第23話
文字数 1,111文字
*
高円寺に戻ってきて、ようやく息が出来るようになった。
三奈が駅のトイレに行ったので、河辺さんに「後で行きます」と、先に帰ってもらった。
「あれは一種のプレイだと思いますよ」
高橋が残ったのは、これを話すためだなと思った。河辺さんは下ネタを嫌うのだ。
「そうだよな、ぼくも思ってた」
「もの凄い変態プレイです」
高橋が富田の物マネをしたけど笑えなかった。
三奈がトイレから出て来たので高橋も先に行った。
ぼくは三奈に部屋に寄ってから河辺さんのところへ行こうと言った。
アパートへの狭い通路に入って、窓から不動産会社を覗いた。中井さんの姿はなかった。「健全にね。健全に」の言葉を聞かないですんだ。
ぼくは部屋に入ると両手を三奈の肩に置いた。
「好きなんだ」
三奈を抱きしめると、ぼくの心臓が、どきどきしてあばら骨を押し上げる。
「わたしも……」
三奈の背中に手を回した。その手に激しい振動が伝わる。
ぼくと三奈の鼓動が、まるで競争でもしているようだった。
顔を近づけて唇を重ねる。柔らかい、濡れた感触が直接、ぼくの心臓に伝わる。
がちりと、前歯が当たって三奈が唇を離した。
「痛っ」
熱っぽい息が、ぼくの顔にかかった。
「大丈夫?」
三奈の顔を覗き込む。
「少しだけ、痛い」
もう一度、三奈を腕の中に収めた。
「しばらくこうしていようか」
ぼくの胸に顔を押し当てて、三奈はうなずいた。
*
富田はあの日のことをぼくたちに、釈明や謝罪をすることもなく平然とした態度で接してきた。
今まで通りの関係が続いた。
三奈とぼくは付き合い始めてから、小さな喧嘩を繰り返しては、お互いの心に近づいていった。
ぼくの部屋を出る時に、軽くキスをするくらいの関係になっていた。
その日は、キスだけで終わらせたくなかった。
キスをしてから抱き締めた。
そして、右手でブラウスのボタンを外して襟を開き、ゆっくりと手をブラジャーの中に差し込んだ。
「駄目だよ」
三奈の手がぼくの手首を押さえた。
「好きなんだ」
ぼくは、三奈の腰に回していた左手に力を入れて引き寄せた。
「駄目だってば」
三奈は、ぼくを押しのけて部屋の隅に逃げた。
しばらくにらみ合いが続いた。
荒い息遣いが部屋を埋めた。先に目を逸らしたぼくは、三奈に背を向けて座りこんだ。
どれだけ経ったのだろう。
ドアを開ける音がしなかったので、三奈がまだ部屋の中にいるのは判っていた。
後ろに座りこんだ気配を感じたぼくは、身体を固くした。
三奈はぼくの背後でしばらく動かなかった。
ふいにぼくの背中に、頭を押し付けた。三奈の小さなためいきのような声が聴こえた。
ぼくの肩を力なく叩いた。右、左と交互に弱々しく叩き続けた。
高円寺に戻ってきて、ようやく息が出来るようになった。
三奈が駅のトイレに行ったので、河辺さんに「後で行きます」と、先に帰ってもらった。
「あれは一種のプレイだと思いますよ」
高橋が残ったのは、これを話すためだなと思った。河辺さんは下ネタを嫌うのだ。
「そうだよな、ぼくも思ってた」
「もの凄い変態プレイです」
高橋が富田の物マネをしたけど笑えなかった。
三奈がトイレから出て来たので高橋も先に行った。
ぼくは三奈に部屋に寄ってから河辺さんのところへ行こうと言った。
アパートへの狭い通路に入って、窓から不動産会社を覗いた。中井さんの姿はなかった。「健全にね。健全に」の言葉を聞かないですんだ。
ぼくは部屋に入ると両手を三奈の肩に置いた。
「好きなんだ」
三奈を抱きしめると、ぼくの心臓が、どきどきしてあばら骨を押し上げる。
「わたしも……」
三奈の背中に手を回した。その手に激しい振動が伝わる。
ぼくと三奈の鼓動が、まるで競争でもしているようだった。
顔を近づけて唇を重ねる。柔らかい、濡れた感触が直接、ぼくの心臓に伝わる。
がちりと、前歯が当たって三奈が唇を離した。
「痛っ」
熱っぽい息が、ぼくの顔にかかった。
「大丈夫?」
三奈の顔を覗き込む。
「少しだけ、痛い」
もう一度、三奈を腕の中に収めた。
「しばらくこうしていようか」
ぼくの胸に顔を押し当てて、三奈はうなずいた。
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富田はあの日のことをぼくたちに、釈明や謝罪をすることもなく平然とした態度で接してきた。
今まで通りの関係が続いた。
三奈とぼくは付き合い始めてから、小さな喧嘩を繰り返しては、お互いの心に近づいていった。
ぼくの部屋を出る時に、軽くキスをするくらいの関係になっていた。
その日は、キスだけで終わらせたくなかった。
キスをしてから抱き締めた。
そして、右手でブラウスのボタンを外して襟を開き、ゆっくりと手をブラジャーの中に差し込んだ。
「駄目だよ」
三奈の手がぼくの手首を押さえた。
「好きなんだ」
ぼくは、三奈の腰に回していた左手に力を入れて引き寄せた。
「駄目だってば」
三奈は、ぼくを押しのけて部屋の隅に逃げた。
しばらくにらみ合いが続いた。
荒い息遣いが部屋を埋めた。先に目を逸らしたぼくは、三奈に背を向けて座りこんだ。
どれだけ経ったのだろう。
ドアを開ける音がしなかったので、三奈がまだ部屋の中にいるのは判っていた。
後ろに座りこんだ気配を感じたぼくは、身体を固くした。
三奈はぼくの背後でしばらく動かなかった。
ふいにぼくの背中に、頭を押し付けた。三奈の小さなためいきのような声が聴こえた。
ぼくの肩を力なく叩いた。右、左と交互に弱々しく叩き続けた。