第9話 ぼくのいるところ。 9
文字数 1,342文字
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次の守備から、ぼくがレフトと交代になった。ようやく遅れていたメンバーが来たけど、酒が残っていると言ってベンチにダウンしている。
ぼくはジョーズに戻ることが出来ない。
九回裏、八対七。二アウトでランナー一塁。ぼくの打順になった。
「代わってもらえませんか?」
ぼくは寺田監督に言って、ベンチでグタッとなっている正式メンバーを指した。
「俺は信じている。ベストを尽くしてくれればいい」
言葉と違って、目は必死にヒットを願っている。
ぼくが三振するとジョーズの勝利。ここでヒットを打てば、次のバッター次第でガテラが勝つかもしれない。そうなるとぼくは丸坊主。
でも、わざと空振りはしたくない。
打席に立つとガテラチームのみんなから激励の声が届く。
一塁ランナーが二塁に走った。本居先生は振り向いただけで、ボールを投げない。
「それでいいっす。バッターに集中!」
黒川さんが、腹に響く声を出した。
一球目を見逃す。ランナーが三塁に走るのが分かっていた。
黒川さんも三塁へ投げない。ぼくを仕留めるつもりだ。
もうやるしかない。ぼくは二球目を大きく空振りした。力んでいることに気がついてタイムを取る。バッターボックスを外して軽く屈伸をした。
「うおっし!」
気合を入れてバッターボックスに入る。
三球目のボール球を余裕で見送る。
次のストレートを思い切り振った。手がジーンと痺れる。青空に高く飛ぶ。センターとレフトが追いかけている。一塁を蹴ってもまだ捕球されていない。二塁を走り抜けると足がもつれた。
「走れ! 走れ!」
三塁のコーチボックスにいる男が右腕をグルグルと振り回している。
ホームまで走れということなのか?
「走れ! うたはると!」
声援の中に咲雪さんの声が聴こえた。
咲雪さんがジョーズチームのメンバーの前に出て叫んでいる。訳が分からない。
「うたはると!」「突っ込め! うたはると!」
三塁ベースを蹴ると声が激しくなった。
黒川さんがホームベースをブロックしている。ぼくはヘッドスライディングで突っ込んだ。頭に強い衝撃が走る。
「セーフ!」
アンパイアの声が響くと、一段と歓声が上がった。
顔を上げると、黒川さんのキャッチャーミットからボールがこぼれ落ちていた。
仰向きになって、喉をゼイゼイと鳴らす。
「マジかよ」
黒川さんの高いトーンの声を初めて聴いた。
ぼくは刈った毛を受け止める散髪用の帽子みたいなものと、大きなビニールシートを首に巻いてベンチに座った。
生贄がぼくだと知った寺田監督が、本居先生に突っかかっていった。
事情を知らなかった本居先生は草津さんを呼んで、草津さんは黒川さんを呼んでと、半分ぐらいのメンバーがひとかたまりになっている。
咲雪さんは興味津々といった様子だ。
バリカンを持った寺田監督がかたまりの中から出てきた。
「申し訳ないな」
「気にしないで丸坊主にしてください」
それでも、ためらっている。
「あたしがやるわ」咲雪さんが前に出てきた。
頭を押されて下を向く、冷たい金属が首筋に触れる。ジャリジャリジャリと冷たさが移動する。
「許せ」
寺田監督の声。
バトンタッチするようだ。
バリカンに毛が引っかかって痛い。
ガンガン刈ってもらったほうがスムーズにいくみたいだ。
次の守備から、ぼくがレフトと交代になった。ようやく遅れていたメンバーが来たけど、酒が残っていると言ってベンチにダウンしている。
ぼくはジョーズに戻ることが出来ない。
九回裏、八対七。二アウトでランナー一塁。ぼくの打順になった。
「代わってもらえませんか?」
ぼくは寺田監督に言って、ベンチでグタッとなっている正式メンバーを指した。
「俺は信じている。ベストを尽くしてくれればいい」
言葉と違って、目は必死にヒットを願っている。
ぼくが三振するとジョーズの勝利。ここでヒットを打てば、次のバッター次第でガテラが勝つかもしれない。そうなるとぼくは丸坊主。
でも、わざと空振りはしたくない。
打席に立つとガテラチームのみんなから激励の声が届く。
一塁ランナーが二塁に走った。本居先生は振り向いただけで、ボールを投げない。
「それでいいっす。バッターに集中!」
黒川さんが、腹に響く声を出した。
一球目を見逃す。ランナーが三塁に走るのが分かっていた。
黒川さんも三塁へ投げない。ぼくを仕留めるつもりだ。
もうやるしかない。ぼくは二球目を大きく空振りした。力んでいることに気がついてタイムを取る。バッターボックスを外して軽く屈伸をした。
「うおっし!」
気合を入れてバッターボックスに入る。
三球目のボール球を余裕で見送る。
次のストレートを思い切り振った。手がジーンと痺れる。青空に高く飛ぶ。センターとレフトが追いかけている。一塁を蹴ってもまだ捕球されていない。二塁を走り抜けると足がもつれた。
「走れ! 走れ!」
三塁のコーチボックスにいる男が右腕をグルグルと振り回している。
ホームまで走れということなのか?
「走れ! うたはると!」
声援の中に咲雪さんの声が聴こえた。
咲雪さんがジョーズチームのメンバーの前に出て叫んでいる。訳が分からない。
「うたはると!」「突っ込め! うたはると!」
三塁ベースを蹴ると声が激しくなった。
黒川さんがホームベースをブロックしている。ぼくはヘッドスライディングで突っ込んだ。頭に強い衝撃が走る。
「セーフ!」
アンパイアの声が響くと、一段と歓声が上がった。
顔を上げると、黒川さんのキャッチャーミットからボールがこぼれ落ちていた。
仰向きになって、喉をゼイゼイと鳴らす。
「マジかよ」
黒川さんの高いトーンの声を初めて聴いた。
ぼくは刈った毛を受け止める散髪用の帽子みたいなものと、大きなビニールシートを首に巻いてベンチに座った。
生贄がぼくだと知った寺田監督が、本居先生に突っかかっていった。
事情を知らなかった本居先生は草津さんを呼んで、草津さんは黒川さんを呼んでと、半分ぐらいのメンバーがひとかたまりになっている。
咲雪さんは興味津々といった様子だ。
バリカンを持った寺田監督がかたまりの中から出てきた。
「申し訳ないな」
「気にしないで丸坊主にしてください」
それでも、ためらっている。
「あたしがやるわ」咲雪さんが前に出てきた。
頭を押されて下を向く、冷たい金属が首筋に触れる。ジャリジャリジャリと冷たさが移動する。
「許せ」
寺田監督の声。
バトンタッチするようだ。
バリカンに毛が引っかかって痛い。
ガンガン刈ってもらったほうがスムーズにいくみたいだ。