第44話 これは これは これは 29 『マリネエンプラ』牛 次郎

文字数 1,273文字


 牛次郎さんの2階に住んでいたんだけど、親しく話しをしたことはなかったんだ。
 外階段を上がるとアパートみたいに独立した5部屋の一番右側の部屋だった。
 おそらくプロダクションのスタッフ寮にするつもりだったと思うけど、2階に住んでいるのはぼくだけだったな。



          *牛次郎原作・ビッグ錠『包丁人味平』1巻 電子書籍版 


 奥さんとは、顔を合わすたびに立ち話をしていたんだけどね。
 牛次郎さんの家の前に雑木林があって、その向こうに高層マンションが立ち並んでいて、いつも誰かに見られているようで落ち着かないとこぼしていたことを覚えている。
 男の子がひとりいて、病弱だともいっていた。
 ぼくは、けっこう子どもが好きなんだけど、相手をした覚えがないのは、あまり外に出していなかったからなんだろうな。



          *牛次郎原作・ビッグ錠『スーパーくいしん坊』


 ぼくが牛次郎さんと初めて会ったのは、『マリネエンプラ』に入ってから、1週間が経ったころなんだ。
 締切り間際の徹夜が続いていたので、眠気を覚まそうと台所でコーヒーを飲んでいると、玄関で物音がした。
 不審な音に気が付いたのはぼくだけだったみたいなので、確かめようと廊下に出ると、ヒゲ面の男が入ってきたんだよ。
「誰ですか?」
 部屋の中でぺンを走らせているみんなにも聞こえるように、大声で訊いたんだ。
 その男はぼくを睨みつけるだけで、何もいわない。



          *牛次郎原作・横山まさみち『やる気まんまん』


 渡山さんが廊下に顔を出して、「先生だよ」と教えてくれた。
 それで、牛次郎さんだとわかったんだけど、睨み合いが出逢の始まりだから、どちらも印象は悪いよな。
 牛次郎さんにとっては、おれを知らないでプロダクションに入ってきた生意気なヤツだし、ぼくとしては、新しいスタッフが入ったことは知っているはずだから、目で威圧するよりも「牛次郎だ」ぐらいいえよって感じなんだ。

 ぼくの面接は、左近士さんとたがわさん。事務手続きはマネージャの井上さんだったもんな。
 でも、これを書いていて気づいたんだけど、ぼくが牛次郎さんだと気づけばよかったんだよな。もう、遅いけど。

 原作者用の事務所もあって、いつもは3人のスタッフと一緒に、そこで仕事をしているとのことだった。



          *牛次郎原作・神矢みのる『プラレス3四郎』電子書籍版 


「歯をずっと磨いていない」
「編集長はおれを、花火職人だと思っているみたいだ。紙面が寂しいと、あいつに一発、花火を打ち上げさせろと呼ばれる」
「将棋雑誌の連載に、ペコ周りの勝負を書いた」
 あまり、覚えているエピソードがないんだよな。



          *牛次郎と川本コオ 


 そうそう、牛次郎さんと一緒に練馬駅近くの喫茶店でダベっていたとき、女優の松原智恵子を見かけたんだ。
 意外と小柄だなと思ったんだ。映画館のスクリーンで観ていたからなんだろうな。





 東京で初めて見た芸能人だったんだ。 
 これ、牛次郎さんとは関係ないよな。


 これは これは これは 30 に続く。

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