15 白いヘルメット
文字数 2,088文字
俺は無人島での模擬戦で海上など広い空間を使えた。機動力を駆使できた。しかし今回は狭いスペース。俺でも避けきれない。レイヴンレッドほどの技量が必要。
だがレオフレイムは賢いと聞く。どんな戦いを見せてくれる? それとも彼女もワタリガラスに匹敵するほどの……。
「よってレオフレイムの勝利」
「やったあ!」
またもや判定狙いかよ。二試合続けて見せられると、さすがにチケット代返せと叫びたくなる。
「おめでとうございます。いい試合でした。木畠帰ろうか」
どうでもよくなったと言う顔の蘭さんと茜音がヘリコプターで去っていく。
「次はフレイムオブエンペラーと十六夜で勝負だ」
紅月が涙目で言うけど、英虞湾の景観の危機だ。
「勝負はつきました。今後は力を合わせて残った強敵を倒しましょう」
勝ち誇ったレオフレイムが変身を解除する。
「さすがにアコヤ貝が真珠を吐きそうだからあがるで。船で帰ろ。紅月、アコヤ貝の酒蒸しおごってやる」
稲葉さんもボートへ向かう。
「スーパームーンだ! 誰が乗るか! そんなもの食うか! 智太君一緒に帰ろ。ミカヅキ!」
「とりあえずバイクまで。それから水族館」
「うん」
一人だけ残れるか。俺から飛び乗り、女剣士にしがみつく。判定二試合のために時間を食ったが親睦会が立ち消えしたし、鳥羽まですぐだ。メイちゃんに会える――。
エアサーフボードが減速して、紅月の背中におでこが当たる。
「ちっ、十三夜!」
P-1哨戒機の胴体ほどの月明かりが放たれる。見えない壁に霧散する。
「弱っ、剣士のままだった! 十五――」
ドッカーン
結界に衝突する。反動で手が紅月の腰から離れてしまう。はるか上空から生身で落下してしまう。
英虞湾は上空から見るとこんなにも綺麗だったのか……。
「変身!」
ぎりぎりスカシバレッドになって海へと落ちる。痛いけど平気。水中で魚たちを驚かした後に水面へ顔をだす。
さきほどの船が寄ってきた。
「お前たちは相手に挨拶もせずに立ち去るのか。ましてや相生はアギトゴールドを倒したのだろ? 敗者に敬意を示せ。まったく近ごろの連中は」
船頭が棹を持ちながら言う。
この人が結界を張ったと思うけど……見覚えあるような。
「ぽかんと人を見るな。和光市で会っただろ。名乗ってはなかったが
……本部の人間だったのか。手を握る俺と柚香をやっかんだ四十絡みの痩せた人だ。
うまくないぞ。
「うるせえジジイ! せいや! 十三夜! スカは自力で帰りな」
お祭り娘が結界を破壊してミカヅキが音速で消え去る……。
これは赦せない。
今までスマホを捨てられたりテントを壊されても笑って許してやった。夢月の美貌に媚びたのは否定できないけど、それ以上に正義の仲間だと思ったからだ。尊敬すべき強い味方だとも思っていた。俺たちみんなを助けてくれると信じていた。それがスカシバレッドになるなり、俺を敵地に置き去りにした。
千年の恋が二秒で醒めた。やっぱりあれは、顔がいいだけで胸もでかくない破綻した生物だ。
「教えてくれてありがとうございます」
スカシバレッドは相生智太の口調で伊勢さんに謝る。ボートに乗り相生智太に戻る。
「俺が漕ぎます」
棹を操り島へと戻る。伊勢さんが満足そうにうなずく。
***
トリオスと稲葉さんに合流する。みなが生身の姿に戻る。
俺は勝者を称え、それぞれと熱い握手を交わす――。穂村が手を離してくれない。桑原と亀田の顔つきがまた戻ってしまった。
「ほむちゃん、相生君がはよ漕ぎたい言ってますよ」
「うちも帰りまで船を押すのは疲れますさかい」
俺一人で船頭をする羽目になったと思ったら。
「変身」
稲葉さんが水色の光に包まれる。シルクハットのひげ親父に変わる。
「ビッグウェーブ!」
魔法紳士ウェーブラビットの起こした波に乗り、あっという間に戻れた。
「京都まで乗しぇてくれん?」
穂村が黒目がちの瞳で見つめてくるので、思わずうなずいてしまった。田舎のスーパーで四人が昼飯を買う隙に、二人は駐車場に走る。穂村へと白いヘルメットを……俺が被る。きつくて顎がでちゃうけど柚香の匂い。彼女には赤いヘルメットを渡す。
「私に赤……。ほんなこつ優しか人やなあ」
スカシバイクに乗った俺へと胸を押し当ててしがみついてくる。
「ラッコを見ていく」それだけは譲らない。
……パールロードを走りながら気づく。これで先ほどの謝罪も握手も捨て去ってしまった。赤い女の子にいいなりの俺に問題があるのかもしれない。かわいすぎるからどうにもならない。
腰に手をまわされながら柚香と夢月を考える。人は出会いの順番に左右されるかな。節操無しでもそんなことは考える。
「入館は四時まで?」
四時十分に到着した俺は愕然とする。
「どげんしてん」
穂村の瞳と博多弁は女性係員にも通用した。特例で入れてもらえた。