第191話
文字数 4,549文字
「…ボクが、葉問にコンプレックスを感じていた?…」
と、今度は、葉尊が、声を荒げた…
「…少なくても、私は、そう感じていた…」
「…ボクが、葉問にコンプレックスを…」
葉尊は、動揺を隠せない様子だった…
「…オマエは、気付かずとも、私には、そう思えた…それは、今回のパーティーでも、明らかだ…」
「…どういうことですか?…」
「…今日、このパーティーにやって来たコンパニオンのお姉さんたち…本来彼女たちが相手をするはずだったパーティーの出席者たちの大半は、リンダやバニラの握手会や撮影会に、並んで、彼女たちは、手持ち無沙汰になった…そして、機嫌も悪くなった…本来は、自分の美貌に自信のある彼女たちだ…それを、葉問は、彼女たち一人一人に頭を下げ、瞬く間に、彼女たちの機嫌を、直した…あり得ないことだ…」
「…」
「…そして、それは、子供の頃から、変わらない…葉問は、なんでも、器用にこなした…が、オマエは、どうだ? …不器用で、遅い…ハッキリ言えば、真面目が、取り柄だけの人間…だから、なんでも、器用に立ち回る葉問を見て、羨ましいのは、わかった…」
「…」
葉尊は、葉敬の言葉に、
「…」
と、答えなかった…
「…」
と、沈黙した…
「…葉尊…オマエは、子供心にも、葉問に対して、コンプレックスを感じていたんじゃないのか?…」
「…ボクが、葉問に、コンプレックスを?…バカな?…」
「…バカでも、なんでもない…不器用な人間が、器用な人間に、コンプレックスを感じるのは、当たり前のことだ…」
「…」
「…オマエは、子供の頃、オマエのちょっとした、いたずらで、葉問が、事故で、死んだ…が、そのいたずらというのは、オマエが、意識する、しないに限らず、葉問に、コンプレックスを感じていて、葉問を困らせてやろうと、思ったのが、原因じゃないのか?…」
「…」
「…だが、そのいたずらが、思いがけず、大事になって、葉問が、死んだ…オマエは、罪の意識にさいなまれ、その結果、無意識に、自分の中に、葉問を、蘇らせた…」
「…」
「…つまり、オマエの葉問に対するコンプレックスと、罪の意識が、オマエの中に葉問を、蘇らせた…それが、葉問が、蘇った真相だ…」
「…」
「…そして、なにより、オマエの誤算は、葉問が、ただの女好きの遊び人では、なくなったことだ…以前は、ただの女好きの遊び人に過ぎなかった葉問が、お姉さんに、会って、変わった…」
…私に会って変わった?…
…一体、なにが、変わったというんだ?…
…葉問は、あの通りのただの女好きで、少々危険な香りのする男じゃ、なかったのか?…
「…どう、変わったんですか?…」
葉尊が、口を開いた…
「…大人になった…」
葉敬が、即答した…
「…心に、余裕を持つようになり、ひとを助けるようになった…」
葉敬が、しみじみと、言った…
「…お姉さんのおかげだ…」
「…お姉さんのおかげ?…」
「…そうだ…あのお姉さんは、天真爛漫で、見ていて、危なっかしいところがある(笑)…だから、それを見て、こちらも、つい、助けたくなる…力を貸したくなる…」
「…」
「…葉問も、あのお姉さんと接して、自然と、そういう性格になったんじゃないか? …子供の頃のように、少々やんちゃな性格だけじゃなくなった…」
「…」
「…そして、それを見て、葉尊…オマエは、不安になった…もしかしたら、この私の後継者は、葉尊…オマエではなく、葉問を選ぶんじゃないかと、邪推するようになった…」
「…」
「…だから、今回、あの矢口さんを、巻き込んで、混乱させたんじゃないのか?…あの矢口さんは、お姉さん、そっくりだ…色々、利用できる…そう、思ったんじゃないのか?…」
「…」
「…いかにも、策士のオマエらしい…」
葉敬が、ため息をついた…
それから、少しの間、
「…」
と、沈黙した…
二人とも、なにも、言わなかった…
黙ったままだった…
ようやく、
「…黒い猫でも、白い猫でも、鼠を捕るのは、良い猫だ…」
と、葉尊が言った…
「…鄧小平の言葉です…意味は、わかりますね?…」
「…もちろんだ…ハッキリ言えば、目的の達成のためには、手段は、どうでもいい…」
「…つまりは、台北筆頭を発展させるためには、ボクでも、葉問でも、いい…そういうことですよ…」
「…」
「…たしかに、葉問は、変わった…最初は、ただの女好きだった…が、ボクが、お姉さんと、結婚してから、葉問は、変わった…」
「…どう、変わったんだ?…」
「…陰に陽に、お姉さんを助けるようになった…」
「…」
「…あるときは、お姉さんの相談に乗り、あるときは、身を挺して、お姉さんを助けた…」
「…」
「…つまりは、葉問は、あのお姉さんと接することで、徐々に、性格が、変わった…おそらくは、葉問は、あのお姉さんを助けることで、人間的に、成長した…」
「…そして、それを見た、オマエは、いつしか、葉問を恐れるようになった…葉問に、私の後継者の座を奪われるんじゃないかと、不安になった…」
と、いきなり、葉敬が、確信を突いた…
「…」
「…そして、今回の騒動だ…お姉さんそっくりの、あの矢口さんと、アラブの大物…その存在を知ったオマエは、あの二人を巻き込んで、騒動を起こそうと、思ったんだろ? …ことによると、その騒動の結果、遠からず、私を追いやり、自分が、台北筆頭のCEОの座に就こうと、思ったのかもしれない…」
「…」
「…が、そのオマエの野望も、すべて、あのお姉さんが、阻んだ…」
…なに?…
…私が阻んだだと?…
…一体、どういう意味だ?…
…私が、一体、なにをしたと言うんだ?…
「…あのお姉さんは、誰からも好かれる…例え、最初は、敵対していても、いつのまにか、自分の味方にする…そんなことが、できるのは、あのお姉さんぐらいのものだ…」
「…」
「…オマエは、あの矢口さんや、アラブの大物を巻き込んで、クールの力をつける…あるいは、台北筆頭の業績を落とさせる…そういう結果を臨んでいたんじゃないのか? …いずれにしろ、最後は、自分の有利になる、シナリオ、結末を夢見ていた…」
「…」
「…が、現実は、あのお姉さんが、すべて、オマエの夢を打ち砕いた…」
…私が葉尊の夢を打ち砕いただと?…
…一体、どういう意味だ?…
「…あのお姉さんは、誰からも好かれる…だから、結果的に、このクールや台北筆頭に混乱を、もたらそうとした、オマエの野望は、あっけなく、潰えた…」
「…」
「…オマエが、あのお姉さんを選んだ理由…それは、単純に、言えば、私に反抗するためだった…私が、選んだ嫁ではなく、自分で、伴侶を選ぶ…そうすれば、いずれ私に反乱を起こすことができる…私が、選んだ伴侶は、皆、台湾の政界、財界のお偉いさんのお嬢さん…いざ、私とオマエが揉めれば、どっちにつくかとなる…そして、大抵は、オマエではなく、私につくだろう…父親つながりで、だ…そして、オマエは、それを恐れた…だから、なんの関係もない、日本の平凡な家庭のお嬢さんを伴侶に選んだ…」
「…」
と、葉尊が沈黙した…
私は、驚いた…
私は、一体なぜ、葉尊が、私と結婚したのか、わからんかった…
が、
今の説明で、ようやく納得した…
台湾の大財閥の御曹司が、日本の無名の平凡な家庭の女と結婚する…
なぜ、そんなことを、するのか、まったく、
わからんかった…
いくら考えても、納得のいく答えを見つけることは、できんかった…
が、
今の葉敬の説明であれば、納得できた…
そして、真実というものは、納得できるものだ…
だから、私は、たった今、葉敬が、言ったことが、真実だと思った…
葉敬と対立する葉尊が、いざ、葉敬と対立したときに、困ることが、ないように、あえて、葉敬の推薦する台湾の政界や財界の子女を、伴侶にしない…
その通りに違いないと、思った…
たしかに、そう考えれば、納得するからだ…
長い沈黙があった…
葉敬も、葉尊も、なにも、言わなかった…
まるで、すでに、この場から、去ったかと、思うほどだった…
ようやく、口を開いたのは、葉尊だった…
「…たしかに、誤算だった…」
葉尊が、少々、笑いながら、言った…
皮肉たっぷりに言った…
私は、これまで、そんな葉尊を見たことが、なかった…
同時に、これが、葉尊の正体かと、思った…
私の夫の正体かと、思った…
これまで、私が、見てきた聖人君子の葉尊ではない…
別人の葉尊…
今、初めて、私は、別人の葉尊…
本来の葉尊を、知ったと、思った…
「…誤算? …なにが、誤算なんだ?…」
「…あのお姉さんを甘く見ていた…甘く見過ぎていた…」
「…お姉さんを?…」
「…ボクは、単純に、葉敬…アナタとなんの関係もない、女と結婚したかった…その方が、後々、便利だ…」
「…」
「…だから、日本の、平凡な女と、結婚したと、思った…あのお姉さんは、誰が、見ても、平凡…平凡そのものだ…が、違った…」
「…違った? …なにが、違ったんだ?…」
「…いっしょにいると、あのお姉さんの魅力に、引き込まれる…」
葉尊が、笑った…
…なんだと?…
…この矢田トモコの魅力だと?…
…一体、それは、なんだ?…
私の胸の大きさか?
それとも、大きな足か?
私の足のサイズは、26㎝ある…
が、
身長は、159㎝…
つまり、足のサイスだけ、見れば、リンダやバニラのように、175㎝や、180㎝あっても、おかしくはない…
だが、
私は、159㎝…
だから、おかしい…
おかしいのだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…それは、オマエの誤算だったな…」
と、今度は、葉敬が笑った…
笑ったのだ…
そして、肝心の私の魅力について、言及しなかった…
私は、頭に来た…
一体、なにが、私の魅力なんだ?
さっさと、言え!
さっさと、答えろ!
内心、そう思った…
「…あのお姉さんには、不思議な魅力がある…なぜか、あのお姉さんといると、毎日が楽しくなる…なぜか、心が安らぐ…」
葉敬が、言った…
「…オマエも同じだろ?…」
葉敬が、葉尊に尋ねた…
が、
葉尊は、
「…」
と、答えんかった…
が、
それは、葉敬の想定内でも、あったようだ…
「…別に、答えなくてもいい…用心深いオマエのことだ…下手なことは、言うまい…」
葉敬が笑った…
「…おしゃべりな人間は、自滅する…つい、自分の考えを周囲に話し過ぎて、なにを考えているか、周囲に、バレる…だから、しゃべらないほうが、いい…オマエは、それを、子供心に、葉問を見て、学んだんじゃないか?…」
…葉問を、見て、学んだだと?…
…一体、どういうことだ?…
「…葉問は、おしゃべりだった…内向的なオマエとは、真逆に、外向的な性格だった…明るく、やんちゃな性格だった…だから、友達も、多い…葉尊、その点でも、うちに籠って、一人遊びが、好きなオマエとは、対照的だった…」
「…」
「…葉問は、だから、いつも、自分が、なにを考えてるか、周囲にしゃべった…そして、葉問は、オマエと同じく、将来は、私の後を継ぐと言うのが、口癖だった…」
と、今度は、葉尊が、声を荒げた…
「…少なくても、私は、そう感じていた…」
「…ボクが、葉問にコンプレックスを…」
葉尊は、動揺を隠せない様子だった…
「…オマエは、気付かずとも、私には、そう思えた…それは、今回のパーティーでも、明らかだ…」
「…どういうことですか?…」
「…今日、このパーティーにやって来たコンパニオンのお姉さんたち…本来彼女たちが相手をするはずだったパーティーの出席者たちの大半は、リンダやバニラの握手会や撮影会に、並んで、彼女たちは、手持ち無沙汰になった…そして、機嫌も悪くなった…本来は、自分の美貌に自信のある彼女たちだ…それを、葉問は、彼女たち一人一人に頭を下げ、瞬く間に、彼女たちの機嫌を、直した…あり得ないことだ…」
「…」
「…そして、それは、子供の頃から、変わらない…葉問は、なんでも、器用にこなした…が、オマエは、どうだ? …不器用で、遅い…ハッキリ言えば、真面目が、取り柄だけの人間…だから、なんでも、器用に立ち回る葉問を見て、羨ましいのは、わかった…」
「…」
葉尊は、葉敬の言葉に、
「…」
と、答えなかった…
「…」
と、沈黙した…
「…葉尊…オマエは、子供心にも、葉問に対して、コンプレックスを感じていたんじゃないのか?…」
「…ボクが、葉問に、コンプレックスを?…バカな?…」
「…バカでも、なんでもない…不器用な人間が、器用な人間に、コンプレックスを感じるのは、当たり前のことだ…」
「…」
「…オマエは、子供の頃、オマエのちょっとした、いたずらで、葉問が、事故で、死んだ…が、そのいたずらというのは、オマエが、意識する、しないに限らず、葉問に、コンプレックスを感じていて、葉問を困らせてやろうと、思ったのが、原因じゃないのか?…」
「…」
「…だが、そのいたずらが、思いがけず、大事になって、葉問が、死んだ…オマエは、罪の意識にさいなまれ、その結果、無意識に、自分の中に、葉問を、蘇らせた…」
「…」
「…つまり、オマエの葉問に対するコンプレックスと、罪の意識が、オマエの中に葉問を、蘇らせた…それが、葉問が、蘇った真相だ…」
「…」
「…そして、なにより、オマエの誤算は、葉問が、ただの女好きの遊び人では、なくなったことだ…以前は、ただの女好きの遊び人に過ぎなかった葉問が、お姉さんに、会って、変わった…」
…私に会って変わった?…
…一体、なにが、変わったというんだ?…
…葉問は、あの通りのただの女好きで、少々危険な香りのする男じゃ、なかったのか?…
「…どう、変わったんですか?…」
葉尊が、口を開いた…
「…大人になった…」
葉敬が、即答した…
「…心に、余裕を持つようになり、ひとを助けるようになった…」
葉敬が、しみじみと、言った…
「…お姉さんのおかげだ…」
「…お姉さんのおかげ?…」
「…そうだ…あのお姉さんは、天真爛漫で、見ていて、危なっかしいところがある(笑)…だから、それを見て、こちらも、つい、助けたくなる…力を貸したくなる…」
「…」
「…葉問も、あのお姉さんと接して、自然と、そういう性格になったんじゃないか? …子供の頃のように、少々やんちゃな性格だけじゃなくなった…」
「…」
「…そして、それを見て、葉尊…オマエは、不安になった…もしかしたら、この私の後継者は、葉尊…オマエではなく、葉問を選ぶんじゃないかと、邪推するようになった…」
「…」
「…だから、今回、あの矢口さんを、巻き込んで、混乱させたんじゃないのか?…あの矢口さんは、お姉さん、そっくりだ…色々、利用できる…そう、思ったんじゃないのか?…」
「…」
「…いかにも、策士のオマエらしい…」
葉敬が、ため息をついた…
それから、少しの間、
「…」
と、沈黙した…
二人とも、なにも、言わなかった…
黙ったままだった…
ようやく、
「…黒い猫でも、白い猫でも、鼠を捕るのは、良い猫だ…」
と、葉尊が言った…
「…鄧小平の言葉です…意味は、わかりますね?…」
「…もちろんだ…ハッキリ言えば、目的の達成のためには、手段は、どうでもいい…」
「…つまりは、台北筆頭を発展させるためには、ボクでも、葉問でも、いい…そういうことですよ…」
「…」
「…たしかに、葉問は、変わった…最初は、ただの女好きだった…が、ボクが、お姉さんと、結婚してから、葉問は、変わった…」
「…どう、変わったんだ?…」
「…陰に陽に、お姉さんを助けるようになった…」
「…」
「…あるときは、お姉さんの相談に乗り、あるときは、身を挺して、お姉さんを助けた…」
「…」
「…つまりは、葉問は、あのお姉さんと接することで、徐々に、性格が、変わった…おそらくは、葉問は、あのお姉さんを助けることで、人間的に、成長した…」
「…そして、それを見た、オマエは、いつしか、葉問を恐れるようになった…葉問に、私の後継者の座を奪われるんじゃないかと、不安になった…」
と、いきなり、葉敬が、確信を突いた…
「…」
「…そして、今回の騒動だ…お姉さんそっくりの、あの矢口さんと、アラブの大物…その存在を知ったオマエは、あの二人を巻き込んで、騒動を起こそうと、思ったんだろ? …ことによると、その騒動の結果、遠からず、私を追いやり、自分が、台北筆頭のCEОの座に就こうと、思ったのかもしれない…」
「…」
「…が、そのオマエの野望も、すべて、あのお姉さんが、阻んだ…」
…なに?…
…私が阻んだだと?…
…一体、どういう意味だ?…
…私が、一体、なにをしたと言うんだ?…
「…あのお姉さんは、誰からも好かれる…例え、最初は、敵対していても、いつのまにか、自分の味方にする…そんなことが、できるのは、あのお姉さんぐらいのものだ…」
「…」
「…オマエは、あの矢口さんや、アラブの大物を巻き込んで、クールの力をつける…あるいは、台北筆頭の業績を落とさせる…そういう結果を臨んでいたんじゃないのか? …いずれにしろ、最後は、自分の有利になる、シナリオ、結末を夢見ていた…」
「…」
「…が、現実は、あのお姉さんが、すべて、オマエの夢を打ち砕いた…」
…私が葉尊の夢を打ち砕いただと?…
…一体、どういう意味だ?…
「…あのお姉さんは、誰からも好かれる…だから、結果的に、このクールや台北筆頭に混乱を、もたらそうとした、オマエの野望は、あっけなく、潰えた…」
「…」
「…オマエが、あのお姉さんを選んだ理由…それは、単純に、言えば、私に反抗するためだった…私が、選んだ嫁ではなく、自分で、伴侶を選ぶ…そうすれば、いずれ私に反乱を起こすことができる…私が、選んだ伴侶は、皆、台湾の政界、財界のお偉いさんのお嬢さん…いざ、私とオマエが揉めれば、どっちにつくかとなる…そして、大抵は、オマエではなく、私につくだろう…父親つながりで、だ…そして、オマエは、それを恐れた…だから、なんの関係もない、日本の平凡な家庭のお嬢さんを伴侶に選んだ…」
「…」
と、葉尊が沈黙した…
私は、驚いた…
私は、一体なぜ、葉尊が、私と結婚したのか、わからんかった…
が、
今の説明で、ようやく納得した…
台湾の大財閥の御曹司が、日本の無名の平凡な家庭の女と結婚する…
なぜ、そんなことを、するのか、まったく、
わからんかった…
いくら考えても、納得のいく答えを見つけることは、できんかった…
が、
今の葉敬の説明であれば、納得できた…
そして、真実というものは、納得できるものだ…
だから、私は、たった今、葉敬が、言ったことが、真実だと思った…
葉敬と対立する葉尊が、いざ、葉敬と対立したときに、困ることが、ないように、あえて、葉敬の推薦する台湾の政界や財界の子女を、伴侶にしない…
その通りに違いないと、思った…
たしかに、そう考えれば、納得するからだ…
長い沈黙があった…
葉敬も、葉尊も、なにも、言わなかった…
まるで、すでに、この場から、去ったかと、思うほどだった…
ようやく、口を開いたのは、葉尊だった…
「…たしかに、誤算だった…」
葉尊が、少々、笑いながら、言った…
皮肉たっぷりに言った…
私は、これまで、そんな葉尊を見たことが、なかった…
同時に、これが、葉尊の正体かと、思った…
私の夫の正体かと、思った…
これまで、私が、見てきた聖人君子の葉尊ではない…
別人の葉尊…
今、初めて、私は、別人の葉尊…
本来の葉尊を、知ったと、思った…
「…誤算? …なにが、誤算なんだ?…」
「…あのお姉さんを甘く見ていた…甘く見過ぎていた…」
「…お姉さんを?…」
「…ボクは、単純に、葉敬…アナタとなんの関係もない、女と結婚したかった…その方が、後々、便利だ…」
「…」
「…だから、日本の、平凡な女と、結婚したと、思った…あのお姉さんは、誰が、見ても、平凡…平凡そのものだ…が、違った…」
「…違った? …なにが、違ったんだ?…」
「…いっしょにいると、あのお姉さんの魅力に、引き込まれる…」
葉尊が、笑った…
…なんだと?…
…この矢田トモコの魅力だと?…
…一体、それは、なんだ?…
私の胸の大きさか?
それとも、大きな足か?
私の足のサイズは、26㎝ある…
が、
身長は、159㎝…
つまり、足のサイスだけ、見れば、リンダやバニラのように、175㎝や、180㎝あっても、おかしくはない…
だが、
私は、159㎝…
だから、おかしい…
おかしいのだ…
私が、そんなことを、考えていると、
「…それは、オマエの誤算だったな…」
と、今度は、葉敬が笑った…
笑ったのだ…
そして、肝心の私の魅力について、言及しなかった…
私は、頭に来た…
一体、なにが、私の魅力なんだ?
さっさと、言え!
さっさと、答えろ!
内心、そう思った…
「…あのお姉さんには、不思議な魅力がある…なぜか、あのお姉さんといると、毎日が楽しくなる…なぜか、心が安らぐ…」
葉敬が、言った…
「…オマエも同じだろ?…」
葉敬が、葉尊に尋ねた…
が、
葉尊は、
「…」
と、答えんかった…
が、
それは、葉敬の想定内でも、あったようだ…
「…別に、答えなくてもいい…用心深いオマエのことだ…下手なことは、言うまい…」
葉敬が笑った…
「…おしゃべりな人間は、自滅する…つい、自分の考えを周囲に話し過ぎて、なにを考えているか、周囲に、バレる…だから、しゃべらないほうが、いい…オマエは、それを、子供心に、葉問を見て、学んだんじゃないか?…」
…葉問を、見て、学んだだと?…
…一体、どういうことだ?…
「…葉問は、おしゃべりだった…内向的なオマエとは、真逆に、外向的な性格だった…明るく、やんちゃな性格だった…だから、友達も、多い…葉尊、その点でも、うちに籠って、一人遊びが、好きなオマエとは、対照的だった…」
「…」
「…葉問は、だから、いつも、自分が、なにを考えてるか、周囲にしゃべった…そして、葉問は、オマエと同じく、将来は、私の後を継ぐと言うのが、口癖だった…」