第38話 これは これは これは 23 『あぁ青春』と『横みち友の会』

文字数 1,813文字


 その後、ぼくは高校を卒業する前に、永島慎二に手紙を出して、アシスタントにして欲しいと直訴したんだ。





 もちろん、断られたんだけどね。

 その時に、丁寧な返信があったんだよ。アシフタントの代筆だけどさ。
 ぼくは、その手紙を書いたのは、村岡 栄一だとずっと思っていたんだ。
 でも、これを書くために調べたところ、ぼくが手紙を出した時には、すでに独立していたことがわかったんだ。
 ちょっとショックだな。ずうっと、親しみを感じていて、作品も買い続けていたからさ。
 どうして、村岡 栄一だと思ったかというと、永島慎二の作品によく登場していたからなんだ。
 思い込みってあるんだよな。





『村岡 栄一(むらおか・ えいいち)』
 1949年生まれ。福島県出身。
 小学校3年生の時に貸本劇画誌「街」の新人賞に応募し始め4年生の時に佳作に入る。中学に入り「奇人クラブ」という同人誌を創刊、当時の仲間に岡田史子や和田あきのぶ等がいた。16歳の時に上京し、17歳の秋に、以前からファンレターを出してコンタクトを取っていた永島慎二の元へアシスタントとして入る(当時のアシスタント仲間に向後つぐおや三橋乙揶らがいた)。約1年4ヶ月アシスタントをしたのち独立、18歳の時「風船」(「COM」1968年5月号付録「ぐら・こん」Vol.1掲載)でデビューした。

 そして、1974年に上京するんだけど、これはプロになっていた同人誌仲間に、アシスタントをやってくれないかと誘われたからなんだ。
 彼は上村一夫のアシスタントをしていて、独立したばかりだったんだけど、隔週連載が決まったから、ぼくに声をかけたということだった。
 しばらくは一緒にアパートで暮らしていいし、食事も付けて生活できる金額を支払うという好条件。
 
 沖縄が返還された1972年から、ずうっと本島や離島を放浪していて、この年の9月に戻って来たばかりで、これからどうしようかなと迷っていたので、迷わず東京へいったんだ。
 全財産が5万円。

 回り道をしたけど、これからは漫画家を目指して一直線だ~。


 


 明治の文豪、徳冨蘆花が寄贈して造園されたという武蔵野の面影が色濃く残る蘆花公園の近くにあるアパートが、東京暮らしの始まりだった。



          *徳冨蘆花旧宅


 初めは、お互いに気を遣っていたんだけど、二間のアパートで終日顔を突き合わせていると、つまらないことで諍いが始まるのは自然の流れだよな。

 3週間も持たずにケンカ別れ。
 ぼくは大阪に戻る気がないので、すぐに不動産屋に飛び込んで、一番安い部屋を紹介してほしいと頼み込んだんだ。
 その時の所持金は4万円。喧嘩別れをしたことも、今夜の泊まるところがないことも全部ぶちまけた。
「ちょうど、いい物件がありますよ」
 なんと、月3千円の部屋が空いているとのこと、「捨てる神あれば拾う神あり」って本当にあるんだな。
 どんな神かは知らないけど、感謝したよ。
 
 案内されたのは、蘆花公園の近くの広い一軒家。老婆の独り住まいだという。
 その裏庭に、子どもの勉強部屋として建てた六畳の部屋を、ベニヤ板で半分に仕切ってある三畳だった。
 条件は午後7時を過ぎると物音を立てないこと。ラジオも禁止。
 理由は隣の三畳に明治大学の学生がすんでいて、勉強の妨げにならないようにするためだということだった。
 水道がないので、毎朝おばあさんが水をいれたバケツを運んでくれて、柄杓を使ってその水で顔を洗ったり、飲んだりした。なんだか、つげ義春が描く漫画の世界で暮らしていた感じだったな。





 そのおばあさんが前日の新聞を持って来てくれるので、すでに活字中毒者になっていたぼくは、隅から隅まで新聞を読んでいたんだ。

 ある日、小さな求人欄に、「漫画のアシスタント求む!」を見つけて、ダメ元で電話をすると、「面接をしますからきてください」とのこと。

 西武池袋線の練馬駅の近くにあるマンションの一室が、漫画原作者の牛次郎が主宰する『マリネエンタープライズ』という名前のプロダクションだった。
 ここでもぼくは、「拾う神あり」に助けられたんだ。
 どんな神かは知らないけど、感謝したよ。

 そこには、3人のプロ作家と2人のアシスタントがいたんだけど、全員が横山プロダクション出身だったんだよ。





 つまり、『横みち友の会』の人たちだということなんだ。
 人生って、不思議だよな。


 これは これは これは 24 に続く。



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