第17話 咲雪のいるところ。 4
文字数 1,033文字
*
部屋に入ると咲雪さんは、すぐに赤いリュックからドーナツのパッケージ袋を取り出した。
「ちょっとした、お祝いよ。見栄を張って、四個も買っちゃった」
テーブルの上に袋ごと置くと、カーテンの中に入った。
「本居先生から、原作のプロットを褒められたのよ」
「それはよかったですね」
なるべくカーテンの方を見ないようにする。
「人がさ、五重塔のてっぺんに串刺しされて殺されちゃうのよ」
「凄い殺し方ですね」
咲雪さんらしいとは言わなかった。
「お子ちゃまジュースがあるから、ビールと一緒に出してよ」
冷蔵庫の片隅に、オレンジジュースとソーダーが入っていた。
「残ると食べちゃうから、二つ食べていいよ」
着替えた咲雪さんが窓を開けると子猫が入って来た。
映画のシャイニングが草津さんを怖がらせるきっかけだったことを話した。
咲雪さんはその映画を『テアトル東京』で観たと言ってから、映画情報誌を広げた。
「テアトル東京のオールナイト興行に行こうと思っているの」
雑誌によると、十月三十一日のオールナイト興行で、二十六年続いた映画館が閉館になるようだ。
「テアトル東京は、父に初めて連れて行ってもらったの『2001年宇宙の旅』。九歳の時だったわ。劇場前の広場に大きな黒い『モノリス』の模型が宇宙服の人形と一緒に展示されていたのよ」
「『モノリス』って、あの黒い石板のような謎の物体のことですか?」
「そうよ。ヒトザルたちの前に現れた『モノリス』の影響を受けて、動物の骨を武器として使うことを覚えたシーンは忘れられないわ」
「九歳じゃ無理ですよね。あの映画は」
「その後も上映する映画館を探して何回も観たわ。でも、父がその年の暮れに交通事故で亡くなったから印象が強いのよ」
「ぼくも行きたいな。映画館が消える場に立会いたい」
「行くなら、今夜のことは許してあげる」
次の日、ぼくは同じ場所から二階を見上げている。
昨日と違って咲雪さんの部屋の灯りはついていた。夜中の十二時を過ぎているので迷う。でも、昨日忘れたシーツを受け取るという理由があると自分に言い聞かせる。
ぼくは咲雪さんの部屋のドアをノックした。
ドアを開けた咲雪さんは、しばらく考えている。ぼくはすぐに追い返されるか、迎え入れられるかのどちらかだと思っていたので、戸口に中途半端に立っていた。
「シーツを取りに来ただけですから」
言い訳をするように、部屋の片隅に丸まっているシーツを指した。
その上に子猫も丸まっていた。
「入って」
咲雪さんは身体をずらした。
部屋に入ると咲雪さんは、すぐに赤いリュックからドーナツのパッケージ袋を取り出した。
「ちょっとした、お祝いよ。見栄を張って、四個も買っちゃった」
テーブルの上に袋ごと置くと、カーテンの中に入った。
「本居先生から、原作のプロットを褒められたのよ」
「それはよかったですね」
なるべくカーテンの方を見ないようにする。
「人がさ、五重塔のてっぺんに串刺しされて殺されちゃうのよ」
「凄い殺し方ですね」
咲雪さんらしいとは言わなかった。
「お子ちゃまジュースがあるから、ビールと一緒に出してよ」
冷蔵庫の片隅に、オレンジジュースとソーダーが入っていた。
「残ると食べちゃうから、二つ食べていいよ」
着替えた咲雪さんが窓を開けると子猫が入って来た。
映画のシャイニングが草津さんを怖がらせるきっかけだったことを話した。
咲雪さんはその映画を『テアトル東京』で観たと言ってから、映画情報誌を広げた。
「テアトル東京のオールナイト興行に行こうと思っているの」
雑誌によると、十月三十一日のオールナイト興行で、二十六年続いた映画館が閉館になるようだ。
「テアトル東京は、父に初めて連れて行ってもらったの『2001年宇宙の旅』。九歳の時だったわ。劇場前の広場に大きな黒い『モノリス』の模型が宇宙服の人形と一緒に展示されていたのよ」
「『モノリス』って、あの黒い石板のような謎の物体のことですか?」
「そうよ。ヒトザルたちの前に現れた『モノリス』の影響を受けて、動物の骨を武器として使うことを覚えたシーンは忘れられないわ」
「九歳じゃ無理ですよね。あの映画は」
「その後も上映する映画館を探して何回も観たわ。でも、父がその年の暮れに交通事故で亡くなったから印象が強いのよ」
「ぼくも行きたいな。映画館が消える場に立会いたい」
「行くなら、今夜のことは許してあげる」
次の日、ぼくは同じ場所から二階を見上げている。
昨日と違って咲雪さんの部屋の灯りはついていた。夜中の十二時を過ぎているので迷う。でも、昨日忘れたシーツを受け取るという理由があると自分に言い聞かせる。
ぼくは咲雪さんの部屋のドアをノックした。
ドアを開けた咲雪さんは、しばらく考えている。ぼくはすぐに追い返されるか、迎え入れられるかのどちらかだと思っていたので、戸口に中途半端に立っていた。
「シーツを取りに来ただけですから」
言い訳をするように、部屋の片隅に丸まっているシーツを指した。
その上に子猫も丸まっていた。
「入って」
咲雪さんは身体をずらした。