第4話

文字数 8,697文字

 …誰かが、涙を流すような事態は、避けねばならん…

 私は、思った…

 あのリンダ…リンダ・ヘイワースが、パンツが見えるような短い服を着て、接待する…

 世の男どもは、その姿を間近に見れば、狂喜乱舞するだろう…

 ある意味、男というものは、単純なものだ…

 若く、美人の女が、大げさにいえば、裸に近い状態で、接待すれば、喜ぶ…

 これは、老いも若きも同じ…

 同じだ…

 だから、実に、単純だ…

 もっとも、これは、女も同じ…

 若いイケメンが、接待すれば、八十代の老婆も喜ぶ…

 誰もが、ルックスが、悪いよりも、良い方がいい…

 歳を取った人間よりも、若い方が、いい…

 当たり前のことだ…

 これは、人間、誰もが、同じ…

 DNAレベルで、無意識に、脳に、刻み込まれているのだろう…

 ただし、これは、あくまで、外見のみ…

 やはり、中身が大事だ…

 どんなに、若く、ルックスが良い男女でも、性格が、悪い人間は、ごめんだ…

 ずっと、以前、私は、バイト先で、ルックスが、いいが、険のある目を持つ、若い男を見たことがある…

 その男は、やることは、はしっこいが、いつも、誰かの悪口や噂話をしていた…

 生まれつき、性格が、良くないのだろう…

 自分が、就職試験に落ちたとき、学校の先生は、皆、一様に、驚いたといっていたが、それは、違うと思った…

 要するに、面接で、落ちたのだ…

 目に険がある=印象が悪いから、落ちたのだ…

 だが、教師に好かれていないから、誰も、本当のことは、いわない…

 そういうことだ…

 その男は、自分が、クラスで、勉強ができたと、いつも吹聴していた…

 だから、自分に自信があったのだ…

 ただ、勉強ができるといっても、たかだか、偏差値40の工業高校だ…

 頭の程度が、知れてる…

 が、

 本人には、それがわからなかった(笑)…

 会社の面接で、なにが、重要かといえば、部署に配属されたときに、周囲の人間と、うまく馴染めるか、否かだ…

 その男は、なにか、問題を起こすと、面接官は、思ったに違いない…

 誰でも、そうだが、第一印象は、大事だ…

 第一印象=ファーストインプレッションは、大事だ…

 誰もが、こいつは、性格が、悪いに違いないと、判断すれば、やはり、皆、そう思う…

 が、

 当たり前だが、その当人は、そう思わない(爆笑)…

 だから、学校の友人なり、教師なりに、一言、言ってもらうことが、大事だが、当然、いつも、誰かの悪口を言っている人間に、親身に接する人間はいない…

 その男が、その後、どうなったか、わからないが、大変な人生を送ったに違いないというのが、私の感想だった…

 なぜ、大変な人生を送ったかといえば、その男は、いうまでもなく学歴がなかった…

 だから、やることは、はしっこいが、出世ができない…

 少し頭が良ければ、この会社では、どういう人間が、出世できるのか、見ていれば、わかるものだが、それが、わからない…

 また、その男に、もう少し寄り添って考えれば、その男以下の人間もまた、多かった(笑)

 だが、時間が、経てば、皆、大半が、その男を追い抜いてゆくだろう…

 また、その男以下の人間は、会社を去ったに違いない…

 なまじ、はしっこいから、自分に自信を持っている…

 だが、残念ながら、自分のことしか、わからない人間だった…

 周囲のことや、自分が、どう見られているか、さっぱり、わからない人間だった…

 同じような性格の良くない人間と、いつも、誰かの悪口や噂話に興じていた…

 だから、やることは、はしっこいが、それ以上が、できない…

 要するに、担当レベル…

 ひとの上に立つことができない…

 それが、わからなかった…

 だから、十年いても、二十年いても、そのままだったろう…

 私は、それを思い出した…

 そして、それを、思い出すと、やはり、顔が良くても、人相の良くない人間は、ゴメンだと思った(笑)…

 誰もが、自分の隣に、そんな人間が、いては、逃げ出したくなる(笑)…

 逃げ出したくないのは、当人や、似たような仲間だけだ(笑)…

 私が、葉尊に言ったように、色々な人間を見てきたのは、バイト生活が長かったからだ…

 単純にそれだけだ(笑)…

 会社でも、役所でも、ずっと、十年も二十年も同じ部署に勤めている人間が稀にいるが、それでは、おおげさに言えば、世の中のことは、わからない…

 会社で言えば、少なくとも、2社は、知っていた方が、いい…

 同じ会社でも、違う部署を経験した方が、いい…

 なぜなら、少々変人が、いても、

「…あの人は、ああいうひとだから…」

 で、すんでしまうからだ(爆笑)…

 普通は、そういうわけには、いかない…

 うまく、相手に合わせる必要が、生じる…

 が、

 ずっと、同じ職場では、その必要が、生じない…

 本人にとって、それが、幸か不幸か、わからないが、そういう人間が、会社をリストラされて、他の会社にいったときに、文字通り、大変なことになる…

 本人のそれまでの常識が、通用しなくなるからだ…

 あのひとは、ああいうひとだからと、周囲の人間も、おおめに見てくれていたり、半ば、諦めていたことが、通用しなくなる(笑)…

 結果、新しい職場を去らなければ、ならなくなるだろう…

 私は、自慢ではないが、そんな人間を数多く見てきた…

 そして、我ながら、うまく立ち回って来たと、思う…

 だから、私のことを、陰で、生き方上手と呼んだひともいる(笑)…

 上にも、下にも、嫌われないからだ…

 芸能人でいえば、元AKBの大島優子が、それに当てはまる…

 誰にも、好かれ、敵を作らない…

 本人の努力もさることながら、その人柄だろう…

 なにをしようと、どんな場所にいようと、敵を作る人間は、敵を作る…

 そういうものだ…

 必ず、誰か、その人間を気に入らない人間が出てくるものだ…

 さっき、言った目に険のある男など、その好例だろう…

 きっと、あのまま、職場にいれば、間違いなく、彼を気に入らない後輩が出てくるに違いない…

 そして、因果応報というか、必ず、悪口を言われているだろう…

 悪口をいつも、言っている人間は、当然、他の誰かから、悪口を言われるものだからだ…

 当たり前のことだ…

 私は、ふと、そんなことを、思った…

 
 私の夫、葉尊が、社長を務めるクールは、総合電機メーカー…

 日本のパナソニックや、日立などと、同じだ…

 近年、クールが、倒産寸前になり、葉尊の父、葉敬が、買収したのだ…

 葉敬は、台湾の大会社、台北筆頭のオーナー創業者だった…

 日本の総合電機メーカー、クールが、倒産寸前だったことを、知り、商売になると考え、会社を買収したのだ…

 なにしろ、日本の総合電機メーカーだ…

 優秀なエンジニアなど、たくさんいる…

 ただ、経営陣が、時代の趨勢が、読めなかったから、倒産寸前に、追い込まれたに過ぎない…

 それだけのことだ…

 倒産寸前に、追い込まれたからといって、社員が、全員、無能というわけでは、決してない…

 無能なのは、大抵、経営者というか、経営陣だ…

 戦前の日本でいえば、戦争を指揮する人間は、無能だったが、兵士は、下へいけば、ゆくほど、優秀だったと言われている…

 それと、似たようなものだ(笑)…

 クールは、たしかに、倒産寸前に追い込まれたが、社員は、優秀だった…

 これは、トヨタと、日産を比べれば、わかる…

 今、トヨタは、絶好調だが、日産は、業績が、悪い…

 しかしながら、例えば、30年前、40年前に、トヨタと日産に入社した人間に、どれほどの差があったかと、いえば、誰もが、返答に詰まるだろう…

 トヨタや日産に入社した人間が、全員、優秀とは、お世辞にも言えないが、日産に、入社した人間が、ほぼ全員、トヨタに入社した人間よりも、劣っていたとは、思えない…

 が、

 30年後、40年後は、もはや、比べ物にならないくらいの大差がついた…

 それが、現実だ…

 いわゆる、個の力ではなく、集団の力が、トヨタは、優れているのだろう…

 そう思えてくる…

 それと、同じで、クールが、いくら、倒産寸前に追い込まれても、社員は、決して、無能な人間ばかりではなかった…

 むしろ、宝の山だった…

 いかに、倒産寸前の憂き目にあったとは、いえ、クールは、日本の大企業…

 東大を始めとして、優秀な大学や、大学院を、出た人間は、大勢いる…

 つまり、潜在能力が、抜きん出ている…

 それを、葉敬は、知り抜いていた…

 だから、買収した…

 そして、葉敬の剛腕で、クールは、短期間で、再生した…

 蘇った…

 これは、嬉しいことだった…

 なんといっても、私の夫が、社長を務める会社だ…

 私にとっても、嬉しくないはずがなかった…

 が、

 ここまで、書くと、私とクールは、実に身近に思えるが、実際は、全然そうではなかった(涙)…

 クールの本社に、行ったのも、数えるほどだった…

 というのは、なにしろ、私は、平凡…

 平凡の極みの女だったからだ…

 誰が、どう見ても、クールの社長、葉尊の妻とは、思えない…

 すでに、書いたが、葉尊は、180㎝の長身で、まるで、芸能人のようなイケメンだった…

 それに対して、私は、159㎝…

 おまけに、寸胴の六頭身の女だった…

 自慢は、胸の大きさのみ…

 しかも、普段は、いつもTシャツに、ジーンズ、そして、スニーカーだった…

 これまで、35年生きてきて、お洒落に夢中になったことなど、一度もない…

 私は、誰が、どう見ても、フリーターが、合っていたし、現にその通りだった(涙)…

 が、

 しかしながら、私は、そんな自分自身の生き方を恥じたことなど、一度もなかった…

 私は、いつも全力投球…

 一生懸命、生きてきた自負があるからだ…

 ただ、周りの評価が、ちょっと、違っただけだ(涙)…

 それだけのことだった(笑)…

 話を戻そう…

 問題は、なぜ、私は、クールに顔を出さないかだ…

 要するに、似合わないのだ…

 そして、なにより、居心地が悪かったのだ…

 クールに行けば、

 「…社長夫人…」

 あるいは、

 「…奥様…」

 と、持ち上げられる…

 しかしながら、その社長夫人が、白のTシャツに、ジーンズとスニーカーが、似合う私では、まるで、お笑いだ…

 本当は、社長夫人には、リンダが、合っている…

 身長も175㎝あり、しかも、とびきりの美人だ…

 あるいは、

 バニラでもいい…

 バニラは、180㎝あるが、やはり、誰もが振り返る美人であることは、間違いはなかった…

 正直、バニラは、性格に難があるが、それは、見た目では、わからない(爆笑)…

 とりあえずは、180㎝と、長身で、イケメンの葉尊と並んで歩くに、ふさわしい女であることは、確かだった…

 私は、そんな引け目もあって、あまりクールには、顔を出さなかった…

 が、

 全然、顔を出さないわけではなかった…

 現に、クールの大運動会で、私は、クールの若手女子メンバーを率いて、ダンスに興じたこともある…

 AKBや乃木坂と、同じだ…

 実は、私は、スポーツ万能…

 なんでも、できる女だった…

 が、

 体型が、それを、邪魔をしたと言うか…

 世間では、そう見られなかった…

 残念な女だった(涙)…

 やはり、六頭身では、スポーツ万能には、見えなかったのだ…

 おまけに、私は、童顔だった…

 5歳のときも、15歳のときも、25歳のときも、35歳の今の顔と同じだった…

 変化がまるで、なかった…

 ただ、歳をとっただけだった…

 だから、周囲は、私が、余計にスポーツ万能とは、思えなかったのかもしれない…

 おまけに、私は、愛想が良かった…

 童顔で、愛想が良かったから、威厳もなにもなかった…

 いつも、ニコニコと、愛想よく笑っている…

 それが、私だった…

 だから、それもあって、誰も私を偉い人間だと思わなかった…

 いや、

 私自身、近くで、私を見れば、アレが、日本を代表する大企業、クールの社長夫人だとは、思わないだろう…

 誰が、見ても、プータローか、フリーターだ…

 主婦にすら、見えない…

 結婚すら、していないように、見えるのだ…

 そもそも、私には、生活感がまるでなかった…

 昔から、いつも、

 「…矢田ちゃん…」

 だった…

 決して、好かれていないわけじゃない…

 嫌われているわけじゃなかった…

 ただ、

 …軽かった…

 …威厳がなかった(涙)…

 学校の成績も悪くなく、容姿も平凡だった…

 つまりは、どこにでもいる、ありふれた女だった…

 が、

 友達は、多かった…

 なぜか、多かった(爆笑)…

 自分でいうのも、なんだが、私は、誰にでも、好かれた…

 そして、守られた…

 さっき、例に上げた、目に険のある男に、限っていえば、すぐに、

 「…矢田…あんな男、相手にしちゃ、ダメ!…」

 と、知り会って、まもない会社の同僚から、アドバイスを受けた…

 「…アイツ、いっつも、ひとの悪口を言っているでしょ? 周りに、いるのは、似たようなヤカラばかりだし、きっと、数年経てば、アイツが、一番下だよ…そもそも、出世できる頭はないんだし…」

 と、言われた…

 事実、風の噂で、その通りになったことを、後で、知った…

 と、同時に、まだ若かった私は、驚いた…

 なんに驚いたかといえば、本当に、その同僚が、言う通りになったからだ…

 また、別の例で、言えば、すでに出世する人間は、決められていたことも、驚きだった…

 入社した数年で、ふるいにかけられて、決まるのだろう…

 そして、後年、ネットで、調べると、その通りになっていた…

 つまりは、入社して、数年で、自分が、その会社で、どういう立ち位置=役職で、仕事をするか、すべて、決められているのだろうと、確信した…

 私は、女だし、派遣社員だったから、出世に縁がなかったが、これが、男では、堪らなかっただろうと、思った…

 なにしろ、入社して、十年もしないうちに、その人間の将来の会社のポジションまで、決まっているのだ…

 日本中、誰にも、知られた会社だから、驚きしかなかった…

 私が、それを知ったとき、文字通り、驚きしかなかった…

 と、

 同時に、気付いたこともある…

 先ほど、例に挙げた険のある目を持つ男ではないが、会社では、学歴がない人間ほど、性格が、悪く、上昇志向が、強い人間が、多かったことだ…

 もちろん、全員ではないが、その傾向が、強かった…

 さすがに、これは、他の同僚にも、口に出せなかったが、そう感じた…

 そして、どうして、そう思うのか、疑問に感じた…

 なぜか、高卒の人間は、大卒に敵対心を持つ人間が、多かったからだ…

 そして、その大卒の人間が、高卒の人間に、なにかをしたかといえば、なにもしていなかった(爆笑)…

 つまりは、一方的に、敵と見なしていたのだ(爆笑)…

 これは、なぜか?

 考えた…

 一つには、大卒の人間の方が、高卒の人間よりも出世できる場合が多いので、そのひがみがある…

 そう、気付いた…

 そして、仕事…

 仕事は、学校の勉強ではないのだから、優劣が、つきづらいということもある…

 学校で、例えば、英語でも、数学でも、誰が、クラスで、一番か、二番か、わかる…

 学年で、一番か、二番か、わかる…

 テストの成績が、発表されるからだ…

 だが、仕事にそれはない…

 また、全員が、同じ仕事をするということもあまりない…

 ある部署に、20人、ひとが、配置されていても、違う仕事をしている場合が、結構多い…

 だから、それぞれの、本当の能力が、見えづらい…

 学校の勉強のように、クラスや、学校の同じ学年全体で、同じ試験をするわけではないからだ…

 すると、どうだ?

 さっき、例に挙げた、険のある目を持つ男など、はしっこいから、自分が優れていると、思う…

 短時間で、自分の仕事を終えるから、優れていると、自負する…

 自信を持つ…

 当たり前のことだ…

 が、

 それは、末端の仕事で、単純なことだからに過ぎない…

 例えば、パソコンの入力作業のような仕事だから、飲み込みが早く、手がはしっこければ、仕事ができると、思うからだ…

 そこに、高卒や、大卒の違いは、関係ないのだけれども、それが、わからない…

 自分は、仕事ができると、心の底から、思う…

 が、

 それ以上ができない…

 任せることができないと、周囲が判断する…

 例えば、5人、10人の人間をまとめて、リーダーになってくれといってもできない…

 うまくまとめて、周囲の人間に仕事を振り分けねばならないのだが、それができない…

 もっとも、若干、話がはずれるが、例え、東大を出ようと、集団をまとめられない人間は、いっぱいいる…

 そもそも、頭がいいが、リーダーシップがないからだ(笑)…

 例えば、頭が良ければ、学校のクラスで、学級委員をしているわけではないということだ…

 が、

 残念ながら、その険のある目を持つ男には、それがわからなかった…

 そして、なぜ、わからないかといえば、はっきり言えば、頭が悪いからに、他ならない…

 もっと、はっきり言えば、周囲に、誰も、ある程度の学歴を持つ人間が、いないからだろう…

 周囲というのは、家族や親せきのことだ…

 身近に、学歴があっても、頼りなかったり、不器用な人間を間近に見ていれば、そういうものかと、思う…

 が、

 険のある目を持つ男には、周囲に、そんな人間がいなかったのだろう…

 だから、至極単純に、大学を出ているのに、なんで、自分よりも仕事ができないのだろうと、考える…

 ある意味、当たり前のことだった(笑)…

 だが、やはりというか、そんなことも、わからない人間に、会社で、出世はできない…

 なにより、出世以前に、仮に、その険のある目を持つ男が、課長や、部長になっても、周囲の同じ役職の人間と、話しても、話が合わないだろう…

 頭のレベルが、違えば、会話が噛み合わない…

 これは、差別ではない…

 現実だ…

 例えば、偏差値40の工業高校を出て、東大卒の人間と結婚すれば、双方の話が、嚙み合わない…

 読んでいる本や、テレビや映画の趣味など、興味のあることが、まるで違うからだ…

 だから、結婚することはできないし、仮に結婚しても、離婚するのが、大半だ…

 それが、現実だ…

 また、その険のある目を持つ男のいた、会社でいえば、高卒でも、課長になった人間が、いたが、人柄が良かった…

 そもそも、人柄が悪ければ、誰もが、出世させようと思わないだろう…

 役職を決めるのは、人事部の人間だが、人事部の人間でも、その人間が、人柄が悪いか、否かは、誰もがわかる…

 そして、人柄が悪い人間は、人事部の人間も、嫌いだろう…

 仮に、能力が同じ人間がいて、どっちか、一人を出世させる場合になったときには、当たり前だが、性格が悪い人間は、選ばない…

 そういうことだ(笑)…

 ただ、その険のある目を持つ男といっしょにいた当時を思い出しても、能力が低い人間が多かった…

 それは、どうしてだろうと、思ったが、たまたまだろう(笑)…

 当時は、ITバブルに世間が、酔いしれていた…

 私も若かった(笑)…

 だから、他社では、お目にかかれない人間にも、数多く出会った(笑)…

 普通に社会に出て、生きてゆけるのか、疑問に思うものも結構いた(笑)…

 そして、そんな人間は、皆、そこでしか、会えない人間だった…

 ITバブルだったから、入社できた…

 質を問わないから、入社できた…

 それだけだった…

 現に、同じ環境に置かれていても、

 「…ここ数年、この会社の社員の質が一気に落ちたね…」

 と、言えなかったのは、その会社のITバブルで、入社できた人間だけだった…

 他の会社で、派遣やバイトで、出会った人間とは、明らかに、異質だった…

 はっきり言って、頭のレベルが違った…

 私は、それを、思い出した…

 そして、それを思うと、人間には、運、不運があると、つくづく思った…

 なぜかと、いえば、その後、出会って、明らかに優秀なのに、派遣社員をしていたり、または、中学や高校で、知り会って、有名大学を卒業したのに、就職できず、仕方なく、フリーターや、派遣社員になった人間を知っているからだ…

 就職氷河期だから仕方がないといえば、仕方がないが、そのひとたちは、私から見ても、明らかに優秀だった…

 その一方で、景気が良かったから、たまたま入社できた、険のある目を持つ男のような人間もいる…

 後に退社しただろうとはいえ、一時は、その険のある目を持つ男よりも、はるかに、優秀な人間が、就職できずにいた…

 つまり、険のある目を持つ男は、自分よりはるかに優秀な人間よりも、いい思いをしていたわけだ…

 だが、

 その当人は、そうは、思わないだろう…

 なぜなら、周囲にそんな人間はいないからだ…

 自分と比べる人間がいないからだ…

 それを思うと、つくづく人間は、経験だと思う…

 経験しなければ、どんなこともわからない…

 いや、

 わからないのではない…

 話を聞いても、実感が湧かないのだ…

 話が長くなったが、私が経験したことは、葉尊が経験したことや、リンダが経験したこととは、違う…

 バニラが経験したこととも違う…

 皆、同じ経験はしていない…

 それぞれの人生が違うから、当然だ…

 私は、平凡…

 平凡極まりない女だ…

 だから、もしかしたら、葉尊や、リンダや、バニラは、私のような平凡な女が、経験したことのない、壮絶な経験をしたかもしれなかった…

 成功した人間は、稀に、とんでもない、どん底を経験した可能性もあるからだ…

 私は、今さらながら、それに、気付いた…

                

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