第30話
文字数 5,704文字
私が、珍しく、そんなことを、考えていると、あの矢口のお嬢様のことを、思い出した…
あの私そっくりの外観のお嬢様…
スーパージャパンの、創業者のご令嬢だ…
あの矢口のお嬢様は、外観は、私そっくりだが、中身は、真逆だった…
矢口のお嬢様は、東大卒…
片や、私は、ソニー学園出身…
矢口のお嬢様は、当然、お金持ち…
私は、平凡…平凡な家庭の出身…
が、
とりわけ違うのは、性格だった…
私は、自分でいうのもなんだが、結構器用で、はしっこい…
が、
矢口のお嬢様は、不器用だった(笑)…
自分の父親が、経営するスーパージャパンで、身分を隠して、働いても、終始、トロトロして、使い物にならなかったと、人づてに聞いた…
要するに、頭でっかちというか…
頭は、いいが、その頭の良さを生かすような仕事でないと、使い物にならないということだ(笑)…
スーパーを例にたとえれば、末端で、商品を棚に並べるような仕事は、トロトロして、ちっとも、進まない…
だから、同じ末端でも、スーパーの経営戦略とか、頭を使う難しい部署で、議論をしたり、資料を作るのが、あっていた…
事実、矢口のお嬢様は、実家が、大手の安売りスーパーを経営しているから、そのような仕事に就き、着実に実績を伸ばした…
つまり、東大卒の頭の良さを生かしたということだ…
が、
思えば、それは、ただ単に運がいいの一言…
そんなにうまくゆく人間は少ない…
以前、経済評論家の森永卓郎が言っていたが、自分と同世代の仲間内で、東大を卒業した人間で、成功したと、思われる人間は、わずか二割だと、言っていた…
二割=20%だと、断言していた…
日本で、一番、頭のいい大学を出て、成功したと思えるのは、わずか、20%の人間に過ぎない…
いかに、少ないか?
そう、思える…
矢口のお嬢様の場合は、実家が、大手のスーパーを経営していたから、簡単に、父親が、娘の頭の良さを生かせるような職場に、配属したのだろうが、普通は、それは、無理…
できない…
当たり前だ…
たとえ、東大を出ていても、仮にマクドナルドに入社すれば、最初は、店舗スタッフから、始めろと、言われる…
当たり前だ…
そして、店舗スタッフをすれば、正直、学歴は関係ない…
たとえ、高卒の人間でも、テキパキ動く人間は、いるし、東大を出ているかといって、テキパキ動く高卒の人間に、勝てない東大卒は、多いだろう…
だから、そんな高卒の人間に、
「…アイツは、東大を出ているのに、なんなんだ?…」
と、陰口を叩かれて、落ち込む東大卒の人間は、多いに違いない…
マクドナルドは、わかりやすい例だが、どんな大企業も、最初は、誰もが、末端の仕事から、始めさせる…
すると、当然のことながら、東大を出ても、自分に合わない仕事や、職場が、存在する…
そうなると、地獄になる(涙)…
が、
あの矢口のお嬢様は、そういう心配がないのが、救いだった…
自分の父親が経営する店=会社だったから、職場を選べた…
だから、合わない職場に、長くいることもなく、オサラバできたわけだ…
が、
普通は、そうは、いかない…
だから、自分に合わなければ、誰もが、職場の移動を人事に願い出るか、それが、叶わなければ、転職するか、のどちらかだろう…
が、
さらに言えば、あの矢口のお嬢様は、対人関係が、苦手だった…
他人とうまく、付き合うことができなかった…
他人とうまくつきあえないというのは、職場においては、致命的だ…
職場で、ひとりで、任されてやる仕事は、ないではないが、ごく少数…
大抵が、最低でも、二人で、組んでする仕事が多い…
だから、コミュニケーション能力が、不可欠になる…
学校の勉強では、一人で、やれば、よいが、仕事は、ひとりで、やる仕事は少ない…
そういうことだ…
だから、矢口のお嬢様は、それで、悩んでいたと、聞いた…
だから、考えてみれば、あのとき…
つまりは、スーパージャパンの再建方法を巡って、他の重役たちと、言い争いになり、他の重役たちを説得できないから、お嬢様は、自分の結婚式を隠れ蓑にして、勝手に、他社との提携の調印をしたのだろう…
会社の重役たちと、うまく、コミュニケーションを取れないから、自分勝手に動くしかなかったのだろう…
私は、それを思った…
そして、たしか、あのお嬢様は、私に憧れていると言った…
この矢田トモコに、憧れていると、言った…
理由は、ただ一つ…
私が、他人とコミュニケーションを取るのが、うまいからだ…
あの葉問が、言ったように、私は、他人に好かれる…
なぜか、わからないが、好かれる…
私が、思うに、私が、頼りないのが、一因だろうと、思う…
私は、実は、頼りない…
だから、助けてやろうという人間が、必ず周囲に、存在した…
これが、私とお嬢様の違い(笑)…
また、私は、美人でも、なんでもなかった…
これが、良かった…
美人は、羨ましいが、困ることも、結構多い…
なにより、なにもしていなくても、目立つ…
これが、困る(笑)…
また、美人だと、必ず、それを羨ましく思って、さまざまな、嫌がらせ=イジメを仕掛けてくる同性の女も存在する…
要するに、美人が羨ましいのだ…
だから、美人に生まれると、なにもしなくても、敵を作ることになる…
が、
私は、幸か不幸か、美人に生まれなかった…
それが、幸いした(笑)…
だから、そのような敵はいなかった…
また、なにより、愛想が良かった…
そして、人間が、軽かった…
だから、いつも、矢田ちゃんだった(笑)…
矢田ちゃんと、軽く呼ばれていたから、周囲の人間が、助けてくれたのだ…
これは、ラッキー…
ラッキーこの上なかった…
これが、男ならば、困るかもしれない…
会社に入社して、数年は、それでいいかもしれないが、ずっと、そういうわけにはいかないからだ…
歳を取り、後輩もできたにもかかわらず、いつまでも、矢田ちゃんと軽く呼ばれて、威厳もなにもないのは、困る…
困るに決まっている…
正直、女の私でも、困るが、男は、もっと困るだろう…
やはり、上に上がった以上、威厳は、欠かせないというか…
同じことをやるにしても、威厳があると、周りを説得しやすい…
どうしても、同じことをする場合、誰が、言うか? で、周囲の反応も変わって来るからだ…
はっきり言えば、
○○が言うと、納得しないが、○○が言うと、納得するというか…
仕方ないと思うかもしれないが、納得する…
それは、威厳のせいも、あるし、正直、人間性の部分もあるだろう…
あんな奴に言われても、となることは、誰もが、経験することだからだ…
私が、こんなことを、書くのは、何度も言うように、短大を出て、さまざまな職場を経験したからに、他ならない…
どうしても、一つの職場しか経験しないと、視野が狭くなる…
たとえば、以前の職場で、こんなことがあってと、別の職場の人間にいっても、
「…そんなこと、あるわけないじゃん…」
とか、
「…アンタ…話を盛っているんじゃない?…」
と、言われたこともあるからだ…
どうしても、その職場では、ありえない話だから、信じてもらえないことが、多い…
なぜなら、その職場では、そんな人間は、存在しないからだ…
たとえば、さっき例に挙げた、高卒で、出世を目指した人間のことを言っても、普通に、考えれば、
「…偏差値40の工業高校を出て、出世なんて、できるわけないだろ?…」
と、なる…
だから、
「…そんなヤツ、いるわけないだろ?…」
と、なる…
が、
現実に、私は、そんな人間を知っている…
が、
そんな人間を見たこともなければ、私の話を信じないだろう…
それも、また、よくわかる…
人間は、何事も経験だ…
歳をとって、それがわかって来た…
経験しなければ、どんな話を、聞いても、ホントに、そんなことがあるの? と、眉唾物にしか、聞けないからだ…
だから、同じように、以前、年収400万円の、三十代前半の女性の看護師が、私は、年収一千万円の男としか、結婚しないと、断言したのを、聞いて、呆れたというのを、ネットで、見た…
その看護師は、ルックスも平凡にも限らず、大言壮語していたそうだ…
話を聞いた女性が、
「…そんな年収がある男性なら、もっと、いい女性と結婚するでしょ?…」
と、話しても、頑として聞き入れなかったそうだ…
普通に考えれば、頭がおかしいの一言だが、たしかに、世の中には、そんな人間も存在する…
だが、そんな人間を知らなければ、
「…ホントにそんな人間が、いるの?…」
とか、
「…矢田は、ウソを言っている…私を騙している…」
としか、言えないだろう…
なにしろ、そう考えるのが、普通だからだ…
要するに、世の中には、色々な人間が、いるということだ…
私と矢口のお嬢様のことを、比べていたが、いつのまにか、話が、別の方向に転んだ…
いつものことだった(笑)…
そして、あのお嬢様…
私が、苦手なのは、あのお嬢様が、策士だからだった…
悪く言えば、ずるがしこい(笑)…
私を身代わりにして、自分の結婚式を隠れ蓑にして、会社の提携の調印を、したのが、その実例だ…
私とお嬢様が、同時に結婚式を挙げる…
すると、まったく同じ顔をした、二人だから、どちらが、本物のお嬢様か、わからない…
どっちが、本物のスーパージャパンのご令嬢の矢口トモコか、わからない…
それを狙って、私を身代わりにした…
結婚式の会場は、同じ…
同じ結婚式場で、同じ時刻に、結婚式を挙げる…
つまり、お嬢様の真の目的に気付いた、スーパージャパンの重役たちが、お嬢様を止めようとしても、どっちの式場に乱入すれば、いいのか、わからなかった…
一か八か…
二つに一つ…
そういうことだ…
こうすれば、お嬢様の狙いに、気付いても、時間を稼ぐことができる…
現に、お嬢様の狙いに気付いた関係者たちは、お嬢様の狙い通りに、間違って、私の結婚式場に、乱入した…
つまり、お嬢様は、そのおかげで、時間を稼ぐことができたのだ…
と、
ここまで、考えて、気付いた…
あのとき、なぜ、お嬢様の結婚式場ではなく、身代わりである、私の結婚式場に、関係者が、殺到したのか?
今、考えれば、謎だ…
もしかしたら?
もしかしたら、あのお嬢様…誰か、関係者の中に、わざと、ミスリードするように、操作する人間を、手配していたのかもしれない…
そう気付いた…
あの混乱の中で、私とお嬢様が、同時に、結婚式を挙げれば、どっちの会場に乱入すれば、よいか、わからない…
判断に苦しむ…
そう言ったときに、誰かが、
「…こっちの会場に行こう…」
とでも、言えば、皆が、そっちの会場に向かう…
どうしても、人間は、混乱していると、正常な判断ができなくなるからだ…
それが、わかっていた、お嬢様は、あらかじめ、そんな人間を、手配して、重役たちの中に潜ませていた…
あるいは、反対する重役たちの中に、事前に、内通者を、潜ませていたのかもしれないと、気付いた…
そして、さらに言えば、その内通者は、おそらく、お嬢様ではなく、お嬢様の実父に頼まれたのかもしれない…
今さらながら、そう気付いた…
私と同じ年代のお嬢様に頼まれても、お嬢様よりも、はるかに、年上の、スーパージャパンの重役たちは、動かないだろう…
しかしながら、お嬢様の実父である、スーパージャパンの社長に頼まれたならば、動くに違いない…
すると、どうだ?
私は、思った…
スーパージャパンの再建策…
あのときは、あのお嬢様が、再建の主役を演じていると、思ったが、実は、違った可能性が高い…
本当は、お嬢様の実父の社長が、陰で、糸を引いていた可能性が高い…
いや、
可能性ではない…
おそらく、それが、事実に違いない…
あるいは、実父の社長でなければ、その妻…
つまりは、お嬢様の母親や、叔父や叔母の可能性が高い…
なぜなら、あのお嬢様の年齢では、何度も言うように、自分より、はるかに年長のスーパージャパンの重役たちを動かすのは無理だからだ…
私は、それに気付いた…
ということは、どうだ?
今回の件…
アラブの王族との接待の件にしても、実は、これは、お嬢様の発案でない可能性もある…
お嬢様の実父や、それ以外の身内の可能性も高い…
私は、そう気付いた…
あのお嬢様が、自分の経営するスーパージャパンに、イスラム教徒が、食するハラールという食材を置くためというのは、わかるが、それが、口実の可能性もある…
考えれば、きりがないが、あのお嬢様が、一筋縄ではいかないところに、さらに、その上がいたのかもしれないと、気付いたのは、痛かった(笑)…
もしかしたら、とんでもないモンスターが出てくるかもしれない…
私は、思った…
あのお嬢様ひとりだけでも、十分、強敵なのに、それ以上の強敵がいては、困る(涙)…
私は、思った…
思いながら、実は、内心、ドキドキした…
それも、面白いかも、と、思ったのだ…
ジェットコースターではないが、ドキドキする…
刺激がある…
どんなモンスターが、あのお嬢様の背後に控えているか、見てみたい気持ちもある(笑)…
いわば、怖いもの見たさ…
子供のような、純粋な好奇心だ(笑)…
あのお嬢様が、誰かの操り人形ならば、そのお嬢様を操っている人間を、見てみたい…
どんな人間が、あのお嬢様を操っているのか、見てみたい…
そういうことだ…
そして、そのお嬢様の背後にいる人間の狙いを知りたい…
当然、アラブの王族の接待に、お嬢様が出席することで、なにか、狙いがあるはずだからだ…
それは、もしかしたら、純粋に、お嬢様が言ったように、ハラールかもしれないし、それ以外に目的があるかもしれないからだ…
いや、
それ以外に、本当の目的が、隠されていても、おかしくはない…
が、
本当のところは、わからない…
ただ、俄然、面白くなってきた…
そんな気がした…
あの私そっくりの外観のお嬢様…
スーパージャパンの、創業者のご令嬢だ…
あの矢口のお嬢様は、外観は、私そっくりだが、中身は、真逆だった…
矢口のお嬢様は、東大卒…
片や、私は、ソニー学園出身…
矢口のお嬢様は、当然、お金持ち…
私は、平凡…平凡な家庭の出身…
が、
とりわけ違うのは、性格だった…
私は、自分でいうのもなんだが、結構器用で、はしっこい…
が、
矢口のお嬢様は、不器用だった(笑)…
自分の父親が、経営するスーパージャパンで、身分を隠して、働いても、終始、トロトロして、使い物にならなかったと、人づてに聞いた…
要するに、頭でっかちというか…
頭は、いいが、その頭の良さを生かすような仕事でないと、使い物にならないということだ(笑)…
スーパーを例にたとえれば、末端で、商品を棚に並べるような仕事は、トロトロして、ちっとも、進まない…
だから、同じ末端でも、スーパーの経営戦略とか、頭を使う難しい部署で、議論をしたり、資料を作るのが、あっていた…
事実、矢口のお嬢様は、実家が、大手の安売りスーパーを経営しているから、そのような仕事に就き、着実に実績を伸ばした…
つまり、東大卒の頭の良さを生かしたということだ…
が、
思えば、それは、ただ単に運がいいの一言…
そんなにうまくゆく人間は少ない…
以前、経済評論家の森永卓郎が言っていたが、自分と同世代の仲間内で、東大を卒業した人間で、成功したと、思われる人間は、わずか二割だと、言っていた…
二割=20%だと、断言していた…
日本で、一番、頭のいい大学を出て、成功したと思えるのは、わずか、20%の人間に過ぎない…
いかに、少ないか?
そう、思える…
矢口のお嬢様の場合は、実家が、大手のスーパーを経営していたから、簡単に、父親が、娘の頭の良さを生かせるような職場に、配属したのだろうが、普通は、それは、無理…
できない…
当たり前だ…
たとえ、東大を出ていても、仮にマクドナルドに入社すれば、最初は、店舗スタッフから、始めろと、言われる…
当たり前だ…
そして、店舗スタッフをすれば、正直、学歴は関係ない…
たとえ、高卒の人間でも、テキパキ動く人間は、いるし、東大を出ているかといって、テキパキ動く高卒の人間に、勝てない東大卒は、多いだろう…
だから、そんな高卒の人間に、
「…アイツは、東大を出ているのに、なんなんだ?…」
と、陰口を叩かれて、落ち込む東大卒の人間は、多いに違いない…
マクドナルドは、わかりやすい例だが、どんな大企業も、最初は、誰もが、末端の仕事から、始めさせる…
すると、当然のことながら、東大を出ても、自分に合わない仕事や、職場が、存在する…
そうなると、地獄になる(涙)…
が、
あの矢口のお嬢様は、そういう心配がないのが、救いだった…
自分の父親が経営する店=会社だったから、職場を選べた…
だから、合わない職場に、長くいることもなく、オサラバできたわけだ…
が、
普通は、そうは、いかない…
だから、自分に合わなければ、誰もが、職場の移動を人事に願い出るか、それが、叶わなければ、転職するか、のどちらかだろう…
が、
さらに言えば、あの矢口のお嬢様は、対人関係が、苦手だった…
他人とうまく、付き合うことができなかった…
他人とうまくつきあえないというのは、職場においては、致命的だ…
職場で、ひとりで、任されてやる仕事は、ないではないが、ごく少数…
大抵が、最低でも、二人で、組んでする仕事が多い…
だから、コミュニケーション能力が、不可欠になる…
学校の勉強では、一人で、やれば、よいが、仕事は、ひとりで、やる仕事は少ない…
そういうことだ…
だから、矢口のお嬢様は、それで、悩んでいたと、聞いた…
だから、考えてみれば、あのとき…
つまりは、スーパージャパンの再建方法を巡って、他の重役たちと、言い争いになり、他の重役たちを説得できないから、お嬢様は、自分の結婚式を隠れ蓑にして、勝手に、他社との提携の調印をしたのだろう…
会社の重役たちと、うまく、コミュニケーションを取れないから、自分勝手に動くしかなかったのだろう…
私は、それを思った…
そして、たしか、あのお嬢様は、私に憧れていると言った…
この矢田トモコに、憧れていると、言った…
理由は、ただ一つ…
私が、他人とコミュニケーションを取るのが、うまいからだ…
あの葉問が、言ったように、私は、他人に好かれる…
なぜか、わからないが、好かれる…
私が、思うに、私が、頼りないのが、一因だろうと、思う…
私は、実は、頼りない…
だから、助けてやろうという人間が、必ず周囲に、存在した…
これが、私とお嬢様の違い(笑)…
また、私は、美人でも、なんでもなかった…
これが、良かった…
美人は、羨ましいが、困ることも、結構多い…
なにより、なにもしていなくても、目立つ…
これが、困る(笑)…
また、美人だと、必ず、それを羨ましく思って、さまざまな、嫌がらせ=イジメを仕掛けてくる同性の女も存在する…
要するに、美人が羨ましいのだ…
だから、美人に生まれると、なにもしなくても、敵を作ることになる…
が、
私は、幸か不幸か、美人に生まれなかった…
それが、幸いした(笑)…
だから、そのような敵はいなかった…
また、なにより、愛想が良かった…
そして、人間が、軽かった…
だから、いつも、矢田ちゃんだった(笑)…
矢田ちゃんと、軽く呼ばれていたから、周囲の人間が、助けてくれたのだ…
これは、ラッキー…
ラッキーこの上なかった…
これが、男ならば、困るかもしれない…
会社に入社して、数年は、それでいいかもしれないが、ずっと、そういうわけにはいかないからだ…
歳を取り、後輩もできたにもかかわらず、いつまでも、矢田ちゃんと軽く呼ばれて、威厳もなにもないのは、困る…
困るに決まっている…
正直、女の私でも、困るが、男は、もっと困るだろう…
やはり、上に上がった以上、威厳は、欠かせないというか…
同じことをやるにしても、威厳があると、周りを説得しやすい…
どうしても、同じことをする場合、誰が、言うか? で、周囲の反応も変わって来るからだ…
はっきり言えば、
○○が言うと、納得しないが、○○が言うと、納得するというか…
仕方ないと思うかもしれないが、納得する…
それは、威厳のせいも、あるし、正直、人間性の部分もあるだろう…
あんな奴に言われても、となることは、誰もが、経験することだからだ…
私が、こんなことを、書くのは、何度も言うように、短大を出て、さまざまな職場を経験したからに、他ならない…
どうしても、一つの職場しか経験しないと、視野が狭くなる…
たとえば、以前の職場で、こんなことがあってと、別の職場の人間にいっても、
「…そんなこと、あるわけないじゃん…」
とか、
「…アンタ…話を盛っているんじゃない?…」
と、言われたこともあるからだ…
どうしても、その職場では、ありえない話だから、信じてもらえないことが、多い…
なぜなら、その職場では、そんな人間は、存在しないからだ…
たとえば、さっき例に挙げた、高卒で、出世を目指した人間のことを言っても、普通に、考えれば、
「…偏差値40の工業高校を出て、出世なんて、できるわけないだろ?…」
と、なる…
だから、
「…そんなヤツ、いるわけないだろ?…」
と、なる…
が、
現実に、私は、そんな人間を知っている…
が、
そんな人間を見たこともなければ、私の話を信じないだろう…
それも、また、よくわかる…
人間は、何事も経験だ…
歳をとって、それがわかって来た…
経験しなければ、どんな話を、聞いても、ホントに、そんなことがあるの? と、眉唾物にしか、聞けないからだ…
だから、同じように、以前、年収400万円の、三十代前半の女性の看護師が、私は、年収一千万円の男としか、結婚しないと、断言したのを、聞いて、呆れたというのを、ネットで、見た…
その看護師は、ルックスも平凡にも限らず、大言壮語していたそうだ…
話を聞いた女性が、
「…そんな年収がある男性なら、もっと、いい女性と結婚するでしょ?…」
と、話しても、頑として聞き入れなかったそうだ…
普通に考えれば、頭がおかしいの一言だが、たしかに、世の中には、そんな人間も存在する…
だが、そんな人間を知らなければ、
「…ホントにそんな人間が、いるの?…」
とか、
「…矢田は、ウソを言っている…私を騙している…」
としか、言えないだろう…
なにしろ、そう考えるのが、普通だからだ…
要するに、世の中には、色々な人間が、いるということだ…
私と矢口のお嬢様のことを、比べていたが、いつのまにか、話が、別の方向に転んだ…
いつものことだった(笑)…
そして、あのお嬢様…
私が、苦手なのは、あのお嬢様が、策士だからだった…
悪く言えば、ずるがしこい(笑)…
私を身代わりにして、自分の結婚式を隠れ蓑にして、会社の提携の調印を、したのが、その実例だ…
私とお嬢様が、同時に結婚式を挙げる…
すると、まったく同じ顔をした、二人だから、どちらが、本物のお嬢様か、わからない…
どっちが、本物のスーパージャパンのご令嬢の矢口トモコか、わからない…
それを狙って、私を身代わりにした…
結婚式の会場は、同じ…
同じ結婚式場で、同じ時刻に、結婚式を挙げる…
つまり、お嬢様の真の目的に気付いた、スーパージャパンの重役たちが、お嬢様を止めようとしても、どっちの式場に乱入すれば、いいのか、わからなかった…
一か八か…
二つに一つ…
そういうことだ…
こうすれば、お嬢様の狙いに、気付いても、時間を稼ぐことができる…
現に、お嬢様の狙いに気付いた関係者たちは、お嬢様の狙い通りに、間違って、私の結婚式場に、乱入した…
つまり、お嬢様は、そのおかげで、時間を稼ぐことができたのだ…
と、
ここまで、考えて、気付いた…
あのとき、なぜ、お嬢様の結婚式場ではなく、身代わりである、私の結婚式場に、関係者が、殺到したのか?
今、考えれば、謎だ…
もしかしたら?
もしかしたら、あのお嬢様…誰か、関係者の中に、わざと、ミスリードするように、操作する人間を、手配していたのかもしれない…
そう気付いた…
あの混乱の中で、私とお嬢様が、同時に、結婚式を挙げれば、どっちの会場に乱入すれば、よいか、わからない…
判断に苦しむ…
そう言ったときに、誰かが、
「…こっちの会場に行こう…」
とでも、言えば、皆が、そっちの会場に向かう…
どうしても、人間は、混乱していると、正常な判断ができなくなるからだ…
それが、わかっていた、お嬢様は、あらかじめ、そんな人間を、手配して、重役たちの中に潜ませていた…
あるいは、反対する重役たちの中に、事前に、内通者を、潜ませていたのかもしれないと、気付いた…
そして、さらに言えば、その内通者は、おそらく、お嬢様ではなく、お嬢様の実父に頼まれたのかもしれない…
今さらながら、そう気付いた…
私と同じ年代のお嬢様に頼まれても、お嬢様よりも、はるかに、年上の、スーパージャパンの重役たちは、動かないだろう…
しかしながら、お嬢様の実父である、スーパージャパンの社長に頼まれたならば、動くに違いない…
すると、どうだ?
私は、思った…
スーパージャパンの再建策…
あのときは、あのお嬢様が、再建の主役を演じていると、思ったが、実は、違った可能性が高い…
本当は、お嬢様の実父の社長が、陰で、糸を引いていた可能性が高い…
いや、
可能性ではない…
おそらく、それが、事実に違いない…
あるいは、実父の社長でなければ、その妻…
つまりは、お嬢様の母親や、叔父や叔母の可能性が高い…
なぜなら、あのお嬢様の年齢では、何度も言うように、自分より、はるかに年長のスーパージャパンの重役たちを動かすのは無理だからだ…
私は、それに気付いた…
ということは、どうだ?
今回の件…
アラブの王族との接待の件にしても、実は、これは、お嬢様の発案でない可能性もある…
お嬢様の実父や、それ以外の身内の可能性も高い…
私は、そう気付いた…
あのお嬢様が、自分の経営するスーパージャパンに、イスラム教徒が、食するハラールという食材を置くためというのは、わかるが、それが、口実の可能性もある…
考えれば、きりがないが、あのお嬢様が、一筋縄ではいかないところに、さらに、その上がいたのかもしれないと、気付いたのは、痛かった(笑)…
もしかしたら、とんでもないモンスターが出てくるかもしれない…
私は、思った…
あのお嬢様ひとりだけでも、十分、強敵なのに、それ以上の強敵がいては、困る(涙)…
私は、思った…
思いながら、実は、内心、ドキドキした…
それも、面白いかも、と、思ったのだ…
ジェットコースターではないが、ドキドキする…
刺激がある…
どんなモンスターが、あのお嬢様の背後に控えているか、見てみたい気持ちもある(笑)…
いわば、怖いもの見たさ…
子供のような、純粋な好奇心だ(笑)…
あのお嬢様が、誰かの操り人形ならば、そのお嬢様を操っている人間を、見てみたい…
どんな人間が、あのお嬢様を操っているのか、見てみたい…
そういうことだ…
そして、そのお嬢様の背後にいる人間の狙いを知りたい…
当然、アラブの王族の接待に、お嬢様が出席することで、なにか、狙いがあるはずだからだ…
それは、もしかしたら、純粋に、お嬢様が言ったように、ハラールかもしれないし、それ以外に目的があるかもしれないからだ…
いや、
それ以外に、本当の目的が、隠されていても、おかしくはない…
が、
本当のところは、わからない…
ただ、俄然、面白くなってきた…
そんな気がした…