04 まだまだ柚香とデート
文字数 2,249文字
「数戦でレベル124。私なんかすぐに追いこされちゃうよな。しかも、レッドにレベル関係なしなんて言われているし」
そしたら俺が守る立場だねなんて、まだ言わない。追いこしてから言おう。店内で日傘をひろげてパテーション代わりにされている間は言わない。
「柚香は何年目?」
「雪月花は一年半。地元でも高校時代に正義の味方やっていて145あった。こっちに来て一度
上京した日にさっそく召集された。もう蘭と夢月が、“魔法少女花とゆめ”というAランクのチームを組んでいた。
蘭は十三年目かな? 昔は単独で“魔法少女パープルバタフライ”を名乗っていた。モスガールジャー的な服装して、長らくDランクだったらしい」
自分の年齢を考慮して、チームのスタイルを(ちょっとだけ)変更したのだろうか。そう言えば、『胡蝶蘭は英語でモスオーキッドだからモスは使うな。あのスタイルは私が昔していたのに類似して紛らわしいから変えろ』と難癖つけられたと、碧菜から聞いたな。
「蘭さんに俺の
「あの特性は蝶のように飛び、花のように人を惑わし、贈答花のように醒めた目で本質を見抜く。なにより
まさに正義の女だが、それより興味があるのは。
「柚香は黒い巫女になったよね? あれがスーパー魔法少女?」
状況が状況だったので、二度ともしっかり見ていない。でも黒が主体で露出も多かった。完膚なきエロい深雪だったが、胸は盛っていなかったかも。
「……黒い神の子と書いて“くろみこ”だ。あの姿を二度も見て殺されなかったのは、雪月花と地元の先輩以外ではお前だけかもな。規格外の奴と違い、私も蘭もひとつのスタイルにしかスーパー変身できない。ゆえに、あれはトップシークレットだ。――そろそろ行こうか」
気を悪くさせてしまった。でも、まだ十分もいない。横顔も見ていない。
「お礼とお詫びをしたい。でも向かいあって言いたい」
日傘へと言う。
沈黙が流れる。貴様は感染させる気か? の怒りのオーラを感じた。
「か、顔を合わせなくていいから。で、でも……柚香の顔を見たい」
言えた……。これで怒鳴られようがかまわない。どんな結果も受けいれられる。
カフェ内の静寂は永遠のような十五秒。
「カメラで撮りあおうか? 私も相生のありふれた顔を再確認したい」
***
二人は雑居ビルの非常階段を登る。休日に誰も現れなさそうな踊り場で、背中合わせにスマホを交換する。これくらいなら感染しない。
「カメラ起ち上げてから渡してよ。でも、黒猫の待ち受けかわいい」
柚香は起ち上げているから、彼女の待ち受けは確認できない。
二人は背中合わせに自分の顔を取りあう。俺は二回やりなおす。背中合わせで自分のカメラを戻してもらう。指がちょっとだけ触れた。これぐらいでは感染しない。
「へへへ、覚えている、この顔だ。先月なのになんか懐かしい」
背中合わせで柚香が笑う。俺のスマホには彼女の顔が二枚保存されていた。マスクもサングラスもしていない。すまし顔の上半身と、すこし笑顔のアップ。
金色のショートヘア。子猫の瞳。ちょっと丸みがあるくせにすっきりした輪郭。唇……。八重歯は見えない。
「ちゃんと消しておいて」と言われるけど、その気はない。スカシバレッドの四枚と並ぶ宝物だ。でも彼女はアイドルのように遠い存在。こっちはいずれ追いつけそうな存在。
「任務を再開するよ」
そうだった。俺はサングラスをして振りかえる。なのに俺の顔からそれは消える。
目のまえで巫女が微笑んでいた。
「この姿ならば、あなたのウイルスに抵抗できます。深雪の体で街歩きの服装に着替えることもできるけど、防御力は0になるしエナジーを消費するので避けさせてもらいました」
俺は固まる。彼女を見続ける。清楚な黒髪を。ちょっと釣りあがった大きな瞳を。
「い、いつまで顔を見ているんだよ。胸もとに目がいったら、アレンジしてないよと笑おうとしたのに」
深雪が柚香の口調で頬を染めて目を逸らす。
***
気づいたら四時だった。夜の任務の発生に備えて、全員が解散する。
午後はずっとうわずっていて記憶がほぼない。ぼおっとしていた。目のまえの柚香の顔。深雪でなくて、髪を黒く伸ばした柚香の顔。ちょっと小さくて華奢な女の子……。
しか頭になかった。
「明日の探索地点は夏目から連絡が来るって」
日傘はたたんでいるけど、サングラスに大きいマスクの柚香が言う。
「じゃあまた明日。へへへ」
手を振って南口の階段を駆け上がる。
俺はエスカレーターで登りながら決意する。彼女をレベルで追いこしたら告白しよう――。駄目だ。深川蘭を追いこしたら告白しよう。そしたら柚香はあいつに頬を叩かれることはない。
そして、柚香とは明日また会える。明日は巫女姿も撮らせてもらおう。
****
次の日は一時間早まり十時に蒲田駅集合だった。前日と同じようなネタのメッセージだった。
東口改札前で柚香を待つ――。
不穏な空気を感じた。人々が動揺したかのような。
「智太君、ひさしぶり!」
背後から竹生夢月に声かけられる。