24 丘の上のモス
文字数 2,759文字
「雪から救援要請が来ている!」
モスウォッチへと怒鳴りながら、スピネルソードをマンティスグリーンに投げる。どちらも鎌に落とされ消える。
五人衆……。こいつは強すぎるから。三人はカマキリをにらみながら何げに並ぶ。
『司令官が検討中。速やかに作戦行動に入るように』
「了解」とイエローが俺の右手を握る。
「了解」とピンクが俺の左手を握る。
メーポポへと向きを変える。
「「「スパイラルレインボー!」」」
三人の声が重なる。
残酷な赤黄桃の螺旋。
羊の化け物が吹っ飛び車にぶつかる。さらに。
「「「スパイラルレインボー!」」」
螺旋はメーポポを突き抜け、大型四駆外車は爆破炎上する。親衛隊である異形は消滅する。
スカシバレッドの膝から力が抜ける。精神エナジーの喪失。関係ない。
すぐにマンティスグリーンに向きを変える。
「「「スパ
「ざけんな!」
カマキリが両手の鎌を振る。緑色の斬撃がふたつ放たれた。馬鹿め。
予測していたピンクが跳躍して避ける。俺も飛んで逃げる。
イエローはすでに槍を構えて女の子へと突進していた。
ダダダダダダと掃射音。イエローのバストが跳ねかえす。グレネード弾が彼女に直撃。よろめいても倒れない。飛んできた手りゅう弾を槍で打ちかえす。
林から近衛エリートの悲鳴が聞こえ、直後に爆発する。
「スカシバーニング!!!!!」
俺の全身から放たれる、燃える炎のような正義の光。憩いの公園である秩父の小さな丘のはずれを包む、林にひそむ近衛エリートどもを瞬殺する光。
先日、某魔法少女の秘密特訓の島を無断拝借して、秘密特訓をして良かった。サイキック以来のスパイラルレインボーも念入りに鍛えた(もちろん海に向けて発射した。驚いた海鳥に糞を落とされたけど)。レベルが上がりエリーナの複雑な計算が必要になったが、宇宙帰りのスパイラルレインボーならレベル172未満は二発で倒せるらしくて、その通りだった。
シルクが女の子を抱える。反撃は受けない。命は大事だから、
そして、いまだ呆然とする巨大バッタが残る。どうすればいい……。
「ゆるさねえぞ!」
マジかよ。憤怒の面の巨大ハナカマキリが尻をまくらない。あのよく分からないけど分かったふりをしてきた単体リスクの計算によると、モスガールジャーが四人そろえば185に拮抗するのに……。まだ三人か。こいつは190超えか。つまりそもそも足りない。
「近衛ども、戦わずに生き延びた奴は俺が食い殺す」
スカシバレッドは「スカシバーニング!」と保険で光らせて。
「シルクイエロー、戻ってきて! 三人そろわないと光をだせない。……スカシバーニング!」
切願しながら再度光らす。特攻してきた近衛エリートが溶ける。
これもけっこう消費する。ライフ値は満タンでもコンディションが減っていく。つまり精神エナジーが減っていく。エナジーに頼る俺こそキツい。
眩しいなと、巨大白カマキリの三白眼が笑う。
「お手々をつなげないように、一匹ずつ削ってやるぜ」
手を握りあう俺とピンクに背を向けて、イエローへと鎌を向ける。
馬鹿め。
「うまく行き過ぎだな」
俺の右手を握りながらエリーナブルーが現れる。
「特訓の成果です」
スカシバレッドが平然の振りして答える。額に油汗。
「「「スパイラルレインボー」」」
三人の声が重なる。
赤青桃の巨大な螺旋がマンティスグリーンの背中を飲みこむ。
精神エナジーの放出。俺の膝が落ちる。耐えろとブルーが手を引っ張る。だから。
「「「スパイラルレインボー!」」」
連発こそ必須。
「卑怯者め!」
ハナカマキリが羽根をひろげる。螺旋の光を空へと逃れる。
まずい。あの必殺技は五発が限界。それでさえ、出しきれば地面に大の字で転がる。あと一発だと190越えは絶対に倒せない。最低でもあと三発。そもそも計算が合わないのは仕方ない。
ハナカマキリが空から俺たちを嘲笑う。俺たちへとよだれを垂らす。
「引きつけよう」
スカシバレッドはよろめきに耐えながら、二人に言う。
なのにマンティスグリーンが消える。擬態? でいいのか?
『光学迷彩発生。エナジーに反応するゴーグルを転送する。人工無機物を視認できないから、つまり建物とかに頭から衝突するから、移動は最低限に』
四人の顔にゴーグルが現れる。これぞモスの強みだ。
「聞いていたな? お前は訓練で階段から落ちただろ」
ブルーに念押しされる。
『アメシロよ、折角だから新機能を伝えなさい』
『はいはい。レッドはエナジーの低下で実質レベルは125に低下。三名は変わらず』
……知る必要ないよな。
このゴーグル越しだと、すべてが透明。樹木や虫は影で存在する。巨大バッタが若草色に写しだされる。上空に暗緑のカマキリのシルエット。女の子を全身でかばうシルクイエローのシルエットへと、両方の鎌を振るう。暗緑の鎌型の影がシルクへと飛ぶ。
「うっ」
シルクは悲鳴を抑える。黄色い影がより強く萌黄色の影を抱える。
「敵はどこだ?」スパローがわざとらしく叫ぶ。
カマキリのシルエットが俺たちへと向きを変える。両方の鎌を向けて飛んでくる。
馬鹿め。気づいてないと思っていやがる。……最後の一発。決めないと。あとはヘトヘトで。
柚香、夢月……。
俺はエナジーが0になっても戦える。守る人がいれば沸きあがる。だから、先の事は考えず。
「「スパ
「だめ!」
ピンク色の小柄な影が俺から手を離す。若草色のバッタの影が俺達の前に跳ねてきた。
「隼斗。俺が盾になる」
「おいおい邪魔だぞ」
「ぐえ……」
伊良賀紗助である巨大バッタの影が、捕食者であるカマキリの影に分断される。若草色は消えていく。
……ピンク色のエナジーがゴーグルの左半分を覆った。とてつもない殺気。
「うわああああああ!」
ピンクのシルエットがカマキリへと跳躍する。
その下には、動かない人の影。虫や樹木と同じく精神エナジーの反応はない。
「この野郎、紗助さんを!」
「隼斗、やめろ!」
青いシルエットも俺の手を離れる。
カマキリの影は動じない。そのエナジーが嘲笑う。青と桃。二つの影へと鎌をかかげる。
俺の手に煌々と赤く輝くソードの影が現れる。
残り少ないエナジー全てをそれへと注ぐ。燃え上がる。
俺はカマキリの体を残忍に思いだす。狙うべき部位は……スカシバレッドが食らいつくならば、あの柔らかそうな腹。
暗緑の影へとソードを交差させる。
「アルティメットクロス!」
まだまだ終焉じゃないけど叫ぶ。陰惨なまでに赤黒いXが飛ぶ。
「いててててえええ!」
織部の悲鳴が丘から空に消えていく。