52 永遠の闇
文字数 1,085文字
でも焼きつけたはずの竹生夢月の顔を思いだせないのが無念。ここには何も存在しない。おのれのちっぽけな思念しか存在しない。まさに永遠の闇。
だから俺は寝て過ごす。ほかにやることないし、疲れているし。ずっと変身を解いてもらえなかったスカシバレッドこそ疲労困憊だし。
そうだった。ここは俺だけじゃない。あの子もいる。だからあの子と一緒に眠る。起きたらまた寝る。たっぷり休めていいや。俺は頑張ったんだからご褒美だ。
みんなを心配しない。焼石がみんなを救う。正義のレッドがみんなを助ける。
なのに寒くなってきた。業務用冷凍庫より冷える。さすが永遠の闇だ。俺もスカシバレッドも氷りつく。寝ていられなくなってきた。震えながらずっと起きているのか。これはきつい。でも頑張って寝よう。いずれ体も慣れるだろう。
慣れたら熱くなってきた。火傷しそうなほど。これはとても寝られない。でもスカシバレッドと一緒だから耐えられる。ほら、熱さにも体が慣れてきた。また眠れる。
『いつまで寝ているの!』
桧に怒られた。
青白い光が見えた。永遠の闇にも現れられるのか。さすが桧。お兄ちゃんは鼻が高い。
『そこにいるのでしょ? 返事をしなさい!』
また怒られる。
ずっとここにいたい。スカシバレッドと一緒だから。
「あれからどれだけ経った?」
それぐらいは聞かないと。
『一週間が過ぎた。百夜目鬼さん以外みんな回復した。いないのはお兄ちゃんだけ。だから早くこっちに来なさい!』
月は闇を照らす。桧が見えた。俺へと手を伸ばしている。
でも行きたくない。ここにいたい。あの子とずっと一緒にいたい。
『……夢月さんが待っているよ』
痛いところを突いてくる。
『私があの人のところへ連れていってあげるから、強情を張るのはやめなさい!』
行かなければならないのか。認めないとならないのか。
「分かったよ。でも今のうちに教えて。俺は桧の光を浴びたから精神エナジーはなくなったよね」
『……ごめんね。だけどお兄ちゃんはもう戦わなくてよくなった。そもそも戦いは終わった。私だって自分の精神エナジーと引き換えにここへ来られた。あんなのいらないから、ちょうどよかった。だから手を握りなさい!』
桧の俺への論理。月は闇を照らさなければいけないのに、俺だけを照らして消えようとしている。遠くに紅色の光が見えた。
俺は何もない闇へと一度だけ振りむく。消滅した俺の力。もうどこにもいるはずないのに。
ばいばいスカシバレッド。