第4話
文字数 8,697文字
…誰かが、涙を流すような事態は、避けねばならん…
私は、思った…
あのリンダ…リンダ・ヘイワースが、パンツが見えるような短い服を着て、接待する…
世の男どもは、その姿を間近に見れば、狂喜乱舞するだろう…
ある意味、男というものは、単純なものだ…
若く、美人の女が、大げさにいえば、裸に近い状態で、接待すれば、喜ぶ…
これは、老いも若きも同じ…
同じだ…
だから、実に、単純だ…
もっとも、これは、女も同じ…
若いイケメンが、接待すれば、八十代の老婆も喜ぶ…
誰もが、ルックスが、悪いよりも、良い方がいい…
歳を取った人間よりも、若い方が、いい…
当たり前のことだ…
これは、人間、誰もが、同じ…
DNAレベルで、無意識に、脳に、刻み込まれているのだろう…
ただし、これは、あくまで、外見のみ…
やはり、中身が大事だ…
どんなに、若く、ルックスが良い男女でも、性格が、悪い人間は、ごめんだ…
ずっと、以前、私は、バイト先で、ルックスが、いいが、険のある目を持つ、若い男を見たことがある…
その男は、やることは、はしっこいが、いつも、誰かの悪口や噂話をしていた…
生まれつき、性格が、良くないのだろう…
自分が、就職試験に落ちたとき、学校の先生は、皆、一様に、驚いたといっていたが、それは、違うと思った…
要するに、面接で、落ちたのだ…
目に険がある=印象が悪いから、落ちたのだ…
だが、教師に好かれていないから、誰も、本当のことは、いわない…
そういうことだ…
その男は、自分が、クラスで、勉強ができたと、いつも吹聴していた…
だから、自分に自信があったのだ…
ただ、勉強ができるといっても、たかだか、偏差値40の工業高校だ…
頭の程度が、知れてる…
が、
本人には、それがわからなかった(笑)…
会社の面接で、なにが、重要かといえば、部署に配属されたときに、周囲の人間と、うまく馴染めるか、否かだ…
その男は、なにか、問題を起こすと、面接官は、思ったに違いない…
誰でも、そうだが、第一印象は、大事だ…
第一印象=ファーストインプレッションは、大事だ…
誰もが、こいつは、性格が、悪いに違いないと、判断すれば、やはり、皆、そう思う…
が、
当たり前だが、その当人は、そう思わない(爆笑)…
だから、学校の友人なり、教師なりに、一言、言ってもらうことが、大事だが、当然、いつも、誰かの悪口を言っている人間に、親身に接する人間はいない…
その男が、その後、どうなったか、わからないが、大変な人生を送ったに違いないというのが、私の感想だった…
なぜ、大変な人生を送ったかといえば、その男は、いうまでもなく学歴がなかった…
だから、やることは、はしっこいが、出世ができない…
少し頭が良ければ、この会社では、どういう人間が、出世できるのか、見ていれば、わかるものだが、それが、わからない…
また、その男に、もう少し寄り添って考えれば、その男以下の人間もまた、多かった(笑)
だが、時間が、経てば、皆、大半が、その男を追い抜いてゆくだろう…
また、その男以下の人間は、会社を去ったに違いない…
なまじ、はしっこいから、自分に自信を持っている…
だが、残念ながら、自分のことしか、わからない人間だった…
周囲のことや、自分が、どう見られているか、さっぱり、わからない人間だった…
同じような性格の良くない人間と、いつも、誰かの悪口や噂話に興じていた…
だから、やることは、はしっこいが、それ以上が、できない…
要するに、担当レベル…
ひとの上に立つことができない…
それが、わからなかった…
だから、十年いても、二十年いても、そのままだったろう…
私は、それを思い出した…
そして、それを、思い出すと、やはり、顔が良くても、人相の良くない人間は、ゴメンだと思った(笑)…
誰もが、自分の隣に、そんな人間が、いては、逃げ出したくなる(笑)…
逃げ出したくないのは、当人や、似たような仲間だけだ(笑)…
私が、葉尊に言ったように、色々な人間を見てきたのは、バイト生活が長かったからだ…
単純にそれだけだ(笑)…
会社でも、役所でも、ずっと、十年も二十年も同じ部署に勤めている人間が稀にいるが、それでは、おおげさに言えば、世の中のことは、わからない…
会社で言えば、少なくとも、2社は、知っていた方が、いい…
同じ会社でも、違う部署を経験した方が、いい…
なぜなら、少々変人が、いても、
「…あの人は、ああいうひとだから…」
で、すんでしまうからだ(爆笑)…
普通は、そういうわけには、いかない…
うまく、相手に合わせる必要が、生じる…
が、
ずっと、同じ職場では、その必要が、生じない…
本人にとって、それが、幸か不幸か、わからないが、そういう人間が、会社をリストラされて、他の会社にいったときに、文字通り、大変なことになる…
本人のそれまでの常識が、通用しなくなるからだ…
あのひとは、ああいうひとだからと、周囲の人間も、おおめに見てくれていたり、半ば、諦めていたことが、通用しなくなる(笑)…
結果、新しい職場を去らなければ、ならなくなるだろう…
私は、自慢ではないが、そんな人間を数多く見てきた…
そして、我ながら、うまく立ち回って来たと、思う…
だから、私のことを、陰で、生き方上手と呼んだひともいる(笑)…
上にも、下にも、嫌われないからだ…
芸能人でいえば、元AKBの大島優子が、それに当てはまる…
誰にも、好かれ、敵を作らない…
本人の努力もさることながら、その人柄だろう…
なにをしようと、どんな場所にいようと、敵を作る人間は、敵を作る…
そういうものだ…
必ず、誰か、その人間を気に入らない人間が出てくるものだ…
さっき、言った目に険のある男など、その好例だろう…
きっと、あのまま、職場にいれば、間違いなく、彼を気に入らない後輩が出てくるに違いない…
そして、因果応報というか、必ず、悪口を言われているだろう…
悪口をいつも、言っている人間は、当然、他の誰かから、悪口を言われるものだからだ…
当たり前のことだ…
私は、ふと、そんなことを、思った…
私の夫、葉尊が、社長を務めるクールは、総合電機メーカー…
日本のパナソニックや、日立などと、同じだ…
近年、クールが、倒産寸前になり、葉尊の父、葉敬が、買収したのだ…
葉敬は、台湾の大会社、台北筆頭のオーナー創業者だった…
日本の総合電機メーカー、クールが、倒産寸前だったことを、知り、商売になると考え、会社を買収したのだ…
なにしろ、日本の総合電機メーカーだ…
優秀なエンジニアなど、たくさんいる…
ただ、経営陣が、時代の趨勢が、読めなかったから、倒産寸前に、追い込まれたに過ぎない…
それだけのことだ…
倒産寸前に、追い込まれたからといって、社員が、全員、無能というわけでは、決してない…
無能なのは、大抵、経営者というか、経営陣だ…
戦前の日本でいえば、戦争を指揮する人間は、無能だったが、兵士は、下へいけば、ゆくほど、優秀だったと言われている…
それと、似たようなものだ(笑)…
クールは、たしかに、倒産寸前に追い込まれたが、社員は、優秀だった…
これは、トヨタと、日産を比べれば、わかる…
今、トヨタは、絶好調だが、日産は、業績が、悪い…
しかしながら、例えば、30年前、40年前に、トヨタと日産に入社した人間に、どれほどの差があったかと、いえば、誰もが、返答に詰まるだろう…
トヨタや日産に入社した人間が、全員、優秀とは、お世辞にも言えないが、日産に、入社した人間が、ほぼ全員、トヨタに入社した人間よりも、劣っていたとは、思えない…
が、
30年後、40年後は、もはや、比べ物にならないくらいの大差がついた…
それが、現実だ…
いわゆる、個の力ではなく、集団の力が、トヨタは、優れているのだろう…
そう思えてくる…
それと、同じで、クールが、いくら、倒産寸前に追い込まれても、社員は、決して、無能な人間ばかりではなかった…
むしろ、宝の山だった…
いかに、倒産寸前の憂き目にあったとは、いえ、クールは、日本の大企業…
東大を始めとして、優秀な大学や、大学院を、出た人間は、大勢いる…
つまり、潜在能力が、抜きん出ている…
それを、葉敬は、知り抜いていた…
だから、買収した…
そして、葉敬の剛腕で、クールは、短期間で、再生した…
蘇った…
これは、嬉しいことだった…
なんといっても、私の夫が、社長を務める会社だ…
私にとっても、嬉しくないはずがなかった…
が、
ここまで、書くと、私とクールは、実に身近に思えるが、実際は、全然そうではなかった(涙)…
クールの本社に、行ったのも、数えるほどだった…
というのは、なにしろ、私は、平凡…
平凡の極みの女だったからだ…
誰が、どう見ても、クールの社長、葉尊の妻とは、思えない…
すでに、書いたが、葉尊は、180㎝の長身で、まるで、芸能人のようなイケメンだった…
それに対して、私は、159㎝…
おまけに、寸胴の六頭身の女だった…
自慢は、胸の大きさのみ…
しかも、普段は、いつもTシャツに、ジーンズ、そして、スニーカーだった…
これまで、35年生きてきて、お洒落に夢中になったことなど、一度もない…
私は、誰が、どう見ても、フリーターが、合っていたし、現にその通りだった(涙)…
が、
しかしながら、私は、そんな自分自身の生き方を恥じたことなど、一度もなかった…
私は、いつも全力投球…
一生懸命、生きてきた自負があるからだ…
ただ、周りの評価が、ちょっと、違っただけだ(涙)…
それだけのことだった(笑)…
話を戻そう…
問題は、なぜ、私は、クールに顔を出さないかだ…
要するに、似合わないのだ…
そして、なにより、居心地が悪かったのだ…
クールに行けば、
「…社長夫人…」
あるいは、
「…奥様…」
と、持ち上げられる…
しかしながら、その社長夫人が、白のTシャツに、ジーンズとスニーカーが、似合う私では、まるで、お笑いだ…
本当は、社長夫人には、リンダが、合っている…
身長も175㎝あり、しかも、とびきりの美人だ…
あるいは、
バニラでもいい…
バニラは、180㎝あるが、やはり、誰もが振り返る美人であることは、間違いはなかった…
正直、バニラは、性格に難があるが、それは、見た目では、わからない(爆笑)…
とりあえずは、180㎝と、長身で、イケメンの葉尊と並んで歩くに、ふさわしい女であることは、確かだった…
私は、そんな引け目もあって、あまりクールには、顔を出さなかった…
が、
全然、顔を出さないわけではなかった…
現に、クールの大運動会で、私は、クールの若手女子メンバーを率いて、ダンスに興じたこともある…
AKBや乃木坂と、同じだ…
実は、私は、スポーツ万能…
なんでも、できる女だった…
が、
体型が、それを、邪魔をしたと言うか…
世間では、そう見られなかった…
残念な女だった(涙)…
やはり、六頭身では、スポーツ万能には、見えなかったのだ…
おまけに、私は、童顔だった…
5歳のときも、15歳のときも、25歳のときも、35歳の今の顔と同じだった…
変化がまるで、なかった…
ただ、歳をとっただけだった…
だから、周囲は、私が、余計にスポーツ万能とは、思えなかったのかもしれない…
おまけに、私は、愛想が良かった…
童顔で、愛想が良かったから、威厳もなにもなかった…
いつも、ニコニコと、愛想よく笑っている…
それが、私だった…
だから、それもあって、誰も私を偉い人間だと思わなかった…
いや、
私自身、近くで、私を見れば、アレが、日本を代表する大企業、クールの社長夫人だとは、思わないだろう…
誰が、見ても、プータローか、フリーターだ…
主婦にすら、見えない…
結婚すら、していないように、見えるのだ…
そもそも、私には、生活感がまるでなかった…
昔から、いつも、
「…矢田ちゃん…」
だった…
決して、好かれていないわけじゃない…
嫌われているわけじゃなかった…
ただ、
…軽かった…
…威厳がなかった(涙)…
学校の成績も悪くなく、容姿も平凡だった…
つまりは、どこにでもいる、ありふれた女だった…
が、
友達は、多かった…
なぜか、多かった(爆笑)…
自分でいうのも、なんだが、私は、誰にでも、好かれた…
そして、守られた…
さっき、例に上げた、目に険のある男に、限っていえば、すぐに、
「…矢田…あんな男、相手にしちゃ、ダメ!…」
と、知り会って、まもない会社の同僚から、アドバイスを受けた…
「…アイツ、いっつも、ひとの悪口を言っているでしょ? 周りに、いるのは、似たようなヤカラばかりだし、きっと、数年経てば、アイツが、一番下だよ…そもそも、出世できる頭はないんだし…」
と、言われた…
事実、風の噂で、その通りになったことを、後で、知った…
と、同時に、まだ若かった私は、驚いた…
なんに驚いたかといえば、本当に、その同僚が、言う通りになったからだ…
また、別の例で、言えば、すでに出世する人間は、決められていたことも、驚きだった…
入社した数年で、ふるいにかけられて、決まるのだろう…
そして、後年、ネットで、調べると、その通りになっていた…
つまりは、入社して、数年で、自分が、その会社で、どういう立ち位置=役職で、仕事をするか、すべて、決められているのだろうと、確信した…
私は、女だし、派遣社員だったから、出世に縁がなかったが、これが、男では、堪らなかっただろうと、思った…
なにしろ、入社して、十年もしないうちに、その人間の将来の会社のポジションまで、決まっているのだ…
日本中、誰にも、知られた会社だから、驚きしかなかった…
私が、それを知ったとき、文字通り、驚きしかなかった…
と、
同時に、気付いたこともある…
先ほど、例に挙げた険のある目を持つ男ではないが、会社では、学歴がない人間ほど、性格が、悪く、上昇志向が、強い人間が、多かったことだ…
もちろん、全員ではないが、その傾向が、強かった…
さすがに、これは、他の同僚にも、口に出せなかったが、そう感じた…
そして、どうして、そう思うのか、疑問に感じた…
なぜか、高卒の人間は、大卒に敵対心を持つ人間が、多かったからだ…
そして、その大卒の人間が、高卒の人間に、なにかをしたかといえば、なにもしていなかった(爆笑)…
つまりは、一方的に、敵と見なしていたのだ(爆笑)…
これは、なぜか?
考えた…
一つには、大卒の人間の方が、高卒の人間よりも出世できる場合が多いので、そのひがみがある…
そう、気付いた…
そして、仕事…
仕事は、学校の勉強ではないのだから、優劣が、つきづらいということもある…
学校で、例えば、英語でも、数学でも、誰が、クラスで、一番か、二番か、わかる…
学年で、一番か、二番か、わかる…
テストの成績が、発表されるからだ…
だが、仕事にそれはない…
また、全員が、同じ仕事をするということもあまりない…
ある部署に、20人、ひとが、配置されていても、違う仕事をしている場合が、結構多い…
だから、それぞれの、本当の能力が、見えづらい…
学校の勉強のように、クラスや、学校の同じ学年全体で、同じ試験をするわけではないからだ…
すると、どうだ?
さっき、例に挙げた、険のある目を持つ男など、はしっこいから、自分が優れていると、思う…
短時間で、自分の仕事を終えるから、優れていると、自負する…
自信を持つ…
当たり前のことだ…
が、
それは、末端の仕事で、単純なことだからに過ぎない…
例えば、パソコンの入力作業のような仕事だから、飲み込みが早く、手がはしっこければ、仕事ができると、思うからだ…
そこに、高卒や、大卒の違いは、関係ないのだけれども、それが、わからない…
自分は、仕事ができると、心の底から、思う…
が、
それ以上ができない…
任せることができないと、周囲が判断する…
例えば、5人、10人の人間をまとめて、リーダーになってくれといってもできない…
うまくまとめて、周囲の人間に仕事を振り分けねばならないのだが、それができない…
もっとも、若干、話がはずれるが、例え、東大を出ようと、集団をまとめられない人間は、いっぱいいる…
そもそも、頭がいいが、リーダーシップがないからだ(笑)…
例えば、頭が良ければ、学校のクラスで、学級委員をしているわけではないということだ…
が、
残念ながら、その険のある目を持つ男には、それがわからなかった…
そして、なぜ、わからないかといえば、はっきり言えば、頭が悪いからに、他ならない…
もっと、はっきり言えば、周囲に、誰も、ある程度の学歴を持つ人間が、いないからだろう…
周囲というのは、家族や親せきのことだ…
身近に、学歴があっても、頼りなかったり、不器用な人間を間近に見ていれば、そういうものかと、思う…
が、
険のある目を持つ男には、周囲に、そんな人間がいなかったのだろう…
だから、至極単純に、大学を出ているのに、なんで、自分よりも仕事ができないのだろうと、考える…
ある意味、当たり前のことだった(笑)…
だが、やはりというか、そんなことも、わからない人間に、会社で、出世はできない…
なにより、出世以前に、仮に、その険のある目を持つ男が、課長や、部長になっても、周囲の同じ役職の人間と、話しても、話が合わないだろう…
頭のレベルが、違えば、会話が噛み合わない…
これは、差別ではない…
現実だ…
例えば、偏差値40の工業高校を出て、東大卒の人間と結婚すれば、双方の話が、嚙み合わない…
読んでいる本や、テレビや映画の趣味など、興味のあることが、まるで違うからだ…
だから、結婚することはできないし、仮に結婚しても、離婚するのが、大半だ…
それが、現実だ…
また、その険のある目を持つ男のいた、会社でいえば、高卒でも、課長になった人間が、いたが、人柄が良かった…
そもそも、人柄が悪ければ、誰もが、出世させようと思わないだろう…
役職を決めるのは、人事部の人間だが、人事部の人間でも、その人間が、人柄が悪いか、否かは、誰もがわかる…
そして、人柄が悪い人間は、人事部の人間も、嫌いだろう…
仮に、能力が同じ人間がいて、どっちか、一人を出世させる場合になったときには、当たり前だが、性格が悪い人間は、選ばない…
そういうことだ(笑)…
ただ、その険のある目を持つ男といっしょにいた当時を思い出しても、能力が低い人間が多かった…
それは、どうしてだろうと、思ったが、たまたまだろう(笑)…
当時は、ITバブルに世間が、酔いしれていた…
私も若かった(笑)…
だから、他社では、お目にかかれない人間にも、数多く出会った(笑)…
普通に社会に出て、生きてゆけるのか、疑問に思うものも結構いた(笑)…
そして、そんな人間は、皆、そこでしか、会えない人間だった…
ITバブルだったから、入社できた…
質を問わないから、入社できた…
それだけだった…
現に、同じ環境に置かれていても、
「…ここ数年、この会社の社員の質が一気に落ちたね…」
と、言えなかったのは、その会社のITバブルで、入社できた人間だけだった…
他の会社で、派遣やバイトで、出会った人間とは、明らかに、異質だった…
はっきり言って、頭のレベルが違った…
私は、それを、思い出した…
そして、それを思うと、人間には、運、不運があると、つくづく思った…
なぜかと、いえば、その後、出会って、明らかに優秀なのに、派遣社員をしていたり、または、中学や高校で、知り会って、有名大学を卒業したのに、就職できず、仕方なく、フリーターや、派遣社員になった人間を知っているからだ…
就職氷河期だから仕方がないといえば、仕方がないが、そのひとたちは、私から見ても、明らかに優秀だった…
その一方で、景気が良かったから、たまたま入社できた、険のある目を持つ男のような人間もいる…
後に退社しただろうとはいえ、一時は、その険のある目を持つ男よりも、はるかに、優秀な人間が、就職できずにいた…
つまり、険のある目を持つ男は、自分よりはるかに優秀な人間よりも、いい思いをしていたわけだ…
だが、
その当人は、そうは、思わないだろう…
なぜなら、周囲にそんな人間はいないからだ…
自分と比べる人間がいないからだ…
それを思うと、つくづく人間は、経験だと思う…
経験しなければ、どんなこともわからない…
いや、
わからないのではない…
話を聞いても、実感が湧かないのだ…
話が長くなったが、私が経験したことは、葉尊が経験したことや、リンダが経験したこととは、違う…
バニラが経験したこととも違う…
皆、同じ経験はしていない…
それぞれの人生が違うから、当然だ…
私は、平凡…
平凡極まりない女だ…
だから、もしかしたら、葉尊や、リンダや、バニラは、私のような平凡な女が、経験したことのない、壮絶な経験をしたかもしれなかった…
成功した人間は、稀に、とんでもない、どん底を経験した可能性もあるからだ…
私は、今さらながら、それに、気付いた…
私は、思った…
あのリンダ…リンダ・ヘイワースが、パンツが見えるような短い服を着て、接待する…
世の男どもは、その姿を間近に見れば、狂喜乱舞するだろう…
ある意味、男というものは、単純なものだ…
若く、美人の女が、大げさにいえば、裸に近い状態で、接待すれば、喜ぶ…
これは、老いも若きも同じ…
同じだ…
だから、実に、単純だ…
もっとも、これは、女も同じ…
若いイケメンが、接待すれば、八十代の老婆も喜ぶ…
誰もが、ルックスが、悪いよりも、良い方がいい…
歳を取った人間よりも、若い方が、いい…
当たり前のことだ…
これは、人間、誰もが、同じ…
DNAレベルで、無意識に、脳に、刻み込まれているのだろう…
ただし、これは、あくまで、外見のみ…
やはり、中身が大事だ…
どんなに、若く、ルックスが良い男女でも、性格が、悪い人間は、ごめんだ…
ずっと、以前、私は、バイト先で、ルックスが、いいが、険のある目を持つ、若い男を見たことがある…
その男は、やることは、はしっこいが、いつも、誰かの悪口や噂話をしていた…
生まれつき、性格が、良くないのだろう…
自分が、就職試験に落ちたとき、学校の先生は、皆、一様に、驚いたといっていたが、それは、違うと思った…
要するに、面接で、落ちたのだ…
目に険がある=印象が悪いから、落ちたのだ…
だが、教師に好かれていないから、誰も、本当のことは、いわない…
そういうことだ…
その男は、自分が、クラスで、勉強ができたと、いつも吹聴していた…
だから、自分に自信があったのだ…
ただ、勉強ができるといっても、たかだか、偏差値40の工業高校だ…
頭の程度が、知れてる…
が、
本人には、それがわからなかった(笑)…
会社の面接で、なにが、重要かといえば、部署に配属されたときに、周囲の人間と、うまく馴染めるか、否かだ…
その男は、なにか、問題を起こすと、面接官は、思ったに違いない…
誰でも、そうだが、第一印象は、大事だ…
第一印象=ファーストインプレッションは、大事だ…
誰もが、こいつは、性格が、悪いに違いないと、判断すれば、やはり、皆、そう思う…
が、
当たり前だが、その当人は、そう思わない(爆笑)…
だから、学校の友人なり、教師なりに、一言、言ってもらうことが、大事だが、当然、いつも、誰かの悪口を言っている人間に、親身に接する人間はいない…
その男が、その後、どうなったか、わからないが、大変な人生を送ったに違いないというのが、私の感想だった…
なぜ、大変な人生を送ったかといえば、その男は、いうまでもなく学歴がなかった…
だから、やることは、はしっこいが、出世ができない…
少し頭が良ければ、この会社では、どういう人間が、出世できるのか、見ていれば、わかるものだが、それが、わからない…
また、その男に、もう少し寄り添って考えれば、その男以下の人間もまた、多かった(笑)
だが、時間が、経てば、皆、大半が、その男を追い抜いてゆくだろう…
また、その男以下の人間は、会社を去ったに違いない…
なまじ、はしっこいから、自分に自信を持っている…
だが、残念ながら、自分のことしか、わからない人間だった…
周囲のことや、自分が、どう見られているか、さっぱり、わからない人間だった…
同じような性格の良くない人間と、いつも、誰かの悪口や噂話に興じていた…
だから、やることは、はしっこいが、それ以上が、できない…
要するに、担当レベル…
ひとの上に立つことができない…
それが、わからなかった…
だから、十年いても、二十年いても、そのままだったろう…
私は、それを思い出した…
そして、それを、思い出すと、やはり、顔が良くても、人相の良くない人間は、ゴメンだと思った(笑)…
誰もが、自分の隣に、そんな人間が、いては、逃げ出したくなる(笑)…
逃げ出したくないのは、当人や、似たような仲間だけだ(笑)…
私が、葉尊に言ったように、色々な人間を見てきたのは、バイト生活が長かったからだ…
単純にそれだけだ(笑)…
会社でも、役所でも、ずっと、十年も二十年も同じ部署に勤めている人間が稀にいるが、それでは、おおげさに言えば、世の中のことは、わからない…
会社で言えば、少なくとも、2社は、知っていた方が、いい…
同じ会社でも、違う部署を経験した方が、いい…
なぜなら、少々変人が、いても、
「…あの人は、ああいうひとだから…」
で、すんでしまうからだ(爆笑)…
普通は、そういうわけには、いかない…
うまく、相手に合わせる必要が、生じる…
が、
ずっと、同じ職場では、その必要が、生じない…
本人にとって、それが、幸か不幸か、わからないが、そういう人間が、会社をリストラされて、他の会社にいったときに、文字通り、大変なことになる…
本人のそれまでの常識が、通用しなくなるからだ…
あのひとは、ああいうひとだからと、周囲の人間も、おおめに見てくれていたり、半ば、諦めていたことが、通用しなくなる(笑)…
結果、新しい職場を去らなければ、ならなくなるだろう…
私は、自慢ではないが、そんな人間を数多く見てきた…
そして、我ながら、うまく立ち回って来たと、思う…
だから、私のことを、陰で、生き方上手と呼んだひともいる(笑)…
上にも、下にも、嫌われないからだ…
芸能人でいえば、元AKBの大島優子が、それに当てはまる…
誰にも、好かれ、敵を作らない…
本人の努力もさることながら、その人柄だろう…
なにをしようと、どんな場所にいようと、敵を作る人間は、敵を作る…
そういうものだ…
必ず、誰か、その人間を気に入らない人間が出てくるものだ…
さっき、言った目に険のある男など、その好例だろう…
きっと、あのまま、職場にいれば、間違いなく、彼を気に入らない後輩が出てくるに違いない…
そして、因果応報というか、必ず、悪口を言われているだろう…
悪口をいつも、言っている人間は、当然、他の誰かから、悪口を言われるものだからだ…
当たり前のことだ…
私は、ふと、そんなことを、思った…
私の夫、葉尊が、社長を務めるクールは、総合電機メーカー…
日本のパナソニックや、日立などと、同じだ…
近年、クールが、倒産寸前になり、葉尊の父、葉敬が、買収したのだ…
葉敬は、台湾の大会社、台北筆頭のオーナー創業者だった…
日本の総合電機メーカー、クールが、倒産寸前だったことを、知り、商売になると考え、会社を買収したのだ…
なにしろ、日本の総合電機メーカーだ…
優秀なエンジニアなど、たくさんいる…
ただ、経営陣が、時代の趨勢が、読めなかったから、倒産寸前に、追い込まれたに過ぎない…
それだけのことだ…
倒産寸前に、追い込まれたからといって、社員が、全員、無能というわけでは、決してない…
無能なのは、大抵、経営者というか、経営陣だ…
戦前の日本でいえば、戦争を指揮する人間は、無能だったが、兵士は、下へいけば、ゆくほど、優秀だったと言われている…
それと、似たようなものだ(笑)…
クールは、たしかに、倒産寸前に追い込まれたが、社員は、優秀だった…
これは、トヨタと、日産を比べれば、わかる…
今、トヨタは、絶好調だが、日産は、業績が、悪い…
しかしながら、例えば、30年前、40年前に、トヨタと日産に入社した人間に、どれほどの差があったかと、いえば、誰もが、返答に詰まるだろう…
トヨタや日産に入社した人間が、全員、優秀とは、お世辞にも言えないが、日産に、入社した人間が、ほぼ全員、トヨタに入社した人間よりも、劣っていたとは、思えない…
が、
30年後、40年後は、もはや、比べ物にならないくらいの大差がついた…
それが、現実だ…
いわゆる、個の力ではなく、集団の力が、トヨタは、優れているのだろう…
そう思えてくる…
それと、同じで、クールが、いくら、倒産寸前に追い込まれても、社員は、決して、無能な人間ばかりではなかった…
むしろ、宝の山だった…
いかに、倒産寸前の憂き目にあったとは、いえ、クールは、日本の大企業…
東大を始めとして、優秀な大学や、大学院を、出た人間は、大勢いる…
つまり、潜在能力が、抜きん出ている…
それを、葉敬は、知り抜いていた…
だから、買収した…
そして、葉敬の剛腕で、クールは、短期間で、再生した…
蘇った…
これは、嬉しいことだった…
なんといっても、私の夫が、社長を務める会社だ…
私にとっても、嬉しくないはずがなかった…
が、
ここまで、書くと、私とクールは、実に身近に思えるが、実際は、全然そうではなかった(涙)…
クールの本社に、行ったのも、数えるほどだった…
というのは、なにしろ、私は、平凡…
平凡の極みの女だったからだ…
誰が、どう見ても、クールの社長、葉尊の妻とは、思えない…
すでに、書いたが、葉尊は、180㎝の長身で、まるで、芸能人のようなイケメンだった…
それに対して、私は、159㎝…
おまけに、寸胴の六頭身の女だった…
自慢は、胸の大きさのみ…
しかも、普段は、いつもTシャツに、ジーンズ、そして、スニーカーだった…
これまで、35年生きてきて、お洒落に夢中になったことなど、一度もない…
私は、誰が、どう見ても、フリーターが、合っていたし、現にその通りだった(涙)…
が、
しかしながら、私は、そんな自分自身の生き方を恥じたことなど、一度もなかった…
私は、いつも全力投球…
一生懸命、生きてきた自負があるからだ…
ただ、周りの評価が、ちょっと、違っただけだ(涙)…
それだけのことだった(笑)…
話を戻そう…
問題は、なぜ、私は、クールに顔を出さないかだ…
要するに、似合わないのだ…
そして、なにより、居心地が悪かったのだ…
クールに行けば、
「…社長夫人…」
あるいは、
「…奥様…」
と、持ち上げられる…
しかしながら、その社長夫人が、白のTシャツに、ジーンズとスニーカーが、似合う私では、まるで、お笑いだ…
本当は、社長夫人には、リンダが、合っている…
身長も175㎝あり、しかも、とびきりの美人だ…
あるいは、
バニラでもいい…
バニラは、180㎝あるが、やはり、誰もが振り返る美人であることは、間違いはなかった…
正直、バニラは、性格に難があるが、それは、見た目では、わからない(爆笑)…
とりあえずは、180㎝と、長身で、イケメンの葉尊と並んで歩くに、ふさわしい女であることは、確かだった…
私は、そんな引け目もあって、あまりクールには、顔を出さなかった…
が、
全然、顔を出さないわけではなかった…
現に、クールの大運動会で、私は、クールの若手女子メンバーを率いて、ダンスに興じたこともある…
AKBや乃木坂と、同じだ…
実は、私は、スポーツ万能…
なんでも、できる女だった…
が、
体型が、それを、邪魔をしたと言うか…
世間では、そう見られなかった…
残念な女だった(涙)…
やはり、六頭身では、スポーツ万能には、見えなかったのだ…
おまけに、私は、童顔だった…
5歳のときも、15歳のときも、25歳のときも、35歳の今の顔と同じだった…
変化がまるで、なかった…
ただ、歳をとっただけだった…
だから、周囲は、私が、余計にスポーツ万能とは、思えなかったのかもしれない…
おまけに、私は、愛想が良かった…
童顔で、愛想が良かったから、威厳もなにもなかった…
いつも、ニコニコと、愛想よく笑っている…
それが、私だった…
だから、それもあって、誰も私を偉い人間だと思わなかった…
いや、
私自身、近くで、私を見れば、アレが、日本を代表する大企業、クールの社長夫人だとは、思わないだろう…
誰が、見ても、プータローか、フリーターだ…
主婦にすら、見えない…
結婚すら、していないように、見えるのだ…
そもそも、私には、生活感がまるでなかった…
昔から、いつも、
「…矢田ちゃん…」
だった…
決して、好かれていないわけじゃない…
嫌われているわけじゃなかった…
ただ、
…軽かった…
…威厳がなかった(涙)…
学校の成績も悪くなく、容姿も平凡だった…
つまりは、どこにでもいる、ありふれた女だった…
が、
友達は、多かった…
なぜか、多かった(爆笑)…
自分でいうのも、なんだが、私は、誰にでも、好かれた…
そして、守られた…
さっき、例に上げた、目に険のある男に、限っていえば、すぐに、
「…矢田…あんな男、相手にしちゃ、ダメ!…」
と、知り会って、まもない会社の同僚から、アドバイスを受けた…
「…アイツ、いっつも、ひとの悪口を言っているでしょ? 周りに、いるのは、似たようなヤカラばかりだし、きっと、数年経てば、アイツが、一番下だよ…そもそも、出世できる頭はないんだし…」
と、言われた…
事実、風の噂で、その通りになったことを、後で、知った…
と、同時に、まだ若かった私は、驚いた…
なんに驚いたかといえば、本当に、その同僚が、言う通りになったからだ…
また、別の例で、言えば、すでに出世する人間は、決められていたことも、驚きだった…
入社した数年で、ふるいにかけられて、決まるのだろう…
そして、後年、ネットで、調べると、その通りになっていた…
つまりは、入社して、数年で、自分が、その会社で、どういう立ち位置=役職で、仕事をするか、すべて、決められているのだろうと、確信した…
私は、女だし、派遣社員だったから、出世に縁がなかったが、これが、男では、堪らなかっただろうと、思った…
なにしろ、入社して、十年もしないうちに、その人間の将来の会社のポジションまで、決まっているのだ…
日本中、誰にも、知られた会社だから、驚きしかなかった…
私が、それを知ったとき、文字通り、驚きしかなかった…
と、
同時に、気付いたこともある…
先ほど、例に挙げた険のある目を持つ男ではないが、会社では、学歴がない人間ほど、性格が、悪く、上昇志向が、強い人間が、多かったことだ…
もちろん、全員ではないが、その傾向が、強かった…
さすがに、これは、他の同僚にも、口に出せなかったが、そう感じた…
そして、どうして、そう思うのか、疑問に感じた…
なぜか、高卒の人間は、大卒に敵対心を持つ人間が、多かったからだ…
そして、その大卒の人間が、高卒の人間に、なにかをしたかといえば、なにもしていなかった(爆笑)…
つまりは、一方的に、敵と見なしていたのだ(爆笑)…
これは、なぜか?
考えた…
一つには、大卒の人間の方が、高卒の人間よりも出世できる場合が多いので、そのひがみがある…
そう、気付いた…
そして、仕事…
仕事は、学校の勉強ではないのだから、優劣が、つきづらいということもある…
学校で、例えば、英語でも、数学でも、誰が、クラスで、一番か、二番か、わかる…
学年で、一番か、二番か、わかる…
テストの成績が、発表されるからだ…
だが、仕事にそれはない…
また、全員が、同じ仕事をするということもあまりない…
ある部署に、20人、ひとが、配置されていても、違う仕事をしている場合が、結構多い…
だから、それぞれの、本当の能力が、見えづらい…
学校の勉強のように、クラスや、学校の同じ学年全体で、同じ試験をするわけではないからだ…
すると、どうだ?
さっき、例に挙げた、険のある目を持つ男など、はしっこいから、自分が優れていると、思う…
短時間で、自分の仕事を終えるから、優れていると、自負する…
自信を持つ…
当たり前のことだ…
が、
それは、末端の仕事で、単純なことだからに過ぎない…
例えば、パソコンの入力作業のような仕事だから、飲み込みが早く、手がはしっこければ、仕事ができると、思うからだ…
そこに、高卒や、大卒の違いは、関係ないのだけれども、それが、わからない…
自分は、仕事ができると、心の底から、思う…
が、
それ以上ができない…
任せることができないと、周囲が判断する…
例えば、5人、10人の人間をまとめて、リーダーになってくれといってもできない…
うまくまとめて、周囲の人間に仕事を振り分けねばならないのだが、それができない…
もっとも、若干、話がはずれるが、例え、東大を出ようと、集団をまとめられない人間は、いっぱいいる…
そもそも、頭がいいが、リーダーシップがないからだ(笑)…
例えば、頭が良ければ、学校のクラスで、学級委員をしているわけではないということだ…
が、
残念ながら、その険のある目を持つ男には、それがわからなかった…
そして、なぜ、わからないかといえば、はっきり言えば、頭が悪いからに、他ならない…
もっと、はっきり言えば、周囲に、誰も、ある程度の学歴を持つ人間が、いないからだろう…
周囲というのは、家族や親せきのことだ…
身近に、学歴があっても、頼りなかったり、不器用な人間を間近に見ていれば、そういうものかと、思う…
が、
険のある目を持つ男には、周囲に、そんな人間がいなかったのだろう…
だから、至極単純に、大学を出ているのに、なんで、自分よりも仕事ができないのだろうと、考える…
ある意味、当たり前のことだった(笑)…
だが、やはりというか、そんなことも、わからない人間に、会社で、出世はできない…
なにより、出世以前に、仮に、その険のある目を持つ男が、課長や、部長になっても、周囲の同じ役職の人間と、話しても、話が合わないだろう…
頭のレベルが、違えば、会話が噛み合わない…
これは、差別ではない…
現実だ…
例えば、偏差値40の工業高校を出て、東大卒の人間と結婚すれば、双方の話が、嚙み合わない…
読んでいる本や、テレビや映画の趣味など、興味のあることが、まるで違うからだ…
だから、結婚することはできないし、仮に結婚しても、離婚するのが、大半だ…
それが、現実だ…
また、その険のある目を持つ男のいた、会社でいえば、高卒でも、課長になった人間が、いたが、人柄が良かった…
そもそも、人柄が悪ければ、誰もが、出世させようと思わないだろう…
役職を決めるのは、人事部の人間だが、人事部の人間でも、その人間が、人柄が悪いか、否かは、誰もがわかる…
そして、人柄が悪い人間は、人事部の人間も、嫌いだろう…
仮に、能力が同じ人間がいて、どっちか、一人を出世させる場合になったときには、当たり前だが、性格が悪い人間は、選ばない…
そういうことだ(笑)…
ただ、その険のある目を持つ男といっしょにいた当時を思い出しても、能力が低い人間が多かった…
それは、どうしてだろうと、思ったが、たまたまだろう(笑)…
当時は、ITバブルに世間が、酔いしれていた…
私も若かった(笑)…
だから、他社では、お目にかかれない人間にも、数多く出会った(笑)…
普通に社会に出て、生きてゆけるのか、疑問に思うものも結構いた(笑)…
そして、そんな人間は、皆、そこでしか、会えない人間だった…
ITバブルだったから、入社できた…
質を問わないから、入社できた…
それだけだった…
現に、同じ環境に置かれていても、
「…ここ数年、この会社の社員の質が一気に落ちたね…」
と、言えなかったのは、その会社のITバブルで、入社できた人間だけだった…
他の会社で、派遣やバイトで、出会った人間とは、明らかに、異質だった…
はっきり言って、頭のレベルが違った…
私は、それを、思い出した…
そして、それを思うと、人間には、運、不運があると、つくづく思った…
なぜかと、いえば、その後、出会って、明らかに優秀なのに、派遣社員をしていたり、または、中学や高校で、知り会って、有名大学を卒業したのに、就職できず、仕方なく、フリーターや、派遣社員になった人間を知っているからだ…
就職氷河期だから仕方がないといえば、仕方がないが、そのひとたちは、私から見ても、明らかに優秀だった…
その一方で、景気が良かったから、たまたま入社できた、険のある目を持つ男のような人間もいる…
後に退社しただろうとはいえ、一時は、その険のある目を持つ男よりも、はるかに、優秀な人間が、就職できずにいた…
つまり、険のある目を持つ男は、自分よりはるかに優秀な人間よりも、いい思いをしていたわけだ…
だが、
その当人は、そうは、思わないだろう…
なぜなら、周囲にそんな人間はいないからだ…
自分と比べる人間がいないからだ…
それを思うと、つくづく人間は、経験だと思う…
経験しなければ、どんなこともわからない…
いや、
わからないのではない…
話を聞いても、実感が湧かないのだ…
話が長くなったが、私が経験したことは、葉尊が経験したことや、リンダが経験したこととは、違う…
バニラが経験したこととも違う…
皆、同じ経験はしていない…
それぞれの人生が違うから、当然だ…
私は、平凡…
平凡極まりない女だ…
だから、もしかしたら、葉尊や、リンダや、バニラは、私のような平凡な女が、経験したことのない、壮絶な経験をしたかもしれなかった…
成功した人間は、稀に、とんでもない、どん底を経験した可能性もあるからだ…
私は、今さらながら、それに、気付いた…