02 浦山 稔 『漫画主義』と鵜飼雅則さん。 1
文字数 1,999文字
『漫画主義』と鵜飼雅則さん。 1 浦山 稔
2023年11月14日(火)
もう半世紀以上も前のことになるんだけれど、『漫画主義』という雑誌があった。
昭和42年(1967年)、東京で石子順造、山根貞男、梶井純、権藤晋の四人が中心となって創刊された漫画評論誌だ。同人誌というほうが正しいのかもしれない。
当時は、いまの令和の世みたいに漫画が隆盛を誇ることが信じられないほど、社会から蔑視されていて、まだサブカルチャーでもなく、全共闘の学生が漫画月刊誌『ガロ』に連載していた白土三平の『カムイ伝』に共感していることを、「大学生が漫画を読んでいる」とニュースになったぐらいだった。
そんな時代に、日本で初めて漫画を評論しようとする雑誌が発行されたんだ。
高校一年生だったぼくは、『ガロ』に載っていた広告を見てすぐに、封書に送料と本代の金額分の切手を入れて申し込んだ。ちなみに、ハガキが7円、封書が15円の時代だった。
届いた『漫画主義』はA5サイズの薄い本だったけれど、熱っぽい文章が並んでいた。
*
「その雑誌なら、何冊か持っていますよ」
ぼくは、『漫画主義』を知っている人に初めて会った。しかも所有していると、鵜飼雅則さんは、こともなげに言ったのだ。
コーヒーカップを口に運んでゴクリと飲んだぼくは、目の前に座っている鵜飼さんの顔を見つめた。といっても目が不自由なぼくには、薄ぼんやりとした影しか見えないんだけど。
ここは、京都駅近くの喫茶店。日付は、2023年2月23日木曜日、天皇誕生日なので祭日となっている。
ぼくは71歳。世界保健機関(WHO)では、65歳上を「高齢者」と定義しているが、日本ではなぜか前期と後期に分けているので、65~74歳までの「前期高齢者」となり、おまけに5年前に緑内障の手術をしてから、白杖を持ち歩くようになったので、「視覚障がいのある前期高齢者」に区分されている。
初対面の鵜飼さんは、ぼくよりひとつ歳上だ。
*
今日の午後2時30分に始まった京都大学吉田寮食堂での『ティーアガルテン』ライヴへ行ってきた帰りなんだ。
『ティーアガルテン』は、京都大学院教授の細見和之さんがギターボーカル、准教授の小林哲也さんがドラムの二人組バンドで、詩人・金時鐘さんの詩に曲をつけて歌っている。
細見和之さんはぼくが通っている『大阪文学学校』の校長でもあるんだ。
大阪文学学校の卒業者や在学生が集まっている金時鐘さんのファン仲間の女性リーダーに誘われて、ぼくをサポートしてくれる文学友だちと3人で観に行き、そこで女性リーダーから鵜飼さんを紹介されたんだ。
鵜飼さんはカバンに、金時鐘さんの署名本を3冊入れてきたほどのファンだった。後で知ったのだが、7冊も持っているとのことなので羨ましい限りだ。
*
翌日、ぼくは鵜飼さんのことを、文学友だちにメールで報告した。
『ティーアガルテン ライヴ「京都大学吉田寮食堂」2023年2月23日(木)』に行ってきました。
プログラム
あいさつ 1:00
第1部 金時鐘とは誰か?
(歌詩の紹介) 自序 19:45 遠い日 23:07 政策発表会 26:05
第2部 細見が体験した80年代学生時代と金時鐘
(歌詩の紹介) 骨 47:41 予感 51:18 化石の夏 56:27
第3部 京大の閉塞感を乗り越えて
(歌詩の紹介) 夢みたいなこと 1:09:50
京大からタテ看が消える日 1:12:50 夢の中で約束の時間に遅れないように 1:16:02
アドソキア代表からのメッセージ 廃墟(アンコール) 1:30:50
質疑応答
興味のある方は、YouTubeで楽しんでください。
『ティーアガルテン ライヴ「京都大学吉田寮食堂」2023年2月23日(木)【解説付版】』
https://www.youtube.com/watch?v=uvizwgeBBEE&t=231s
細見さんが、金時鐘さんの詩を、全く変えずに作曲するのには、長い時間をかけて大変苦労されたんだなと思います。
また、とても至福の時間だったかとも思います。
去年も聴かせてもらいましたが、今回は小林さんのドラムが加わったことにより、いっそう金時鐘さんの世界が膨らんだと感じました。
これからのティーアガルテン・バンドの活動が楽しみです。
*
ライヴが終ってから、ぼくたちは鵜飼さんと一緒に吉田寮を見学しました。
バス停『近衛通』まで行くと、女性リーダーが時刻表を見て「あなた達は次のバスよ。私は入管改悪反対のデモに参加する」と、先に来たバスに軽いステップで乗って行ったのです。
見送ったぼくたち3人は会話を交わすこともなく、少し待って京都駅行きのバスに乗り込みました。
『漫画主義』と鵜飼雅則さん。 2 に続く。
2023年11月14日(火)
もう半世紀以上も前のことになるんだけれど、『漫画主義』という雑誌があった。
昭和42年(1967年)、東京で石子順造、山根貞男、梶井純、権藤晋の四人が中心となって創刊された漫画評論誌だ。同人誌というほうが正しいのかもしれない。
当時は、いまの令和の世みたいに漫画が隆盛を誇ることが信じられないほど、社会から蔑視されていて、まだサブカルチャーでもなく、全共闘の学生が漫画月刊誌『ガロ』に連載していた白土三平の『カムイ伝』に共感していることを、「大学生が漫画を読んでいる」とニュースになったぐらいだった。
そんな時代に、日本で初めて漫画を評論しようとする雑誌が発行されたんだ。
高校一年生だったぼくは、『ガロ』に載っていた広告を見てすぐに、封書に送料と本代の金額分の切手を入れて申し込んだ。ちなみに、ハガキが7円、封書が15円の時代だった。
届いた『漫画主義』はA5サイズの薄い本だったけれど、熱っぽい文章が並んでいた。
*
「その雑誌なら、何冊か持っていますよ」
ぼくは、『漫画主義』を知っている人に初めて会った。しかも所有していると、鵜飼雅則さんは、こともなげに言ったのだ。
コーヒーカップを口に運んでゴクリと飲んだぼくは、目の前に座っている鵜飼さんの顔を見つめた。といっても目が不自由なぼくには、薄ぼんやりとした影しか見えないんだけど。
ここは、京都駅近くの喫茶店。日付は、2023年2月23日木曜日、天皇誕生日なので祭日となっている。
ぼくは71歳。世界保健機関(WHO)では、65歳上を「高齢者」と定義しているが、日本ではなぜか前期と後期に分けているので、65~74歳までの「前期高齢者」となり、おまけに5年前に緑内障の手術をしてから、白杖を持ち歩くようになったので、「視覚障がいのある前期高齢者」に区分されている。
初対面の鵜飼さんは、ぼくよりひとつ歳上だ。
*
今日の午後2時30分に始まった京都大学吉田寮食堂での『ティーアガルテン』ライヴへ行ってきた帰りなんだ。
『ティーアガルテン』は、京都大学院教授の細見和之さんがギターボーカル、准教授の小林哲也さんがドラムの二人組バンドで、詩人・金時鐘さんの詩に曲をつけて歌っている。
細見和之さんはぼくが通っている『大阪文学学校』の校長でもあるんだ。
大阪文学学校の卒業者や在学生が集まっている金時鐘さんのファン仲間の女性リーダーに誘われて、ぼくをサポートしてくれる文学友だちと3人で観に行き、そこで女性リーダーから鵜飼さんを紹介されたんだ。
鵜飼さんはカバンに、金時鐘さんの署名本を3冊入れてきたほどのファンだった。後で知ったのだが、7冊も持っているとのことなので羨ましい限りだ。
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翌日、ぼくは鵜飼さんのことを、文学友だちにメールで報告した。
『ティーアガルテン ライヴ「京都大学吉田寮食堂」2023年2月23日(木)』に行ってきました。
プログラム
あいさつ 1:00
第1部 金時鐘とは誰か?
(歌詩の紹介) 自序 19:45 遠い日 23:07 政策発表会 26:05
第2部 細見が体験した80年代学生時代と金時鐘
(歌詩の紹介) 骨 47:41 予感 51:18 化石の夏 56:27
第3部 京大の閉塞感を乗り越えて
(歌詩の紹介) 夢みたいなこと 1:09:50
京大からタテ看が消える日 1:12:50 夢の中で約束の時間に遅れないように 1:16:02
アドソキア代表からのメッセージ 廃墟(アンコール) 1:30:50
質疑応答
興味のある方は、YouTubeで楽しんでください。
『ティーアガルテン ライヴ「京都大学吉田寮食堂」2023年2月23日(木)【解説付版】』
https://www.youtube.com/watch?v=uvizwgeBBEE&t=231s
細見さんが、金時鐘さんの詩を、全く変えずに作曲するのには、長い時間をかけて大変苦労されたんだなと思います。
また、とても至福の時間だったかとも思います。
去年も聴かせてもらいましたが、今回は小林さんのドラムが加わったことにより、いっそう金時鐘さんの世界が膨らんだと感じました。
これからのティーアガルテン・バンドの活動が楽しみです。
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ライヴが終ってから、ぼくたちは鵜飼さんと一緒に吉田寮を見学しました。
バス停『近衛通』まで行くと、女性リーダーが時刻表を見て「あなた達は次のバスよ。私は入管改悪反対のデモに参加する」と、先に来たバスに軽いステップで乗って行ったのです。
見送ったぼくたち3人は会話を交わすこともなく、少し待って京都駅行きのバスに乗り込みました。
『漫画主義』と鵜飼雅則さん。 2 に続く。