17 本宮中枢
文字数 2,716文字
仮面ネーチャーラピスは、その蒼い巨体を人の姿三体と対峙させていた。
赤い三人は、仮面ネーチャーラピスの前に着地する。サント号は自動運転で上空に消える。
「レッドが三体? 羽中田、話が違うぞ」
禿げ頭で痩せた長躯の男が怒鳴る。
「つまり雪はあっちか? ――コールドレッドも強かった。素早いくせに、魂を削る戦いぶり。
羽中田と言う名の先ほどの大男が俺をにらむ。あれだけ食らわしたのに、すでに俺より元気そう。
「それは私への褒め言葉? それで
江礼木と呼ばれたたてがみのような髪型の女が笑う。
「もちろん月だ」最初の禿げ男が笑う。「あの方と同じ好みだ」
いずれも二十代後半ぐらいか……。思いきり邪悪な形相どもだ。夜道で出会ったら俺でも逃げる。しかもすでに生身じゃないみたいだし。
「あなたたちは門番ね」
レオフレイムが一歩前にでる。
「つまり百夜目鬼が――」
「せいや!」
赤い光に包まれてお祭り娘が現れる。
「私が話している時に――」
「紅月、月明かりだ!」
俺が叫ぶ。何よりも先制攻撃。
「私はスーパームーンだ! 二十三夜!」
言い返しながらも手のひらを突きだす。
半月状の光が回転しながら門番へと飛んでいく。廃墟が目立つ温泉街だとしても、十五夜どころか十三夜もつかえないのか。
でも。
「二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜」
無数の光弾。笑いながら待ち構える三体の顔色が変わった。それどころか。
「二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜……。ああ面倒くさい! 一回だけ十三夜!」
無限の光弾。紅い光が消滅することなく乱舞する。時折、追尾型月明かりの群れを混ぜるいやらしさ。その中をジェット機ほどもある紅色の光が通過する恐ろしさ。
「あなただけに任せません」
レオフレイムが諸手を持ちあげる。そして降ろす。
「フレイムオブエンペラー! フレイムオブエンペラー! フレイムオブエンペラー! フレイムオブエンペラー……。さすがに疲れる」
温泉郷への延焼の心配をするレベルの火炎放射の連発。
「「テラビーム! テラビーム!」」
仮面ネーチャーラピスの全身からも瑠璃色の人型光線が発せられた。
「「……手応えがない。攻撃を一旦中止」」
「まだまだ! 二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十六夜、二十三夜、二十三夜、二十三夜……。もう一回だけ十三夜! 二十三夜、二十六夜、二十三夜、ラスト十三夜! おまけ十三夜!」
紅色の光に染まる河原……。怒る鬼も嘆くだけだろう。
仮面ネーチャーに従って、スカシバレッドは参戦しない。申し訳程度に籠手から矢を放つ。
「「窓に明かりが灯った。素行不良児やめろ!」」
仮面の二人がハモりながら怒鳴る。
「「合体を解除する。スカシバレッドは援護を続けろ」」
エナジーの消費が激しいから合体は短時間しかできないと、藍菜が言っていたな。
抱き合いながら仮面ガイアと仮面アグルが現れる。
「消滅したのか? 逃げたのか?」
仮面ガイアが荒い息で言うけど。
桜の花びらが無数に舞う。
「どっちでもない」
若い男の声がした。
「僕の結界は月明かりに通じた。まあ、僕の力だけでないけどね」
六人の人影……。門番である羽中田、賀良、江礼木の巨躯。蒼柳のしなやかな体。小柄な与謝倉は杖を手にしている。
その隣に、ありふれた背丈の高校生ぐらいの青年。賢そうで整った顔立ち。今どきの黒髪。でも耳にピアス。
こいつが……。
「お前が百夜目鬼か!」
俺の手にソードが現れる。
「スカシバレッド……。お前もかわいくて馬鹿?」
高校生ぐらいの男子に呆れられる。
「テロリスト本部に踊らされた実行犯にして主犯格ども。僕は
「……スカ。逃げるよ」
紅月が横に来た。野生の感?
「まだよ」
俺はオネエ言葉を吐けるほどに余裕なのに。そもそも他を置いて尻尾を巻くはずない。それに猟犬がいる。
「お前が百夜目鬼の右腕だと?」
仮面ガイアがうなる。
「そこまでじゃない。蒼柳さんや凪奈こそ実戦にでてたいしたものだ」
そう言うと、与謝倉凪奈を抱き寄せる。
与謝倉は顔を背ける。
「恥ずかしがるなよ。……門番三人が役に立たぬことがよく分かった。お前らは人であるうちに自己紹介してやれ」
真壁という男の子が凶悪な図体の大人三人に命じる。
大人たちは首肯する。
「びびらせるためにか?」
大浴場にいた羽中田が言う。
「俺はクマドーサ。特性は
「俺はワシモーサ」
ハゲ大男の賀良が言う。
「特性は
「ハデスブラックに代わり門番となった私は、ナマズラーガ」
江礼木が言う。
「特性は
「本気にされる。いずれもレベルは200を越えている」
蒼柳が笑いながら付け足す。
原理を我が身に……。巨大化したハナカマキリを思いだす。
紅月がスカシバレッドの手を握る。
「逃げないのならば、十五夜を使う」
涙声だと……。
「駄目!」
スカシバレッドが紅月の手を握りかえす。怯えぬようにと強く握る。
こいつと同じ規格外が三体。だとしても、夢月が何故にここまで震える?
「脅かすのはそれくらいにしましょう。そして今夜は終わりです」
空から女性の声がした。年老いているけど張りのある声。
「私の存在に、かぐや姫が気づきました。追いつめれば、滅びの光を放つでしょう」
白く発光しながら、白いローブをまとった女が浮かんでいた。
「百夜目鬼……」
仮面ガイアも怯えた。
「星空に浮かぶお姫様。私はあなたを待っています。公平なるレイヴンレッド、そして闇を照らすあなた。
あなたの目が覚めれば、これまで殉じた者も救われます」
百夜目鬼の声は優しくて強い。百夜目鬼を包む光も優しいのに強い。顔立ちが見えないほどに。
「仮面ガイアとアグル。何年振りでしょうかね……。裏切り者どもに伝えなさい。本宮の聖なる魔女は、また地面に降りたちますと」
百夜目鬼の姿が光の中に消える。
「離脱」
蒼柳の声。地面の六人もいなくなる。
竹生夢月の手はまだ震えていた。