第2話

文字数 7,476文字

 …金儲けの匂いがする…

 いい匂いがする…

 私にとっては、うな重の匂いよりも、いい匂いだった…

 シャネルの№5に匹敵する匂いだった…

 私は、それを嗅ぎ付けると、ニンマリとした…

 なにしろ、働かずとも、大金が手に入る機会を得たのだ…

 私が、それを知ると、まるで、天国にいるような気分になった…

 文字通り、夢見心地になったのだ…

 それに、気付いたのだろう…

 「…お姉さん…なんだか、嬉しそうね…」

 と、バニラが言った…

 「…そんなことは、ないさ…」

 私は、慌てて、否定した…

 私の心の内が、バレるのは、マズい…

 まだ、バレては、ならない…

 最初の内は、否定して、後で、たんまり、お礼の金をせしめてやろうと、思ったのだ…

 「…まさか、お姉さん…」

 と、バニラが続けた…

 「…なにが、まさか、だ?…」

 私は、訊いた…

 「…まさか、お姉さん…また、よからぬことを、考えてるんじゃ、ないでしょうね…」

 「…よからぬことって、なんだ?…」

 「…例えば、リンダの苦境を救って、あげて、お礼に、お金を、もらうとか…」

 「…そんなことはないさ…」

 私は、慌てて、否定した…

 バレてる!…

 私が、なにを考えているか、バレている!…

 まったく、油断も隙もない女だ!…

 私は、思った…

 だが、

 考えてみれば、このバニラ…

 バニラ・ルインスキーは、元々、油断も隙もない、したたかな女だった…

 リンダ同様、世界中の男の憧れにもかかわらず、実は、しっかりと、子持ちのお母さんだった…

 それを隠して、モデルを続けている…

 だから、考えように、よっては、実にしたたかな女だった…

 なにしろ、自分に憧れた世界中の男を騙しているわけだ…

 それに比べれば、この矢田トモコの目論見など、可愛いものだった…

 ただ、ちょっぴり、お礼に、金をもらうだけだ…

 本当に、ちょっぴり、もらうだけだ…

 大した金額ではない…

 脳裏に浮かんだのは、たった百万だった…

 このリンダや、バニラにとっては、百万なんて、数時間働ければ、得られる金額だ…

 あるいは、一時間もかかわらないかもしれない…

 だが、

 この矢田トモコにとっては、違う…

 一日8時間、汗水、働いても、時給が、千円ちょっと…

 たかだか、千円ちょっとだ…

 片や、時給、百万…

 片や、時給、千円ちょっと、だ…

 世の中、なにかが、間違っている…

 私は、思った…

 だが、

 これが、現実だった…

 世の中の現実だった…

 これを読む、読者の中にも、世の理不尽さを、知っている者も多いだろう…

 私の話が、よくわからなければ、テレビを見れば、わかる…

 テレビに映った若いタレントを見れば、男女を問わず、街中で、偶然、見かけた、素人の男女と、どれほどの違いが、あるのか? と、首をひねることがある…

 だが、

 一方は、年収が、数千万…

 素人は、年収は、若ければ、5百万にも、達しないだろう…

 それが、現実だ…

 要は、運勢が違うのだろう…

 運命が違うのだろう…

 最近は、そう思うように、なった…

 金持ちに生まれるか、否か…

 美人に生まれるか、否か…

 背が高く、生まれるか、否か…

 頭が良く、生まれるか、否か…

 それは、誰にも、わからない…

 それと、同じだ…

 運命や運勢というものが、本当にあるのか、どうかは、わからないが、私自身に限っていえば、運命が激変した…

 台湾の大企業、台北筆頭のCEО、葉敬の息子、葉尊と、結婚して、日本の大企業、クール社長夫人になった…

 ありえない展開だった…

 つい最近まで、フリーター生活をしていた私が、大企業の社長夫人だ…

 まさに、シンデレラ…

 現代のシンデレラだった…

 玉の輿に乗ったのだ…

 それを知った、マスコミは、私を、

 …35歳のシンデレラ…

 と、命名した…

 私が、35歳で、玉の輿に乗ったからだ…

 運命が、激変したからだ…

 そして、今、この、

 リンダ・ヘイワース…

 バニラ・ルインスキー…

 という、世界に名の知れた二人の美女といっしょにいる…

 まさに、ありえないことだった…

 だが、

 この美女、二人を見ていて、最初は、戸惑ったが、やはり、さっきの一般の日本人と芸能人との違いと同じだと、悟った…

 どういうことかと、言えば、二人とも、確かに、美しいが、ネットで、外国の美人を検索すれば、やはり、キレイだと、ため息をつく、美人も、それなりに、いるからだ…

 だから、ただ美人に生まれても、ダメだと、思った…

 やはり、運がある…

 いくら美人に生まれても、世間に知られるような有名人になれるのは、稀だし、ほんの一握りに過ぎない…

 運に恵まれた、ほんの一握りの人間に過ぎない…

 私は、そう思うように、なった…

 これは、おおげさに、言えば、この天下の美女二人と接して、わかった、私の結論だった…

 矢田トモコ、35歳の結論だった…

 私が、そんなことを、考えていると、

 「…お姉さん…」

 と、いきなり、リンダが、私の名前を呼んだ…

 「…なんだ?…」

 「…お姉さん…こんなところで、油を売っていて、いいの?…」

 「…どういう意味だ?…」

 「…さっき、言った、アラブの王族の接待、クールも絡んでいるのよ…」

 「…クールが?…」

 私は、驚いた…

 まさか、クールの名前が、ここで、出るとは、思わなかった…

 まさに、まさか、だ…

 「…ほら、私、リンダ・ヘイワースの日本での活動は、葉尊の父の葉敬の影響もあって、葉尊も絡んでくるというか…」

 「…」

 「…とにかく、アラブの王族が、来日して、私に会いたいとなると、必ず、クールが、一枚噛むようにしているの…」

 「…クールが?…」

 「…そう…葉敬は、商売人でしょ? …だから、私目当てに、来日すれば、自分の会社である、クールも、なにか、商売にならないか、考えているの?…」

 「…でも…そんなに、簡単に商売になるのか?…」

 「…クールは、日本の大企業でしょ? …その技術力には、定評がある…アラブは、いずれ、石油が枯渇するでしょ? …だから、その前に、手を打たないとならない…」

 「…手? …どんな手だ?…」

 「…石油に頼らないエネルギーの確保…太陽光発電なんて、最適でしょ?…」

 「…」

 「…クールは、その分野の最先端の技術力も持っている…」

 「…」

 「…でも、それだけじゃない…」

 「…どういう意味だ?…」

 「…アラブで、石油が、枯渇したら、どうやって、生活をしていくの? …無くなった後の産業の育成もある…」

 「…」

 「…そこで、例えば、クールの最先端の技術力を結集した工場があってもいい…」

 「…」

 「…とにかく、アラブもまだ、石油が無くなった後、どうするか、手探りの状態みたい…だから、いろんな選択肢を用意して、さまざまなプロジェクトを提案しているの…」

 …そうか…

 …そうだったのか?…

 私は、驚いた…

 まさか、たかだか、アラブの王族の来日に、そんな深い意図があったとは?…

 この矢田トモコ、35歳…

 まだまだだな…

 遅ればせながら、自分の未熟さを思った…

 すると、リンダが、舌を出して、

 「…なーんちゃって…今のは、これすべて、葉尊の受け売りだけれどもね…」

 「…葉尊の?…」

 「…この前、聞いたの?…」

 「…そうか…」

 私は、頷いた…

 このリンダと、葉尊は、幼馴染(おさななじみ)…

 昔から、仲がいい…

 そして、このリンダは、生粋の白人ではない…

 台湾人と、白人のハーフ…

 両親のどっちが、白人で、どっちが、台湾人か、詳しくは、知らないが、そういうことだ…

 私は、それを思い出した…

 すると、隣から、

 「…お姉さん…」

 という声がした…

 私は、声の主を振り返った…

 当たり前だが、バニラだった…

 この部屋には、私と、リンダ、そして、このバニラの3人しかいない…

 「…なんだ?…」

 「…いいの…お姉さん?…」

 「…なにが、いいんだ?…」

 「…このリンダと葉尊が、連絡を取って…」

 「…それが、どうか、したのか?…」

 「…だって、リンダよ…世界に名の知れた、ハリウッドのセックス・シンボルよ…それが、連絡を取り合って…もし、男女の関係になったら…」

 「…そんなことはないさ…」

 私は、即答した…

 「…葉尊は、そんな男じゃないさ…」

 私は、自信たっぷりに、断言した…

 「…葉尊は、決して、私を裏切るような男じゃないさ…」

 「…どうして、わかるの?…」

 「…葉尊の人間性さ…葉尊は、決して、私を裏切らない…」

 バニラは、私の言葉に、思わず、リンダを見た…

 「…なんだか、凄い自信ね…」

 「…そんなことは、ないさ…」

 私は、私の唯一の武器である、大きな胸を揺らしながら、言った…

 すると、バニラが、

 「…もしかして、お姉さん…その胸に自信を持っているの?…」

 「…悪いか?…」

 「…悪くないけど、胸ならば、リンダの方が、よっぽど、大きいわ…お姉さんは、身長159㎝だけれども、リンダは、175㎝…勝負にならないわ…」

 言われてみれば、その通り…

 その通りだった…

 私の完敗だった…

 「…お姉さん?…」

 「…なんだ?…」

 「…よく世間では、妻の知らない間に、妻の女ともだちと、その妻の夫が不倫していることが、あるって、いうよ…」

 「…」

 「…葉尊とリンダも同じかも?…」

 バニラが、私をからかった…

 だから、私は、

 「…そんなこと、あるわけないさ…」

 と、反論しようとしたが、その前に、

 「…バニラもいい加減にして!…」

 と、リンダが、怒った…

 「…せっかく、ひとが、どうして、いいか、わからないから、相談に乗ってもらおうと、思ったのに…」

 リンダが、激怒した…

 「…お姉さんは、ともかく、バニラもバニラよ…私が、葉尊と、どうにかなるわけ、ないでしょ?…」

 「…どうして、そう断言できるの?…」

 「…幼馴染(おさななじみ)だからよ…」

 「…幼馴染(おさななじみ)…どういう意味?…」

 「…恋っていうのは、見知らぬ男女だから、恋に落ちるの…昔から、知っている男と女が、恋に落ちるわけ、ないじゃない…」

 …うまいことを言う…

 私は、思った…

 さすが、ハリウッドのセックス・シンボルだ…

 この矢田トモコが、言うよりも、説得力のあることを、言う…

 「…でも、それは、恋の話でしょ?…」

 バニラが、食い下がった…

 「…私は、セックスの話をしているの…」

 「…セックスの話?…」

 「…だって、今、不倫の話をしているのよ…肉体関係の話をしているの…」

 「…どういう意味?…」

 「…恋とセックスは、別…ときめかなくても、セックスはできる…」

 「…なにが、言いたいの?…」

 「…つまり、幼馴染(おさななじみ)でも、セックスはできるってこと…」

 バニラが、言い切った…

 途端に、リンダの顔色が、変わった…

 まさに、怒髪天を衝いた、表情に、なった…

 「…帰って!…」

 大声で、言った…

 「…さっさと、この部屋から、出て行って!…」

 リンダが、激怒した…

 さすがに、このリンダの怒りは、バニラにとっても、予想外のものだったのだろう…

 「…ちょ…ちょっと、バニラ…冗談…冗談よ…」

 と、リンダに、釈明した…

 「…冗談? …そんなことは、わかってる…でも、冗談も、言っていいときと、言っちゃ、悪いときがある…」

 バニラが、血相を変えて、怒鳴った…

 「…私は、今、本当に悩んでいるの…そんなときに、こんな、ありえない冗談を言って…」

 「…」

 「…さっさと、出て行って!…」

 「…ゴメン…リンダ…」

 「…さっさと、出て行って!…」

 リンダのあまりの迫力に、バニラは、仕方なく、部屋を出た…

 とてもじゃないが、リンダに、これ以上、なにか、言える雰囲気ではなかった…

 と、私は、冷静に、言ったが、ふと、気付くと、その怒りに、満ち満ちた、リンダの青い目が、この矢田トモコを見ていることを、知った…

 文字通り、顔面蒼白になった…

 私は、これまで、これほど、怒り狂った、リンダを、見たことが、なかった…

 リンダ…リンダ・ヘイワースは、ハリウッドのセックス・シンボルとして、世界中に知られている…

 なにが、言いたいかといえば、そのカラダの大きさだ…

 身長は、すでに言ったが、175㎝ある…

 対する、私、矢田トモコは、159㎝…

 しかも、骨格が、違う…

 日本人と、白人の違いだ…

 リンダの方が、ガッチリしているのだ…

 とてもじゃないが、怒り狂ったリンダが、私、矢田トモコに、襲いかかれば、無事では、すまない…

 私、矢田トモコは、ライオンに襲われた、可哀そうなウサギよろしく、簡単に、やられるだろう…

 それどころ、本気で、怒り狂ったリンダに、殺されるかもしれないのだ…

 文字通り、命の危険すら、感じた…

 それを、瞬時に悟った私は、

 「…わ…わ・た・し・も…か…帰ることにするさ…」

 と、リンダに告げた…

 「…き…きょ…う…は、ち…か…らに、なれなくて、すまんかった…」

 と、詫びながら、部屋を出て行こうとした…

 が、

 足が、思うように、動かなかった…

 あまりの、恐怖のためだ…

 私、矢田トモコは、小心者…

 実は、結構、気が小さかった…

 いつもは、強いフリをしているだけだった…

 だから、こんな場面では、生来の気の小ささが、顔を出した…

 「…す…す・ま…ん…許してく・れ…」

 と、言いながら、部屋を出ようとしたが、あまりの恐怖に、足が絡んで、倒れた…

 自分でも、ありえない失態だった…

 これが、ジャングルなら、ライオンに襲われているところだ…

 リンダというライオンに襲われているところだ…

 …万事休す…

 私の脳裏に、そんな言葉が、浮かんだ…

 私は、とっさに、目をつぶった…

 ちょうど、歯医者で、歯を削るときに、目をつぶるようなものだ…

 あまりの恐怖に、目を開けていられなかった…

 とにかく、怖かったのだ…

 が、

 いつまで、待っても、ライオン=リンダは、襲って来なかった…

 私は、周りの状況を探るべく、うっすらと、目を開けた…

 私の細い目を開けたのだ…

 が、

 その前には、あろうことか、リンダの顔があった…

 激怒したリンダの顔があった…

 私は、慌てて、目を閉じた…

 この現実から、逃れるために、目を閉じた…

 それから、心の中で、神様に祈った…

 …た…助けてくれ…神様…

 …こ…これが、夢なら、夢から覚めさせてくれ…

 心の中で、祈った…

 が、

 あろうことか、私は、それを、口に出して、しまったらしい…

 「…夢? …一体、どこが、夢なの?…」

 リンダが、漏らした…

 「…自分に都合が悪いと、夢ならいいなんて…いつも、自分に都合がいいことばっかり、考えて…」

 リンダが、呆れた口調で言う…

 私は、恐怖に怯えながら、ゆっくりと、目を開いた…

 す、すると、

 目の前に、リンダの顔があった…

 激怒した、リンダの顔があった…

 私は、慌てて、目を閉じた…

 こんな現実は、見たくなかったからだ…

 そんな恐怖に怯える私の耳に、

 「…プッ…」

 と、吹き出す声が聞こえた…

 私が、ゆっくりと、目を開くと、リンダが、笑っていた…

 笑い転げていた…

 「…まったく、このお姉さんには、怒ることもできない…」

 リンダが、笑った…

 「…怒りたくても、怒れない…ホント、得な性格ね…」

 リンダが、さばさばした口調で、言った…

 私は、仰天した…

 つい、今の今まで、激怒していたリンダが、まるで、別人のように、怒っていない…

 これは、まるで、奇跡…

 奇跡だった…

 「…リ、リンダ…ホントに、もう怒ってないのか?…」

 確かめずには、いられなかった…

 「…ホ、ホントに…」

 私は、繰り返した…

 「…怒ってないわ…」

 リンダが、あっさりと、言った…

 「…って、いうか…お姉さんは、なにをしても怒れない…ホント、得なひと…」

 私は、なぜ、私が、得なひとなのか、さっぱり、わからなかったが、とりあえず、リンダの怒りが、収まったことで、よしとした…

 とにかく、リンダが、怒るのは、困る…

 私では、手に負えない…

 リンダが、本気で、怒れば、私に勝ち目は、1%もない…

 下手をすれば、命の危険すら、ある…

 私は、そんなことを、考えて、ホッと胸を撫で下ろしていると、目の前に、リンダが、顔を寄せた…

 じっくりと、その青い目で、私を見た…

 生来、気の弱い私は、またもブルった…

 もしや、リンダが、また怒り出すのかもと、考えたのだ…

 だから、なにも言えなかった…

 リンダのなすがままだった…

 が、

 リンダの口から、出たのは、

 「…ホント、得な性格よね…」

 と、いう、言葉だった…

 …得な性格?…

 …なんで、そんなこと?…

 「…葉尊も、そんなお姉さんに、首ったけ…例え、バニラが言ったように、私が、葉尊を誘っても、きっと、見向きもしない…」

 「…」

 「…だから、誘わない…それが、わかっているから、葉尊を誘って、断れれば、このリンダ・ヘイワースのプライドが、ズタズタになる…」

 リンダが、笑った…

 「…ホント、得なお姉さん…」

 と、言いながら、リンダが、私から、離れた…

 それから、

 「…葉尊も、ホントは、私をもっと、好きになってくれれば、ありがたいんだけど…」

 と、ポツリと漏らした…

 「…でも、ダメね…それじゃ、バニラをお母さんと、呼ばなくちゃ、ならなくなる…」

 …どうして、バニラが、お母さんなんだ?…

 考えた…

 「…あら、お姉さん…なに、難しい顔をしているの?…」

 「…」

 「…ああ、そうか、どうして、バニラが、お母さんなのか、わからないのか?…」

 私は、無言で、頷いた…

 「…だって、バニラは、葉尊の父、葉敬の愛人…子供まで、産んでる…だから、もし、二人が、結婚したら、バニラが、義理のお母さんでしょ?…」

 …そうか!…

 …それは、考えもしなかった…

 が、

 言われてみれば、その通り…

 その通りだ…

 「…でも、いくらなんでも、バニラをお母さんとは、呼べないし…」

 リンダが、苦笑した…

 「…でも、そんなことを、平然と、口に出来るのは、お姉さんの前だから…ホント、得な性格よね…」

 と、言って、リンダが、笑った…

 …得な性格…

 …得な性格…

 と、何度も繰り返して、一体、私のなにが、得な性格なんだ?

 と、言ってやりたかった…

 だが、

 言えんかった…

 再び、リンダに激怒されては、堪ったものでは、ないからだ…

 だから、私は、耐えた…

 黙って、耐えた…

 矢田トモコ、35歳…

 辛抱のときだった(涙)…

                
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