29 裏切り者たちの挽歌
文字数 2,319文字
さらに桜の花びらが散る。ネンドクンが怯える。
「これで貴様らのレベルは一割減った」
リベンジグレイが宣告する。
「結界も張ったが夜だと分からないか、蒼柳?」
パネルの向こうでハウンドピンクがなおも告げる。
「離脱しても追跡してやるからな」
「「その必要はない。こいつらのねぐらに本部が待ちかまえている」」
「……よいことを聞いた。ならば『桜散れ』だ」
ラピスのハモり声と中学生女子の邪悪な声。
離脱に関しては現代の名工レベルであるウィローブルーが、あっけなく追い込まれた。
「計算ずくとは違うようね。なぜ二重の裏切りなど愚かな行為をしたの?」
スカシバレッドは疑問を口にする。
「……貴様のせいだ。私が、貴様と月にやられたからだ」
ネンドクンが辛そうな吐息で俺をにらむ。
「一度死んだ私は本部の厄介者。連中はそう判断した。レベルを取り返す機会を与えるとの名目で、私を前線に送りこんだ。こんな化け物だらけの戦いにだぞ!
私にさらに死んでほしいようだ。立ち直れないほどに」
「私も同じだ。布理冥尊の情報を一通り伝えた私は不用品になった」
柳の化け物も口を開く。
「夜桜以上のA級戦犯である私を、親衛隊隊長と戦わせようとした。勝てるはずがない。あの方が許してくれる可能性のがまだある。それに賭けるのは当然だろ?
テロリストがここまで下劣で非道と見抜けなかった私こそが愚かだがな」
「ほざこうが、勝ち馬に乗ろうとしただけ。その報いだ」
リベンジグレイが強い目を向ける。灰色のコスチューム。アッシュグレーのロングヘア。
「ウィローブルーよ、お前こそ強い。だが覚悟が無かった。なぜ私に頼らなかった? 涙して頼らなかった? お前が心から正義のために尽くすと私に伝えたなら、私は我が身に代えてでも、あの方に伝えた」
十月の風が吹く。満月は頂点を越した。
「御託を並べろ。貴様たちだって、やがては用済だ」
鹿角の地蔵がやけみたいに笑う。
「私は許してもらえるかもしれない。まだ若かった黒岩をかわいがってやった」
――赦されると思うのか?
夜が絶望に閉ざされた。
土中から爆発。中井町を埋め尽くす四万枚近いソーラーパネルの一角が吹っ飛ぶ。黒いガラス状の破片が満月に照らされる。巨大な黒い
――貴様など食べる気もしない。テロリストにくれてやる
悪魔はまず春日を襲った。
「う……」
いくつもの巨大な牙に突き刺されたネンドクンが消滅する。
「アルティメットクロス!」
スカシバレッドが空から放つXは闇に飲み込まれる。
「「テラビーム!」」
仮面ネーチャーラピスの瑠璃色の光線が跳ねかえされる。
「城壁の結界よ! 隼斗君、行っちゃ駄目!」
下の名で呼んだ? それどころではない。
「みんな態勢を取りなおすぞ! 私のもとに集まれ」
リベンジグレイが叫ぶ。彼女は迫りくる牙をソードで次々と切断する。
でも牙は幾重にも生えてくる。
ごつん
頭に亀の甲羅が当たった。以前と違い、とげが生えている。突き刺さった。
亀も毒蛇も絶望の結界の中を飛びまわっている。北を守る四神獣である玄武の特性。
「スカシバーニングクラッシュ!」
あふれでる正義の赤い光で邪悪な爬虫類どもを消滅させる。消えた先から湧き出てくる。
「レッド、早く」
スパローピンクたちを乗せたコノハがリベンジグレイの上に浮いていた。
「スカシバーニングクラッシュ!」
寄ってきた毒蛇たちを消し去る。この技だけでも身が削られる。スカシバレッドも彼らへと合流する。
リベンジグレイが仲間たちを見まわす。
「
彼女は覚悟した顔でソードを構える。
「離脱」
柳の化け物がつぶやく。なのに何も起きない。
「ここは絶望に包まれた城壁の中だ。言霊など通用するはずない」
高校生の男の子が浮かんでいた。
「飛べるじゃないか」俺はハウンドに文句をつける。
「城壁の結界ごと浮かんでいるだけだ。移動能力はほぼない。リーガルエボニーは結界の中に結界を張れる。いくつでも作れる」
ハウンドが言い返し。
「近づけば律をかけられる。生身で戦う覚悟もしておけ。それでも絶対に勝つからな」
無謀を口にする。
「凪奈。降伏する最後の機会だよ。君だけはお仕置きで済ましてやる。僕の婚約者だけはな」
宙に浮かんだ真壁はウィローブルーを見もしない。
「降伏しないのならば凪奈を殺す。弱ったほんとうの凪奈を見つけだしてお仕置きだ。……凪奈はお仕置きが大好きだものね」
ハウンドピンクが身震いした。歯ぎしりも聞こえた。
「執務室長。私はテロリストの情報をたっぷりと――」
柳の化け物が空へと叫ぶけど。
「さてと」
真壁律が蒼柳を見る。笑う。
「裏切り者に裁きの鉄槌を与える」
ウィローブルーが黒いパネルとともに、音もなく押し潰される。
「再審などない。お前を律する」
その声とともに、生身の蒼柳が現れる。
「お許しを」と、蒼柳である人が泣きながら震えながら両手を合わせる。
「凪奈、見ないほうがいいよ」
浮かぶ青年の邪なる笑み。
「隊長は、蒼柳だけはエナジーの簒奪で済ましたくないそうだ」
「隼斗君、見ちゃ駄目!」
千由奈であるハウンドピンクは顔を背けるけど、隼斗であるスパローピンクは目をはずさなかった。リベンジグレイも。スカシバレッドも。
――うまくはなさそうだが、栄養たっぷりだな。まさに緑黄色野菜だ
巨大な黒い悪魔が土の中から顔をだす。上半身を晒して、人をつまみあげる。口をひろげる。
咀嚼音。蒼柳の悲鳴は一瞬だった。
本当の人が食われるのを見て思う。
焦燥に駆られながらただただ夢月を思う。彼女はどうなった?