第52話
文字数 6,947文字
…ファラドか?…
私は、考えた…
一体、どういう男なのだろう…
いや、
どういう人生を歩んできたのだろう…
私は、思った…
ひとは、生まれつきの能力も、さることながら、環境によっても、性格が、変わる…
当たり前のことだ…
私は、女だが、昔、バイトで、知り会った、こういっては、なんだが、冴えない風采の男が、異常に、美人にこだわるので、
「…どうして、そんなに、美人がいいんだ? 」
と、正面きって、聞いたことがある…
そしたら、その男は、
「…従妹(いとこ)が美人で…」
と、白状した…
「…だから、つい、きれいな女を見ると、比べてしまって…」
と、言い訳した…
私は、その言葉に、驚いたが、ある意味、納得した…
そう言われれば、納得できるからだ…
従妹(いとこ)でも、近所に住む幼馴染(おさななじみ)でも、なんでもいいから、小さきときから、身近に、美人や、イケメンがいたとする…
すると、年頃になると、無意識に、その美人の従妹(いとこ)や、幼馴染(おさななじみ)と、比べてしまうのだろう…
だから、そう説明されれば、納得する…
あるいは、これが、美人=ルックスではなく、頭のいい人間が、身近にいたとする…
それも、同じだ…
すると、やはり、知り会った人間で、頭のいい人間=学歴が高い人間を見ると、自分の見知った学歴の高い人間と、つい比べてしまう…
どっちが、頭がいいのか、つい比べてしまう…
そういうものだ…
まあ、私が、驚いたのは、その風采の上がらない男の口から、
「…実は、従妹(いとこ)が美人で…」
と、いう言葉が出たこともある(笑)…
風采が上がらないが、真面目で、実直な男だったから、おそらくウソはないだろう…
が、
どう見ても、その男を見て、従妹(いとこ)が美人だとは、思えない(笑)…
失礼ながら、その男を見る限り、従妹(いとこ)が美人とは、どうしても、思えないのだ…
残念ながら、それが、真実だ…
従妹(いとこ)だから、父や母の兄弟の子供だから、血筋は、近い…
だから、余計に、そうは、思えないのだ(爆笑)…
が、
実際には、そういうケースも多々あるだろう…
従妹(いとこ)どころか、血の繋がった兄弟姉妹でも、まったく、似ても似つかない兄弟姉妹も、巷(ちまた)にありふれている…
誰にも、わかる例で、いえば、天皇陛下と秋篠宮殿下だ…
顔も身長も、雰囲気すら、まるで、違う…
誰が、見ても、血が繋がった兄弟には、見えない…
同じように、大相撲の若貴兄弟も、とても、血が繋がった兄弟には、見えない…
兄の若乃花と、弟の貴乃花は、誰が見ても、まったく似ていない…
しかしながら、血が繋がった兄弟だ…
だから、その男が、従妹が美人と言ったのも、ウソではないかもしれないが、やはりというか…実際に、見て見ないと、納得できない…
写真や、スマホの画像で、いいから、見て見ないと、納得できない…
そういうことだ(笑)…
話は、若干それたが、つまりは、そういうことだ(笑)…
なにを言いたいかといえば、ファラドが、これまで、どんな人生を歩んで来たのか、まずは、知らなければ、ならない…
簡単にいえば、履歴だ…
ファラドが、どういう環境で、生きてきたかだ…
就職や転職でいえば、履歴書を提出する…
すると、どこそこの高校を出て、どこそこの大学を出たと、書いてある…
それで、まずは、頭の程度がわかる(笑)…
その人間が出た当時の高校やら、大学の偏差値を調べれば、頭の程度が、わかるからだ…
当時と言ったのは、やはり、時代が、変われば、高校でも、大学でも、偏差値が、変わるからだ…
極端な話、30年も40年も前と今では、同じ大学、同じ学部、同じ学科でも、偏差値が違う…
下剋上ではないが、随分違うものだ…
高校に至っては、少子高齢化の影響をもろに受けて、すでに、統合や廃校になった高校も枚挙にいとまがない(笑)…
そして、それを調べれば、とりあえず、頭の程度が、わかる…
さらに、見た目というか…
実際に話して、みて、どういう人間か、確かめる…
というのは、写真=静止画と、動画は、違うと言うか…
実際に会ってみると、印象が、異なる人物も、結構多い…
これは、男女ともいっしょだ…
写真では、無口で、おとなしい印象の人間でも、会ってみると、おしゃべりだったり、軽かったりすることは、結構ある…
だから、本当は、写真=静止画ではなく、動画がいい…
どんな人間だか、わかる…
が、
それは、見た目だけ…
本当は、なにもわからない…
どうして、なにもわからないかと言われれば、長時間接していないからだ…
見るからに、いい加減そうなヤンキー系の男女でも、仕事に真摯に対応する人間もいれば、真逆に、誰が見ても、真面目でも、仕事で、平気で手を抜いたりする、いい加減な人間もいる…
だから、本当のことは、まったくわからない…
ただ、やはりというか、一度会っただけで、この人間は、ヤバいという人間は、必ずいる…
絶対に採用しては、ダメだという人間も確実に存在する…
私自身、会った瞬間、この人間と距離を置かねばと、思った人間は、ごく少数だが、いた…
そして、そういう人間をどうして、採用したのかと問われれば、当時、人手不足だったから…
景気が良かったり、私のいる職場に人手が足りなかったりして、仕方なく採用した…
それが、現実だった…
そして、そんな人間は、少しでも、景気が良くなったり、人手不足が、解消されたりすれば、皆、いなくなった…
クビになった…
要するに、人手が足りないから、採用したので、あって、人手が足りたなら、真っ先に出て行ってもらいたいと、誰もが思う人間たちだからだ…
それをかわいそうと思う人間も、いると、思うが、そういう人間は、実際に接すると、誰もが、嫌な思いをするし、極端にいえば、裸足で逃げ出したくなる(爆笑)…
そういう人間は、おおげさにいえば、死刑囚といっしょ…
仮に、同情しても、自分が、実際に、仕事でも、生活でも、いっしょにすれば、自分が、その職場なり、家からでも、出てゆくか、相手が出てゆくかの二択になる…
嫌われる人間は、どんな学校や職場にいても、嫌われる…
それが、現実だ…
逃げ出さないのは、大抵は、他に行くところが、ないからで、私のように、バイトや契約社員の人間の中には、早々に逃げ出した人間もいた(笑)…
社員やバイトが、逃げ出す会社は、どこも同じ…
会社の待遇が悪かったり、集めた人間のレベルが低かったり…
だから、皆、逃げ出す…
当たり前のことだ…
ファラドは、そういう経験をしたことが、あるのだろうか?
ふと、思った…
やはり、バリバリの筋金入りのお坊ちゃまだから、そういう経験は、ないのだろうか?
思った…
いや、もしかしたら、そういう経験がないから、リンダ・ヘイワースを手に入れようとしているのかもしれない…
生まれたときときから、なんでも、自分が、望めば、手に入った…
そんな恵まれた環境にいるから、簡単にリンダを手入れられると、思ったのかもしれない…
あるいは、
まったく、真逆に、実は、苦労をしていて、偶然、現在の地位を得た…
だから、貧しかった時代には、どうあがいても、手に入らなかったものを、手に入れたいと、思ったのかもしれない…
そうとも、考えられる…
今現在の自分の立ち位置では、簡単に、リンダ・ヘイワースを手に入れられる可能性が高い…
リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボル…
それを、手に入れるのは、トロフィーワイフ…
つまり、トロフィーを、手に入れられるような快感があるのだろう…
優越感があるのだろう…
誰もが、手に入れられないものを、手に入れる…
クルマで、いえば、ファラーリや、ランボルギーニを手に入れるようなもの…
要するに、それを手に入れて、世間に、みせびらかしたいのだ…
なにしろ、ファラドは、リンダと会ったことがない…
普通に考えれば、ファラドの立場ならば、会ったことのない女を手に入れたいなどと、思わない…
ハリウッドのセックス・シンボルだから、手に入れたいのだ…
有名人だから、手に入れたいのだ…
そういうことだ…
普通の男なら、どんな美人でも、口も利いたこともない人間を手に入れたいと、普通は、思わない…
付き合ってみなければ、どんな人間か、さっぱりわからないからだ…
それを無視して、本気で、リンダを手に入れたいと、欲しているのならば、それは、ファラドが、リンダを、フェラーリやランボルギーニと、同じに見ているからに他ならない…
モノとしてしか、見ていないからに他ならない…
私は、思った…
そして、そんな人間は、果たして、リンダを手に入れたとしたら、どうするのだろう?
と、思った…
まさか、コレクションではないから、家に飾っておくわけには、いかない…
またリンダを妻に娶(めと)っても、実は、性格がまったく合わなかったら、どうするのだろう? とも、思った…
それとも、トロフィーワイフだから、ただ誰かに見せびらかすだけだから、いいのだろうか?
今回のように、ファラドが来日したときに、いっしょに、来日して、かつては、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれた、リンダ・ヘイワースが、妻として、やって来ていると、言われれば、宣伝になるから、いいのだろうか?
わからない…
さっぱり、わからない…
そういう狙いで、リンダを妻にしたいと思う男は、確実に、世間に存在する…
が、
ファラドの狙いが、そこにあるのか、どうかは、わからない…
やはりというか、それを知るには、ファラドの過去を知ることに尽きるのではないか?
私は、思った…
そして、夜、自宅で、夕食を共に、食べながら、葉尊に聞いた…
「…なあ、葉尊…」
「…なんですか、お姉さん?…」
「…ファラドのことだが、ファラドって、一体、どういう環境で、育ってきたんだろ?…」
「…なんですか?…いきなり…」
「…いや、今日、昼間、リンダ=ヤンが、自宅に来てな…」
「…ヤンが、この家に?…」
「…そうさ…それで、ファラドのことを、色々話したのさ…」
「…ファラドのことを?…」
「…そうさ…それで、リンダが、怯えていてな…」
「…怯えて?…」
「…そうさ…好きでもない男に狙われてとあっちゃ、誰でも、怯えるだろ…」
「…それは、まあ…」
「…それで、リンダが、帰った後に、私は、考えたのさ…」
「…なにを、考えたんですか?…」
「…ファラドの生い立ちさ…」
「…生い立ち?…」
「…そうさ…一体、ファラドは、どんな環境で、育ったのか、気になってな…」
「…どうして、気になったんですか?…」
「…リンダさ…」
「…リンダ?…」
「…そうさ…ファラドは、リンダ・ヘイワースを手に入れようとしている…それが、本当か、どうかは、ひとまず、置いておいてだ…」
「…」
「…私が、気になったのは、そうやって、リンダを手に入れようとする、ファラドの姿勢さ…」
「…姿勢? …どういう意味ですか?…」
「…ファラドが、生粋のお坊ちゃまで、幼いときから、欲しいものは、なんでも、手に入れられる環境で、育って、その延長で、リンダを手に入れたいのか? それとも…」
「…それとも、なんですか?…」
「…真逆に、小さいときは、それほど、裕福でも、なんでもなく、大人になって、なんでも、手に入れられる環境に、なったから、小さいときは、欲しくても、手に入れられなかった反動で、今は、欲しいものがあれば、なんでも、手に入れようとするのか…そう、考えたのさ…」
私の言葉に、葉尊は、考え込んだ…
しばらく、考え込んだあと、
「…さすがです…お姉さん…その発想はありませんでした…」
と、私に言った…
「…そう、考えれば、確かに、面白くなりますね…」
「…そうだろ?…」
「…ヤン=リンダの立場ならば、面白いと言ったら、怒られますが、ファラドが、どういう育ち方をしてきたのかで、たしかに、リンダへの想いも、わかります…」
葉尊が、勢い込んで言った…
「…たしかに、面白い発想というか、モノの見方ですね…しかし、よく、お姉さんは、そんなことがわかりましたね…」
「…簡単さ…」
「…簡単ですか?…」
「…答えは、バニラさ…」
「…バニラですか?…」
「…そうさ…」
「…バニラが、どうかしたんですか?…」
「…私が、考えたのは、バニラとマリアのことさ…」
「…バニラとマリア? …それが、どうか、したんですか?…」
「…バニラは、アメリカのスラム出身で、苦労してきただろ? …それが、娘のマリアを、セレブの保育園に通わせている…」
「…」
「…つまり、環境が、真逆さ…そして、それが、マリアのために、なるのか、正直、私には、わからんさ…」
「…どうして、わからないんですか?…」
「…お金持ちは、お金持ちの子弟と、交流する…つまりは、今は、言わなくなったが、上流階級というか、今の言葉で、いえば、上級国民さ…」
「…それが、どうか、したんですか?…」
「…それが、一生続けば、いいさ…マリアが、後百年生きて、ずっと、今の暮らしを続けていければ、いいさ…でも、途中で、コケて、平凡な生活を送れと言われれば、できないだろ?…」
「…それは…」
「…いや、できないじゃない…最終的には、やらなければ、ならないのだけれども、そこに至るまでの、葛藤というか…生活レベルを下げるのは、大変なことさ…果たして、バニラはそれが、わかっているのか?…」
「…」
「…バニラがマリアを溺愛するのは、いいさ…自分がした苦労を娘にさせたくないのは、いいさ…でも、バニラだって、苦労から、学んだことだって、いっぱいあるはずさ…そんな苦労も一切させずに、マリアを育てようとするのが、いいことだとは、私は、思わんさ…」
私の言葉に葉尊が考え込んだ…
それから、
「…さすがです…お姉さん…」
と、私を持ち上げた…
「…たいしたことじゃないさ…これは、私が他人だからさ…」
「…他人だから?…」
「…そうさ…自分のこととなると、誰もが、そうもいかなくなる…貧乏だったバニラが、娘を、セレブの保育園に通わせたい気持ちは、わかるさ…わかりやすく言えば、中卒や高卒の息子や娘が、東大に入ったようなものだろ?…自分ができなかったことが、できる…だから、嬉しくて仕方がないさ…」
「…」
「…でも、たとえ、中卒や高卒でも、それぞれ、苦労をしても、そこから、得た経験はあるさ…そして、それは、決して、無駄じゃないはずさ…たいした苦労もせず、大人になって、途中で、人生が、おかしくなったら、大変さ…」
「…」
「…バニラは、スラム出身で、貧乏だったから、たとえ、これから、また金のない暮らしに戻っても、生きてゆけるだろう…それは、言葉は悪いが、雑草の強ささ…」
「…雑草の強さ?…」
「…どんなことがあっても、へこたれない…そんな強ささ…」
「…」
「…そして、それが、今のバニラを作っているというか、根幹をなしている…でも、マリアには、それが、ないさ…」
「…」
「…もっとも、本音をいえば、私には、よくわからないさ…」
「…なにが、わからないんですか?…」
「…才能と環境さ…」
「…どういうことですか?…」
「…今のバニラのことさ…」
「…バニラのこと?…」
「…今のバニラと同じ苦労をして、成功をしても、バニラと真逆に、自分と同じように、普通の保育園に入れる親はいるはずさ…そして、そんな親は、たぶん、没落を恐れているのさ…」
「…没落を恐れている?…」
「…そうさ…セレブの保育園に娘を通わせて、セレブの小学校、中学校に通わせる…でも、途中で、金がなくなり、一般の中学に通わせたりしたら、可哀そうさ…きっと、それを恐れているんだと思う…」
「…」
「…それに、今、言った才能と環境さ…」
「…才能と環境…」
「…そうさ…今のバニラの例でいえば、マリアは、没落すれば、貧乏に耐えられないと思いがちだが、全員がそうじゃないさ…耐えられるヤツもいるはずさ…」
「…」
「…つまり、環境が、どんなに変わっても、平気なヤツは、いるはずさ…そして、それが、才能さ…」
「…」
「…ボクシングや格闘技でも、トレーニングすれば、誰でも、強くなれるんじゃないさ…強くなれるのは、一部の人間のみ…それと同じさ…環境が、どうであろうと、才能があるヤツは、どんなことにも、対応できるさ…」
「…」
「…そして、私の見るところ、マリアはその才能があるさ…」
「…マリアに才能がある?…」
「…そうさ…マリアは、誰とでも、すぐに仲良くなれる…これは、立派な才能さ…その才能が、潰れなければ、いいさ…」
「…潰れる? …どうして、潰れるんですか?…」
「…親が金持ちで、有名人だからさ…子供だから、それを鼻にかけて、増長すれば、友達も離れる…それが、心配さ…」
私は、言った…
すると、葉尊は、なにも、言わなかった…
ずっと、黙り込んでいた…
ただ、
「…お姉さんには、ただ驚かされます…」
と、呟いた…
「…たいしたことは、ないさ…」
私は、言った…
「…バニラは雑草と言ったが、私も雑草さ…そして、雑草は、雑草の強さがある…」
私は、続けた…
私は、考えた…
一体、どういう男なのだろう…
いや、
どういう人生を歩んできたのだろう…
私は、思った…
ひとは、生まれつきの能力も、さることながら、環境によっても、性格が、変わる…
当たり前のことだ…
私は、女だが、昔、バイトで、知り会った、こういっては、なんだが、冴えない風采の男が、異常に、美人にこだわるので、
「…どうして、そんなに、美人がいいんだ? 」
と、正面きって、聞いたことがある…
そしたら、その男は、
「…従妹(いとこ)が美人で…」
と、白状した…
「…だから、つい、きれいな女を見ると、比べてしまって…」
と、言い訳した…
私は、その言葉に、驚いたが、ある意味、納得した…
そう言われれば、納得できるからだ…
従妹(いとこ)でも、近所に住む幼馴染(おさななじみ)でも、なんでもいいから、小さきときから、身近に、美人や、イケメンがいたとする…
すると、年頃になると、無意識に、その美人の従妹(いとこ)や、幼馴染(おさななじみ)と、比べてしまうのだろう…
だから、そう説明されれば、納得する…
あるいは、これが、美人=ルックスではなく、頭のいい人間が、身近にいたとする…
それも、同じだ…
すると、やはり、知り会った人間で、頭のいい人間=学歴が高い人間を見ると、自分の見知った学歴の高い人間と、つい比べてしまう…
どっちが、頭がいいのか、つい比べてしまう…
そういうものだ…
まあ、私が、驚いたのは、その風采の上がらない男の口から、
「…実は、従妹(いとこ)が美人で…」
と、いう言葉が出たこともある(笑)…
風采が上がらないが、真面目で、実直な男だったから、おそらくウソはないだろう…
が、
どう見ても、その男を見て、従妹(いとこ)が美人だとは、思えない(笑)…
失礼ながら、その男を見る限り、従妹(いとこ)が美人とは、どうしても、思えないのだ…
残念ながら、それが、真実だ…
従妹(いとこ)だから、父や母の兄弟の子供だから、血筋は、近い…
だから、余計に、そうは、思えないのだ(爆笑)…
が、
実際には、そういうケースも多々あるだろう…
従妹(いとこ)どころか、血の繋がった兄弟姉妹でも、まったく、似ても似つかない兄弟姉妹も、巷(ちまた)にありふれている…
誰にも、わかる例で、いえば、天皇陛下と秋篠宮殿下だ…
顔も身長も、雰囲気すら、まるで、違う…
誰が、見ても、血が繋がった兄弟には、見えない…
同じように、大相撲の若貴兄弟も、とても、血が繋がった兄弟には、見えない…
兄の若乃花と、弟の貴乃花は、誰が見ても、まったく似ていない…
しかしながら、血が繋がった兄弟だ…
だから、その男が、従妹が美人と言ったのも、ウソではないかもしれないが、やはりというか…実際に、見て見ないと、納得できない…
写真や、スマホの画像で、いいから、見て見ないと、納得できない…
そういうことだ(笑)…
話は、若干それたが、つまりは、そういうことだ(笑)…
なにを言いたいかといえば、ファラドが、これまで、どんな人生を歩んで来たのか、まずは、知らなければ、ならない…
簡単にいえば、履歴だ…
ファラドが、どういう環境で、生きてきたかだ…
就職や転職でいえば、履歴書を提出する…
すると、どこそこの高校を出て、どこそこの大学を出たと、書いてある…
それで、まずは、頭の程度がわかる(笑)…
その人間が出た当時の高校やら、大学の偏差値を調べれば、頭の程度が、わかるからだ…
当時と言ったのは、やはり、時代が、変われば、高校でも、大学でも、偏差値が、変わるからだ…
極端な話、30年も40年も前と今では、同じ大学、同じ学部、同じ学科でも、偏差値が違う…
下剋上ではないが、随分違うものだ…
高校に至っては、少子高齢化の影響をもろに受けて、すでに、統合や廃校になった高校も枚挙にいとまがない(笑)…
そして、それを調べれば、とりあえず、頭の程度が、わかる…
さらに、見た目というか…
実際に話して、みて、どういう人間か、確かめる…
というのは、写真=静止画と、動画は、違うと言うか…
実際に会ってみると、印象が、異なる人物も、結構多い…
これは、男女ともいっしょだ…
写真では、無口で、おとなしい印象の人間でも、会ってみると、おしゃべりだったり、軽かったりすることは、結構ある…
だから、本当は、写真=静止画ではなく、動画がいい…
どんな人間だか、わかる…
が、
それは、見た目だけ…
本当は、なにもわからない…
どうして、なにもわからないかと言われれば、長時間接していないからだ…
見るからに、いい加減そうなヤンキー系の男女でも、仕事に真摯に対応する人間もいれば、真逆に、誰が見ても、真面目でも、仕事で、平気で手を抜いたりする、いい加減な人間もいる…
だから、本当のことは、まったくわからない…
ただ、やはりというか、一度会っただけで、この人間は、ヤバいという人間は、必ずいる…
絶対に採用しては、ダメだという人間も確実に存在する…
私自身、会った瞬間、この人間と距離を置かねばと、思った人間は、ごく少数だが、いた…
そして、そういう人間をどうして、採用したのかと問われれば、当時、人手不足だったから…
景気が良かったり、私のいる職場に人手が足りなかったりして、仕方なく採用した…
それが、現実だった…
そして、そんな人間は、少しでも、景気が良くなったり、人手不足が、解消されたりすれば、皆、いなくなった…
クビになった…
要するに、人手が足りないから、採用したので、あって、人手が足りたなら、真っ先に出て行ってもらいたいと、誰もが思う人間たちだからだ…
それをかわいそうと思う人間も、いると、思うが、そういう人間は、実際に接すると、誰もが、嫌な思いをするし、極端にいえば、裸足で逃げ出したくなる(爆笑)…
そういう人間は、おおげさにいえば、死刑囚といっしょ…
仮に、同情しても、自分が、実際に、仕事でも、生活でも、いっしょにすれば、自分が、その職場なり、家からでも、出てゆくか、相手が出てゆくかの二択になる…
嫌われる人間は、どんな学校や職場にいても、嫌われる…
それが、現実だ…
逃げ出さないのは、大抵は、他に行くところが、ないからで、私のように、バイトや契約社員の人間の中には、早々に逃げ出した人間もいた(笑)…
社員やバイトが、逃げ出す会社は、どこも同じ…
会社の待遇が悪かったり、集めた人間のレベルが低かったり…
だから、皆、逃げ出す…
当たり前のことだ…
ファラドは、そういう経験をしたことが、あるのだろうか?
ふと、思った…
やはり、バリバリの筋金入りのお坊ちゃまだから、そういう経験は、ないのだろうか?
思った…
いや、もしかしたら、そういう経験がないから、リンダ・ヘイワースを手に入れようとしているのかもしれない…
生まれたときときから、なんでも、自分が、望めば、手に入った…
そんな恵まれた環境にいるから、簡単にリンダを手入れられると、思ったのかもしれない…
あるいは、
まったく、真逆に、実は、苦労をしていて、偶然、現在の地位を得た…
だから、貧しかった時代には、どうあがいても、手に入らなかったものを、手に入れたいと、思ったのかもしれない…
そうとも、考えられる…
今現在の自分の立ち位置では、簡単に、リンダ・ヘイワースを手に入れられる可能性が高い…
リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボル…
それを、手に入れるのは、トロフィーワイフ…
つまり、トロフィーを、手に入れられるような快感があるのだろう…
優越感があるのだろう…
誰もが、手に入れられないものを、手に入れる…
クルマで、いえば、ファラーリや、ランボルギーニを手に入れるようなもの…
要するに、それを手に入れて、世間に、みせびらかしたいのだ…
なにしろ、ファラドは、リンダと会ったことがない…
普通に考えれば、ファラドの立場ならば、会ったことのない女を手に入れたいなどと、思わない…
ハリウッドのセックス・シンボルだから、手に入れたいのだ…
有名人だから、手に入れたいのだ…
そういうことだ…
普通の男なら、どんな美人でも、口も利いたこともない人間を手に入れたいと、普通は、思わない…
付き合ってみなければ、どんな人間か、さっぱりわからないからだ…
それを無視して、本気で、リンダを手に入れたいと、欲しているのならば、それは、ファラドが、リンダを、フェラーリやランボルギーニと、同じに見ているからに他ならない…
モノとしてしか、見ていないからに他ならない…
私は、思った…
そして、そんな人間は、果たして、リンダを手に入れたとしたら、どうするのだろう?
と、思った…
まさか、コレクションではないから、家に飾っておくわけには、いかない…
またリンダを妻に娶(めと)っても、実は、性格がまったく合わなかったら、どうするのだろう? とも、思った…
それとも、トロフィーワイフだから、ただ誰かに見せびらかすだけだから、いいのだろうか?
今回のように、ファラドが来日したときに、いっしょに、来日して、かつては、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれた、リンダ・ヘイワースが、妻として、やって来ていると、言われれば、宣伝になるから、いいのだろうか?
わからない…
さっぱり、わからない…
そういう狙いで、リンダを妻にしたいと思う男は、確実に、世間に存在する…
が、
ファラドの狙いが、そこにあるのか、どうかは、わからない…
やはりというか、それを知るには、ファラドの過去を知ることに尽きるのではないか?
私は、思った…
そして、夜、自宅で、夕食を共に、食べながら、葉尊に聞いた…
「…なあ、葉尊…」
「…なんですか、お姉さん?…」
「…ファラドのことだが、ファラドって、一体、どういう環境で、育ってきたんだろ?…」
「…なんですか?…いきなり…」
「…いや、今日、昼間、リンダ=ヤンが、自宅に来てな…」
「…ヤンが、この家に?…」
「…そうさ…それで、ファラドのことを、色々話したのさ…」
「…ファラドのことを?…」
「…そうさ…それで、リンダが、怯えていてな…」
「…怯えて?…」
「…そうさ…好きでもない男に狙われてとあっちゃ、誰でも、怯えるだろ…」
「…それは、まあ…」
「…それで、リンダが、帰った後に、私は、考えたのさ…」
「…なにを、考えたんですか?…」
「…ファラドの生い立ちさ…」
「…生い立ち?…」
「…そうさ…一体、ファラドは、どんな環境で、育ったのか、気になってな…」
「…どうして、気になったんですか?…」
「…リンダさ…」
「…リンダ?…」
「…そうさ…ファラドは、リンダ・ヘイワースを手に入れようとしている…それが、本当か、どうかは、ひとまず、置いておいてだ…」
「…」
「…私が、気になったのは、そうやって、リンダを手に入れようとする、ファラドの姿勢さ…」
「…姿勢? …どういう意味ですか?…」
「…ファラドが、生粋のお坊ちゃまで、幼いときから、欲しいものは、なんでも、手に入れられる環境で、育って、その延長で、リンダを手に入れたいのか? それとも…」
「…それとも、なんですか?…」
「…真逆に、小さいときは、それほど、裕福でも、なんでもなく、大人になって、なんでも、手に入れられる環境に、なったから、小さいときは、欲しくても、手に入れられなかった反動で、今は、欲しいものがあれば、なんでも、手に入れようとするのか…そう、考えたのさ…」
私の言葉に、葉尊は、考え込んだ…
しばらく、考え込んだあと、
「…さすがです…お姉さん…その発想はありませんでした…」
と、私に言った…
「…そう、考えれば、確かに、面白くなりますね…」
「…そうだろ?…」
「…ヤン=リンダの立場ならば、面白いと言ったら、怒られますが、ファラドが、どういう育ち方をしてきたのかで、たしかに、リンダへの想いも、わかります…」
葉尊が、勢い込んで言った…
「…たしかに、面白い発想というか、モノの見方ですね…しかし、よく、お姉さんは、そんなことがわかりましたね…」
「…簡単さ…」
「…簡単ですか?…」
「…答えは、バニラさ…」
「…バニラですか?…」
「…そうさ…」
「…バニラが、どうかしたんですか?…」
「…私が、考えたのは、バニラとマリアのことさ…」
「…バニラとマリア? …それが、どうか、したんですか?…」
「…バニラは、アメリカのスラム出身で、苦労してきただろ? …それが、娘のマリアを、セレブの保育園に通わせている…」
「…」
「…つまり、環境が、真逆さ…そして、それが、マリアのために、なるのか、正直、私には、わからんさ…」
「…どうして、わからないんですか?…」
「…お金持ちは、お金持ちの子弟と、交流する…つまりは、今は、言わなくなったが、上流階級というか、今の言葉で、いえば、上級国民さ…」
「…それが、どうか、したんですか?…」
「…それが、一生続けば、いいさ…マリアが、後百年生きて、ずっと、今の暮らしを続けていければ、いいさ…でも、途中で、コケて、平凡な生活を送れと言われれば、できないだろ?…」
「…それは…」
「…いや、できないじゃない…最終的には、やらなければ、ならないのだけれども、そこに至るまでの、葛藤というか…生活レベルを下げるのは、大変なことさ…果たして、バニラはそれが、わかっているのか?…」
「…」
「…バニラがマリアを溺愛するのは、いいさ…自分がした苦労を娘にさせたくないのは、いいさ…でも、バニラだって、苦労から、学んだことだって、いっぱいあるはずさ…そんな苦労も一切させずに、マリアを育てようとするのが、いいことだとは、私は、思わんさ…」
私の言葉に葉尊が考え込んだ…
それから、
「…さすがです…お姉さん…」
と、私を持ち上げた…
「…たいしたことじゃないさ…これは、私が他人だからさ…」
「…他人だから?…」
「…そうさ…自分のこととなると、誰もが、そうもいかなくなる…貧乏だったバニラが、娘を、セレブの保育園に通わせたい気持ちは、わかるさ…わかりやすく言えば、中卒や高卒の息子や娘が、東大に入ったようなものだろ?…自分ができなかったことが、できる…だから、嬉しくて仕方がないさ…」
「…」
「…でも、たとえ、中卒や高卒でも、それぞれ、苦労をしても、そこから、得た経験はあるさ…そして、それは、決して、無駄じゃないはずさ…たいした苦労もせず、大人になって、途中で、人生が、おかしくなったら、大変さ…」
「…」
「…バニラは、スラム出身で、貧乏だったから、たとえ、これから、また金のない暮らしに戻っても、生きてゆけるだろう…それは、言葉は悪いが、雑草の強ささ…」
「…雑草の強さ?…」
「…どんなことがあっても、へこたれない…そんな強ささ…」
「…」
「…そして、それが、今のバニラを作っているというか、根幹をなしている…でも、マリアには、それが、ないさ…」
「…」
「…もっとも、本音をいえば、私には、よくわからないさ…」
「…なにが、わからないんですか?…」
「…才能と環境さ…」
「…どういうことですか?…」
「…今のバニラのことさ…」
「…バニラのこと?…」
「…今のバニラと同じ苦労をして、成功をしても、バニラと真逆に、自分と同じように、普通の保育園に入れる親はいるはずさ…そして、そんな親は、たぶん、没落を恐れているのさ…」
「…没落を恐れている?…」
「…そうさ…セレブの保育園に娘を通わせて、セレブの小学校、中学校に通わせる…でも、途中で、金がなくなり、一般の中学に通わせたりしたら、可哀そうさ…きっと、それを恐れているんだと思う…」
「…」
「…それに、今、言った才能と環境さ…」
「…才能と環境…」
「…そうさ…今のバニラの例でいえば、マリアは、没落すれば、貧乏に耐えられないと思いがちだが、全員がそうじゃないさ…耐えられるヤツもいるはずさ…」
「…」
「…つまり、環境が、どんなに変わっても、平気なヤツは、いるはずさ…そして、それが、才能さ…」
「…」
「…ボクシングや格闘技でも、トレーニングすれば、誰でも、強くなれるんじゃないさ…強くなれるのは、一部の人間のみ…それと同じさ…環境が、どうであろうと、才能があるヤツは、どんなことにも、対応できるさ…」
「…」
「…そして、私の見るところ、マリアはその才能があるさ…」
「…マリアに才能がある?…」
「…そうさ…マリアは、誰とでも、すぐに仲良くなれる…これは、立派な才能さ…その才能が、潰れなければ、いいさ…」
「…潰れる? …どうして、潰れるんですか?…」
「…親が金持ちで、有名人だからさ…子供だから、それを鼻にかけて、増長すれば、友達も離れる…それが、心配さ…」
私は、言った…
すると、葉尊は、なにも、言わなかった…
ずっと、黙り込んでいた…
ただ、
「…お姉さんには、ただ驚かされます…」
と、呟いた…
「…たいしたことは、ないさ…」
私は、言った…
「…バニラは雑草と言ったが、私も雑草さ…そして、雑草は、雑草の強さがある…」
私は、続けた…