第85話
文字数 5,505文字
来た!
来た!
来た!
ついに、来た!
私は、思った…
ついに、このときが、来た…
クール主催のサウジの使節団の接待の日が、近付いたのだ…
それが、わかったのは、今朝の朝食のときだった…
いつものように、葉尊と二人きりで、朝食を食べていると、
「…いよいよです…お姉さん…」
と、葉尊が、言った…
{…なにが、いよいよなんだ?…}
と、私は、一杯に、お茶碗に盛った、ご飯を、かき込みながら、言った…
食事は、基本…
健全な精神は、健全な肉体に宿る…
その基本だ…
だから、朝から、腹一杯に食べるに限る…
食べねば、健全な肉体は、得られんからだ…
健全な精神は、得られんからだ…
だから、私は、ダイエットとは、無縁…
無縁の人生だ…
「…我がクールが主催するパーティーです…」
「…パーティーだと?…」
「…ほら、以前も、お姉さんに言ったように、サウジのお歴々を、招いて、接待するんです…」
そうだった…
すっかり、忘れていた…
あのマリアが通うセレブの保育園で、オスマン殿下と知り合った…
あの一件のインパクトが、強すぎて、すっかり忘れていた…
なにしろ、お遊戯大会という名目で、集まっても、中身は、まったくの別物だった(笑)…
思えば、あれほど、強烈な体験もなかった…
なかったのだ…
だから、サウジの王族を招いてのパーティーなんか、すっかり私の頭の隅から、消えていた…
きれいさっぱり、忘れていた…
「…で、オスマン殿下は、来るのか?…」
「…オスマン殿下? 一体誰ですか? それは?…」
「…なんだと? …オスマン殿下を知らないだと?…」
「…ハイ…知りません…」
葉尊は、真顔で言った…
私は、考えた…
葉尊と葉問は、繋がっている…
以前は、そう思っていた…
例えば、今、私が、葉尊としている会話…これを、すべて、葉問は、知っていると思っていた…
が、
違うかもしれない…
ふと、思った…
葉尊も、葉問も、互いが、相手に知られたくないことは、隠すことが、できるのかもしれない…
自分に都合の悪いことは、相手に知らせずにいることができるかもしれないと、考え直した…
「…誰ですか? それは?…」
葉尊が聞いた…
当たり前だ…
私は、どう言おうか、迷ったが、
「…マリアの通う保育園の園児さ…」
と、だけ、言った…
「…マリアの通う保育園ですか?…」
「…そうさ…セレブの保育園で、日本人は、ほとんどいない…皆、外人だ…だから、マリアの外人の友達さ…」
「…友達?…」
「…そうさ…オスマンという名前だ…サウジの王族らしい…きっと、オスマンも、パーティーに来るゾ…」
「…子供が、パーティーですか?…」
葉尊が、苦笑した…
当然だ…
だから、私は、
「…子供といっても、頭がいいゾ…それに、パーティーに出席することで、色々、世界が広がる…だから、きっと、パーティーにやって来るゾ…」
と、私は、言った…
「…子供が、パーティーに?…」
そう言って、葉尊は、考え込んだ…
「…たしかに、お姉さんの言う通り、社会勉強には、最適だと思いますが…」
「…そうだろ?…」
私は、勢い込んで、言った…
「…大器晩成という言葉が、あるが、アレはウソさ…」
「…ウソ?…」
「…優れた人間は、最初から、優れているさ…例えば、偏差値40の高校や大学を出て、社会で、成功することは、ありえないさ…成功しても、それは、小さな成功さ…」
「…お姉さん、なにを言いたいんですか?」
「…つまり、頭のいい人間は、生まれつき、頭がいいということさ…頭が、悪ければ、成功は、するが、大きな成功は、しないということさ…生まれつき、美人や、イケメンに、生まれるのと、いっしょさ…」
「…」
「…だから、大器晩成という言葉は、ただ、生まれつき、頭のいい人間が、それまで、運に恵まれずにいたのに、突然、仕事が軌道に乗ったりして、うまくいった結果さ…能力があっても、それまで恵まれなかった人間が、恵まれた結果さ…」
葉尊は、私が、なにを言いたいか、わからず、きょとんとした表情になった…
「…だから、私が、言いたいのは、パーティーに、マリアを連れて行けと、言いたいのさ…」
「…マリアを? …なぜ、マリアをパーティーに連れて行くんですか?…」
「…今も言ったように、経験さ…」
私は、半ば強引に、言った…
「…マリアは、バニラの娘だが、オマエの妹でもある…だから、子供でも、幼いときから、パーティーに参加させて、場数を踏ませるに限る…そうすれば、大人になったときも、きっと、その経験が生きる…」
「…経験が、生きる…」
「…そうさ…どんなことも、経験さ…私が、大器晩成は、ウソだと言ったのは、成功するには、そもそも、能力が、必要だと、言いたかったのさ…マリアは、その能力がある…だから、子供の頃から、いろんな経験を積ませるに、限る…それが、マリアが、大人になったときに、役に立つからさ…」
私は、半ば、強引に、葉尊に言った…
要するに、ただ、マリアを、パーティーに連れてゆきたかったのだ…
パーティーにオスマン殿下が、来ることは、予想できる…
だから、どんなことをしても、マリアをパーティーに連れてゆきたかった…
そうすれば、オスマン殿下を、喜ばすことが、できるし、驚かすことも、できる…
そして、なにより、マリアは役に立つ…
オスマンは、マリアの言いなり…
マリアに惚れている…
これを利用しない手はなかった…
こう言えば、この矢田が、随分、ずるい人間と思うかもしれんが、そうではない…
マリアは、保険…
この矢田トモコにとっての、保険だった…
なにか、あっては、困る…
パーティーで、なにか、あっては、困るのだ…
それには、保険が、必要…
保険をかけるに、かける…
つまり、そういうことだ…
なにより、あのオスマンには、敵が多そうだ…
名探偵コナンではないが、パーティーのように、ひとが、多く集まる場所で、事件が、起こっては、困る…
だから、マリアを連れて行くに、限るのだ…
マリアが、役に立つかもしれんからだ…
だから、私は、大器晩成の話を持ち出して、マリアを、パーティーに出席させようとしたのだ…
どうやって、マリアをパーティーに出席させるか、悩んでいる中で、いきなり、閃いたのが、この大器晩成の話だった…
はっきり、言って、意味はない(笑)…
ただ、思いついただけだ(笑)…
だが、これを、マリアに例えれば、マリアは、生まれつき、優れた頭脳と、容姿を持って、生まれた…
が、
この先、どうなるかは、わからない…
嫌みではないが、大金持ちの家に生まれたとしても、実家が、没落する家は、枚挙にいとまがない…
ありふれている…
そして、なにより、お金があったからと言って、マリアが、幸せになれるか、どうかは、わからない…
結婚と離婚を繰り返して、
「…あの女の人生は、夫を取り換えるのに、費やした…」
と、陰口を叩かれる人生を歩むかもしれん…
悪口ではなく、誰もが、そうなる可能性を秘めている…
ただ、お金があれば、生活には、困らない…
どこの世界も、いつの時代も、夫婦が、ケンカする原因は、お金がないことに、起因することが多い…
不倫や、家庭内暴力も、多々あるが、一番は、お金がないことだろう…
失業した夫が、ちっとも、再就職が、決まらず、最初は、なんとかなると、思って、大目に見ていた妻が、
「…アンタ…一体、どうするの?…」
と、夫に詰め寄って、
「…そんなことを、言っても…」
と、夫が、言い訳をして、それから、ケンカになる…
それが、毎日のように続けば、互いに相手に愛想を尽かして、離婚する…
そういうものだ…
そして、なにより、大器晩成という言葉を思いついたのは、実は、オスマン殿下のせいだった…
オスマン殿下は、外見は、3歳だが、実は、30歳…
だが、優れている…
アラブの至宝と呼ばれるほど、優れている…
つまり、大器早成…
生まれつき、優れている…
だから、大器晩成ではない…
そう、思ったのだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…ボクは、構いませんが、父が、どういうか?…」
と、葉尊が、遠慮しがちに、口を開いた…
「…いえ、父は、ボクが、言えば、説得できると思います…お姉さんが、言うように、何事も経験とでも言えば、納得するでしょう…でも、バニラが…」
「…バニラが、どうかしたのか?…」
「…バニラが、納得するかどうか?…」
「…バニラが、納得するか、どうかだと? …」
「…ハイ…バニラは、ああ見えて、お堅いというか…」
「…お堅い?…」
「…根が慎重なんです…」
「…どういう意味だ?…」
「…パーティーに参加するとなると、当然ですが、あの子供は、誰の子供なのか、話題になります…パーティーに子供が参加することは、あまりありません…バニラは、父の愛人ですが、公には、知られていません…それも、あって、そんなことが、世間に知られれば、父にとっても、バニラにとっても、まずいと、思うと思います…」
葉尊が説明する…
そして、そう説明されると、私は、なにも、言えんかった…
たしかに、葉尊の言う通りだからだ…
子供が、パーティーに参加すれば、
「…アレは、誰の子?…」
と、誰もが、気になる…
まさか、葉敬と、バニラの子供だとは、言えん…
葉敬は、台北筆頭CEО…
バニラは、売れっ子のモデル…
二人は、父子ほど、歳が、違う…
その二人の間にできた子供だとは、口が裂けても、言えん…
なにより、マリアの存在が知れれば、葉敬にも、バニラにも、仕事に影響が出るかもしれん…
いや、
葉敬は、仕事に影響が出なくても、間違いなく、バニラには、出る…
バニラは、まだ23歳…
そんな23歳のバニラに、実は3歳の娘がいると知られては、絶対仕事に影響が出る…
うーむ…
これは、困った…
たしかに、葉尊の言う通りだが、どうしても、マリアには、パーティーに参加してもらわなければ、困る…
困るのだ…
うーむ…
どうすれば?
一体、どうすれば、いい?
悩んでいると、
「…でも、もしかしたら、お姉さんなら、なんとかなるかも…」
葉尊が、突然、言った…
「…どうして、私なら、なんとか、なるんだ?…」
「…お姉さんは、マリアと仲がいいじゃないですか? マリアは、お姉さんになついています…そんなお姉さんが、マリアに、パーティーに参加しないかと、提案すれば、マリアは喜んで参加するに違いありません…そうなれば、バニラも無下には、反対できないかも…」
…そうか…
…その手があったか!…
私は、思った…
たしかに、マリアは、私の言うことを、きく…
それに、マリアが、パーティーに参加したいと、いえば、母親のバニラも、反対しないに違いない…
私は、思った…
「…ありがとう、葉尊…」
私は、礼を言った…
「…どういたしまして…」
葉尊が、応じた…
が、
結果は、全然うまくいかんかった…
「…ダメ…」
バニラが、電話の向こうから、言った…
「…なにが、あっても、ダメよ…」
バニラが、まるで、相手にしなかった…
私が、葉尊が出社してから、朝一番で、バニラに電話をかけたのだった…
その結果が、これだった…
これだったのだ…
「…どうして、ダメなんだ?…」
「…どうしてって? ちょっと、お姉さん、考えて見て…」
「…なにを、考えるんだ?…」
「…子供が、パーティーに参加してみなさい…当然、誰の子供か、話題になる…そして、マリアが、私と、葉敬の子供だと、バレたら、困る…」
当たり前だった…
つい、さっき、葉尊が、言った通りだった…
「…大体、誰のパーティーなの? …面子は、誰?…」
…そうだった?…
…それを、まだ、伝えてなかった…
「…サウジの王族さ…」
「…サウジの王族?…」
「…ほら、以前、サウジの王族が、来日して、リンダが接待すると、言って、リンダが、怯えていたことが、あっただろ? アレさ…」
「…アレ?…」
「…ほら、リンダは、もしかしたら、そのパーティーで、知り会ったサウジの王族に、そのまま、サウジに、お持ち帰りされるんじゃないかと、ビビッてただろ? アレさ…」
私の言葉に、
「…」
と、バニラが、沈黙した…
まるで、聞こえてないかのようだった…
だから、
「…どうした? …バニラ、聞こえているか?…」
と、私は、聞いた…
すると、
「…サウジの王族って、オスマン殿下は、来るの?…」
と、バニラが、警戒するかのように、小さな声で、用心深く、聞いた…
「…それは、わからんさ…ただ、オスマン殿下が、来るとすれば、マリアが、いれば、喜ぶと思ってな…」
「…そう…」
小さな声で、バニラが、返答した…
「…それに、だ…」
私は、言ってやった…
「…オスマン殿下のおかげで、クールも台北筆頭も、今、アラブ世界で、進めている商談が、一気に進んだと、葉問が、言っていたゾ…」
「…エッ?…」
「…葉問は、私が、オスマン殿下に気に入られたからと、言っていたが、本当のところは、マリアのおかげじゃないかと、私は、思うゾ…マリアは、オスマン殿下のお気に入りだから…」
私が、言うと、再び、
「…」
と、バニラが、黙った…
「…そういうことなら…」
小さく、バニラが、返答した…
「…そういうことなら、断れない…」
バニラが、言った…
が、
その声は、泣いているようだった…
涙を流しているようだった…
来た!
来た!
ついに、来た!
私は、思った…
ついに、このときが、来た…
クール主催のサウジの使節団の接待の日が、近付いたのだ…
それが、わかったのは、今朝の朝食のときだった…
いつものように、葉尊と二人きりで、朝食を食べていると、
「…いよいよです…お姉さん…」
と、葉尊が、言った…
{…なにが、いよいよなんだ?…}
と、私は、一杯に、お茶碗に盛った、ご飯を、かき込みながら、言った…
食事は、基本…
健全な精神は、健全な肉体に宿る…
その基本だ…
だから、朝から、腹一杯に食べるに限る…
食べねば、健全な肉体は、得られんからだ…
健全な精神は、得られんからだ…
だから、私は、ダイエットとは、無縁…
無縁の人生だ…
「…我がクールが主催するパーティーです…」
「…パーティーだと?…」
「…ほら、以前も、お姉さんに言ったように、サウジのお歴々を、招いて、接待するんです…」
そうだった…
すっかり、忘れていた…
あのマリアが通うセレブの保育園で、オスマン殿下と知り合った…
あの一件のインパクトが、強すぎて、すっかり忘れていた…
なにしろ、お遊戯大会という名目で、集まっても、中身は、まったくの別物だった(笑)…
思えば、あれほど、強烈な体験もなかった…
なかったのだ…
だから、サウジの王族を招いてのパーティーなんか、すっかり私の頭の隅から、消えていた…
きれいさっぱり、忘れていた…
「…で、オスマン殿下は、来るのか?…」
「…オスマン殿下? 一体誰ですか? それは?…」
「…なんだと? …オスマン殿下を知らないだと?…」
「…ハイ…知りません…」
葉尊は、真顔で言った…
私は、考えた…
葉尊と葉問は、繋がっている…
以前は、そう思っていた…
例えば、今、私が、葉尊としている会話…これを、すべて、葉問は、知っていると思っていた…
が、
違うかもしれない…
ふと、思った…
葉尊も、葉問も、互いが、相手に知られたくないことは、隠すことが、できるのかもしれない…
自分に都合の悪いことは、相手に知らせずにいることができるかもしれないと、考え直した…
「…誰ですか? それは?…」
葉尊が聞いた…
当たり前だ…
私は、どう言おうか、迷ったが、
「…マリアの通う保育園の園児さ…」
と、だけ、言った…
「…マリアの通う保育園ですか?…」
「…そうさ…セレブの保育園で、日本人は、ほとんどいない…皆、外人だ…だから、マリアの外人の友達さ…」
「…友達?…」
「…そうさ…オスマンという名前だ…サウジの王族らしい…きっと、オスマンも、パーティーに来るゾ…」
「…子供が、パーティーですか?…」
葉尊が、苦笑した…
当然だ…
だから、私は、
「…子供といっても、頭がいいゾ…それに、パーティーに出席することで、色々、世界が広がる…だから、きっと、パーティーにやって来るゾ…」
と、私は、言った…
「…子供が、パーティーに?…」
そう言って、葉尊は、考え込んだ…
「…たしかに、お姉さんの言う通り、社会勉強には、最適だと思いますが…」
「…そうだろ?…」
私は、勢い込んで、言った…
「…大器晩成という言葉が、あるが、アレはウソさ…」
「…ウソ?…」
「…優れた人間は、最初から、優れているさ…例えば、偏差値40の高校や大学を出て、社会で、成功することは、ありえないさ…成功しても、それは、小さな成功さ…」
「…お姉さん、なにを言いたいんですか?」
「…つまり、頭のいい人間は、生まれつき、頭がいいということさ…頭が、悪ければ、成功は、するが、大きな成功は、しないということさ…生まれつき、美人や、イケメンに、生まれるのと、いっしょさ…」
「…」
「…だから、大器晩成という言葉は、ただ、生まれつき、頭のいい人間が、それまで、運に恵まれずにいたのに、突然、仕事が軌道に乗ったりして、うまくいった結果さ…能力があっても、それまで恵まれなかった人間が、恵まれた結果さ…」
葉尊は、私が、なにを言いたいか、わからず、きょとんとした表情になった…
「…だから、私が、言いたいのは、パーティーに、マリアを連れて行けと、言いたいのさ…」
「…マリアを? …なぜ、マリアをパーティーに連れて行くんですか?…」
「…今も言ったように、経験さ…」
私は、半ば強引に、言った…
「…マリアは、バニラの娘だが、オマエの妹でもある…だから、子供でも、幼いときから、パーティーに参加させて、場数を踏ませるに限る…そうすれば、大人になったときも、きっと、その経験が生きる…」
「…経験が、生きる…」
「…そうさ…どんなことも、経験さ…私が、大器晩成は、ウソだと言ったのは、成功するには、そもそも、能力が、必要だと、言いたかったのさ…マリアは、その能力がある…だから、子供の頃から、いろんな経験を積ませるに、限る…それが、マリアが、大人になったときに、役に立つからさ…」
私は、半ば、強引に、葉尊に言った…
要するに、ただ、マリアを、パーティーに連れてゆきたかったのだ…
パーティーにオスマン殿下が、来ることは、予想できる…
だから、どんなことをしても、マリアをパーティーに連れてゆきたかった…
そうすれば、オスマン殿下を、喜ばすことが、できるし、驚かすことも、できる…
そして、なにより、マリアは役に立つ…
オスマンは、マリアの言いなり…
マリアに惚れている…
これを利用しない手はなかった…
こう言えば、この矢田が、随分、ずるい人間と思うかもしれんが、そうではない…
マリアは、保険…
この矢田トモコにとっての、保険だった…
なにか、あっては、困る…
パーティーで、なにか、あっては、困るのだ…
それには、保険が、必要…
保険をかけるに、かける…
つまり、そういうことだ…
なにより、あのオスマンには、敵が多そうだ…
名探偵コナンではないが、パーティーのように、ひとが、多く集まる場所で、事件が、起こっては、困る…
だから、マリアを連れて行くに、限るのだ…
マリアが、役に立つかもしれんからだ…
だから、私は、大器晩成の話を持ち出して、マリアを、パーティーに出席させようとしたのだ…
どうやって、マリアをパーティーに出席させるか、悩んでいる中で、いきなり、閃いたのが、この大器晩成の話だった…
はっきり、言って、意味はない(笑)…
ただ、思いついただけだ(笑)…
だが、これを、マリアに例えれば、マリアは、生まれつき、優れた頭脳と、容姿を持って、生まれた…
が、
この先、どうなるかは、わからない…
嫌みではないが、大金持ちの家に生まれたとしても、実家が、没落する家は、枚挙にいとまがない…
ありふれている…
そして、なにより、お金があったからと言って、マリアが、幸せになれるか、どうかは、わからない…
結婚と離婚を繰り返して、
「…あの女の人生は、夫を取り換えるのに、費やした…」
と、陰口を叩かれる人生を歩むかもしれん…
悪口ではなく、誰もが、そうなる可能性を秘めている…
ただ、お金があれば、生活には、困らない…
どこの世界も、いつの時代も、夫婦が、ケンカする原因は、お金がないことに、起因することが多い…
不倫や、家庭内暴力も、多々あるが、一番は、お金がないことだろう…
失業した夫が、ちっとも、再就職が、決まらず、最初は、なんとかなると、思って、大目に見ていた妻が、
「…アンタ…一体、どうするの?…」
と、夫に詰め寄って、
「…そんなことを、言っても…」
と、夫が、言い訳をして、それから、ケンカになる…
それが、毎日のように続けば、互いに相手に愛想を尽かして、離婚する…
そういうものだ…
そして、なにより、大器晩成という言葉を思いついたのは、実は、オスマン殿下のせいだった…
オスマン殿下は、外見は、3歳だが、実は、30歳…
だが、優れている…
アラブの至宝と呼ばれるほど、優れている…
つまり、大器早成…
生まれつき、優れている…
だから、大器晩成ではない…
そう、思ったのだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…ボクは、構いませんが、父が、どういうか?…」
と、葉尊が、遠慮しがちに、口を開いた…
「…いえ、父は、ボクが、言えば、説得できると思います…お姉さんが、言うように、何事も経験とでも言えば、納得するでしょう…でも、バニラが…」
「…バニラが、どうかしたのか?…」
「…バニラが、納得するかどうか?…」
「…バニラが、納得するか、どうかだと? …」
「…ハイ…バニラは、ああ見えて、お堅いというか…」
「…お堅い?…」
「…根が慎重なんです…」
「…どういう意味だ?…」
「…パーティーに参加するとなると、当然ですが、あの子供は、誰の子供なのか、話題になります…パーティーに子供が参加することは、あまりありません…バニラは、父の愛人ですが、公には、知られていません…それも、あって、そんなことが、世間に知られれば、父にとっても、バニラにとっても、まずいと、思うと思います…」
葉尊が説明する…
そして、そう説明されると、私は、なにも、言えんかった…
たしかに、葉尊の言う通りだからだ…
子供が、パーティーに参加すれば、
「…アレは、誰の子?…」
と、誰もが、気になる…
まさか、葉敬と、バニラの子供だとは、言えん…
葉敬は、台北筆頭CEО…
バニラは、売れっ子のモデル…
二人は、父子ほど、歳が、違う…
その二人の間にできた子供だとは、口が裂けても、言えん…
なにより、マリアの存在が知れれば、葉敬にも、バニラにも、仕事に影響が出るかもしれん…
いや、
葉敬は、仕事に影響が出なくても、間違いなく、バニラには、出る…
バニラは、まだ23歳…
そんな23歳のバニラに、実は3歳の娘がいると知られては、絶対仕事に影響が出る…
うーむ…
これは、困った…
たしかに、葉尊の言う通りだが、どうしても、マリアには、パーティーに参加してもらわなければ、困る…
困るのだ…
うーむ…
どうすれば?
一体、どうすれば、いい?
悩んでいると、
「…でも、もしかしたら、お姉さんなら、なんとかなるかも…」
葉尊が、突然、言った…
「…どうして、私なら、なんとか、なるんだ?…」
「…お姉さんは、マリアと仲がいいじゃないですか? マリアは、お姉さんになついています…そんなお姉さんが、マリアに、パーティーに参加しないかと、提案すれば、マリアは喜んで参加するに違いありません…そうなれば、バニラも無下には、反対できないかも…」
…そうか…
…その手があったか!…
私は、思った…
たしかに、マリアは、私の言うことを、きく…
それに、マリアが、パーティーに参加したいと、いえば、母親のバニラも、反対しないに違いない…
私は、思った…
「…ありがとう、葉尊…」
私は、礼を言った…
「…どういたしまして…」
葉尊が、応じた…
が、
結果は、全然うまくいかんかった…
「…ダメ…」
バニラが、電話の向こうから、言った…
「…なにが、あっても、ダメよ…」
バニラが、まるで、相手にしなかった…
私が、葉尊が出社してから、朝一番で、バニラに電話をかけたのだった…
その結果が、これだった…
これだったのだ…
「…どうして、ダメなんだ?…」
「…どうしてって? ちょっと、お姉さん、考えて見て…」
「…なにを、考えるんだ?…」
「…子供が、パーティーに参加してみなさい…当然、誰の子供か、話題になる…そして、マリアが、私と、葉敬の子供だと、バレたら、困る…」
当たり前だった…
つい、さっき、葉尊が、言った通りだった…
「…大体、誰のパーティーなの? …面子は、誰?…」
…そうだった?…
…それを、まだ、伝えてなかった…
「…サウジの王族さ…」
「…サウジの王族?…」
「…ほら、以前、サウジの王族が、来日して、リンダが接待すると、言って、リンダが、怯えていたことが、あっただろ? アレさ…」
「…アレ?…」
「…ほら、リンダは、もしかしたら、そのパーティーで、知り会ったサウジの王族に、そのまま、サウジに、お持ち帰りされるんじゃないかと、ビビッてただろ? アレさ…」
私の言葉に、
「…」
と、バニラが、沈黙した…
まるで、聞こえてないかのようだった…
だから、
「…どうした? …バニラ、聞こえているか?…」
と、私は、聞いた…
すると、
「…サウジの王族って、オスマン殿下は、来るの?…」
と、バニラが、警戒するかのように、小さな声で、用心深く、聞いた…
「…それは、わからんさ…ただ、オスマン殿下が、来るとすれば、マリアが、いれば、喜ぶと思ってな…」
「…そう…」
小さな声で、バニラが、返答した…
「…それに、だ…」
私は、言ってやった…
「…オスマン殿下のおかげで、クールも台北筆頭も、今、アラブ世界で、進めている商談が、一気に進んだと、葉問が、言っていたゾ…」
「…エッ?…」
「…葉問は、私が、オスマン殿下に気に入られたからと、言っていたが、本当のところは、マリアのおかげじゃないかと、私は、思うゾ…マリアは、オスマン殿下のお気に入りだから…」
私が、言うと、再び、
「…」
と、バニラが、黙った…
「…そういうことなら…」
小さく、バニラが、返答した…
「…そういうことなら、断れない…」
バニラが、言った…
が、
その声は、泣いているようだった…
涙を流しているようだった…