07 ヒマワリと流星の精霊

文字数 3,101文字

 日本海沿い二か所の温泉と月山麓の温泉。三人は宿に泊まることなくタクシーを利用した強行軍で深夜のアジトを潰していく。経費は本部から五十万円も支給されている。余った金は返さなくていいそうなので、生活費として最低でも三十万円は残したい。芹澤にも渡さないとな。

 早朝のひなびた泡々温泉では、農家裏の掘っ立て小屋アジトに誰もいなかった。戦闘員服を三枚燃やして、朝市を見学してから公営の湯に入る。地元の爺さんと朝湯だ。話しかけられたけど言葉が通じなかった。方言キツすぎ。


「一緒に練馬へ行く?」
 表で合流して二人に聞く。近くの林にコードを設定すれば危険なく行き来できる。

「ご遠慮させていただきます」
「芹澤殿に同じくです」

 だったら俺だけ自宅で用を足そうとしたら。

「転送とは精神エナジーをおのれにまとい、肉体を強制的に空間移動させるものです。貴殿がエナジーの塊といえども、転生や変身以上に肉体と精神に負担をかける行為です。極力避けるべきと思われますが」

 心が強くなった芹澤でも、俺には遠回しだ。つまりトイレぐらいで使うなと言いたいらしい。

「ですな。私程度の精神エナジーでしたら、東北を往復したら寝こみますな。智太殿も、あの女や桧みたいなエナジーが圧縮された矮星同様に使いまくっていたら、いずれ死にますぞ」

 あの女とは夢月だが、男性早死家系である竹生家に婿入りする可能性が無きにしも非ずで、信ぴょう性を感じてやめることにする。
 掘っ立て小屋アジトを見張るついでに、肘を折って仮眠。三時間たっても布理冥尊は現れない。
 これだけ点在する弱小アジトを星空義侠団は放置している。里に下りてきたツキノワグマを無傷で山に帰すので手一杯らしい。たしかに布理冥尊を倒すことだけが正義ではない。俺もそっちをやりたかった。

「あんな見え透いた嘘を信じる者がいると、義侠団は思っているのでしょうか」
「たしかに」
 湖佳の言葉に芹澤がうなずく。そうだったのか。
「いよいよガス灯温泉です。私はここまで見張り役だけでした。次は私にも戦わせてください」

 俺も生身でワンサイドに八人倒してきたから、ちょっと罪悪感が芽生えてきている。地方幹部一人と遭遇したが、マントを手に現した瞬間に穴熊パックが奪った。なので、まだスカシバレッドに変身していない。

「ガス灯温泉と樹氷温泉。二大拠点なうえに、テロリ失礼レジスタンス出没情報も届いているでしょう。ここからが本番でございます。なのに、おお、あなたが先頭に立つというのでしょうか」
「私は戦いの美神の後塵を拝する。ついにキラメキグリーンがスカシバレッドとペアを組み、悪を成敗する時が来た。邪魔しないようにな。茶々も入れるな。マジで殺すぞ」
「しっ」

 アジトに気配が近づいてきた。……二人。とりあえず一人を倒す。

「ほんてん都会のテロリスト来るのがな?」
「おっかねだげんと、頑張って倒さねどね……」

 アジトに入ってきたのは、学校指定ジャージ姿のほっぺたが赤い女子高生二人だった。俺たちを見て固まっている。
 俺も固まった。これは無理。

「ふむふむ。あなた方は幹部補レベルですな。つまり、よその温泉からここへ来た」
 湖佳が声かける。この子に任せよう。
「ご推察のとおり、私たちは関東から来ました。はっきり言って強いです。抵抗なさらずに――ぐえっ」

 女子高生のツインドロップキックに湖佳が吹っ飛ぶ。

「佐藤、やるすかね」
「うん。錦、精霊になんべ」

 二人の手に黒いマントが現れる。女子高生たちは……実家のさくらんぼ畑の収穫を手伝うようなバンダナに長袖縞柄シャツと、下は学校指定ジャージのままの姿になる。
 これとやりあうのはなおさら無理だろ。はやく体に力を込めて化け物になれ。

「おらだちはさぐらんぼの精霊だ。まだ弱えがらこの姿で戦う」

 二人はさくらんぼのように並んで頬を赤らめているけど、俺には戦えない。自分で弱いとばらしているし。

「貴殿のスカシバフラッシュ一撃で消滅できます。さあ変身しましょう」
「嫌だ。撤退しよう」

 芹澤と抱き合っている場合ではない。こんな純朴そうな女子高生を消し去れるかよ。

「……ははあ。知恵なきものがかかる系の特性ですな」

 湖佳が鼻血を垂らしながら失礼を言う。岩飛の愛嬌と同じ系か。種が分かっても俺には戦えない。

「芹澤殿、さきほどの温泉で押収したものをお持ちですよね」

 芹澤の眼鏡が光った。その手に黒いマントが現れる。

「はっはっはっ、布理冥尊め。私こそがスカシバレッドの窮地に現れる正義の味方。キラメキグリーンの精霊バージョンだ」

 芹澤が体にマントをかける。その姿が、緑が主体のへそ出しレースクイーン姿と化す。ショートスカート。長いブーツ。眼鏡は消えている。
 その姿をもう少し拝みたいのに、芹澤が体に力を込める。黄緑色の光に包まれる――。

「ああ、この姿は……スカシバレッドとともに戦うにふさわしいスタイル」
 芹澤がおのれのコスチュームを自画自賛する。

「おお、その姿は」湖佳も感嘆する。「まさに昭和の怪人」

 緑色のショートヘアに黄色のショートパンツ。アダムスキー型UFOをモチーフにした帽子。手には星型のマジカルステッキ。でも、顔の周りにヒマワリみたいな花びらが生えている。そして星型レンズの眼鏡。背丈が2メートル越えたし。

「私こそが、魔法少女コメットさんフラウだ!」

 自称魔法少女の怪人が、二人へとマジカルステッキを振るう。幾多の星型の光線がさくらんぼ娘を襲う。悪の図式じゃないか。

「ひええ、やっぱりおっかねえよ」
「降参すます。ゆるすてください」

「ならば精霊を解除しなさい。盾もです」

 姿勢よいコメットさんフラウに、さくらんぼ娘たちが従う。

 ***

「学生証などを持ち歩いていましたぞ。親にも学校にも言わないでおくから二度と布理冥尊に関わらないこと。彼女たちは泣きながら従いました。反省文も書かせました」
 湖佳が言う。
「ちなみに細かいことはなにも知りませんでした。スカウトされて、興味本位で入信しただけですな」

「マントは両方没収しました。貴殿もおひとつお持ちください。おそらくさらに美しい戦いの女神が現れるでしょう」

 芹澤はうっとりと夢想しているけれど、俺はスカシバレッドのままだし、力を込めれば血の色の龍になる。なので俺は持たない。

「俺たちみたいに正義の味方になるべきだ。今からでも遅くない」
「そうです。レジスタンスを信じましょう」

 俺と芹澤の言葉に二人はまた涙した。芹澤の言う神々しい姿を見たいと言うので、山形に来て初めてスカシバレッドに変身した。髪には銀色のティアラ。二人はさらに感涙する。またファンが増えてしまった。やはり寒かった。

 さくらんぼ娘たちは、社会見学だかとこじつけて、親の車でここまで来ていた。是非にというので麓まで乗せてもらう。佐藤の父親は、気のよさそうな里芋農家だった。いも煮をご馳走したいとの話だが、時間がないので断る。こんなに気持ちよい県民たちを制圧しようとは、やはり布理冥尊は悪の組織だ。


「芹澤殿は本部を信じておられるのですか?」

 女子高生二人が車内で寝たところで、湖佳が尋ねる。

「私は一人しか信じていない」
「司令官も信じていないのですか?」
「それは……」

 心が強くなった芹澤でさえ答えない。心が強くなったから答えないのかもしれない。俺もコメントしようがない。

「ある女に関しては、芹澤殿は千由奈と気が合う。そんな気がしていましたが」
 湖佳が追い打つように惑わしてくる。
「千由奈のが盲信かもしれませぬな。彼女ならば、一人だけ信じればいい、そう答えたでしょうな」

 ある女とはスカシバレッド。
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登場人物紹介

相生智太(あいおいともた)

20歳

大学二年生

龍、陰

スカシバレッド

スカシバレッド

モスガールジャーのエース

清見涼(きよみりょう)

22歳

大学四年生

鶚、村雨

エリーナブルー

エリーナブルー

モスガールジャーの実質リーダー

睦沢陸(むつざわりく)

23歳

フリーター

猪、貫、西瓜

シルクイエロー

睦沢陸

たっぷり女性ホルモンを授かったバージョン




シルクイエロー

モスガールジャーの陸戦巨乳隊員

壬生隼斗(みぶはやと)

14歳

中学二年生

巨樹

スパローピンク

壬生隼斗

すっかり健康になったバージョン

スパローピンク

モスガールジャーのちびっこ隊員

芹澤陽南(せりざわひなた)

17歳

流星、向日葵

キラメキグリーン

キラメキグリーン

モスガールジャーのニューグリーン

夏目藍菜(なつめあおな)

21歳

無職

勇魚、雲、寛容

与那国三志郎

与那国三志郎(よなぐにさんしろう)

モスガールジャー司令官

木畠茜音(きばたあかね)

20歳

大学二年生

鸚鵡、耀

アメシロ

アメシロ

モスガールジャー指令室参謀

落窪一狼太(おちくぼいちろうた)

35歳

夏目藍菜の用心棒兼諸々

山犬、恨

ウラミルフ、リベンジグレイ

リベンジグレイ

モスガールジャーの切り札

伊良賀紗助

21歳

レジスタンス叛逆者

草原

モネログリーン

モネログリーン

モスガールジャーの元隊員

陸奥柚香(みちおくゆか)

19歳

大学二年生

雪割草、蝙蝠

白滝深雪

陸奥柚香

金髪やめて高校時代に戻ったバージョン

白滝深雪(しらたきみゆき)

雪月花の癒し役

白滝深雪

銀髪バージョン

白滝深雪

スーパー魔法少女「黒神子」

竹生夢月(たけおゆづき)

18歳

高校三年生

鳳凰、惨

紅月照宵

紅月照宵(こうづきてるよ)

雪月花の真打ち

紅月照宵

ス-パー魔法少女「身分を隠すため町娘に変装したお姫様。お祭りだって初体験。女剣士に憧れ中。でもその実体は?」

お祭り娘バージョン

深川蘭(ふかがわらん)

25歳

社会人

胡蝶蘭、蛟

紫苑太夫

紫苑太夫(しおんたゆう)

雪月花の仕切り役

紫苑太夫

スーパー魔法少女「華柳」

亀の隊長さん

29歳

地方公務員

甲羅、機動

動的亀甲隊隊長

動的亀甲隊隊長

四名の配下戦闘員と長い脚の亀型兵器で戦う

相生桧(あいおいひのき)

15歳

高校一年生

相生智太の妹


町田さん

フリーの看護師

焼石嶺真(やけいしれま)

19歳

不明

虎、渡鴉

レイヴンレッド、元ヤマユレッド

レイヴンレッド

布理冥尊五人衆

ヤマユレッド

元モスガールジャー隊員

与謝倉凪奈(よさくらなな)

14歳

中学二年生

夜桜、猟犬

ハウンドピンク

ハウンドピンク

布理冥尊五人衆

押部諭湖(おうべろんこ)

13歳

中学二年生

貉、妖精

穴熊パック

蒼柳(あおやぎ)

布理冥尊五人衆

言霊、??

フェローブルー

刀根(とね)

第三方面軍直轄突撃団副長

銅、土

トンネラー

茂羅(もら)

第三方面軍温泉ランド区副司令官

苔、慈

コケライト

佐井木(さいき)

本宮護教隊地方管理部フルーツランド担当

犀、念

サイキック

銀山(ぎんやま)

第三方面軍フルーツランド支部長代理

勝虫、彷

シルバーヤンマー

禿尾(はげお)

第三方面軍直轄渉外隊隊長

銭、任侠

ゼニヨコセー

香山(かやま)

第五方面軍特務隊員

蚊、童、群

モスキッズ

織部(おりべ)

布理冥尊五人衆

花蟷螂、嘲

マンティスグリーン

マンティスグリーン

芹澤の父に擬態中

綿辻(わたつじ)

親衛隊(五人衆付)

蒲公英、迷

メーポポ

大賀(おおが)

布理冥尊五人衆

鬼、痴

オーガイエロー

五木田(ごきた)

親衛隊(五人衆付)

噴射、汚

ジェットゴキ

原田(ばるた)

第三方面軍彩りランド支部長

ヴァルタン征爾

忍者、幻

春日(擬態中)

レジスタンス本部

粘土、鹿

ネンドクン

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