第144話

文字数 3,859文字

 …弟のオスマンに近付いた目的だと?…

 このリンダは、偶然、このオスマンと、知り合ったんじゃないのか?

 私は、思った…

 世界中に知られた、ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワース…

 その抜群の知名度を生かして、世界中のあらゆるセレブと、繋がっている…

 その代表的な人物が、イギリス王室のウィリアム王子…

 将来のイギリス国王だ…

 ウィリアム王子は、リンダ・ヘイワースの熱心なファンで、知られている…

 そんなウィリアム王子と、このリンダ・ヘイワースは、繋がっている…

 個人的に、繋がっている…

 そして、そんなふうに、世界中の金持ちや、有名人と、繋がっている…

 だから、その延長線上で、このオスマンとも、繋がっていると、思った…

 当たり前だが、オスマンは、サウジアラビアの皇子…

 王族の一員だ…

 金持ちの一族だ…

 だから、なにをきっかけに、知り合ったかは、知らないが、このリンダが、オスマンと知り合っていても、おかしくはないからだ…

 が、

 そうでは、なかったのかもしれない…

 私は、ファラドの言葉に、ビックリして、リンダを見ていると、リンダは、

 「…」

 と、なにも、答えんかった…

 代わりに、無言で、ファラドを、見つめた…

 「…父に頼まれたんじゃ、ないんですか?…」

 ファラドが、仰天の言葉を言った…

 「…父の国王に頼まれんじゃ、ないんですか?…」

 ファラドが、続ける…

 リンダの表情が、こわばった…

 明らかに、リンダの顔が、こわばった…

 だから、ファラドの言葉は、真実を突いていると、思った…

 ファラドの言葉が、真実を突いていなければ、リンダの表情が、こわばるわけがないからだ…

 「…父は、策士です…」

 「…策士?…」

 と、リンダ…

 「…弟を…オスマンのことを、ボク一人に頼むとは、思いません…頼むなら、多方面に頼むでしょう…」

 「…」

 「…そして、なにより、今回は、リンダさん…アナタが、絡んでいる…アナタほどの知名度があり、著名人との交流がある人間ならば、父と交流があると、考えるのが、自然です…」

 「…」

 「…どうです? …違いますか?…」

 ファラドが、リンダに問うた…

 が、

 リンダは、

 「…フッフッフッ…」

 笑って、答えんかった…

 答えんかったのだ…

 私は、頭に来た…

 だから、

 「…リンダ…笑ってないで、答えろ…本当のことを、言え!…」

 と、怒鳴った…

 怒鳴ったのだ…

 が、

 リンダは、答えんかった…

 代わりに、

 「…お姉さん…答えられないこともあるのよ…」

 と、言った…

 「…わかって、お姉さん…」

 と、リンダが、続けた…

 私は、頭に来たが、そんなものかと、思った…

 たしかに、リンダの言うことは、わかる…

 答えられん=サウジの国王に、頼まれたと、言うことだろう…

 ファラドや、オスマンを、心配な父親=国王が、多方面に、色々人脈を使い、二人の様子を見ることが、できるように、したのだろう…

 父親とは、そういうものだ…

 肉親とは、そういうものだ…

 私は、思った…

 思いながら、考えた…

 この小人症のファラドの言ったこと…

 この矢田トモコに、イケメンのオスマンが、立ち向かえば、もはや改心の見込みがないから、サウジ本国に、強制送還するつもりだったと、さっき、言ったことだ…

 今は、このイケメンのオスマンも、普通に、ここにいるが、さっきは、間違いなく、この矢田に立ち向かってきた…

 おそらく、159㎝と、小柄なこの矢田トモコを人質に、取って、ここから、逃げ出す算段だったに違いなかった…

 が、

 幸か不幸か、それは、できんかった…

 なぜなら、私の前に、葉問が、立ち塞がったからだ…

 だから、できんかったのだ…

 なにより、このイケメンのオスマンは、前回、葉問と、殴り合いのケンカをして、負けた…

 だから、今回も、葉問と闘って、負けるとは、決まってないが、手ごわい相手だと、思ったに違いなかった…

 だから、私に、手を出すのは、止めた…

 手を出すのは、諦めた…

 が、

 それが、幸いした…

 もし、このイケメンのオスマンが、私に手を出せば、間違いなく、ファラドは、オスマンを許さなかっただろう…

 間違いなく、ファラドは、オスマンを、サウジ本国に、強制送還したに違いない…

 だから、そんなふうに、考えれば、このイケメンのオスマンに、とって、葉問は、恩人に違いなかった…

 葉問が、私の前に立ち塞がらなければ、間違いなく、このイケメンのオスマンは、私に手を出し、その結果、ファラドの逆鱗に触れたに違いなかったからだ…

 そんなことに、気付いた、私は、葉問を見た…

 いや、

 見ようとした…

 が、

 すでに、葉問の姿は、なかった…

 どこにも、なかったのだ…

 だから、

 「…葉問は?…」

 と、つい、聞いてしまった…

 つい、口走って、しまった…

 誰に、聞くともなく、つい、口走って、しまったのだ…

 すると、リンダが、

 「…もう、帰ったわ…」

 と、答えた…

 「…帰った?…」

 と、私。

 「…だって、葉問が、忙しいのは、お姉さんだって、わかってるでしょ?…」

 たしかに、リンダの言う通りだった…

 葉問=葉尊だ…

 私の夫の葉尊だ…

 葉尊は、この日本のクールのCEО…

 この日本の総合電機メーカー、クールのCEОだ…

 当然、忙しい…

 が、

 私が、心配で、自分のもう一人の人格である、葉問にカラダを貸して、陰ながら、私を守っていたに違いなかった…

 葉尊とは、そういう男だ…

 いや、

 葉尊が、そういう男でも、こういう男でも、どうでも、よかった…

 ただ、葉尊は、私、命の男…

 私を守るのが、使命…

 この矢田トモコが、守ることが、葉尊の使命だった…

 なぜか、わからんが、使命だったのだ…

 このオスマン同様、長身のイケメン…

 おまけに、大金持ちの御曹司…

 それが、なぜか、わからんが、この矢田トモコに、首ったけ…

 この身長、159㎝で、六頭身の巨乳の女に、首ったけだった…

 正直、わけが、わからんかった…

 葉尊に、ふさわしいのは、リンダ…

 このリンダ・ヘイワースだ…

 葉尊と、同じように、長身の美人…

 誰もが、振り返る、長身の美人だ…

 が、

 なぜか、葉尊は、そんなリンダに振り向きもせず、この矢田を選んだ…

 この矢田トモコを、選んだ…

 どう考えても、理解に苦しむが、これは、事実だった…

 真実だったのだ…

 だが、もしかしたら…

 もしかしたら、葉尊しか、知らない狙いが、あるのかも、しれん…

 私は、思った…

 誰にも、言ったことはないが、そう思えることが、あった…

 別に、理由は、ない…

 ただの感だ…

 この矢田トモコの直感だ…

 そして、これもまた、誰にも、言ったことは、ないが、私は、夫の葉尊よりも、弟の葉問の方が、信用できた…

 葉問の方が、信頼できたのだ…

 まさか、さすがに、これもまた、誰にも、言えんかった…

 なぜか、わからんが、葉問の方が、信頼できた…

 理由はない…

 これは、女の直感だ…

 あるいは…

 あるいは、これは、ただ、葉問の方が、私のために、文字通り、カラダを張るからかも、しれんかった…

 葉尊は、頭脳派…

 だから、日本の大企業、クールのCEОをしている…

 真逆に、葉問は、肉体派…

 だから、ケンカが得意…

 だから、前回も、今回も、私を守った…

 そして、女は、誰もが、そうだが、一緒にいて、自分のために、カラダを張ってくれる男を、頼もしく思う…

 信用、信頼できると、思う…

 極端な話、頭脳で、相手を論破するよりも、拳一つで、自分を、敵から守って、くれた男の方が、頼もしく思うからだ…

 だから、私は、葉問の方が、好きなのかもしれん…

 決して、誰にも、言うことは、できんが、そういうことかも、しれん…

 私は、思った…

 思ったのだ…

 が、

 一方では、それは、違うという声がした…

 心の声がした…

 単純に話していて、葉尊よりも、葉問の方が、話しやすいというか…

 葉問と話している方が、落ち着く…

 まさか、葉尊には、言えんが、葉問といるときの方が、葉尊といるときよりも、心が、落ち着くのだ…

 だからかも、しれん…

 だからかも、しれんのだ…

 いずれにしろ、答えはない…

 今すぐ、ここで、出せる答えは、ない…

 私は、思った…

 私は、考えた…

 と、そのときだった…

 「…あの男に借りを作ったな…」

 と、イケメンのオスマンが、呟いた…

 …借りだと?…

 …やはり、このオスマンも、気付いていたか?…

 私は、思った…

 すると、リンダが、

 「…借りを作ったと、思うならば、返せば、いいだけでしょ?…」

 と、口を挟んだ…

 「…どうやって、返すんだ?…」

 「…ファラドが、台北筆頭を狙っている…それを、止めさせれば、いいだけじゃないの…」

 リンダが、言った…

 仰天の言葉だった…

 驚いて、リンダを見た…

 これは、オスマンも、同じだった…

 「…でしょ?…」

 リンダが、笑う…

 そして、その笑いは、いつものリンダの笑いではなかった…

 いつも、私といっしょにいる、リンダの笑いではなかったのだ…

 それは、ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースの笑いだった…

 リンダ・ヘイワースの妖艶な、笑いだったのだ…

 その笑いを見て、

 「…なるほど…」

 と、オスマンが、呟いた…

 「…目的は、これか?…」

 「…なんだと、どういう意味だ?…」

 私は、つい口走った…

 口走らんわけには、いかなかった…

 「…兄貴の説得…」

 イケメンのオスマンが、言った…

               
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