第34話
文字数 1,166文字
*
独りで過ごす時間が長くなった。
部屋でぼくは、三奈が作成してくれた筆者カードを分類していた。
棄てることはできないし、ぼくが作成したカードと混ぜることも出来ない。
カードの定規で引いたような文字を見ると、三奈の記憶がよみがえる。
三奈の仕草を一つひとつ思い出してしまう。
そして、三奈が戸口に立っている姿を、何度も何度も想像した。
足音が聴こえたので、手を止めて耳を澄ます。
ドアがノックされたので、カードを戻してからドアを開けた。
美沙子さんが立っていた。
「きみに頼みがあるから一緒にきて」
部屋に入ってこないで戸口に立って言った。
「どこに行くんですか?」
ぼくが躊躇していると、美沙子さんは「近くの喫茶店」と言い捨てて背を向けた。
今日はこの前と同じ、お尻が露出しているジーパンをはいていた。
喫茶店に入って座ると、美沙子さんが話しを切り出した。
「ラタイ館から、富田を連れ出してほしいの」
美沙子さんは富田が三鷹の家に戻らなくなったので、ラタイ館に探しに行ったけど、中に入れてもらえなかったと言った。
「監禁されているのかも」
冗談っぽくいっているけど、目に真剣さが宿っている。
「それはないと思います。愛人の一人だった富田が消えたぐらい何とも思わないんじゃないですか」
「わたしから離れて行った理由を知りたいんだよね」
男を棄てるのは慣れているけど、棄てられることには我慢が出来ないってことだなと思った。
阿佐ヶ谷にあるラゾク館まで二人で歩いて行った。
淡いブルーのペンキを塗った二階建ての一軒家で、やや荒れた感じがする。
美沙子さんは、通りの反対側の階段に座って待っていると言った。
ぼくは呼び鈴を一度鳴らし、二度鳴らした。
さらにもう一度鳴らすと、ようやく作務衣を着た剃髪の女性が出てきた。
富田を探しているので中に入れて欲しいと頼んだら、中に入るには全裸になるようにと言われた。
「全裸ですか……」
美沙子さんは、ここで諦めたのだろう。
いつも露出した服装をしているのに、全裸にはなれなかったようだ。
「室内履きのスリッパで外を歩いているのに、普通な感じなんだ」
ぼくの足元を見て、作務衣姿の女性が言った。
富田を探すと決めた以上は、やりとげたかった。
「脱ぎます」
そう言うと、中に招き入れられた。
上り口の壁に木製のロッカーが並んでいて、正面はアコーデェオンカ―テンで閉じられている。
「ここで脱いだら中に入ってくればいい」
作務衣姿の女性が、アコーデェオンカ―テンの向こうに消えると話し声が聞こえた。
そして、数人が同時に笑った。
ぼくはTシャツとジーパンを脱ぎ、「うぉっ」と小さく声を出してパンツを下ろした。
笑いの余韻が消えるのを待ちながら、気持ちを落ち着かせる。
「入ります」
声をかけて、アコーディオンカ―テンを開いた。
独りで過ごす時間が長くなった。
部屋でぼくは、三奈が作成してくれた筆者カードを分類していた。
棄てることはできないし、ぼくが作成したカードと混ぜることも出来ない。
カードの定規で引いたような文字を見ると、三奈の記憶がよみがえる。
三奈の仕草を一つひとつ思い出してしまう。
そして、三奈が戸口に立っている姿を、何度も何度も想像した。
足音が聴こえたので、手を止めて耳を澄ます。
ドアがノックされたので、カードを戻してからドアを開けた。
美沙子さんが立っていた。
「きみに頼みがあるから一緒にきて」
部屋に入ってこないで戸口に立って言った。
「どこに行くんですか?」
ぼくが躊躇していると、美沙子さんは「近くの喫茶店」と言い捨てて背を向けた。
今日はこの前と同じ、お尻が露出しているジーパンをはいていた。
喫茶店に入って座ると、美沙子さんが話しを切り出した。
「ラタイ館から、富田を連れ出してほしいの」
美沙子さんは富田が三鷹の家に戻らなくなったので、ラタイ館に探しに行ったけど、中に入れてもらえなかったと言った。
「監禁されているのかも」
冗談っぽくいっているけど、目に真剣さが宿っている。
「それはないと思います。愛人の一人だった富田が消えたぐらい何とも思わないんじゃないですか」
「わたしから離れて行った理由を知りたいんだよね」
男を棄てるのは慣れているけど、棄てられることには我慢が出来ないってことだなと思った。
阿佐ヶ谷にあるラゾク館まで二人で歩いて行った。
淡いブルーのペンキを塗った二階建ての一軒家で、やや荒れた感じがする。
美沙子さんは、通りの反対側の階段に座って待っていると言った。
ぼくは呼び鈴を一度鳴らし、二度鳴らした。
さらにもう一度鳴らすと、ようやく作務衣を着た剃髪の女性が出てきた。
富田を探しているので中に入れて欲しいと頼んだら、中に入るには全裸になるようにと言われた。
「全裸ですか……」
美沙子さんは、ここで諦めたのだろう。
いつも露出した服装をしているのに、全裸にはなれなかったようだ。
「室内履きのスリッパで外を歩いているのに、普通な感じなんだ」
ぼくの足元を見て、作務衣姿の女性が言った。
富田を探すと決めた以上は、やりとげたかった。
「脱ぎます」
そう言うと、中に招き入れられた。
上り口の壁に木製のロッカーが並んでいて、正面はアコーデェオンカ―テンで閉じられている。
「ここで脱いだら中に入ってくればいい」
作務衣姿の女性が、アコーデェオンカ―テンの向こうに消えると話し声が聞こえた。
そして、数人が同時に笑った。
ぼくはTシャツとジーパンを脱ぎ、「うぉっ」と小さく声を出してパンツを下ろした。
笑いの余韻が消えるのを待ちながら、気持ちを落ち着かせる。
「入ります」
声をかけて、アコーディオンカ―テンを開いた。