第20話

文字数 1,074文字


 富田に、美沙子さんの家へ行こうと誘われた。
 ぼくは美沙子さんのことをよく知らない。
 年齢不詳だけど、ラテン系の華やかさを持っている大柄の美人だ。

 富田は美沙子さんの愛人の一人で、いつも彼女が同棲している男から奪い取りたいと言っていた。
 ぼくには同棲中の男も愛人だと思うけど、富田には独自の序列があるみたいだった。
「美沙子さんは、男と同棲しているんだろ。そんなところへ富田が姿を見せてもいいのか?」
「今は俺が同棲相手です」
 胸を反らせている富田を見て、みんなに自慢をしたいのだとわかった。
「ラタイ館は引き払ったのか?」
「まだキープしてます」
「じゃぁ、河辺さんにも声をかけるから、今度の日曜日ってことでいいかな」
「了解です。美沙子に言っておきます」
 呼び捨てをした富田の顔を見た。
 わざと言った様子はなかった。
 この分だと、美沙子さんに対しても名前で呼んでいるようだ。

 ぼくはまだ三奈を「きみ」と呼んでいる。「三奈」と呼ぶタイミングはいつなのだろう。
「俺は、美沙子から色々教えてもらってますから、浦山さんよりもセックスに関しては詳しいです」
 富田の自信に満ちた顔はしゃくにさわるけど、認めざるを得なかった。
 ぼくの女性経験はまだ一人だった。
「この部屋では、セックス出来る可能性はゼロです。浦山さんはホテルに誘えるタイプじゃないし」
「そうなんだよな」
「三奈ちゃんの部屋しかないですね」
「想像力を全開にして考えても、部屋にたどりつけない」
「ダイレクトに、きみの部屋へ行きたい。って言えばいいんですよ」
「それは抱きたい。セックスしたいと言うのと同じだろ」
「だって、セックスしたいんですよね。俺は言いますよ」
「そうだけど、ぼくには無理だ」
「じゃあ、きみの手料理をたべさせて欲しいと押しかけるのは?」
「言えるかな……、無理っぽいな」
「一泊二食、セックス付きですよ」
 富田は唇を舐めると、ケケケッと笑った。

 ぼくたちは何かにつけて集まって騒いだ。
 花見や誕生会はもちろんのこと、手作りカレーパーティ、闇鍋パーティ。アルバイトを辞めたり、クビになったときは、お疲れさまパーティをした。

 日曜日も河辺さんと高橋、そして乗り気じゃなかった三奈と四人で三鷹へ行った。
 富田が書いた略図は、目印になる店や曲がる道が的確に示してあった。
 目的の場所に近い曲がり角から、富田が姿を現してぼくたちを出迎えた。
「迷ってないかと思って迎えにきました」
 そう言った富田の三白眼が、じろっと三奈を見た。
 三奈が隠れるようにぼくの後ろへさがった。
 無理に連れてきたことを少し悔やんだ。



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