18 血の色、火の色
文字数 2,374文字
レッド三人に言い残し、二人のバイクが時空に消える。
俺の端末に『本部』へのワープボタンはなかったけど、問題とは『昼は蝶』での件だろうけど、レオフレイムも何かやらかしたのか。……しゃちほこランドでの作戦失敗の件かも。噂によると、雪月花とトリオスの連合チームは仲間割れをして、戦わずして自滅したらしい。
「サント号!」と、レオフレイムがUFOを呼ぶ。振り向き俺をじとっと見つめ、紅月をにらむ。
「アギトゴールドとレアシルバーも本部に入れてもらえなかった。犬山での馬鹿レッドのせいだ。……ずいぶん布理冥尊に気にいられたね。邪悪な連中は白痴系が好きなのかしら」
「白痴?」
「分からないの? まさに白痴ね」
「……分からないけど分かった」
お祭り娘の紅月が俺の手を離す。空を見あげる。北関東の秋の夜空。彼女はすべての星を抱えるように両手をひろげる。口もひろげる。
「十五夜!」
紅色の朝が来た。温泉郷が照らされる。遠くで犬が吠える。カラスが鳴く。鹿が鳴く。ニワトリも勘違いしてコケコッコー。紅色の巨大な光がオゾン層にホールを開けながら宇宙に消えていく。
おさまった空にUFOも消えていた。
「じゃあねスカ。智太君によろしく」
紅月まで消える。
「な、な、なんてことを。私は飛べないし、サント号がないと戦線離脱もできない……」
レオフレイムが地面にしゃがみこむ。
***
この女は絶望しているくせに、スカシバレッドと二人きりを意識してやがる。焼けてボロボロの際どい服をちらちら見やがる。
「変身解除」
俺は相生智太に戻る。襲われる心配は消えたけど精神疲弊が押し寄せて、彼女の横に座りこんでしまう。しかも裸足。
「スーパースター解除」
レオフレイムも生身に戻る。
緑系チェックのシャツに白いパンツ。肩までの軽く染めた髪。小ぶりだけど品のある鼻と口。おおきな黒目がちな瞳。これこそ黒目がちな瞳……。精神エナジーのとき以上に滅茶苦茶かわいいじゃないか! しかも胸はFもといGのまま。
橋の上を田舎の消防団が、サイレンを鳴らしながら行き来している。懐中電灯がいくつも動いている。いつまでも彼女の一部に視線を固定させている場合じゃない。
「俺は帰る」桧のもとに帰る。「君はどうするの?」
「私は
頭を下げながら大声をだすな。というか質問に答えてくれ。誰かいるぞと、明かりが近づいてきたし。
「UFOは復活するの?」
「初めてだから分からない。レアシルバーにはペナルティがいくとは思うけど……。仲間に落とされるなんて。落とし前は必ず!」
穂村の怒りの表情――。いまの俺も襲ってくれ、と思うほどに男を制するかわいさ。背丈は160以上あるから、夢月より大きいかな。胸は間違いなく、四人のレッドで一番でかい……。
どうしても第二ボタンまで開けた部位に引き寄せられる俺の目線に気づき、穂村がにこりと笑う。下腹部に直通する笑み――。
「一人で帰れる?」話題を逸らそう。
「ここがどこか知らない。私は学業がハードだから戦闘以外は二人に任せている。それに出身は博多だから、関東なんてスカイツリーしか知らん」
そして俺の目を見ながらささやく。
「……うちば置いていかんで」
な、なんだ、この殺人的な方言は。
「わ、分かった」頷いてしまう。「第三者を仮面ネーチャーのアジトに連れていけないから、自宅に戻る」
他意はないけど、穂村をぎこちなく抱えながら端末を操作する。
「あんたは優しかね」
俺の胸にもたれかかる。髪の匂い。胸を押しつけられるし。どきどきしながら行き先をタップする。始めて会ったレッド同士が、いきなり俺の部屋……。
***
「お兄ちゃん! 私が死にかけたって本当! というより、その人は誰? なんで抱き合って現れるの!」
桧はすっかり元気になっていて、俺の部屋で待ちかまえていた。
「妹? かわいいね。将来楽しみ」
マジかよ。標準語に戻っている。
「私は律儀だから、学生証と免許証をさらす。これで住まいを明かした件もイーヴンだね」
京都の国立大学在籍と博多が本籍の証を俺に撮影させる。厄介だからすぐに消去しよう。
「アプリで検索して帰る。新幹線に間に合わなければ野宿する。あとの二人は勝手に帰る。この場所は誰にも教えないから心配しないで」
彼女は靴を脱いで玄関に行く。履きなおして、手を振って去っていく……。
「桧ごめんね。でも治って良かった。お兄ちゃんは疲れたから寝るよ」
ベッドにもぐりこむ。色々あり過ぎて考えるのも億劫だ。ぐっすり寝て、精神エナジーを回復したい。
「お兄ちゃんが助けてくれたんだよね。ありがとう」
「俺のせいだから。救命講習を毎年受けて良かった。おやすみ」
なのに、桧は部屋から出ていかない。
「あれも、キスって言えるのかな?」
やめてくれ。意識しないようにしているのだから。俺は寝たふりをする……。まぶたの裏に夢月の笑顔が浮かんだぞ。なぜだ? なぜならば……彼女の実名が晒されたから!
「きゃあ」
俺が起きあがると同時に、桧が悲鳴をあげる。時空にホールが開いた。
「智太君、ごめんなさい」
切り裂かれて血まみれな黒い深雪が転がり落ちる。スクランブルモードのままだった。
「みんな殺された。ブルーが食われた。モスプレイも……。私だけ逃げ……助げて……」
俺は桧を押しのけ黒神子を抱える。
「解除」
深雪が腕のなかで柚香に戻る。気を失う。
俺は全身から血の気が引くのを感じる。
敵中枢でいなかったのは、レイヴンレッドとハデスブラック。