第189話

文字数 3,657文字

 私は、酔っ払った…

 実に、酔っ払った…

 いつものことだった(笑)…

 今回のように、大きなプレッシャーから、解放された後は、その反動で、人一倍、酒を飲む…

 今回も、例外ではなかった(笑)…

 私は、葉敬に勧められるままに、酒を飲んんだ…

 それを見て、

 「…ちょっと、大丈夫、お姉さん…」

 と、リンダが、心配した…

 「…だ、大丈夫さ…」

 私は、酔っ払って、少しばかり、ろれつが回らなくなった…

 が、

 意識は、しっかりしていた…

 傍から、どう見えようと、私自身は、しっかりしていた…

 「…そ…そんなことより、オ、オマエたちは、だ、大丈夫か?…」

 「…私たち?…」

 「…そ、そうさ…」

 「…私たちは、大丈夫よ…」

 「…ど、どうして、だ、断言できる?…」

 「…白人は、日本人とは、違うんだよ…」

 バニラが、口を挟んだ…

 「…な、なんだと? …ど、どういう意味だ?…」

 「…酒に強い…」

 「…酒に、強いだと?…」

 「…カラダが、違うんだよ…生まれつき、アルコールに、強いから、同じ量を飲んでも、日本人のように、酔っ払わないんだ…」

 「…な、なんだと?…」

 私は、バニラの言葉に、驚いた…

 そして、おそらく、それは、真実…

 真実だと、思った…

 なぜなら、これまで、リンダやバニラが、酔っ払った姿を見たことが、なかったからだ…

 いや、

 それを、言えば、葉尊もない…

 葉尊の酔っ払った姿など、見たことも、なかった…

 そして、それは、葉敬も、同じ…

 同じだった…

 つまりは、この5人の中で、酔っ払った姿を見たことが、あるのは、この矢田だけ…

 この矢田トモコだけだった…

 同時に、無理もないと、内心、思った…

 この5人の中で、私だけ、ひと際、背が低い…

 身長159㎝…

 日本女性としては、平均だが、他の女、二人…

 リンダと、バニラは、共に、175㎝と、180㎝と大柄…

 だから、二人と、比べると、この矢田は、埋没する(涙)…

 カラダの大きさは、関係ないかも、しれんが、ひと際小柄な私が、この大柄な二人と、同じ量を飲めば、誰が、考えても、私だけ、酔っ払っても、おかしくない…

 そして、残る二人…

 葉尊と、葉敬の父子…

 共に、180㎝前後の長身…

 おまけに、イケメンだ…

 まるで、ドラマや映画の中から、出てきたようなイケメンだ…

 さらに言えば、すでに何度も、説明したように、リンダとバニラも、またビックリするほどの美形…

 リンダは、女優で、ハリウッドのセックス・シンボルとして知られ、バニラもまた、トップ・モデル…

 だから、美形に決まっている…

 だから、今回のパーティーの主役だったのだ…

 それだから、今回のパーティーで、このリンダとバニラを初めて、知ったであろう、政界や財界のお偉いさんも、喜んで、彼女たちと、握手や撮影をするために、行列を作ったのだ…

 それを、考えると、なんだか、惨めというか…

 この矢田だけ、平凡だった…

 平凡極まりない女だった(涙)…

 これは、いつものセリフ…

 この矢田が、いつも言うセリフだった…

 が、

 この4人と、いっしょに、いると、ことさら、このセリフが身に沁みたというか…

 つくづく、自分は、平凡だと思った(涙)…

 平凡極まりない女だと、思った…

 それは、なぜか?

 いつも、いっしょに、いるが、今ほど、それを感じたことがない…

 それは、皆が、正装をしているからだった…

 葉敬と葉尊の父子は、黒のタキシードを着ている…

 片や、

 リンダとバニラは、それぞれ、赤と青のロングドレスを着ている…

 だから、誰もが、いつもの日常の姿と違い、ゴージャス…

 そして、なにより美しい…

 美しいのだ…

 つまりは、この矢田を除いた全員が、皆、映画の中の登場人物のようだった…

 いや、

 リンダとバニラは元々、女優とモデル…

 だから、違和感がないというか…

 それを言えば、一般人にも、かかわらず、長身で、イケメンの葉敬、葉尊父子の方が、稀なのかもしれない…

 私は、そんなことを、考えながら、酒を飲んだ…

 酒を煽った…

 ハッキリ言って、飲まずには、いられんかった…

 なぜか、この5人が、集まった中で、この矢田だけが、一般人…

 ハッキリ言って、ルックスが、劣っている…

 これは、正直、きつかった(涙)…

 この矢田は、平凡…

 何度も、言うように、平凡極まりない女だ…

 だから、普通に街中を歩いていても、目立たない…

 なぜなら、平凡だからだ…

 どこにでも、いるからだ…

 が、

 今は、違う…

 ハッキリ言って、美男美女の中にいる…

 だから、私だけ目立つ…

 悪目立ちする!…

 だから、飲まずには、いられんかった…

 普段は、私は、自分のルックスなど、あまり気にすることはない…

 が、

 この4人といっしょにいては、気にするなと言う方が、無理…

 無理筋だった!…

 だから、飲まずには、いられんかった…

 いられんかったのだ…

 いわば、普段は、感じたことのない、コンプレックスを感じたのだ…

 この童顔、巨乳で、六頭身のカラダを意識せずには、いられんかったのだ…

 だから、やけ酒を煽った…

 やけ酒を煽ったのだ…

 やけ酒を煽らずには、いられんかったのだ…

 それを、見た、リンダが、

 「…お姉さん…飲みすぎ…」

 と、言って、私から、グラスを取り上げた…
 
 「…そうよ…クソチビ…」

 バニラが続けた…

 「…ク、クソチビだと?…」

 私は、頭に来た…

 言うに事欠いて、この矢田トモコを、

 「…クソチビとは!…」

 ゆ、許せん!

 ぶん殴ってやる!

 蹴っ飛ばしてやる!

 私は、誓った…

 誓ったのだ…

 だから、葉敬もいることも忘れて、

 「…バ、バニラ…き、き・さ・ま…」

 と、言った…

 言いながら、自分でも、うまくろれつが、回ってないことに、気付いた…

 酒を飲み過ぎたからだった…

 ついでに、つい、バニラに手も出した…

 バニラをぶん殴ろうと、思ったのだ…

 が、

 できんかった…

 バニラをぶん殴ろうと、バニラに近付こうとすると、途端に、大地が、揺れた…

 大きく、揺れた…

 私は、最初、地震かと、思った…

 それほど、大きく揺れた…

 だから、私は、あっさりと、倒れた…

 あっけなく倒れて、その場に、尻もちをついた…

 いかに、このスポーツ万能の矢田トモコとて、地震には、勝てんからだ…

 が、

 違った…

 真相は、ただ、私が、酔っ払っただけだった…

 酔っ払い過ぎて、足元が、おぼつかなくなり、倒れただけだった…

 不覚…

 実に、不覚だった…

 余人なら、いざ知らず、この矢田トモコとも、あろうものが、こんな失態を…

 私は、自分を呪った…

 呪ったのだ…

 次いで、私は、意識を失った…

 そして、意識を失う中で、他の4人が、

 「…お姉さん…」

 「…お姉さん…しっかりして…」

 「…お姉さん…大丈夫ですか?…」

 という声が、聞こえてきた…

 そんな声を聞きながら、ゆっくりと、私は、意識を失った…


 私は、ゆっくりと、目を覚ました…

 いや、

 目を覚ましたのではない…

 まだ、目は、開けてなかった…

 ただ、意識が、戻った…

 ゆっくりとだが、戻った…

 すると、どこからか、声が聞こえてきた…

 誰かが、なにかを、話している…

 それが、わかった…

 「…ご苦労だった…葉尊…」

 葉敬の声だった…

 いや、

 葉敬の声か、どうかは、わからない…

 ただ、

 「…葉尊…」

 と、上から目線で、言える人間は、私の知る限り葉敬だけだった…

 だから、葉敬だと、思った…

 本当は、ボンヤリとしていて、意識が、まだ、正常に、戻っていないから、声だけでは、葉敬と、断言できんなかった…

 なにしろ、私は、酒を飲み過ぎた…

 自分でも、わけがわからんほど、飲み過ぎた…

 パーティーが、終わったからだ…

 名目だけとは、いえ、私と葉尊の結婚半年を記念してのパーティーが、終わったからだった…

 だから、プレッシャーから、解放された…

 名目だけとはいえ、自分の結婚を、記念してのパーティーなんて、私にとって、プレッシャー以外の何物でも、なかったからだ…

 だから、酒を飲み過ぎたのだ…

 私は、あらためて、考えた…

 考えたのだ…

 すると、いつものように、

 「…ありがとうございます…」

 という、私の夫の葉尊の声が、聞こえた…

 当たり前だった…

 目は、開かずとも、話しているのは、葉敬と葉尊の父子に、違いなかったからだ…

 「…だが、葉尊…」

 と、いささか、きつい口調で、葉敬が、言った…

 「…私の目の届かないところで、アレコレ、動くのは、どうかと思う…」

 「…」

 「…オマエが、なにを、考えているのは、わかる…だが、オマエは、私の手のひらの上にいる…勝手なことを、してもらっては、困る…」

 「…手のひらの上? …まるで、孫悟空ですね…」

 「…」

 「…でも、一体、ボクが、なにをしたというんです?…」

 「…矢口さんのことだ…」

 「…矢口さんのこと?…」

 「…彼女を巻き込んだのは、オマエだろ?…」

 葉敬が、意外なことを、言い出した…

               
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