第61話
文字数 6,032文字
「…オラ…オラ…オラ…ちんたら、ちんたら、してるんじゃないさ…」
私は、大声で、叫びながら、リンダ=ヤンと、ファラドの真ん中に、走った…
驚いた、リンダ=ヤンが、
「…どうしたの? …お姉さん?…」
と、言って、身をよけた…
つまりは、ヤン=リンダと、ファラドの間に、私が、入ったのだ…
「…オマエたち、男同士で、気持ち悪いゾ…」
私は、言った…
「…ゲイのカップルじゃないんだ…」
私の言葉に、ヤンが、
「…ゲイのカップル?…」
と、言って、絶句した…
それから、ヤンと、ファラドが、お互いを見て、爆笑した…
「…そんな、お姉さん…男二人が、ただ歩いているだけですよ…」
と、ファラドが、私に、抗議した…
「…それが、どうして、ゲイのカップルなんですか?…」
ファラドが、続けた…
「…それに、お姉さん?…」
「…なんだ?…」
「…イスラム世界では、原則的に、ゲイは、禁止です…国によっては、死刑になる国もあります…」
「…し…死刑だと?…」
私は、驚いた…
驚いたのだ…
私は、ゲイでも、レスビアンでも、なんでもないが、さすがに、ゲイやレスビアンというだけで、死刑というのは、驚きだ…
ひとを殺したり、傷つけたりして、死刑になるのは、わかる…
理解できる…
が、
ゲイやレスビアンというだけで、死刑になるのは、心底驚きだった…
「…だから、私は、今、マリアさんの保護者の方と、歩いているだけです…」
ファラドが、説明した…
「…でしょ?…」
と、言って、ファラドは、軽くウィンクをして、リンダを見た…
リンダ=ヤンを、見た…
長身で、浅黒く精悍なイケメンが、リンダを見たのだ…
もの凄いセックス・アピールだった…
色気が、ムンムンとしていた…
私は、これまで、こんな男は、見たことがなかった…
それは、私が、日本人だからだ…
日本人で、ここまで、セックス・アピールがある人間は、普通いない…
また、アジア人でもいない…
私の夫の葉尊も長身のイケメンだが、ここまで、セックス・アピールはない…
それは、ちょうど、このヤン=リンダが、きっちりと、ドレスを着て、正装をしたときに、発するセックス・アピールと同じ…
同じだ…
まさに、ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースが、発するセックス・アピールと同じだった…
私は、それを見て、気付いた…
…似た者同士…
似た者同士ということに、気付いたのだ…
きっと、互いに、互いの、セックス・アピールに惹かれたのかもしれん…
私は、思った…
互いに、周囲が思わず、引くほどのセックス・アピール=色気をムンムンさせている…
とてもではないが、この平凡な矢田トモコでは、太刀打ちできない…
対抗できないのだ…
この平凡な矢田トモコの出る幕ではない…
私は、それを悟った…
悟ったのだ…
だから、
「…オマエたち…勝手にすれば、いいさ…これから、二人で、ホテルでも、なんでも、行けばいいさ…」
ち、告げた…
告げたのだ…
「…お姉さん…ホテルって、なに? …どうして、ホテルなの? …これから、お遊戯大会が、この保育園で始まるのよ…」
ヤンが、目を白黒させて、言った…
…そうだった!…
お遊戯大会だった…
ホテルではなかった…
ヤン=リンダの言葉で、あらためて、自分の置かれた状況が、わかった…
再確認したのだ…
リンダ=ヤンと、ファラドが、まるで、恋人同士のように、楽しそうにしてるのを、見て、嫉妬したのだ…
できれば、私もファラドのようなイケメンと恋人同士のように、振る舞いたいと、夢想したのだ…
それが、はかなく、夢と消えた今、無性に、リンダに嫉妬した…
ヤン=リンダに嫉妬した…
それが、現実だった…
この矢田トモコともあろうものが、こんな劣悪な感情に、もてあそばされたのだ…
情けない…
実に、情けなかった…
が、
立ち直りの早いのも、私の美点の一つだった(笑)…
すぐに、あっけなく立ち直った…
「…さあ、行くゾ…」
私は、ヤン=リンダとファラドの間に立ちながら、叫んだ…
「…さっさと歩け…お遊戯大会に遅れるゾ…」
私は、断言した…
そして、ふと、気付いた…
リンダ=ヤンは、175㎝…
ファラドは、180㎝は、あるだろう…
夫の葉尊と同じぐらいだ…
その二人の間に、この矢田トモコがいる…
身長、159㎝の矢田トモコがいる…
すると、周囲は、どう見る?
凹んで、見えるのではないか?
真ん中だけ、凹んで見えるのでは、ないか?
ふと、気付いた…
これは、みっともない…
ふと、悟った…
自分が、周囲から、どう見られるか、悟った私は、慌てて、二人から離れた…
…危なかった…
実に危なかった…
賢明な私だから、この事実に気付いたが、余人ならば、難しいだろう…
私は、自分の頭の良さに救われたと、悟った…
悟ったのだ…
私は、ファラドとヤンから、一歩も二歩も、前を歩いた…
すると、その先には、あのオスマン殿下と、マリアが、歩いていた…
背後から、見ると、これまた似合いのカップルだった…
子供ながら、似合っていた…
まさに、理想のカップルだった…
こんなときに、葉尊がいれば?
ふと、思った…
夫の葉尊が、いれば、私も、一人ぼっちではない…
が、
仮に、夫の葉尊と並んで、歩いていても、似合わない…
似合わないこと、この上ない…
夫の葉尊は、長身…
180㎝近くある…
それに対して、この矢田トモコは、身長、159㎝…
だから、並んで歩いていても、似合わない…
似合わないこと、この上ない…
私は、遅まきながら、その事実に、気付いた…
いや、
その事実に、気付いたのは、昨日、今日ではない…
ずっと前からだ…
にもかかわらず、私は、気にしなかった…
これは、私が、鈍感だからではない…
なぜなら、世間には、そんな凸凹カップルは、ありふれているからだ…
身長差のある、カップルは、ありふれているからだ…
そして、もう一つ…
私が、決して、美人でもなんでもないにも、かかわらず、イケメンの葉尊といっしょに、いても、コンプレックスを感じないのは、これもまた、同じく、そんなカップルは、世間にありふれているからだ…
真逆に言えば、世の中に、美男美女のカップルは、あまりいない…
男が、イケメンならば、女は、普通…
真逆に、女が、美人ならば、男は、普通…
これが、多い…
テレビや映画の中の美男美女のカップルは、普通は、世の中に存在しない…
少なくても、私は、街中で、そんな美男美女のカップルは、見たことがなかった…
だから、これまで、私は、葉尊といっしょに、いても、おかしいとか、コンプレックスは、感じたことがなかったのだ…
が、
今、リンダ=ヤンと、ファラドが、並んで歩いている…
リンダは、今、ヤンの格好をしている…
ヤンという男装をしている…
男の格好をしている…
にもかかわらず、ファラドと並んで歩くと、似合うのだ…
ヤンとファラドが、並んで、歩くと、華やかで、目立つのだ…
人目を引くのだ…
だから、それを見て、私は、美男美女のカップルを思ったのだ…
これまで、考えたことのないことを、考えたのだ…
そして、オスマン殿下と、マリア…
これまた、ちっちゃいながらも、似合いのカップルだった…
マリアは、小さいながらも、美人…
母親のバニラと、同じく美人だった…
目鼻立ちが、子供ながら、抜きん出ていた…
オスマンも同じ…
子供だが、中東の男にふさわしく、浅黒い肌に、精悍な顔立ちだった…
子供ながら、イケメンだった…
だから、思ったのだ…
子供ながらに、美男美女のカップルだった…
だから、この矢田トモコも、今さらながら、自分と葉尊の違いに気付いたのだ…
が、
夫の葉尊と、この矢田トモコが、似合わないと、気付いたところで、どうこう言うつもりは、なかった…
むしろ、ラッキー…
ラッキーの一言だった…
この平凡な矢田トモコが、長身で、イケメンの葉尊と、結婚しているのだ…
イケメンで、お金持ちの葉尊と結婚しているのだ…
ラッキー、この上なかった…
それを、考えると、私の気持ちも落ち着いた…
ゆっくりと、落ち着いた気持ちで、オスマンとマリアの後を、歩いた…
保育園は、思った以上に、質素だった…
いや、
質素という言葉は、違うかもしれない…
お金持ちの子弟の通う、セレブの保育園だから、中もゴージャスじゃないか?と、勝手に想像したのだ…
が、
違った…
至って、平凡だった…
が、
そこに集まった父兄は、平凡ではなかった…
まるで、ファッションショーでも、始まるのかと、思うぐらい、ゴージャスだった…
ゴージャス=ブランド品の見本市だった…
あまり、ブランドに詳しくない私でも、一目で、それが、わかった…
にも、かかわらず、その中で、一番目立っていたのは、やはりというか、ヤンとファラドだった…
二人とも、おおげさに言えば、後光が差して見えたというか…
二人だけに、スポットライトが当たっているように、華やかだった…
いくら、金持ちの子弟やその両親が、集まる場所でも、そこにいるのは、一般人…
スターではない…
日本人ではなく、外人も多いが、ヤンや、ファラドのような華やかな人間は、誰もいなかった…
つまり、それほど、目立っていたということだ…
そして、その傍らに、この矢田トモコがいた…
この平凡、極まりない矢田トモコがいた…
すでに、セレブの父兄の中に、埋没していた(笑)…
身長も159㎝と、小さい…
日本人の女性の中ならば、小さくも、大きくもないが、やはり、セレブの保育園だけあって、大半は、外人だった…
白人だった…
その中に、あって、この矢田トモコの身長は、低かった…
が、
それが、良かった…
なぜなら、目立たなくて、すむからだ…
私は、目立つ…
自分で言うのも、なんだが、なぜか、集団の中で、目立つらしい…
私は、それが、嫌だった…
ずっと、昔の学生時代から、
「…矢田って、なんだか、目立つんだよね…」
と、友達に、言われてきた…
言われ続けてきた…
なぜかは、わからない…
だから、なぜ、目立つのか、友人に聞くと、
「…それが、よくわからないんだよね…」
と、返って来た…
「…よくわからないだと? …どういうことだ?…」
「…矢田って、どこにいても、目立つ…別に、そこで、矢田がなにか、しているわけでもないんだよね…でも、目立つ…」
その回答に、私は、どう答えていいか、わからなかった…
そんなことを、言われても、困る…
それが、偽らざる、私の気持ちだった…
それに、私は、別に、目立ちたがりでも、なんでもなかった…
クラスでも、委員長とか、生徒会長とか、した経験は、皆無…
一度もない…
にも、かかわらず、私が、一番目立っていたと、いう声は、卒業して、偶然、街中で、友達と再会すると、いつも言われるセリフだった…
だから、最初は、驚いたが、今では、あまり気にならなくなった…
誰でも、そうだが、何度も、繰り返し言われれば、慣れてしまうからだ…
自分自身、少しも納得していないにも、かかわらず、そういうものだと、思ってしまうからだった…
まあ、しかし、自分で、言うのも、おかしいが、そんなものかもしれない…
そんなものかみしれないと、今は、思う…
実感する…
いわば、ないものねだり…
私は、生まれつき、目立つから、目立ちたくないだけ…
真逆に、なにをしても、目立たない人間は、目立ちたいのだろう…
さっき、言った、高卒のひとが、会社に入って、出世したいと、願うのと、同じ…
同じだ…
学校の勉強では、大卒のひとに、負けたが、仕事では、負けないと、言うのと、同じだ…
ないものねだり…
持ってないから、欲しいのだ…
最初から、持っていれば、欲しくもなんともない…
それと、同じだ…
そういう私自身、リンダやバニラのように、美しいルックスや、夫の葉尊のような金持ちに憧れる気持ちは、普通にある…
が、
いくら、憧れても、できることと、できないことがある…
叶うことと、叶わないことがある…
葉尊のようなお金持ちとは、結婚できたが、リンダやバニラのような、美人には、どうあがいていても、なれない…
それが、現実だ…
悲しい現実だ…
誰もが、そうだが、一生懸命、頑張ったり、あるいは、頑張りもしないが、私のように、たまたま運よく、お金持ちと結婚できた男女は、世の中にいるだろう…
が、
顔は、変えることが、できないし、身長も、変えることができない…
それは、諦めるしかない…
もっとも、今の時代は、ネットで見ると、はっきり言って、私から見ても、ブザイクな女が、整形で、美人になった例を、少なからず、見かけるので、顔を変えることも、できるのかもしれない…
美人になることも、できるのかもしれない…
が、
果たして、一生、そのままの顔で、いられるのかは、甚だ疑問だ…
例えば、私と同じく、35歳で、整形して、見違えるような美人になったとする…
すると、どうだ?
そのままの顔で、80歳になれるのだろうか?
90歳になれるのだろうか?
歳をとったときに、普通に老いることができるのだろうか?
甚だ疑問だ…
ネットで見ると、整形を繰り返した、80歳の老婆が、まるで、粘土かなにかで、作ったような顔になったのを、見たことがある…
そうなってしまわないか、不安なのだ…
そして、身長とスタイル…
これは、変えることができない…
身長も、そうだが、ただ高くても、ダメ…
男もそうだが、とりわけ、女は、スタイルがよくないと、若くて、長身でも、カッコよく見えない…
なまじ、顔が良く、美人で、長身でも、スタイルが良くないと、幻滅するというか…
残念だと思う…
なにより、本人自身が、そう思うだろう…
これもまた、ないものねだり…
完璧な人間は、いない…
すべてを持って、生まれた人間は、いないということだ…
そして、それを知れば、普通は、安心する…
大抵の人間は、皆、自分と大差ないと知って、安心するのだ…
東大生を見ても、美男美女は、滅多にいないし、堂々と、落ち着いた様子で、リーダーシップを持った人間も、また滅多にいない…
それを知って、安心するのだ…
が、
一部の人間は、それを知っても、なお安心できない人間がいる…
とにかく、自分が一番になりたい人間がいる…
私には、理解ができないが、一定数いる…
こうなると、どうしていいか、わからない…
ただ、私には、理解不能が、人間がいる…
そう思うだけだ(笑)…
そして、そんなことを、考えていると、なぜか、会場が、どよめいた…
一体、何事かと思った…
すると、壇上になぜか、私そっくりの顔の女がいた…
矢口のお嬢様がいた…
私は、大声で、叫びながら、リンダ=ヤンと、ファラドの真ん中に、走った…
驚いた、リンダ=ヤンが、
「…どうしたの? …お姉さん?…」
と、言って、身をよけた…
つまりは、ヤン=リンダと、ファラドの間に、私が、入ったのだ…
「…オマエたち、男同士で、気持ち悪いゾ…」
私は、言った…
「…ゲイのカップルじゃないんだ…」
私の言葉に、ヤンが、
「…ゲイのカップル?…」
と、言って、絶句した…
それから、ヤンと、ファラドが、お互いを見て、爆笑した…
「…そんな、お姉さん…男二人が、ただ歩いているだけですよ…」
と、ファラドが、私に、抗議した…
「…それが、どうして、ゲイのカップルなんですか?…」
ファラドが、続けた…
「…それに、お姉さん?…」
「…なんだ?…」
「…イスラム世界では、原則的に、ゲイは、禁止です…国によっては、死刑になる国もあります…」
「…し…死刑だと?…」
私は、驚いた…
驚いたのだ…
私は、ゲイでも、レスビアンでも、なんでもないが、さすがに、ゲイやレスビアンというだけで、死刑というのは、驚きだ…
ひとを殺したり、傷つけたりして、死刑になるのは、わかる…
理解できる…
が、
ゲイやレスビアンというだけで、死刑になるのは、心底驚きだった…
「…だから、私は、今、マリアさんの保護者の方と、歩いているだけです…」
ファラドが、説明した…
「…でしょ?…」
と、言って、ファラドは、軽くウィンクをして、リンダを見た…
リンダ=ヤンを、見た…
長身で、浅黒く精悍なイケメンが、リンダを見たのだ…
もの凄いセックス・アピールだった…
色気が、ムンムンとしていた…
私は、これまで、こんな男は、見たことがなかった…
それは、私が、日本人だからだ…
日本人で、ここまで、セックス・アピールがある人間は、普通いない…
また、アジア人でもいない…
私の夫の葉尊も長身のイケメンだが、ここまで、セックス・アピールはない…
それは、ちょうど、このヤン=リンダが、きっちりと、ドレスを着て、正装をしたときに、発するセックス・アピールと同じ…
同じだ…
まさに、ハリウッドのセックス・シンボル、リンダ・ヘイワースが、発するセックス・アピールと同じだった…
私は、それを見て、気付いた…
…似た者同士…
似た者同士ということに、気付いたのだ…
きっと、互いに、互いの、セックス・アピールに惹かれたのかもしれん…
私は、思った…
互いに、周囲が思わず、引くほどのセックス・アピール=色気をムンムンさせている…
とてもではないが、この平凡な矢田トモコでは、太刀打ちできない…
対抗できないのだ…
この平凡な矢田トモコの出る幕ではない…
私は、それを悟った…
悟ったのだ…
だから、
「…オマエたち…勝手にすれば、いいさ…これから、二人で、ホテルでも、なんでも、行けばいいさ…」
ち、告げた…
告げたのだ…
「…お姉さん…ホテルって、なに? …どうして、ホテルなの? …これから、お遊戯大会が、この保育園で始まるのよ…」
ヤンが、目を白黒させて、言った…
…そうだった!…
お遊戯大会だった…
ホテルではなかった…
ヤン=リンダの言葉で、あらためて、自分の置かれた状況が、わかった…
再確認したのだ…
リンダ=ヤンと、ファラドが、まるで、恋人同士のように、楽しそうにしてるのを、見て、嫉妬したのだ…
できれば、私もファラドのようなイケメンと恋人同士のように、振る舞いたいと、夢想したのだ…
それが、はかなく、夢と消えた今、無性に、リンダに嫉妬した…
ヤン=リンダに嫉妬した…
それが、現実だった…
この矢田トモコともあろうものが、こんな劣悪な感情に、もてあそばされたのだ…
情けない…
実に、情けなかった…
が、
立ち直りの早いのも、私の美点の一つだった(笑)…
すぐに、あっけなく立ち直った…
「…さあ、行くゾ…」
私は、ヤン=リンダとファラドの間に立ちながら、叫んだ…
「…さっさと歩け…お遊戯大会に遅れるゾ…」
私は、断言した…
そして、ふと、気付いた…
リンダ=ヤンは、175㎝…
ファラドは、180㎝は、あるだろう…
夫の葉尊と同じぐらいだ…
その二人の間に、この矢田トモコがいる…
身長、159㎝の矢田トモコがいる…
すると、周囲は、どう見る?
凹んで、見えるのではないか?
真ん中だけ、凹んで見えるのでは、ないか?
ふと、気付いた…
これは、みっともない…
ふと、悟った…
自分が、周囲から、どう見られるか、悟った私は、慌てて、二人から離れた…
…危なかった…
実に危なかった…
賢明な私だから、この事実に気付いたが、余人ならば、難しいだろう…
私は、自分の頭の良さに救われたと、悟った…
悟ったのだ…
私は、ファラドとヤンから、一歩も二歩も、前を歩いた…
すると、その先には、あのオスマン殿下と、マリアが、歩いていた…
背後から、見ると、これまた似合いのカップルだった…
子供ながら、似合っていた…
まさに、理想のカップルだった…
こんなときに、葉尊がいれば?
ふと、思った…
夫の葉尊が、いれば、私も、一人ぼっちではない…
が、
仮に、夫の葉尊と並んで、歩いていても、似合わない…
似合わないこと、この上ない…
夫の葉尊は、長身…
180㎝近くある…
それに対して、この矢田トモコは、身長、159㎝…
だから、並んで歩いていても、似合わない…
似合わないこと、この上ない…
私は、遅まきながら、その事実に、気付いた…
いや、
その事実に、気付いたのは、昨日、今日ではない…
ずっと前からだ…
にもかかわらず、私は、気にしなかった…
これは、私が、鈍感だからではない…
なぜなら、世間には、そんな凸凹カップルは、ありふれているからだ…
身長差のある、カップルは、ありふれているからだ…
そして、もう一つ…
私が、決して、美人でもなんでもないにも、かかわらず、イケメンの葉尊といっしょに、いても、コンプレックスを感じないのは、これもまた、同じく、そんなカップルは、世間にありふれているからだ…
真逆に言えば、世の中に、美男美女のカップルは、あまりいない…
男が、イケメンならば、女は、普通…
真逆に、女が、美人ならば、男は、普通…
これが、多い…
テレビや映画の中の美男美女のカップルは、普通は、世の中に存在しない…
少なくても、私は、街中で、そんな美男美女のカップルは、見たことがなかった…
だから、これまで、私は、葉尊といっしょに、いても、おかしいとか、コンプレックスは、感じたことがなかったのだ…
が、
今、リンダ=ヤンと、ファラドが、並んで歩いている…
リンダは、今、ヤンの格好をしている…
ヤンという男装をしている…
男の格好をしている…
にもかかわらず、ファラドと並んで歩くと、似合うのだ…
ヤンとファラドが、並んで、歩くと、華やかで、目立つのだ…
人目を引くのだ…
だから、それを見て、私は、美男美女のカップルを思ったのだ…
これまで、考えたことのないことを、考えたのだ…
そして、オスマン殿下と、マリア…
これまた、ちっちゃいながらも、似合いのカップルだった…
マリアは、小さいながらも、美人…
母親のバニラと、同じく美人だった…
目鼻立ちが、子供ながら、抜きん出ていた…
オスマンも同じ…
子供だが、中東の男にふさわしく、浅黒い肌に、精悍な顔立ちだった…
子供ながら、イケメンだった…
だから、思ったのだ…
子供ながらに、美男美女のカップルだった…
だから、この矢田トモコも、今さらながら、自分と葉尊の違いに気付いたのだ…
が、
夫の葉尊と、この矢田トモコが、似合わないと、気付いたところで、どうこう言うつもりは、なかった…
むしろ、ラッキー…
ラッキーの一言だった…
この平凡な矢田トモコが、長身で、イケメンの葉尊と、結婚しているのだ…
イケメンで、お金持ちの葉尊と結婚しているのだ…
ラッキー、この上なかった…
それを、考えると、私の気持ちも落ち着いた…
ゆっくりと、落ち着いた気持ちで、オスマンとマリアの後を、歩いた…
保育園は、思った以上に、質素だった…
いや、
質素という言葉は、違うかもしれない…
お金持ちの子弟の通う、セレブの保育園だから、中もゴージャスじゃないか?と、勝手に想像したのだ…
が、
違った…
至って、平凡だった…
が、
そこに集まった父兄は、平凡ではなかった…
まるで、ファッションショーでも、始まるのかと、思うぐらい、ゴージャスだった…
ゴージャス=ブランド品の見本市だった…
あまり、ブランドに詳しくない私でも、一目で、それが、わかった…
にも、かかわらず、その中で、一番目立っていたのは、やはりというか、ヤンとファラドだった…
二人とも、おおげさに言えば、後光が差して見えたというか…
二人だけに、スポットライトが当たっているように、華やかだった…
いくら、金持ちの子弟やその両親が、集まる場所でも、そこにいるのは、一般人…
スターではない…
日本人ではなく、外人も多いが、ヤンや、ファラドのような華やかな人間は、誰もいなかった…
つまり、それほど、目立っていたということだ…
そして、その傍らに、この矢田トモコがいた…
この平凡、極まりない矢田トモコがいた…
すでに、セレブの父兄の中に、埋没していた(笑)…
身長も159㎝と、小さい…
日本人の女性の中ならば、小さくも、大きくもないが、やはり、セレブの保育園だけあって、大半は、外人だった…
白人だった…
その中に、あって、この矢田トモコの身長は、低かった…
が、
それが、良かった…
なぜなら、目立たなくて、すむからだ…
私は、目立つ…
自分で言うのも、なんだが、なぜか、集団の中で、目立つらしい…
私は、それが、嫌だった…
ずっと、昔の学生時代から、
「…矢田って、なんだか、目立つんだよね…」
と、友達に、言われてきた…
言われ続けてきた…
なぜかは、わからない…
だから、なぜ、目立つのか、友人に聞くと、
「…それが、よくわからないんだよね…」
と、返って来た…
「…よくわからないだと? …どういうことだ?…」
「…矢田って、どこにいても、目立つ…別に、そこで、矢田がなにか、しているわけでもないんだよね…でも、目立つ…」
その回答に、私は、どう答えていいか、わからなかった…
そんなことを、言われても、困る…
それが、偽らざる、私の気持ちだった…
それに、私は、別に、目立ちたがりでも、なんでもなかった…
クラスでも、委員長とか、生徒会長とか、した経験は、皆無…
一度もない…
にも、かかわらず、私が、一番目立っていたと、いう声は、卒業して、偶然、街中で、友達と再会すると、いつも言われるセリフだった…
だから、最初は、驚いたが、今では、あまり気にならなくなった…
誰でも、そうだが、何度も、繰り返し言われれば、慣れてしまうからだ…
自分自身、少しも納得していないにも、かかわらず、そういうものだと、思ってしまうからだった…
まあ、しかし、自分で、言うのも、おかしいが、そんなものかもしれない…
そんなものかみしれないと、今は、思う…
実感する…
いわば、ないものねだり…
私は、生まれつき、目立つから、目立ちたくないだけ…
真逆に、なにをしても、目立たない人間は、目立ちたいのだろう…
さっき、言った、高卒のひとが、会社に入って、出世したいと、願うのと、同じ…
同じだ…
学校の勉強では、大卒のひとに、負けたが、仕事では、負けないと、言うのと、同じだ…
ないものねだり…
持ってないから、欲しいのだ…
最初から、持っていれば、欲しくもなんともない…
それと、同じだ…
そういう私自身、リンダやバニラのように、美しいルックスや、夫の葉尊のような金持ちに憧れる気持ちは、普通にある…
が、
いくら、憧れても、できることと、できないことがある…
叶うことと、叶わないことがある…
葉尊のようなお金持ちとは、結婚できたが、リンダやバニラのような、美人には、どうあがいていても、なれない…
それが、現実だ…
悲しい現実だ…
誰もが、そうだが、一生懸命、頑張ったり、あるいは、頑張りもしないが、私のように、たまたま運よく、お金持ちと結婚できた男女は、世の中にいるだろう…
が、
顔は、変えることが、できないし、身長も、変えることができない…
それは、諦めるしかない…
もっとも、今の時代は、ネットで見ると、はっきり言って、私から見ても、ブザイクな女が、整形で、美人になった例を、少なからず、見かけるので、顔を変えることも、できるのかもしれない…
美人になることも、できるのかもしれない…
が、
果たして、一生、そのままの顔で、いられるのかは、甚だ疑問だ…
例えば、私と同じく、35歳で、整形して、見違えるような美人になったとする…
すると、どうだ?
そのままの顔で、80歳になれるのだろうか?
90歳になれるのだろうか?
歳をとったときに、普通に老いることができるのだろうか?
甚だ疑問だ…
ネットで見ると、整形を繰り返した、80歳の老婆が、まるで、粘土かなにかで、作ったような顔になったのを、見たことがある…
そうなってしまわないか、不安なのだ…
そして、身長とスタイル…
これは、変えることができない…
身長も、そうだが、ただ高くても、ダメ…
男もそうだが、とりわけ、女は、スタイルがよくないと、若くて、長身でも、カッコよく見えない…
なまじ、顔が良く、美人で、長身でも、スタイルが良くないと、幻滅するというか…
残念だと思う…
なにより、本人自身が、そう思うだろう…
これもまた、ないものねだり…
完璧な人間は、いない…
すべてを持って、生まれた人間は、いないということだ…
そして、それを知れば、普通は、安心する…
大抵の人間は、皆、自分と大差ないと知って、安心するのだ…
東大生を見ても、美男美女は、滅多にいないし、堂々と、落ち着いた様子で、リーダーシップを持った人間も、また滅多にいない…
それを知って、安心するのだ…
が、
一部の人間は、それを知っても、なお安心できない人間がいる…
とにかく、自分が一番になりたい人間がいる…
私には、理解ができないが、一定数いる…
こうなると、どうしていいか、わからない…
ただ、私には、理解不能が、人間がいる…
そう思うだけだ(笑)…
そして、そんなことを、考えていると、なぜか、会場が、どよめいた…
一体、何事かと思った…
すると、壇上になぜか、私そっくりの顔の女がいた…
矢口のお嬢様がいた…