11 魅惑のパールランドへ
文字数 2,074文字
月明かりからシュラフは生き延びたので、俺は食堂で芋虫になって寝た。水を飲みに来た岩飛に踏まれたし。さすがに二度目だから、夢月にテントを弁償してもらうことにした。
「うん。じゃあ一緒にお婆ちゃんにお願いしよ。一番高いの買ってもらおう」
屋上で反省なき言質はとってある。なぜだか桧が俺を睨んでいた。
桜色のプラネタリウムに俺たちのジュースは無かったので切りあげた。夢月にカラオケに誘われて心が揺れたけど断った。柚香とあんなことになったばかりだし。かと言って、俺が清見さんにしてあげられることは……。
***
藍菜にはレインホワイトの模擬戦参加を承諾させた。ペナルティがとぼやいていたけど、入院は慣れたものだ。茜音は乗り気ではないらしい。
『公式模擬戦は土曜日に決まった。場所は英虞湾の奥の奥だからミカヅキに乗せてもらえ。時間は昼の二時からだが、その前に十二時より懇親会を開く。遺恨を少しでも減らすためにな』
蘭さんから連絡が来た。彼女が模擬戦に立ち会うことになった。非常に安堵できた。向こうも立ち合いをだすらしい。なおさら安堵。
『私と木畠は本部のプライベートヘリで行く。相生と夢月は問題を起こしたから搭乗できない。胎教に悪くない戦いを見せてくれ』
ミカヅキのが早いからいいけど、そんなものがあったのか。どこから金が入ってくるのだ。前線のソルジャーにはどうでもいいけど。
『お見舞いは日曜日十五時に決まった。櫛引博士の肩書のひとつを利用するので博士が同席する。智太君と巫女は助手として参加する。若すぎる妹さんは今回は無理』
藍菜からも連絡があった。週末が瞬時に埋まってしまった。
***
今日は十月最後の水曜日。戦いを経て、花鳥風樹の連帯感が増した様子はあまりない。逆に桧と千由奈の間にぎくしゃくした空気を感じる。俺と桧の間にも。
原因は布理冥尊を無慈悲に倒したことに決まっている。でも倒さないと桧はレベルが上がらず戦闘員のままだ。やがて桧も最前線で戦う日が来る。そしたら千由奈の気持ちも分かるだろう。
『三重県にはスカシバイクで行くのか?』
アグルさんからも連絡が来た。俺が決めた赤いバイクの名称はあっという間に知れ渡った。
「遠いので月に乗せてもらおうと思います」
『相生君は実戦でバイクを使ってないよね。一緒に変身すれば、より強化される。君だったら、スカシバイクは空を飛ぶかもしれない。ビームがでるかもしれない。模擬戦で試してみな』
そんな素敵な話を聞いたならば、赤いバイクと黒いバイクで紀伊半島までツーリングに決まった。アプリで調べたら新宿から六時間ちょっとで到着する。なので、都庁前に夢月と朝六時集合の約束をする。
『絶対に負けるなよ。仮面ネーチャーの看板を背負っているのを忘れるな』
ガイアさんから勝負根性丸出しな激励を授かる。
『戦いは手詰まりだ。どちらも動きづらいままで、裏切り続出の敵さんは態勢を整えなおしただろうな。次なる戦いのために、さらなる男になってこい』
****
あっという間に土曜の朝だ。都庁前は静か。十三夜を八発喰らったフロアは一月過ぎても分かる。でももう話題にならない。布理冥尊は追いだされたらしい。
『ごめんなさい。二日間寝ていなかったので、寝坊しちゃいました』
六時集合なのに六時半に連絡が来る。しかも。
『バイクをどこかに置き忘れちゃったみたい』
七時に再度連絡が来る。
「俺は先に行くから、ミカヅキで来て」
『うん』
スカシバイクは単独で東名高速をひた走る。休憩しなかったら十一時半に到着した。
***
英虞湾に浮かぶ風光明媚な無人島。じつはトリオザスーパースターの秘密特訓場。そこには渡し船で行くので、集合場所のホテルのロビーで夢月と合流する。赤色シャツに紺色デニム。またも被ってしまった。
「帰りに鳥羽の水族館に寄ろう」これだけは譲れない。
「うん! 学校休んで二日間一人で特訓したんだ。……マントで変身した方が強いかも。ヒヨコの姿になると弱くなるけど、島の鳥さんには人気だった。魚を持ってきてくれたよ」
何気に羨ましいことを言っていたが、スクール水着で戦うつもりか?
「バイクと聞いたので心配したが遅刻しなかったな。五時前にでたのか?」
蘭さんたちもやってきた。
「作戦会議をしなくていいのかよ」茜音は不満で不安げだ。
「三人ともファイタータイプだから、がんがん攻めるだけ」
「相生たちはいいけどさ……。明日陸奥と一緒に清見さんのところへ行くのだよな? 忙しい男だな」
だとしても、鳥羽の水族館には必ず寄る。運が良ければラッコの餌やりを見られる。そうじゃなければ、誰が紀伊半島まで果し合いのために来るものか。本当なら白浜のアドベンチャーなワールドにも行きたいけど、翌日が見舞いだから帰らないとならない。
「時間だ。行くぞ」
「うん。蘭、おなかがちょっと大きくなったね。さすらせて」
「……後でな。そっとな」
四人は個室会場に向かう。