第100話

文字数 5,126文字

 オスマン殿下とマリア…

 考えて見れば、実に、妙な組み合わせだった…

 見た目は、共に、3歳の子供…

 3歳の子供の男と女だ…

 が、

 本当は、オスマン殿下は、30歳…

 片や、

 マリアは、正真正銘の3歳だった…

 だが、見た目は、変わらない…

 共に、3歳の幼児…

 が、

 本当は、27歳と、親子ほど、歳が、違う…

 しかも、

 しかも、だ…

 オスマン殿下と、マリアが、いっしょに、いると、いつも、マリアの方が、威張っていた…

 イニシアチブを、取っていた…

 主導権を握っていたのだ…

 二人は、いつも、言い争っている…

 が、

 最終的に、勝つのは、いつも、マリアだった…

 これは、一体、どういうことだ?

 私は、考えた…

 マリアと、オスマン殿下が、言い争えば、最終的に、マリアが、勝つ…

 これは、単純に、マリアの方が、強いからか?

 否…

 単に、オスマン殿下が、マリアに勝ちを譲っているのだ…

 父親が、娘に…

 あるいは、

 夫が、妻に、

 勝ちを譲るように、わざと、自分の好きな相手に勝ちを譲っているのだ…

 私は、それに、気付いた…

 だから、その証拠に、オスマン殿下のマリアを見る目は、優しかった…

 まるで、父親が、自分の溺愛する娘を見るように、優しかった…

 が、

 その事実に、マリアは、気付いているのだろうか?

 否…

 気付いているわけはない…

 なにしろ、マリアは、まだ3歳の幼児だ…

 そのことに、気付く年齢ではない…

 が、

 マリアは、オスマン殿下が、子供ではないことに、気付いた…

 なにしろ、あの保育園で、オスマン殿下が、子供でないことに、気付いたのは、マリアだけだった…

 いや、

 もしかしたら、マリア以外にも、すでに、気付いた人間は、いたかもしれないが、それを、指摘したのは、マリアだけ…

 バニラの娘、マリアだけだ…

 この事実を、考えると、実に、マリアは、恐ろしい…

 恐ろしい慧眼(けいがん)の持ち主ということになる…

 あの、バカ、バニラの血を引いた娘とは、到底、思えん…

 やはり、父親が、葉敬だから、違うのかもしれん…

 父親が、台湾の大企業、台北筆頭CEОだから、違うのかも、しれん…

 今さらながら、気付いた…

 いかに、母親が、あのバカ、バニラでも、父親が、優れているから、違うのかも、しれん…

 と、気付いた…

 私の夫、葉尊も優れている…

 おまけに、長身のイケメン…

 やはり、血は争えないというか…

 兄が、優れていれば、たとえ、兄妹とは、いえ、親子ほど、歳が、離れていても、共に、優れているものだ…

 それは、たとえ、母親が、違っていても、同じだ…

 これは、世間を見れば、わかる…

 世間を見れば、簡単にわかる…

 例えば、兄でも姉でも、東大に、進学していて、その下に弟でも、妹でも、いれば、やはり、同じように、東大は、無理でも、早稲田や、慶応に、進学しているものだ…

 有名大学に進学しているものだ…

 兄や姉が、偏差値70の高校に、通っていて、弟や、妹が、偏差値40の工業高校に、通っていることは、普通は、あり得ない…

 これは、差別うんぬんではなく、当たり前のことだ…

 また、同じように、例えば、美人で、有名な、女優の佐々木希のように、キレイな女が、いれば、その姉や妹も、佐々木希ほど、キレイではないかもしれないが、ブスということは、あり得ない…

 もしも、姉妹とはいえ、天と地ほど、ルックスが、違えば、当然のことながら、本当に、血が繋がっているのか、疑問に、思う…

 そして、今の時代ならば、両親が、共に、子連れで、再婚した場合も、かなりあるので、もしや、そうなのでは? と、考える…

 つまり、どうしても、まずは、血の繋がりから、考える…

 少なくとも、私は、そう考える…

 だから、マリアは、あのバカ、バニラの子供ながら、優れているのでは?

 と、今さらながら、思った…

 しかも、マリアは、美人…

 子供ながら、美人だった…

 つまりは、母親のバニラのルックスを受け継いだのだ…

 と、ここまで、考えると、あのオスマン殿下が、今さらながら、マリアに惹かれる理由が、わかった…

 わかったのだ…

 つまりは、完璧…

 マリアは、子供ながら、完璧だった…

 美人で、頭脳明晰…

 しかも、お金持ちの娘…

 オスマン殿下ならずとも、惹かれるのは、わかる…

 が、

 問題もある…

 あの母親のバカ、バニラ同様、気が強いということだ…

 ときどきだが、この矢田トモコにも、食ってかかることがある…

 私は、親子ほど、歳が、離れているから、大目に見ているが、同世代では、たまらんかもしれん…

 耐えられないかも、しれん…

 ひとは、誰もが、見た目…

 見た目から、入る…

 入る=評価する…

 ルックスが、いいか、悪いか?

 真面目で、誠実そうか…

 いい加減か?

 頼りないか?

 など、見た目で、判断する…

 そして、それは、見た目…

 あくまで、見た目で、判断したに過ぎない…

 多くは、その判断が、正しいが、当然、例外も、いっぱいある…

 私が、経験したことでは、いかにも、真面目で、おとなしい女の子が、平気で、仕事で、手を抜く姿を見て、仰天したことがある…

 真逆に、誰が見ても、見るからに、ヤンキーで、ろくでもない人間に、見えても、仕事は、誠実で、一生懸命する人間も、いた…

 だから、人間は、見た目ではないともいえる…

 が、

 そういう例は、少数派…

 数が、少ない…

 だから、貴重なのだ…

 だから、驚くのだ…

 話を戻そう…

 つまりは、見た目では、わからないことがあると、言いたいのだ…

 おとなしそうに、見えても、案外、気が強かったり…

 誠実そうに、見えても、裏では、ひとの悪口ばかり言っていたり…

 そんな例は、枚挙にいとまがない…

 見飽きるぐらい、見た…

 だから、どうした? と言いたいわけではない…

 世の中、そういうものだと、言いたいのだ…

 ただ、マリアは、母親のバニラ同様、気が強い…

 母親のバカ、バニラ同様、気が強い…

 だから、大きくなって、結婚したら、相手が、マリアの気の強さに、耐えられるのか?

 不安になる…

 マリアは、気が強いが、性格は、悪くはない…

 ただ、何度も言うように、気が強い…

 だから、いくら、美人でも、気が強い、マリアに辟易する男は、少なからず、いるだろう…

 私の知っている女友達の中でも、街中で、誰もが、思わず、振り返って、二度見、三度三して、見るような美人にも、かかわらず、いまだに結婚していない、友人もいる…

 その友人は、ずばり、気が強い…

 性格は、悪くはないが、気が強い…

 だから、それが、ネックになって、いまだに、結婚していないのかもしれん…

 私は、思った…

 むろん、本人は、そうは、思っていない可能性が高い…

 たまたま、この歳まで、結婚に縁がなかった…

 そう言うだろう…

 むろん、その言葉に、ウソはない…

 本人は、そう思っているに違いない…

 心の底から、そう思っているに違いない…

 が、

 傍から見ると、あまりも、気が強いので、それまで、付き合った男が、逃げ出した可能性が、高い(笑)…

 少なくとも、私は、そう見た…

 そう、信じた…

 本人は、まったく気づいていない様子だが、周囲の者は、たぶん、皆、そう見ている(笑)…

 性格に難があるとまでは、いえないが、やはり、いっしょに、暮らすとなると、私でなくとも、躊躇する人間が、男女ともに、いるだろう…

 まして、夫婦…

 同居ではなく、夫婦だ…

 これは、堪らんと、逃げ出す人間がいても、おかしくはない(笑)…

 つまり、そういうことだ…

 大げさにいえば、絶世の美人でも、性格に、難があれば、男は、逃げ出す…

 そういうことだ(笑)…

 そして、絶世の美女にも、かかわらず、性格に難のある女…

 バニラのことを、考えた…

 マリアの母親のバニラを考えたのだ…

 バニラは、性格に難がある…

 性格が、ひねくれている…

 これは、間違いは、ない…

 断言できる…

 が、

 嫌ではない…

 いっしょにいて、嫌ではない…

 つまり、そういうことだ(笑)…

 さっき、例に挙げた、私の友人の美人が、三十代半ばで、結婚しないのは、ずばり、相手が、その美人を嫌だからだ…

 いかに、美人でも、いっしょにいて、耐えられんからだ…

 そうだ…

 そうに、決まっている…

 と、ここまで、考えて、気付いた…

 もしかしたら…

 もしかしたら、バニラも、同じかも、しれんと、気付いたのだ…

 なぜなら、私も、バニラといっしょにいるのは、ときどき、私の家に、遊びにやって来たときなどに、限る…

 つまり、なにを言いたいかと言えば、四六時中、いっしょに、いるわけではないと、いいたいのだ…

 四六時中、いっしょにいれば、学校や会社では、見られない姿を見ることになる…

 私の友人の美人は、私が、学校で、接しているだけでも、十分、気が強いのは、わかった(笑)…

 だから、そんな気が強い、美人が、男といれば、間違いなく、男は、疲れる(笑)…

 いや、

 疲れることも、そうだが、気の強い人間は、男女ともに、いつも、イニシアチブ=主導権を取りたがる…

 ありていに、いえば、

 オレが、オレが…

 アタシが、アタシが、

 と、前に出たがる…

 要するに、自分が、一番でなければ、気が済まないのだ(笑)…

 だから、必然的に、いっしょにいるパートナーは、男女の別なく、相手に、従うことになる…

 それが、堪らないと、逃げ出す人間も、多い(笑)…

 どんなときも、相手の方が、上なのだ…

 決して、自分が、相手よりも、上になることは、ありえない…

 だから、そんな生活には、耐えられないと、相手が、逃げ出すのだ(笑)…

 若干、話が長くなったが、つまりは、これを、バニラに当てはめれば、バニラは、性格に難があるが、男が、逃げ出さないのは、男が、いっしょに住んでないからだと、気付いた…

 葉敬と、いっしょに、住んでいないからだと、気付いた…

 もしかしたら、葉敬も、バニラと、いっしょに、住んでいれば、逃げ出したかも、しれん…

 いや、

 違うかもしれん…

 葉敬と、バニラは、親子ほど、歳が違う…

 だから、いかに、バニラとて、葉敬に、歯向かうことは、できない…

 それに、

 それに、だ…

 葉敬は、成功者…

 大金持ちだ…

 だから、バニラと葉敬は、あまりにも、差がある…

 だから、最初から、バニラは、葉敬よりも、上に立ちたいと、考えんのかもしれん…

 男女の別なく、自分が、相手よりも、上に立ちたいのは、要するに、自分の方が、相手よりも、各上だと、思うからだ…

 例えば、勉強でも、ルックスでも、家柄でも、なんでもいい…

 相手よりも、自分の方が、優れていると、思うからだ…

 ただ、この場合、問題なのは、それは、ただ自分が、思っているだけ…

 周囲の者は、誰も、思っていないときも、ある…

 現実に、私の知る女で、私同様、まったくの平凡な人間なのに、自分は、優れていると、自負している女を知っている…

 当然、誰も、彼女を優れているなんて、思わない…
 
 これっぽっちも、思わない(爆笑)…

周囲から見れば、まさしく失笑ものだが、この女のような人間も、また、世間にありふれていることを、後に知った…

 つまりは、簡単にいえば、自己評価が、異常に高いのだ…

 学歴、家柄、ルックスなど、なに一つ、他人様よりも、優れていないにも、かかわらず、自分は、優れていると、心の底から、思う…

 そういう人間が、稀に、この世の中にいるということだ…

 だから、そういう人間は、結婚しようが、付き合おうが、常に、相手よりも、上に立ちたがる…

 当然、相手は、悲鳴を上げる…

 悲鳴を上げて、逃げ出す…

 そういうことだ(笑)…

 私の知る、その女は、以前も言ったが、当時、付き合っていた男と、結婚したと、風の噂で、聞いたが、私が、偶然、会ったときは、別の男と、歩いていた…

 しかも、小さな子供を連れて、だ…

 きっと、前の男は、その女から、裸足で、逃げ出したのだろう(笑)…

 そう、思った…

 そして、その女と、偶然、会ったのも、数年前…

 私に言わせれば、その女が、その当時、いっしょに歩いていた男と、今もいっしょにいるかと言えば、微妙…

 実に、微妙だった(笑)…

 私は、オスマン殿下と、マリアのことを、考えていたが、いつのまにか、それが、マリアの母親のバニラの話になり、さらに、それが、私の友人、知人の話になった…

 話が、いつのまにか、違う方向に、進んでいた…

 いつものことだった(苦笑)…

 そして、そんなことを、考えていると、

 「…ピンポン…」

 と、チャイムの音が聞こえた…

 誰かが、やって来た様子だった…

               
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