28 リベンジチャンス
文字数 2,326文字
『ほんとに必死だからかけてこないで!』
通信を切られる……。
代わりというかモスウォッチに通信が届く。スパローピンクだ。
『コノハにてハウンドちゃんと移動中。合流したいです』
なにがハウンドちゃんだ。並べば妹に見られるくせに。胸は勝るけど。
海上の空前方低くからピンク色の狼煙が上がる。
「確認した。南西に移動して」
スカシバレッドも海へでる。
ティアラが無いことに気づいた。飾りだけかと思ったが、レイヴンレッドのソードから守ってくれた。代わりにモスウォッチがある。
***
「月が興奮している。近づくと、ハウンドちゃんが攻撃されるかもしれない」
スパローが、コノハと並行して飛ぶ俺に伝える。
「リベンジグレイが月にやられるかも」
ハウンドも言うが、たしかにあり得る話だ。
「なので、先にウィローブルーとネンドクンを倒す。いまは仮面ネーチャーとリベンジグレイが戦っている」
「紅月は苦戦しているのか?」俺の問いに。
「彼女に律は効かなかった。でも鉄槌と城壁は通用した。リーガルエボニーは空を飛べないので、隊長と一緒にいる。それだけが救い」
ハウンドピンクが答える。この子は真剣な眼差しだけど。
「急ぎましょう。私たちがいけばすぐに終わる」
スカシバレッドはスパローにきつめに言う。こいつはハウンドが怖がらぬようにと速度を落としている。戦場にやましい心を持ち込みやがって。
「スパ君、もっと速めていいよ」
戦友は俺が伝えたいことに気づくけど、なにがスパ君だ。スカシバレッドは説教してやろうと思ったが、アグルさんから連絡がきた。
『平塚のゴルフ場から二宮の集落を横断して、現在は中井の大規模なソーラー発電所近辺にいる。ウィローブルーは柳のようにかわしながら逃げている。
おそらくハデスブラックたちと合流するのが目的だろうが、僕たちがエナジーを消費して合体できなくなるのも狙っている。だから、現在はフィジカル合体を解除している。
ネンドクンはウィローブルーに付き従っている。こいつは人以外にも擬態できるから厄介だが、レベル100程度の力しかない』
中井? そんな町があったのか。駅伝でも聞いたことない。
「リベンジグレイの残りの活動時間は?」
もっとも大事なことを聞く。
『八時間らしいが、さすがにそんな長時間は君でも変身できないだろうな。――彼女は善の心が悪の心を凌駕した』
花鳥風樹と出会ったからだ。だからマントを手放せたからだ。もはや落窪さんは俺たち以上の正義の味方だ。
丘の一角が黒いパネルで埋め尽くされ、満月の光を反射させている。あそこが戦いのセカンドステージ。
***
ソーラーパネルの破壊音が響く。再び戦闘が始まったようだ。二人を上空に待機させて、スカシバレッドが先行して降りる。
「束縛」
まじっすか。お約束の声が聞こえた。空中で動けなくなる。
「警戒もせずにのこのこと……。こいつはエナジーを消費して解除する。ネンドクン、早く倒してくれ」
黒いパネルに根を張るように、柳の化け物が呆れながら俺を見上げていた。さすがに俺を手籠めにする余裕はなさげ。
「ありがたい。こいつには恨みがある。援護を頼む」
鹿角をはやした地蔵が現れる。その背に羽根が生える。鹿角を高速回転させながら俺へと飛んでくる。
「卑怯者どもめ!」仮面ガイアの怒鳴り。
「我々が成敗する!」仮面アグルの叫び。
「「フィジカル合体!」」
絶妙な掛け声の叫びとともに瑠璃色の巨人が現れる。同時に。
「「テラビーム!」」
「ぐえ!」
鹿角の地蔵の羽根がひとつ瑠璃色の光線に貫かれる。黒いパネルに落ちて割ったところに。
「「テラキック!」」
仮面ネーチャーラピスの痛烈なドロップキックが襲う。
「移動」
ネンドクンが消え、ウィローブルーの隣に現れる。
「「やはりこいつを先に倒さないとな。――スカシバレッド、見事な陽動作戦だった。君は言霊を解除できたな」」
絶妙なハモりで褒められるが、意図したわけでないし、エナジーを消費して抜けだしたくない。戦いの第二ラウンドは始まったばかりだし、死ぬと太平洋上空に送りこまれる。今回だけは命を大事にしないとならない。かと言って、このまま身動きできないし、どうしよう。
灰色の影が跳躍した。
「恨みを晴らす!」美麗の女性がソードを両手に持ち、俺へと襲いかかる。
刃が目前で止まり、束縛が消える。
「恨みを込めた寸止めだ。補助攻撃だけを斬った。――もちろん布理冥尊への恨みだ」
リベンジグレイが言うけど、てっきり藍菜を轢いた俺への恨みと勘違いした。
とにかく俺は再び動ける。柳の化け物が口から濁流を空へと吐きだす。岩混じりだ。スカシバレッドは余裕でかわす。
「スパローピンクも降りてこい。こいつらを四方から囲む」
リベンジグレイがモスウォッチに命ずる。
「了解です」とスパローが答える。「僕も花吹雪のおかげで、今だけ100台に復活だ」
「……やはり夜桜がいるのか」
柳の化け物のつぶやきが聞こえた。
「敵にまわると、何よりも最悪だな」
「アルティメットクロス! アルティメットクロス!」
スカシバレッドは赤いXを連続して二体へと飛ばす。
ウィローブルーがさらりとかわすので、またソーラーパネルを割ってしまった。
でもネンドクンは光を避けられない。体に吸収するけど、「うっ」と声を漏らす。……やはり、こいつはレベルが落ちている。俺ひとりだろうと敵でない。
「アルティメットクロス! アルティメットクロス!」
「ぐえ、ぐえ」
柚香を連れ去ろうとして、俺の部屋を壊しかけた元本部の化け物に、恨みのXを当てまくる。