第8話 ぼくのいるところ。 8
文字数 1,233文字
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野球の試合の日になった。
草津さんが運転するワゴン車で、河川敷のグランドへ運ばれた。公式戦でもないのに専門の審判員を頼んでいる。
ジョーズチームの監督兼ピッチャーの本居先生が、原作アシスタントの二人を外車に乗せて来たので十名揃った。
対戦相手のガテラチームのメンバーは、青年誌で描いている漫画家の友人同士だそうだ。
まだ五名しか集まっていない。しばらくキャッチボールを続ける。ぼくは中学まで野球少年だったけど、高校の時に漫画を描き始めてからはボールを触っていない。ガテラチームが八人になったところで、長い毛を後ろで束ねている監督らしい男と本居先生が相談を始めた。
真っ赤なスポーツカーが近くの堤防に停って向こう側に誰かが降りた。
遅れた相手チームのメンバーが乗り付けたのかと思って見ていた。スポーツカーが飛ぶように動くと、麦わら帽子を被った咲雪さんの姿があった。
ぼおっと見つめていると肩を叩かれた。
「ガテラの一人が来るまで、あっちに入ってろ」
本居先生に言われて、ぼくは草津さんを見た。困った顔をしている。ぼくが負けた時の罰ゲーム要員だということを本居先生に伝えていないようだ。
「分かりました」
ベンチに座っているよりも、身体を動かしていた方がいい。
ガテラの監督は寺田と名乗った。ぼくは「宇多です」とだけ言った。ポジションは打球があまり飛んでこないライト。
ジョーズチームの攻撃で始まった。一回表の攻撃でいきなり二点が入った。このチームのレフトが穴だ。レフトに飛ぶと必ずヒットになる。センターもレフト寄りに守っている。
三回裏で五対〇。まだメンバーが来ないので、九番目のぼくに打席が回る。一アウトでランナーが二塁にいる。
キャッチャーの黒川さんに「お願いします」と声をかける。
ピッチャーの本居先生に一礼をしてからバッターボックスに入った。
本居先生はクセ球が多い。ゴロを打たせてアウトカウントを稼ぐ頭脳派タイプだ。二球目を引きつけて、スイングスピードをMAXにしてライトに引っ張った。
三塁まで走ると、咲雪さんから「裏切り者!」のブーイングが待っていた。耳を塞いで聞きたくないことをアピールする。
一番バッターのヒットで、ぼくは生還した。
「野球どれぐらいやってるの?」
寺田監督に訊かれたので「中学まで」と答えた。
「どうしてモトさんは、きみをこっちに回したんだろう」
「二日前に入ったばっかりですから、ぼくの名前も覚えてないと思います」
「そっかぁ。きみ、このゲームに負けると、ひとりが丸坊主になることは知ってるかい?」
「はい、草津さんがやっと伸びてきたと言ってました」
「この前は、助っ人に甲子園経験者のピッチャーが来てくれたからね」
「そうだったんですか」
「今日はスケジュールが合わないって断られたよ。今日負けるとオレが坊主になっちゃうんだ。きみもやりにくいと思うけど、ベストを尽くして欲しい」
右手を出してきたので握手をすると、その手をさらに両手で掴まれた。
野球の試合の日になった。
草津さんが運転するワゴン車で、河川敷のグランドへ運ばれた。公式戦でもないのに専門の審判員を頼んでいる。
ジョーズチームの監督兼ピッチャーの本居先生が、原作アシスタントの二人を外車に乗せて来たので十名揃った。
対戦相手のガテラチームのメンバーは、青年誌で描いている漫画家の友人同士だそうだ。
まだ五名しか集まっていない。しばらくキャッチボールを続ける。ぼくは中学まで野球少年だったけど、高校の時に漫画を描き始めてからはボールを触っていない。ガテラチームが八人になったところで、長い毛を後ろで束ねている監督らしい男と本居先生が相談を始めた。
真っ赤なスポーツカーが近くの堤防に停って向こう側に誰かが降りた。
遅れた相手チームのメンバーが乗り付けたのかと思って見ていた。スポーツカーが飛ぶように動くと、麦わら帽子を被った咲雪さんの姿があった。
ぼおっと見つめていると肩を叩かれた。
「ガテラの一人が来るまで、あっちに入ってろ」
本居先生に言われて、ぼくは草津さんを見た。困った顔をしている。ぼくが負けた時の罰ゲーム要員だということを本居先生に伝えていないようだ。
「分かりました」
ベンチに座っているよりも、身体を動かしていた方がいい。
ガテラの監督は寺田と名乗った。ぼくは「宇多です」とだけ言った。ポジションは打球があまり飛んでこないライト。
ジョーズチームの攻撃で始まった。一回表の攻撃でいきなり二点が入った。このチームのレフトが穴だ。レフトに飛ぶと必ずヒットになる。センターもレフト寄りに守っている。
三回裏で五対〇。まだメンバーが来ないので、九番目のぼくに打席が回る。一アウトでランナーが二塁にいる。
キャッチャーの黒川さんに「お願いします」と声をかける。
ピッチャーの本居先生に一礼をしてからバッターボックスに入った。
本居先生はクセ球が多い。ゴロを打たせてアウトカウントを稼ぐ頭脳派タイプだ。二球目を引きつけて、スイングスピードをMAXにしてライトに引っ張った。
三塁まで走ると、咲雪さんから「裏切り者!」のブーイングが待っていた。耳を塞いで聞きたくないことをアピールする。
一番バッターのヒットで、ぼくは生還した。
「野球どれぐらいやってるの?」
寺田監督に訊かれたので「中学まで」と答えた。
「どうしてモトさんは、きみをこっちに回したんだろう」
「二日前に入ったばっかりですから、ぼくの名前も覚えてないと思います」
「そっかぁ。きみ、このゲームに負けると、ひとりが丸坊主になることは知ってるかい?」
「はい、草津さんがやっと伸びてきたと言ってました」
「この前は、助っ人に甲子園経験者のピッチャーが来てくれたからね」
「そうだったんですか」
「今日はスケジュールが合わないって断られたよ。今日負けるとオレが坊主になっちゃうんだ。きみもやりにくいと思うけど、ベストを尽くして欲しい」
右手を出してきたので握手をすると、その手をさらに両手で掴まれた。