第8話
文字数 1,170文字
*
高円寺駅に飛び込むと、すでに三奈が待っていた。
後ろで束めた長い髪を、青いリボンで結んでいる。
襟の大きな白いブラウスの上に、濃紺のカーディガンを羽織っていた。
風でロングスカートの広い裾が足に巻きついて、はっきりと三奈の太腿の形を現していた。
ぼくが手を挙げても、気が付かないようだ。
被っていたフードを後ろに落として近づいた。
「待たせてごめん」
ぼくの言葉に、三奈は見開いた目を向けた。しかし、すぐに笑顔に変えた。
「ずいぶん、会社にいた時と違うから」
「これが本当のぼくさ」
黒のパーカーにジーパン、整髪料を使っていないナチュラルヘア。髭だけは二日に一回は剃るようにしている。
ぼくも三奈の印象が、どこかちがうと思った。
三奈がぼくの足元に目をやった。そして、不思議そうな顔を向けた。
「どうして、室内履きのスリッパなんですか?」
「高円寺は、ぼくの街だからさ」
「雨の日もそれを履いているんですか?」
くすっと笑った。
「基本、雨の日は外に出ないよ。晴耕雨読って言うだろ」
「じゃあ、雨はやんで道が濡れている時はどうしますか?」
三奈が、インタビュアーの様に握った手をぼくの口先に近づけた。
「ギブアップします」
ぼくは両手を挙げた。三奈の鋭い突っ込みにまいってしまった。
「一緒に歩くのが恥ずかしいなら、近くの喫茶店で少しダベってからバイバイしようか」
「ダベって?」
「お喋りをするってことだよ」
「そうなんですか。わたし平気です。高円寺を案内して欲しいです」
「まぁ案内っていっても、ぼくが通ってる店はおしゃれ系の店じゃないからね」
「そういうのがいいんです。わたしが一人で入れないような」
「それほどディープな店じゃない。チープであることは確かだけど」「ディープとチープですか……」
「つまり、サブカル的な意味がある店じゃなくて、単に安い店ってことだよ」
「サブカルって、サブ・カルチャーの略ですね。わたし、よしだたくろうが好きだから、その言 葉は知ってます」
「きみがたくろうを好きだって言ってたから、友だちにレコードを聴かせてもらえることになってるんだ。よかったら聴いていけばいいよ」
「本当ですか。嬉しいです」
「じゃあ、案内するよ」
ぼくは、パーカーのフードを被り直した。
横に並んだ三奈は、広がったロングスカートが、脚にまとわりついて歩きにくそうだった。
「高円寺近辺に住んでいるたくろうや南こうせつの姿を見たことはないけど、ダンガリーのシャツにジーパンをはき、ギターケースを肩にかけてフォークやロックをやってますってのはたくさんいるよ」
そう言って、ぼくは前を歩いている三人組を目で示した。
二人は、ギターケースを肩にかけ、もう一人は手に下げていた。
「山下達郎も珍しいロックの新譜を聴けることで知られていた喫茶店『ムーヴィン』に通っていたようだ」
高円寺駅に飛び込むと、すでに三奈が待っていた。
後ろで束めた長い髪を、青いリボンで結んでいる。
襟の大きな白いブラウスの上に、濃紺のカーディガンを羽織っていた。
風でロングスカートの広い裾が足に巻きついて、はっきりと三奈の太腿の形を現していた。
ぼくが手を挙げても、気が付かないようだ。
被っていたフードを後ろに落として近づいた。
「待たせてごめん」
ぼくの言葉に、三奈は見開いた目を向けた。しかし、すぐに笑顔に変えた。
「ずいぶん、会社にいた時と違うから」
「これが本当のぼくさ」
黒のパーカーにジーパン、整髪料を使っていないナチュラルヘア。髭だけは二日に一回は剃るようにしている。
ぼくも三奈の印象が、どこかちがうと思った。
三奈がぼくの足元に目をやった。そして、不思議そうな顔を向けた。
「どうして、室内履きのスリッパなんですか?」
「高円寺は、ぼくの街だからさ」
「雨の日もそれを履いているんですか?」
くすっと笑った。
「基本、雨の日は外に出ないよ。晴耕雨読って言うだろ」
「じゃあ、雨はやんで道が濡れている時はどうしますか?」
三奈が、インタビュアーの様に握った手をぼくの口先に近づけた。
「ギブアップします」
ぼくは両手を挙げた。三奈の鋭い突っ込みにまいってしまった。
「一緒に歩くのが恥ずかしいなら、近くの喫茶店で少しダベってからバイバイしようか」
「ダベって?」
「お喋りをするってことだよ」
「そうなんですか。わたし平気です。高円寺を案内して欲しいです」
「まぁ案内っていっても、ぼくが通ってる店はおしゃれ系の店じゃないからね」
「そういうのがいいんです。わたしが一人で入れないような」
「それほどディープな店じゃない。チープであることは確かだけど」「ディープとチープですか……」
「つまり、サブカル的な意味がある店じゃなくて、単に安い店ってことだよ」
「サブカルって、サブ・カルチャーの略ですね。わたし、よしだたくろうが好きだから、その言 葉は知ってます」
「きみがたくろうを好きだって言ってたから、友だちにレコードを聴かせてもらえることになってるんだ。よかったら聴いていけばいいよ」
「本当ですか。嬉しいです」
「じゃあ、案内するよ」
ぼくは、パーカーのフードを被り直した。
横に並んだ三奈は、広がったロングスカートが、脚にまとわりついて歩きにくそうだった。
「高円寺近辺に住んでいるたくろうや南こうせつの姿を見たことはないけど、ダンガリーのシャツにジーパンをはき、ギターケースを肩にかけてフォークやロックをやってますってのはたくさんいるよ」
そう言って、ぼくは前を歩いている三人組を目で示した。
二人は、ギターケースを肩にかけ、もう一人は手に下げていた。
「山下達郎も珍しいロックの新譜を聴けることで知られていた喫茶店『ムーヴィン』に通っていたようだ」