08 近衛エリート小隊VS俺
文字数 2,536文字
窓が割れて風雨が飛びこむ。土砂降りのピーク。部屋は薄闇になるだけ。外に飛びでたスカシバレッドを雷が照らす。彼女は瞬く間にずぶ濡れになりながら、ひとつ四階の窓を蹴り破る。
ダダダダダダダダダ
同時に一斉掃射を喰らう。レベル50以下のエナジー弾など痛いだけだ。血がでるだけだ。じわじわ削られるだけだ。
「スカシバフラッシュ!」
屋内を照らす。近衛エリート三体が目を背けている。ゴーグルも無意味だったな。
スカシバレッドは斬撃を二つ飛ばす。一体を直接斬りつける。
瞬時に殲滅。でもシルクイエローはいない。
次の階!
三階。スカシバレッドは窓を蹴破ろうとして――野獣の勘。ソードをクロスさせる。それでも爆発に巻きこまれる。道の反対側まで飛ばされる。
これは圧縮された高位エナジー爆弾。土砂降りの中、傘を差した人々が煙を上げるマンションの一室を見ている。
人々を巻きこむつもりか!
銃弾よりはるかにダメージを浴びたスカシバレッドに、さらなる怒りが噴きあがる。屋内へと斬撃を浴びせながら屋内に戻る。誰もいない。――次は二階。もう外から回りこめられない。
スカシバレッドは廊下へとでる。同時に転がりながらスカシバフラッシュ! さらに斬撃!
敵はいなかった。
***
非常階段を飛んでショートカットする。扉に斬撃。案の定爆発。階段が崩れ落ちる。矢を射ちながら屋内へと突入。時間をかけ過ぎだ。
引きずられた血の跡がエレベーターへと続いていた。
気配!
非常ドアから何か投げ込まれた。手りゅう弾? 目の前が白くなった。ジャンボジェットが墜落したような轟音。
肉体的ダメージはないけど、なにも見えない。聞こえない。正規の転生じゃないからゴーグルが現れない。夢月め……。
痛てて、痛い、痛。
自動小銃の銃弾を四方から浴びまくっているかも。さすがに膝ついて頭を抱えてしまう。
目が回復しないとどうにもならない――。足もとに何かあるよな?
爆発!
体が天井にぶち当たり、バウンドして床に叩きつけられる。
スカシバレッドはすぐに立ちあがる。スカシバフラッシュ! アンド、四方に斬撃と矢をぶち込みまくる。
視力が戻りだす。壁に背をつけて見回す。戦闘員が二体消えていった。この子の体を傷だらけにしやがって……何よりもシルクイエロー。
エレベーターが上がってきた。今いる三階を通り越して進む。
俺はまた非常口に進む。豪雨がこの子の血を洗い流す。出血は止まっている。さすが俺。スカシバレッド感謝しろよ。
二階フロアをスルーして一階へと。ドアに斬撃を食らわして突入する。とフェイントして三秒後に再突入。誰もいないではないか。エントランスは静かなままだし。エレベーターに引きずられた血の跡はない。地下階もないし。ならばあれはダミーか? シルクはどこだ。
エレベーターが降りてくる。俺はスピネルソードを両手にかまえる。至近の雷が聞こえた。耳も回復した。ドアが開く。
北風が吹いた。
***
「ここにいた戦闘員を四体倒して、紅月が突入した部屋に戻った」
びしょ濡れの黒巫女姿の深雪が言う。濡れた髪。貼りついた衣服。
「この建物の下半分に結界を張った。お蘭と紅月はまだセミを追っている。私だけ自己判断でここにきた」
濡れたままで白装束と化し。
「やっぱりまたまたひどい傷ですね。私がフォローしますよ」
スカシバレッドへと微笑む。
「必要ない。シルクイエローを探す。……レイヴンレッドは仲間を逃がすために雪月花をおびき寄せた。あの二人も呼びもどせ」
彼女を押しのけエレベーターに乗りこむ。
「奴ら近衛エリートでしたね。けっこう厄介ですが、残りは何体ぐらいでしょうか?」
馬鹿丁寧な口調にイラつく。口にはださない。
「深雪が四つ倒したのなら……、六体」
「ならば、あなたと私で充分です」
深雪が不敵に笑う。彼女は両手を握りしめて体に力を込める。黒色の光に包まれて、黒装束をまとった巫女が再び現れる。
露出部分は多いが、夢月のお祭りバージョンほどではない。向こうに持っていかれたな。しかも胸は柚香に戻っている。いやむしろ、それがいい。
などとじろじろ見ている場合ではないだろ!
「二階を探すので、私が囮になる。深雪は外から突入して。
スカシバレッドである俺は言うけど。
「オネエ言葉がイラつくけど、私が先に行く。凍らしとくから、ゆっくりおいで」
その両手に神楽鈴と祓いの御幣が現れる。
なるほど。深雪はかわいいだけでなく最強のサポーターかも。
***
「私の魔法はエナジーの消費が激しい。だから、こいつ以外は消しといた。黄デブ――シルクイエローはいなかった」
深雪が口もとをぬぐう。ひからびた戦闘員が三体転がっていた。彼女が何をしたのかは聞かない。女エリートだけがドアへと銃を構えたまま固まっている。そいつの自動小銃を取り上げてポケットをあさってから、後ろ手に手錠をかける。
深雪が部屋の時間を動かす。同時に女エリートの顔面に蹴りをいれる。干物と化した戦闘員たちは砂のように崩れて消えていく。
「シルクイエローはどこだ?」
スカシバレッドが、呆然としている女エリートの顎を持ち尋ねる。背後で深雪が神楽鈴を一度鳴らす。
「そ、外の駐車場……。窓から二名が連行したけど、結界に閉ざされていると連絡が来た。……命だけは許しておくれ。もう殺されたくない」
拘束された女エリートがわめく。
黒い深雪が立ちあがり俺を見る。
「私が先行する。あなたはこいつを連行して」
押収した手りゅう弾を手から消して、彼女は去っていく。……すぐにシルクも回復してもらえるし、深雪に任せた方がいいかも。でも敵を捕虜にするのは煩わしい。なのでスピネルソードを女エリートに向ける。
「コールドレッドよ。あんたが現れるなんて……」
絶望と怯え。そして訴える。
「助けておくれ。私はもとのサイキックだよ。二度も殺さないでくれ」
190センチほどもある均整のとれた体の女近衛エリートが、顔のマスクを濡らしていた。