部屋にはいなかった。あとは屋上だけ。
「
非常階段で、ブルーがまた夢月の話題に戻す。
「絶世の美少女として小学校のころから有名だったらしい。しかし本人にその気なしで芸能界デビューせず。一般人であるときからポテンシャルが異常。中学生のときに二十歳前後の犯罪集団に拉致されかけたことがある。全員の金玉を踏みつぶしたそうだ。それを読み、司令官は何かしらの報復をあきらめた」
それだと魔法必要なくね?
「あの子の高校は、私が通った中学の近くでした。あそこの生徒が近所のコンビニ前にどの時間もたむろしていて、私たちは利用できませんでした」
「でもバージンなんだよね。自己紹介のバージョンで、キスさえしてない超越紅色~~、王子様が現れるまでおのれの
「しっ」
俺はイエローとピンクのガールズトークを制止する。あの瞬間から戦士の感……野生の感が冴えわたる。
屋上で待ちかまえているよな。俺の手にソードが現れる。赤く燃えだす。
「布理冥尊め!」
ドアを蹴り開けて、真っ先に突入する。
「私たちはモスガールジャー!」
同時に飛んできたグレネード弾を空へと弾く。一発限りの夏の花火。
…………? 女戦闘員かよ。
「エ、エナジーソード……」
女エリートが背を向ける。フェンスの向こうへ跳躍して、じゃんけんで負けた亀甲隊が待ちわびる地上へと逃げていく。
***
「エリート女は囲まれて自爆した。なので亀の手柄にもならない。
それではポイントの振りわけだが、一人だけにまとめて渡すのはやめてと言う、スパロー君からの強い要望が過去にあった。3を四人で割れないので本来ならば持ち越しだが、スカシバ君からの強い要望を受理し、今回は残り三人が1ポイントずつだ。……アメシロがいないと、何もかも私がやって心地よい忙しさだ。ははは」
モスプレイの操縦席で司令官が笑う。高度一万五千メートル以下は手動運転を心がけるらしい。こいつが群馬の山奥で俺たちを見捨てたことを、問いただすかぶん殴るかしたかった。ほかの三人に止められた。戦いにおける先輩に従うに決まっている。もちろんピンクだって先輩だ。
ともかく報酬に直結するなら、これ以上ポイントをもらってたまるか。俺は一回の戦闘でレベルが11あがって46だ。あり得ない上昇率らしいが、
今は俺に寄ってくる女性は中学生から三十ぐらいまでと、やましい心で接するなら都合がいい年齢層だ。でも、いずれ母の年代や幼女にまでも熱い眼差しで近づいてこられるかも。幸いにも男には効果がなく、顔を伏して目を合わさずにいれば、女性も今のところは目で追ってこない。
ジレンマはポイントを得ないとあの子が強くなれないことだ。レベル46でもコンディションが49パーセントだから、ほぼ23。ようやくエリート戦闘員を凌駕する程度。コンディション100でも紅月照宵の
紅月……。竹生夢月。
本物の女どもは彼女を臭いなど汚れなど
実際に夢月に接すると、真夏だし彼女の汗は感じたが、肌からも息からも
その瞳に、仲間が伝える剣呑も存在しなかった。
不穏を感じるならむしろ、気づけばドアを開けられぬほどに降り続く白魔のような。
「レッド、ぼんやりしているな」
ブルーに叱られる。
「お前の発案をみんなが受け入れたのに、その態度はいただけない。時間もそう取れない。お前が何を鍛えたいのか、何をみなと訓練したいのか、私たちに教えてくれ」
そうだった。楽勝任務終了後の極秘訓練のため、管轄外の静岡山間部に向かっているところだった。あの県は海沿い以外は秘境だから派手にやってもカモシカしか見ていないと、司令官が場所を決めた。
戦いのための特訓を本来なら参謀に依頼するつもりだったが、俺が夢月と抱きあい見つめあってから、人の姿でもオウムの姿でも話をしていない。与那国司令官に(恨みながら睨みながら)願いでたら二つ返事だった。しかも、秘密主義っぽいアメシロと違い色々と教えてくれる。たとえば俺たちのステータス。
レッド レベル46(前回比プラス11) ライフ51
ブルー レベル14(前回比プラス 2) ライフ13
イエロー レベル10(増減なし) ライフ19
ピンク レベル12(増減なし) ライフ 7
数字は目安だから気休めにしなさいと言うけど、ピンクの生命値は……。やばい。ブルーが本気で睨んでいる。エロい女教師がお怒りだ。
「敵は二段階に変身する。私もそれを覚えたい」
さらに強くなるために、スカシバレッドが必死な目をする。両方の拳を握りしめて切願する。
コケライトは人型からおぞましい異形へと化した。あのタイプにはなりたくないけど、雪月花は人の姿のままさらに変身できるようだ。黒装束の巫女のように。
「私たちのような転生タイプは一段階だけです。もしくは弱い姿から強い姿になるかだけ」
イエローが微笑みながらあっさり却下する。
「残念なことに巨大化も仲間同士で合体もできない」
司令官の言葉に安堵する。
「でも僕たちには合体技があるよ。ブルー、ひさしぶりに練習しよう」
ピンクが眼鏡美女に無邪気な目を向ける。
「私たちの今の力も分かるしな。レッドが女よりも私たちを選んでいるかも知ることができる」
珍しくブルーが笑う。嫌味な笑いだけど。
「私はみんなとともに進みます! ……それってなんですか?」
スカシバレッドが怒った直後にきょとんとするのも、きっとかわいいだろう。
「モスガールジャーの力を集結させる必殺技だ。その名も」
ブルーが一瞬言いよどみ。
「怪しい英語だが、ストライプスプレッドだ」