第65話
文字数 5,394文字
…許さん!…
…許さんゾ…マリア…
子供だからと言って、許すわけには、いかん…
いかんのだ…
この矢田トモコに歯向かった覚悟はできているんだろうな?…
私は、言いたかった…
この矢田トモコに逆らう以上、もはや、二度と、マリアとは、遊んでやらん…
もう二度と、面倒をみてやらん…
私は、固く心に、誓った…
誓ったのだ…
すると、
「…矢田…相変わらずだな…」
と、いう声がした…
当然のことながら、声の主は、マイクを握った矢口のお嬢様だった…
…相変わらずとは?…
…一体、どういう意味だ?…
私は、考えた…
そして、壇上の矢口のお嬢様をジッと睨んだ…
「…3歳の幼児でも、自分と対等に接する…決して、上から目線でも、なんでもない…対等…そこに身分の上下はない…」
矢口のお嬢様が、意味深に言った…
私は、すぐに、お嬢様の言葉に、どんな意味があるのか、考えた…
が、
わからんかった(涙)…
すると、
「…曲は、AKBの恋するフォーチュンクッキーだ…矢田…」
と、お嬢様が、言った…
…AKBのフォーチュンクッキーだと?…
私は、考えた…
簡単すぎる…
実に、簡単すぎる…
あの踊りは、初級者の踊り…
誰でも、できる…
一体、どうして?
考えた…
そして、気付いた…
これは、この保育園の園児たちと、踊るのには、打ってつけだと、気付いたのだ…
園児たちは、まだ、子供だから、難しいことは、できない…
が、
いきなり、恋するフォーチュンクッキーの踊りを踊れと言われても、困る…
この矢田トモコとて、どんな踊りか、詳しくは、覚えていない…
私が、そんなことを、考えていると、屈強な男たちが、大型のモニターを、台車に乗せて、運んできた…
そして、壇上に、設置した…
実に、思いがけない展開だった…
まさか、こうもあっけなく、モニターを設置するとは、思わなかったのだ…
園児たちを含めて、見守る父兄の間でも、感嘆の声が上がった…
周囲の人間たちが、ザワザワと騒ぎ出した…
そして、モニターの画面をつけた…
すると、モニターに映ったのは、ファラド…
ファラドだった…
私は、驚いた…
一体、なぜ、ファラドが?
意味がわからなかった…
そして、あのモニターが、ただのテレビではなく、パソコンにつなげていることが、わかった…
だから、ファラドの顔が、映ったのだ…
私は、ファラドの顔を見た…
いや、
私だけではない…
周囲にいる父兄は、全員、ファラドの顔を見た…
モニターの中ではない、実物のファラドの顔を見たのだ…
「…いい男だ…」
声が聞こえた…
ただし、ファラドの声ではなかった…
別の男の声だった…
「…そうは、思わんか?…」
「…ハイ…」
やはり、別の男の声がした…
私は、考えた…
一体、どういうことだ?
ファラドが、映っているにも、かかわらず、ファラドではない、人物たちの声が聞こえる…
つまり、ファラド自身は、なにも言っていない…
これは、一体、どういうことだ?
考えた…
…盗聴?…
あるいは、
…盗撮?…
ふと、気付いた…
だから、ファラド自身の声が、聞こえてこないのだ…
「…リンダ・ヘイワース…あの女をどう思う?…」
「…美人ですね…」
「…そうだな…なにしろ、ハリウッドのセックス・シンボルだ…」
「…ハイ…」
「…実物を見てみたいものだ…」
「…」
「…それには、どうすればいい?…」
「…殿下のお力ならば、簡単に会うことができるでしょ? ハリウッドに人脈もある…」
「…それでは、つまらん…どこかのパーティーで、会うのは、誰にもできることだ…」
「…」
「…知恵を出せ…」
私は、その声を聞いていて、ふと、気付いた…
どこかで、聞いたことのある声だと、気付いたのだ…
…あの声は、たしか?…
成人した大人の声ではない…
むしろ、子供…
まるで、大人になってない、子供の声だ…
なぜなら、甲高い…
子供の声特有の、甲高い声だからだ…
あの声は、たしか?…
私が、考え込んでいると、
「…オスマン…あの声は、オスマンの声…」
突然、マリアが言った…
言ったのだ…
私は、驚いた…
驚いたのだ…
まさか、ここで、あのオスマンの名前が出るとは、思わなかったからだ…
だが、たしかに、あの声は、オスマンだった…
オスマン殿下だった…
だから、子供たちが、驚いて、オスマンを見た…
見たのだ…
そして、それは、父兄たちも同じだった…
おそらく、父兄たちは、オスマンのことを、知らなかったのかもしれない…
が、
子供たちが、皆、オスマンを見ているので、それに気付いたのだ…
園児たちが、皆、オスマンを見ているからだ…
「…な、なんだ、なにを言っている?…」
オスマンが、声を上げた…
「…たしかに、ボクの声に似ているが…」
オスマンが、言った…
「…ボクが、リンダなんとかと、会いたいというわけはない…」
オスマンが、抗議する…
「…子供のボクが…」
そう言われると、納得した…
たしかに、モニターの声は、オスマンの声に似ている…
が、
話の内容は、子供ではない…
なにしろ、3歳の幼児が、リンダ・ヘイワースに会いたいと、言っているのは、おかしい…
おかし過ぎる…
リンダに憧れるのは、大人…
成人男子だ…
仮に、成人…二十歳になっていなくても、性に関心を持つ年頃の男…
つまりは、中学生以上…
なにしろ、相手は、ハリウッドのセックス・シンボルだ…
色っぽい…
色気全開の女だ…
それに、憧れるのは、普通に考えて、ティーンエイジャーになっている必要がある…
それを、考えれば、いかに、モニターから、流れてきた声が、オスマンに似ていても、オスマンのわけがなかった…
3歳の子供が、リンダ・ヘイワースに、興味を持つはずが、ないからだ…
私が、そんなことを、思っていると、
「…やっと、わかった…」
という声が聞こえた…
声の主は、またも、他ならぬ、マリアだった…
「…オスマン…アンタ、子供じゃないでしょ?…」
…子供じゃない?…
…一体、どういう意味だ?…
「…いつも、上から目線で、威張ってる…まるで、パパやママみたい…大人で、上から目線でないのは、矢田ちゃんだけ…」
マリアが言った…
…矢田ちゃんだけ?…
…私だけ?…
…どうして、私だけなんだ?…
私が、考え込んでいると、マリアが、
「…矢田ちゃんは、子供…外見は、大人だけれども、中身は、子供…真逆に、オスマン…アンタは、外見は、子供だけれども、中身は、大人…だから、いつも、上から目線…やっと、気付いた…」
マリアが一気にまくしたてるように、言った…
さすが、マリア…
私が面倒をみてきた甲斐はある…
賢い子供だ…
よくぞ、オスマンの中身を見抜いた…
いや、
外見が子供で、中身が、大人の人間なんて、そもそもいるのか?
謎だった…
いや、
問題は、それだけではない…
なぜ、この矢田トモコが、外見が大人で、中身が、子供なんだ?
そんなバカなことは、あるまい…
この矢田トモコは、外見も中身も大人…
立派な大人だ…
大人でなければ、こんな巨乳であるわけがない…
胸が大きくなるはずがない…
私は、思った…
思ったのだ…
すると、隣で、ヤン=リンダが、
「…もしかして、あのオスマンって子供は、小人症(こびとしょう)…」
と、声を上げた…
いきなり、言った…
「…小人症(こびとしょう)だと? …一体、それは、なんだ?…」
私は、聞いた…
ヤンに聞いたのだ…
「…小人症(こびとしょう)…つまり、大人になれない…」
「…大人になれないだと? …どういう意味だ?…」
「…身長が伸びない…カラダが、大きくなれない…顔も子供のまま…だから、本当は、たとえば、お姉さんと同じ、35歳でも、見かけは、3歳のまま…」
「…なんだと…そんなバカな?…」
私は、言った…
言ったのだ…
そして、さらに、ヤン=リンダに質問しようとしたら、ヤン=リンダが、
「…でしょ?…」
と、ファラドに、言った…
いや、
聞いた…
ファラドは、苦笑するのみだった…
「…まあ、アナタの立場では、なにも言えないのかもしれないけれども…」
「…なんだと、どういう意味だ?…」
私は、ヤンに聞いた…
が、
ヤンは、私を無視した…
この矢田トモコを無視した…
「…今日の、この騒動の主役というか、首謀者は、案外、アナタじゃない…ファラド…あの坊やのわがままに付き合うのは、御免で、この騒動を仕掛けたんじゃない…」
ヤン=リンダの問いかけに、
「…ご想像にお任せする…」
と、言って、ファラドは、それ以上、なにも言わなかった…
が、
口元は、明らかに、緩んでいた…
だから、ヤン=リンダの指摘が、正しいことを示していた…
いや、
仮に、ヤン=リンダの言葉が、すべて正しくなくても、大方は正しいのだろう…
私は、そう見た…
私は、そう睨んだ…
この矢田トモコ、35歳…
ボンクラではない…
ただの胸の大きな女ではない…
女は、胸が大きければ、頭が悪いと、言われた時代があった…
そういう世間の風潮があった…
たしかに、それに当てはまる女もいるだろう…
だが、
それは、この矢田トモコには、当てはまらない…
この矢田トモコを見れば、それが、間違いであることが、気付く…
だから、胸が大きいからと言って、この矢田トモコを舐めてもらっては、困る…
甘く見て、もらっては、困るのだ…
私が、そんなことを、考えていると、マリアが、オスマンに、
「…オスマン…アンタ…本当のことを、言いなさい…」
と、言って、迫っていた…
マリアは、子供ながら、凄い迫力だった…
母親のバニラを彷彿させる迫力だった…
とても、3歳の幼児には、思えない…
私は、驚いた…
驚いたのだ…
なにに、驚いたかといえば、私は、マリアの姿に、母親のバニラを重ねたのだ…
ヤンキー上がりのバニラを重ねたのだ…
あのバカ、バニラを重ねたのだ…
だから、マリアも、母親のバニラと同じで、バカなのか?
とも、思ったが、今、考えたのは、そうではない…
このマリアも、本質は、母親のバニラ同様、ヤンキーでは? と、気付いたのだ…
3歳ながら、この迫力…
ただ者では、なかった…
ただ者では、なかったのだ…
私が、驚いて、マリアを見ていると、マリアは、スタスタと、オスマンの元へ、歩いて、行った…
それから、オスマンの前に立ち、
「…本当のことを、言いなさい…」
と、迫った…
私は、急いで、オスマンを見た…
オスマンが、どういう表情をしているか、気になったからだ…
オスマンは、明らかに、たじろいでいた…
いや、
マリアの迫力に、圧倒されたといっていい…
「…言いなさいよ…」
マリアが、なおもオスマンに迫った…
迫ったのだ…
まるで、オスマンの奥さんか、なにかだった…
夫の不倫=浮気が、発覚して、
「…アナタ…本当のことを、言いなさい…」
と、迫る、妻のようだった…
わずか、3歳にも、かかわらず、マリアのこの迫力…
オスマンが、本当は、何歳か、さっぱりわからんが、すでに、勝負があった感じだった…
勝負が、ついた感じだった(爆笑)…
「…これだから、お子様は、困る…」
と、オスマンが、ため息をついた…
「…だから、お子様は、嫌なんだ…」
それは、オスマンが、大人で、あることを、婉曲に、認めたも、同然だった…
間接的に、認めたも、同然だった…
「…マリアは、いくらキレイでも、子供…子供だ…」
オスマンが、愚痴る…
「…だが、どこか、リンダに似ている…リンダ・ヘイワースに似ている…だから、マリアを見て、リンダも、子供時代は、きっと、こうだったんだろうな? と、思って、憧れた…好きになった…」
オスマンが、告白した…
私は、そんなオスマンの告白を聞いて、思い出した…
今日、この保育園にやって来たときに、ファラドが、
「…オスマン殿下は、いつも、こうして、マリアさんが、来るのを待っている…」
と、言った言葉を、だ…
つまり、マリアが、クルマで、保育園にやって来るのを、自分も、クルマの中で、待っている…
マリアが、やって来るまで、ずっと待っている…
それは、子供ながら、好きな女の子が、来るのを、待っていると、思ったのだ…
そして、マリアの母のバニラ…
あのバカ、バニラは、素顔は、リンダ…リンダ・ヘイワースと似ている…
バニラの方が、リンダよりも、身長が、少し高いが、顔立ちが、似ている…
要するに、バニラとリンダは、スッピンは、似ているが、メイクと、売り方が、違うだけ…
リンダは、おとなしめ…
バニラは、ヤンキー系で、野性的なイメージで、売っているからだ…
だから、オスマンが、マリアを見て、リンダを思い浮かべるのは、わかる…
マリアが、リンダの子供時代の顔と、考えても、おかしくはないからだ…
私は、そんなことを、考えた…
考えたのだ…
と、
そのときに、父兄の間から、悲鳴というか、歓声が上がった…
私は、何事かと、思って、父兄が、見る方向を見た…
私の細い目を、さらに細めて、見たのだ…
と、
そこには、深紅のドレスをまとったリンダ…
リンダ・ヘイワースが、立っていた…
…許さんゾ…マリア…
子供だからと言って、許すわけには、いかん…
いかんのだ…
この矢田トモコに歯向かった覚悟はできているんだろうな?…
私は、言いたかった…
この矢田トモコに逆らう以上、もはや、二度と、マリアとは、遊んでやらん…
もう二度と、面倒をみてやらん…
私は、固く心に、誓った…
誓ったのだ…
すると、
「…矢田…相変わらずだな…」
と、いう声がした…
当然のことながら、声の主は、マイクを握った矢口のお嬢様だった…
…相変わらずとは?…
…一体、どういう意味だ?…
私は、考えた…
そして、壇上の矢口のお嬢様をジッと睨んだ…
「…3歳の幼児でも、自分と対等に接する…決して、上から目線でも、なんでもない…対等…そこに身分の上下はない…」
矢口のお嬢様が、意味深に言った…
私は、すぐに、お嬢様の言葉に、どんな意味があるのか、考えた…
が、
わからんかった(涙)…
すると、
「…曲は、AKBの恋するフォーチュンクッキーだ…矢田…」
と、お嬢様が、言った…
…AKBのフォーチュンクッキーだと?…
私は、考えた…
簡単すぎる…
実に、簡単すぎる…
あの踊りは、初級者の踊り…
誰でも、できる…
一体、どうして?
考えた…
そして、気付いた…
これは、この保育園の園児たちと、踊るのには、打ってつけだと、気付いたのだ…
園児たちは、まだ、子供だから、難しいことは、できない…
が、
いきなり、恋するフォーチュンクッキーの踊りを踊れと言われても、困る…
この矢田トモコとて、どんな踊りか、詳しくは、覚えていない…
私が、そんなことを、考えていると、屈強な男たちが、大型のモニターを、台車に乗せて、運んできた…
そして、壇上に、設置した…
実に、思いがけない展開だった…
まさか、こうもあっけなく、モニターを設置するとは、思わなかったのだ…
園児たちを含めて、見守る父兄の間でも、感嘆の声が上がった…
周囲の人間たちが、ザワザワと騒ぎ出した…
そして、モニターの画面をつけた…
すると、モニターに映ったのは、ファラド…
ファラドだった…
私は、驚いた…
一体、なぜ、ファラドが?
意味がわからなかった…
そして、あのモニターが、ただのテレビではなく、パソコンにつなげていることが、わかった…
だから、ファラドの顔が、映ったのだ…
私は、ファラドの顔を見た…
いや、
私だけではない…
周囲にいる父兄は、全員、ファラドの顔を見た…
モニターの中ではない、実物のファラドの顔を見たのだ…
「…いい男だ…」
声が聞こえた…
ただし、ファラドの声ではなかった…
別の男の声だった…
「…そうは、思わんか?…」
「…ハイ…」
やはり、別の男の声がした…
私は、考えた…
一体、どういうことだ?
ファラドが、映っているにも、かかわらず、ファラドではない、人物たちの声が聞こえる…
つまり、ファラド自身は、なにも言っていない…
これは、一体、どういうことだ?
考えた…
…盗聴?…
あるいは、
…盗撮?…
ふと、気付いた…
だから、ファラド自身の声が、聞こえてこないのだ…
「…リンダ・ヘイワース…あの女をどう思う?…」
「…美人ですね…」
「…そうだな…なにしろ、ハリウッドのセックス・シンボルだ…」
「…ハイ…」
「…実物を見てみたいものだ…」
「…」
「…それには、どうすればいい?…」
「…殿下のお力ならば、簡単に会うことができるでしょ? ハリウッドに人脈もある…」
「…それでは、つまらん…どこかのパーティーで、会うのは、誰にもできることだ…」
「…」
「…知恵を出せ…」
私は、その声を聞いていて、ふと、気付いた…
どこかで、聞いたことのある声だと、気付いたのだ…
…あの声は、たしか?…
成人した大人の声ではない…
むしろ、子供…
まるで、大人になってない、子供の声だ…
なぜなら、甲高い…
子供の声特有の、甲高い声だからだ…
あの声は、たしか?…
私が、考え込んでいると、
「…オスマン…あの声は、オスマンの声…」
突然、マリアが言った…
言ったのだ…
私は、驚いた…
驚いたのだ…
まさか、ここで、あのオスマンの名前が出るとは、思わなかったからだ…
だが、たしかに、あの声は、オスマンだった…
オスマン殿下だった…
だから、子供たちが、驚いて、オスマンを見た…
見たのだ…
そして、それは、父兄たちも同じだった…
おそらく、父兄たちは、オスマンのことを、知らなかったのかもしれない…
が、
子供たちが、皆、オスマンを見ているので、それに気付いたのだ…
園児たちが、皆、オスマンを見ているからだ…
「…な、なんだ、なにを言っている?…」
オスマンが、声を上げた…
「…たしかに、ボクの声に似ているが…」
オスマンが、言った…
「…ボクが、リンダなんとかと、会いたいというわけはない…」
オスマンが、抗議する…
「…子供のボクが…」
そう言われると、納得した…
たしかに、モニターの声は、オスマンの声に似ている…
が、
話の内容は、子供ではない…
なにしろ、3歳の幼児が、リンダ・ヘイワースに会いたいと、言っているのは、おかしい…
おかし過ぎる…
リンダに憧れるのは、大人…
成人男子だ…
仮に、成人…二十歳になっていなくても、性に関心を持つ年頃の男…
つまりは、中学生以上…
なにしろ、相手は、ハリウッドのセックス・シンボルだ…
色っぽい…
色気全開の女だ…
それに、憧れるのは、普通に考えて、ティーンエイジャーになっている必要がある…
それを、考えれば、いかに、モニターから、流れてきた声が、オスマンに似ていても、オスマンのわけがなかった…
3歳の子供が、リンダ・ヘイワースに、興味を持つはずが、ないからだ…
私が、そんなことを、思っていると、
「…やっと、わかった…」
という声が聞こえた…
声の主は、またも、他ならぬ、マリアだった…
「…オスマン…アンタ、子供じゃないでしょ?…」
…子供じゃない?…
…一体、どういう意味だ?…
「…いつも、上から目線で、威張ってる…まるで、パパやママみたい…大人で、上から目線でないのは、矢田ちゃんだけ…」
マリアが言った…
…矢田ちゃんだけ?…
…私だけ?…
…どうして、私だけなんだ?…
私が、考え込んでいると、マリアが、
「…矢田ちゃんは、子供…外見は、大人だけれども、中身は、子供…真逆に、オスマン…アンタは、外見は、子供だけれども、中身は、大人…だから、いつも、上から目線…やっと、気付いた…」
マリアが一気にまくしたてるように、言った…
さすが、マリア…
私が面倒をみてきた甲斐はある…
賢い子供だ…
よくぞ、オスマンの中身を見抜いた…
いや、
外見が子供で、中身が、大人の人間なんて、そもそもいるのか?
謎だった…
いや、
問題は、それだけではない…
なぜ、この矢田トモコが、外見が大人で、中身が、子供なんだ?
そんなバカなことは、あるまい…
この矢田トモコは、外見も中身も大人…
立派な大人だ…
大人でなければ、こんな巨乳であるわけがない…
胸が大きくなるはずがない…
私は、思った…
思ったのだ…
すると、隣で、ヤン=リンダが、
「…もしかして、あのオスマンって子供は、小人症(こびとしょう)…」
と、声を上げた…
いきなり、言った…
「…小人症(こびとしょう)だと? …一体、それは、なんだ?…」
私は、聞いた…
ヤンに聞いたのだ…
「…小人症(こびとしょう)…つまり、大人になれない…」
「…大人になれないだと? …どういう意味だ?…」
「…身長が伸びない…カラダが、大きくなれない…顔も子供のまま…だから、本当は、たとえば、お姉さんと同じ、35歳でも、見かけは、3歳のまま…」
「…なんだと…そんなバカな?…」
私は、言った…
言ったのだ…
そして、さらに、ヤン=リンダに質問しようとしたら、ヤン=リンダが、
「…でしょ?…」
と、ファラドに、言った…
いや、
聞いた…
ファラドは、苦笑するのみだった…
「…まあ、アナタの立場では、なにも言えないのかもしれないけれども…」
「…なんだと、どういう意味だ?…」
私は、ヤンに聞いた…
が、
ヤンは、私を無視した…
この矢田トモコを無視した…
「…今日の、この騒動の主役というか、首謀者は、案外、アナタじゃない…ファラド…あの坊やのわがままに付き合うのは、御免で、この騒動を仕掛けたんじゃない…」
ヤン=リンダの問いかけに、
「…ご想像にお任せする…」
と、言って、ファラドは、それ以上、なにも言わなかった…
が、
口元は、明らかに、緩んでいた…
だから、ヤン=リンダの指摘が、正しいことを示していた…
いや、
仮に、ヤン=リンダの言葉が、すべて正しくなくても、大方は正しいのだろう…
私は、そう見た…
私は、そう睨んだ…
この矢田トモコ、35歳…
ボンクラではない…
ただの胸の大きな女ではない…
女は、胸が大きければ、頭が悪いと、言われた時代があった…
そういう世間の風潮があった…
たしかに、それに当てはまる女もいるだろう…
だが、
それは、この矢田トモコには、当てはまらない…
この矢田トモコを見れば、それが、間違いであることが、気付く…
だから、胸が大きいからと言って、この矢田トモコを舐めてもらっては、困る…
甘く見て、もらっては、困るのだ…
私が、そんなことを、考えていると、マリアが、オスマンに、
「…オスマン…アンタ…本当のことを、言いなさい…」
と、言って、迫っていた…
マリアは、子供ながら、凄い迫力だった…
母親のバニラを彷彿させる迫力だった…
とても、3歳の幼児には、思えない…
私は、驚いた…
驚いたのだ…
なにに、驚いたかといえば、私は、マリアの姿に、母親のバニラを重ねたのだ…
ヤンキー上がりのバニラを重ねたのだ…
あのバカ、バニラを重ねたのだ…
だから、マリアも、母親のバニラと同じで、バカなのか?
とも、思ったが、今、考えたのは、そうではない…
このマリアも、本質は、母親のバニラ同様、ヤンキーでは? と、気付いたのだ…
3歳ながら、この迫力…
ただ者では、なかった…
ただ者では、なかったのだ…
私が、驚いて、マリアを見ていると、マリアは、スタスタと、オスマンの元へ、歩いて、行った…
それから、オスマンの前に立ち、
「…本当のことを、言いなさい…」
と、迫った…
私は、急いで、オスマンを見た…
オスマンが、どういう表情をしているか、気になったからだ…
オスマンは、明らかに、たじろいでいた…
いや、
マリアの迫力に、圧倒されたといっていい…
「…言いなさいよ…」
マリアが、なおもオスマンに迫った…
迫ったのだ…
まるで、オスマンの奥さんか、なにかだった…
夫の不倫=浮気が、発覚して、
「…アナタ…本当のことを、言いなさい…」
と、迫る、妻のようだった…
わずか、3歳にも、かかわらず、マリアのこの迫力…
オスマンが、本当は、何歳か、さっぱりわからんが、すでに、勝負があった感じだった…
勝負が、ついた感じだった(爆笑)…
「…これだから、お子様は、困る…」
と、オスマンが、ため息をついた…
「…だから、お子様は、嫌なんだ…」
それは、オスマンが、大人で、あることを、婉曲に、認めたも、同然だった…
間接的に、認めたも、同然だった…
「…マリアは、いくらキレイでも、子供…子供だ…」
オスマンが、愚痴る…
「…だが、どこか、リンダに似ている…リンダ・ヘイワースに似ている…だから、マリアを見て、リンダも、子供時代は、きっと、こうだったんだろうな? と、思って、憧れた…好きになった…」
オスマンが、告白した…
私は、そんなオスマンの告白を聞いて、思い出した…
今日、この保育園にやって来たときに、ファラドが、
「…オスマン殿下は、いつも、こうして、マリアさんが、来るのを待っている…」
と、言った言葉を、だ…
つまり、マリアが、クルマで、保育園にやって来るのを、自分も、クルマの中で、待っている…
マリアが、やって来るまで、ずっと待っている…
それは、子供ながら、好きな女の子が、来るのを、待っていると、思ったのだ…
そして、マリアの母のバニラ…
あのバカ、バニラは、素顔は、リンダ…リンダ・ヘイワースと似ている…
バニラの方が、リンダよりも、身長が、少し高いが、顔立ちが、似ている…
要するに、バニラとリンダは、スッピンは、似ているが、メイクと、売り方が、違うだけ…
リンダは、おとなしめ…
バニラは、ヤンキー系で、野性的なイメージで、売っているからだ…
だから、オスマンが、マリアを見て、リンダを思い浮かべるのは、わかる…
マリアが、リンダの子供時代の顔と、考えても、おかしくはないからだ…
私は、そんなことを、考えた…
考えたのだ…
と、
そのときに、父兄の間から、悲鳴というか、歓声が上がった…
私は、何事かと、思って、父兄が、見る方向を見た…
私の細い目を、さらに細めて、見たのだ…
と、
そこには、深紅のドレスをまとったリンダ…
リンダ・ヘイワースが、立っていた…