06 鵜飼雅則 「不世出の女性マンガ家」うらたじゅんさんの死。 3
文字数 1,976文字
「不世出の女性マンガ家」うらたじゅんさんの死。 3 鵜飼雅則
2023年11月20日(月)
■つげ忠男さん
うらたさんを偲ぶ集いでは、うらたさんの作品集を展示したコーナーに、うらたさんと二人の男性とのツーショットのアルバムが置かれていた。
連載「1」の冒頭の写真の左下に写っているが、向かって左の男性がつげ義春さん、右が弟のつげ忠男さんで、二人ともうらたさんに大きな影響を与えたマンガ家だ。
とりわけ、映画『シュトルム・ウント・ドランクッ』に竹下夢二役で出演していたつげ忠男さんとは、連載「2」の原マスミさんとのトークで、うらたさんが忠男さんが描く「無頼漢」と実際に会った忠男さん本人とのギャップについて語っていることからわかるように、個人的にも親交があったみたいだ。
うらたさんがつげ忠男さんとその愛猫、コタロウのことを書いた日記の一節。
「●2月26日(水)舟に棲む
つげ忠男さんの夢を見た。忠男さんのお宅のホームコタツで何人かでお茶を飲ん
でいた。私はだれかにプレゼントするために『舟に棲む』の単行本にサインをしてくれ
と忠男さんに頼んで、サインをしてもらった。
そのあと、みんなで雑談をしてた。なにがおかしいのか忠男さんは腹を抱えて笑ってい
た。コタツの周囲には子猫が何匹もいた。いつのまにか迷い込んできた野良猫だという。
春だなあ‥と思う。そういえば黒猫のコタロウの姿を見なかった。人見知りしてどこかに
隠れていたのだろうか‥。
近くの土手を歩くとき、ススキを眺めながらいつもふと、つげ忠男さんやコタロウは
元気だろうか‥? と思う。」(2003年「道草日記」より)
つげ忠男「猫の魔力のオソロシさ(1)」より
うらたさんが語っていたつげ忠男さん描く「無頼漢」は魅力的だ。
「無頼漢サブ」、又の名を京成線沿線を根城にしていることから「京成サブ」。
つげ忠男さんのマンガを代表するキャラクターだ。
『夜行』第5集(昭和49年4月15日発行 北冬書房)掲載
「無頼漢」を描いたつげ忠男さんの原画。
■長谷川書店
昨晩、読書会仲間のFさんと水無瀬駅前にある長谷川書店であった世田谷ピンポンズさんのライブに行った。
Fさんから、「11月18日大阪水無瀬長谷川書店にて」というライブ情報がLINEで届いたとき、私は即座に行こうと思った。
ピンポンズさんの歌も聴きたかったけれど、何よりも長谷川書店が、うらたじゅんさんゆかりの本屋さんだったからである。
http://walkingreader.blog60.fc2.com/blog-entry-520.html
初めて訪れた長谷川書店は、駅の改札口の真正面にある小さな本屋さんで、高架下にあるので、電車(阪急電車と新幹線)が通るたびに地震のようにガタガタ揺れた。
けれども、置いてある本は厳選された良質な本ばかりだった。
私は、斎藤真理子さんが訳したチョン・イヒョンという韓国の若い女性作家の短篇集『優しい暴力の時代』を買った。以前、斎藤さんのエッセイ集『本の栞にぶら下がる』の中に収録されていた「炭鉱町から来た人」を読み、この人が書いたり、訳したものは可能な限り読んでいこうと思っていたからである。
レジの女性に「うらたじゅんさんは、このお店によく来られたんですか」と聞くと、
「ええ、よくお見えになりました。とても優しい人でした。」というこたえが返ってきた。
世田谷ピンポンズさんの歌を直接、聴くのは初めてだった。
トークの中で、上林暁の小説は、全集で皆読んだと語り、最近、夏葉社から出たばかりの上林の小説集『孤独先生』を紹介、新作の「孤独先生」という歌を唄った。
また、先日、彼のライブを「富士正晴記念館」で聴いたばかりのFさんからは、「木山捷平(「船場川」)は良かったです。」というLINEをいただいていた。
上林暁と木山捷平を愛読するフォークシンガー、世田谷ピンポンズさんの歌には、うらたじゅんさんの世界に通じるものがあった。
深い思いを淡々と語る上質な私小説の世界だ。
ライブの途中で時々聞える走行する電車の音も会場を揺らす振動も、歌の表現のリアリテイを高めていた。
私はピンポンズさんのCDを買って帰った。
今、それを聴きながら、これを書いている。
世田谷ピンポンズ「喫茶ボンボン」:https://www.youtube.com/watch?v=lLmJKAl42Wg
了
2023年11月20日(月)
■つげ忠男さん
うらたさんを偲ぶ集いでは、うらたさんの作品集を展示したコーナーに、うらたさんと二人の男性とのツーショットのアルバムが置かれていた。
連載「1」の冒頭の写真の左下に写っているが、向かって左の男性がつげ義春さん、右が弟のつげ忠男さんで、二人ともうらたさんに大きな影響を与えたマンガ家だ。
とりわけ、映画『シュトルム・ウント・ドランクッ』に竹下夢二役で出演していたつげ忠男さんとは、連載「2」の原マスミさんとのトークで、うらたさんが忠男さんが描く「無頼漢」と実際に会った忠男さん本人とのギャップについて語っていることからわかるように、個人的にも親交があったみたいだ。
うらたさんがつげ忠男さんとその愛猫、コタロウのことを書いた日記の一節。
「●2月26日(水)舟に棲む
つげ忠男さんの夢を見た。忠男さんのお宅のホームコタツで何人かでお茶を飲ん
でいた。私はだれかにプレゼントするために『舟に棲む』の単行本にサインをしてくれ
と忠男さんに頼んで、サインをしてもらった。
そのあと、みんなで雑談をしてた。なにがおかしいのか忠男さんは腹を抱えて笑ってい
た。コタツの周囲には子猫が何匹もいた。いつのまにか迷い込んできた野良猫だという。
春だなあ‥と思う。そういえば黒猫のコタロウの姿を見なかった。人見知りしてどこかに
隠れていたのだろうか‥。
近くの土手を歩くとき、ススキを眺めながらいつもふと、つげ忠男さんやコタロウは
元気だろうか‥? と思う。」(2003年「道草日記」より)
つげ忠男「猫の魔力のオソロシさ(1)」より
うらたさんが語っていたつげ忠男さん描く「無頼漢」は魅力的だ。
「無頼漢サブ」、又の名を京成線沿線を根城にしていることから「京成サブ」。
つげ忠男さんのマンガを代表するキャラクターだ。
『夜行』第5集(昭和49年4月15日発行 北冬書房)掲載
「無頼漢」を描いたつげ忠男さんの原画。
■長谷川書店
昨晩、読書会仲間のFさんと水無瀬駅前にある長谷川書店であった世田谷ピンポンズさんのライブに行った。
Fさんから、「11月18日大阪水無瀬長谷川書店にて」というライブ情報がLINEで届いたとき、私は即座に行こうと思った。
ピンポンズさんの歌も聴きたかったけれど、何よりも長谷川書店が、うらたじゅんさんゆかりの本屋さんだったからである。
http://walkingreader.blog60.fc2.com/blog-entry-520.html
初めて訪れた長谷川書店は、駅の改札口の真正面にある小さな本屋さんで、高架下にあるので、電車(阪急電車と新幹線)が通るたびに地震のようにガタガタ揺れた。
けれども、置いてある本は厳選された良質な本ばかりだった。
私は、斎藤真理子さんが訳したチョン・イヒョンという韓国の若い女性作家の短篇集『優しい暴力の時代』を買った。以前、斎藤さんのエッセイ集『本の栞にぶら下がる』の中に収録されていた「炭鉱町から来た人」を読み、この人が書いたり、訳したものは可能な限り読んでいこうと思っていたからである。
レジの女性に「うらたじゅんさんは、このお店によく来られたんですか」と聞くと、
「ええ、よくお見えになりました。とても優しい人でした。」というこたえが返ってきた。
世田谷ピンポンズさんの歌を直接、聴くのは初めてだった。
トークの中で、上林暁の小説は、全集で皆読んだと語り、最近、夏葉社から出たばかりの上林の小説集『孤独先生』を紹介、新作の「孤独先生」という歌を唄った。
また、先日、彼のライブを「富士正晴記念館」で聴いたばかりのFさんからは、「木山捷平(「船場川」)は良かったです。」というLINEをいただいていた。
上林暁と木山捷平を愛読するフォークシンガー、世田谷ピンポンズさんの歌には、うらたじゅんさんの世界に通じるものがあった。
深い思いを淡々と語る上質な私小説の世界だ。
ライブの途中で時々聞える走行する電車の音も会場を揺らす振動も、歌の表現のリアリテイを高めていた。
私はピンポンズさんのCDを買って帰った。
今、それを聴きながら、これを書いている。
世田谷ピンポンズ「喫茶ボンボン」:https://www.youtube.com/watch?v=lLmJKAl42Wg
了