03 浦山 稔  『漫画主義』と鵜飼雅則さん。 2

文字数 2,023文字

『漫画主義』と鵜飼雅則さん。 2  浦山 稔
                       2023年11月15日(水)

 鵜飼さんと隣同士に座ったぼくは、初対面の気まずさを埋める為に話しかけました。
「去年は細見さんのギターだけだったので、フォーク調の楽曲と金時鐘さんの詩に違和感があったんですが、今回はドラムが加わり力強くリズムを刻むので、迫力を感じました」から始まって、好きなフォークソングの話になって、「ぼくは三上寛とか友川かずき、あがた森魚をよく聴いていましたが、大阪のザ・ディラン・セカンドというグループが大好きなんですよ」とマイナーな歌手の名前をあげたんです。





 すると、鵜飼さんはザ・ディラン・セカンドは知っていると言ったんですよ。そしてメンバーの大塚まさじさんに会ったことがあるとも言った。





 しかも、ザ・ディラン・セカンドが歌う『プカプカ』を作詞作曲した西岡恭蔵さんとも会っていると付け加えたんです。





 この人は只者ではないと認識したぼくは、京都駅に着いても、なんだか別れがたい思いがして、「喫茶店にでも寄って、少し話しませんか」と誘うと、「わたしも、そう思っていたんですよ」と、なんだか相思相愛ムード。

 ぼくをサポートしてくれた文学友だちに、鵜飼さんと喫茶店へ行くことを告げて、別れる前に「京都駅で切符を買って欲しい」と頼んだんです。
「それは、帰る時に私が買いますよ」
 鵜飼さんが言ってくれたので。文学友だちとはそこで別れました。
 そして、鵜飼さんと喫茶店へ行き、今は死語になっているダベリングを始めたのです。

 ぼくと鵜飼さんは、好きな音楽、古本、文学、映画、漫画とことごとく似ていて、お互い驚きを隠せなかった。

 井上光晴の名前が出たときは、原一男監督の『全身小説家』をさっきまで一緒だった文学友だちに貸したのだと言って、偶然の重なりに少し驚きました。






 その上、伊藤ルイさん、松下竜一さんと、昨日別の文学友だちとのメールに書いた名前が鵜飼さんの口から出てきて、今度は驚きを通り過ぎて呆れてしまったんです。

 漫画家では『安部慎一』
 




 代表作が映画化された『美代子阿佐ヶ谷気分』は、まさに今日、女性リーダーに3枚のDVDを貸した中に含まれていたのです。





 コレクションしているモノの自慢話になって、大量の古本、ビデオ、DVD、CD、作家の色紙サインや手書き原稿まで集めているとのことでした。

 それに、絵画も40~50枚ぐらい持っていて、京都の「ギャラリーヒルゲート」で企画展をした時に、女性オーナーから貸して欲しいと頼まれたといったんですよ。

『ギャラリーヒルゲート』といえば
 去年の5月31日(火)~6月5日(日)まで、●●さんが金時鐘さんをテーマにして描いた日本画の個展をやった画廊じゃないですか!

 こんなに偶然が重なることは、初めてのことでした。

 鵜飼さんは、ぼくなんかが、太刀打ちできないぐらいのコレクターだとわかりました。
 このままでは引き下がれないと思って、ぼくは鵜飼さんが知らないようなことをいろいろと考えて、なんとか『漫画主義』のことを思い出したので、切り札として口にしたんだけれど、あっさりと「持っている」といわれてしまったんですよ(笑)。

 話は途切れることなく趣味から興味を抱いているものへと取り留めなく、たっぷり4時間も続きました。
 どれも自分たちの過去に経験した話題で、鵜飼さんは何に関しても強固な意見を持っていて、それを訥々とした調子で口にするものだから、聴き入ってしまいました。

 有能な営業マンのように聞こえるときもあれば、爆弾を投げるアナーキストかと思える思想を表明したりもする。
 この人は僕を挑発しているのか、それともこれがこの人の普段のやり方で、初対面の相手とはいつもこうやって楽しむのかなと感じました。

 とにかくぼくとまったく同質の人であり、感情の動き方もおよその想像がつくから、長く話せば話すほど、だんだん現実味が抜けていきました。
 まるでぼくの頭のなかで進行する物語内の架空の人物みたいでしたよ。

 鵜飼さんにメールを送ると、すぐに返信があった。
 それは、予想していた内容をはるかに超えるものだった。

≪驚きました。私のハンドルネームは「鵜」なので「トリ」、一時期メールアドレスに「トリ▲▲」を使っていたからです。≫

≪ハンドルネームも同じとは驚きですね。
 鵜飼さんのハンドルネームは、「鵜」なので「トリ」は納得できますね。

 ぼくの「トリ」は、大江健三郎の長編『個人的な体験』の主人公、27歳の青年、鳥(バード)が由来です。
 大江健三郎が好きだったぼくを、友だちが「トリ」とあだ名を付けたのです。





 その頃の友だちには、いまでも「トリさん」と呼ばれています(笑)。≫

 もう一人の自分のことを『アルター・エゴ』というようなんだけど、この出逢いは終活をしているぼくへの『ギフト』かもしれないな。

 終わり。
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