第161話

文字数 4,256文字

 …ここで、ケリをつけるか?…

 私は、思った…

 もはや、このリンダとも、二度と会うことも、あるまい…

 明日からは、互いに、別々の道を歩く…

 もはや、このリンダと、二度と、同じ道を歩くことも、あるまい…

 …少しばかり、美人だからといって、調子に乗りおって…

 そんな声が、私の心の中に、広がった…

 広がったのだ…

 だから、私は、真正面で、リンダを見た…

 リンダ・ヘイワースを見た…

 たしかに、美人…

 美人だった…

 まばゆいばかりの美人だった…

 私が、どう逆立ちしても、手も足も出ない美人だった…

 が、

 許せんかった…

 この矢田トモコの六頭身の幼児体型を罵倒することは、許せんかった…

 私は、たしかに、ときどき、他人の悪口を言う…

 しかし、

 しかし、だ…

 自分の悪口を言われるのは、嫌だった…

 当たり前だ…

 これは、誰でも、当たり前だった…

 これは、誰でも、同じだった…

 どんなに、他人の悪口を言ってもいい…

 が、

 自分の悪口を他人から、言われるのは、嫌だった…

 いや、

 そもそも、他人の悪口を言う人間ほど、陰では、他人から、自分の悪口を、言われているものだ(笑)…

 そして、ハッキリ言えば、劣っている人間ほど、他人の悪口を、言うものだ…

 学歴が、低かったり、ルックスが、悪かったり、する人間ほど、他人の悪口を、言うものだ…

 そして、それは、なぜかと、問われれば、本音では、おそらく、自分自身が、劣っていることを、自覚しているからだと思う…

 本人が、意識する、意識しないに限らず、本音では、自分が、勝てないことに、気付いているからだと、思う…

 だから、

 他人の悪口を言う…

 そういうことだ…

 が、

 結局は、なにも、変わらない…

 むしろ、性格の悪さが、周囲に気付かれるだけ…

 会社であれば、そもそも学歴が、劣っているから、出世は、難しいし、結婚で、いえば、ルックスが、良くないのだから、ルックスが、良かったり、頭が、良かったり、する人間が、その人間と結婚するわけがなかった…

 結婚相手は、ある意味、鏡…

 自分の能力と、同じ相手が、多い…

 そうでなければ、話が、合わないからだ…

 偏差値70の高校を出た相手と、偏差値40の高校を出た相手が、結婚して、話が、合うわけがない…

 読む本や趣味等、すべてが、違う…

 交友関係が、違う…

 そんな人間同士が、結婚して、会話が、噛み合うわけがないからだった…

 だから、仮に、結婚しても、長続きしない…

 大方は、離婚することになる…

 そう思った…

 だから、結婚相手は、鏡なのだ…

 いささか、話が、外れたが、いつもの、ことだった(笑)…

 とにかく、そう、思いながら、リンダを見た…

 目の前のリンダ・ヘイワースを見た…

 ここで、一気にケリをつけるか?

 そう、思いながら、見た…

 見たのだ…

 今日を最後に、明日からは、他人…

 もはや、二度と、この女と、会う機会は、あるまい…

 この女に、ここで、とどめを刺す、絶好の機会かも、しれん…

 私は、ふと、そんなことを、思った…

 が、

 そんなことを、思っていると、

 「…さあ、お姉さん…急いで…」

 と、目の前のリンダが、告げた…

 「…急ぐ?…」

 「…そうよ…さっさと、ホテルに入って、着替えなくちゃ…」

 「…着替えるだと?…」

 「…お姉さん…今も、いつもの、白いTシャツに、ジーンズでしょ…まさか、その恰好で、パーティーに出席できないでしょ?…」

 「…」

 「…だから、急いで、着替えなきゃ…」

 リンダが、慌てた様子で、言う…

 私は、自分の格好を見た…

 たしかに、私は、いつもの私の格好…

 白のTシャツに、ジーンズ…そして、足元は、履きなれたスニーカーだ…

 これこそが、矢田スタイルというか…

 この矢田トモコのいつもの格好だった…

 だが、たしかに、このリンダの言う通り、この姿で、パーティーに出席することは、できん…

 例え、離婚式としても、だ…

 まさか、離婚式だから、結婚式のように、ウェディング・ドレスを着るわけでは、ないだろうが、さすがに、白のTシャツに、ジーンズ姿で、パーティーに出席できるはずが、なかった…

 が、

 実は、この格好が、一番、私に、合っていた…

 童顔で、巨乳が自慢の六頭身の私に、合っていた…

 それに、白いTシャツなら、私の唯一の武器である、巨乳も、目立つ…

 私が、歩くたびに、ユサユサと揺れて、目立つからだ…

 この巨乳こそ、武器…

 この矢田トモコの最大にして、唯一の武器だった…

 また、私が、正装して、ふさわしいのは、和服だけ…

 日本の正装である、和服だけだった…

 なぜなら、和服なら、私の手足の短い、六頭身の姿を隠すことが、できるからだ…

 この矢田の最大の武器である、巨乳を隠すことにも、なるが、それは、仕方がない…

 例えば、とてもではないが、今、目の前にいる、リンダと、同じ、超ミニのワンピースでも、着れば、お笑いだ…

 すらりと、手足の長いリンダに、比べて、手足の短い私…

 隣に、並べば、おおげさに、いえば、同じ人間かと、思う…

 同じ人類かと、思う…

 人種は、違うが、誰もが、そう思う…
 
 それほどの差だった…

 それほどの落差だったのだ(涙)…

 私が、そんなことを、考えているときだった…

 「…リンダ…なに、しているの?…」

 と、いう声がした…

 私は、その声のする方を見た…

 その声に聞き覚えがあったからだ…

 見ると、そこには、バニラが、いた…

 バカ、バニラが、いた…

 「…早く、しないと、パーティーが、始まっちゃうよ…」

 「…ゴメン…つい、遅れて…」

 そして、バカ、バニラが、リンダ同様の青い目で、私を見た…

 「…ほら…お姉さんも、早く着替えて…今日のパーティーの主役は、お姉さんなんだから…」

 「…わ…私が、主役?…」

 「…そうよ…お姉さんと、葉尊が、今日のパーティーの主役…」

 …そうか…

 私は、悟った…

 例え、これから、離婚式を挙げることになっても、その離婚式の主役は、私と葉尊…

 例え、これから、離婚式を、行うことになっても、肝心の離婚をする当事者の二人が、いなければ、ならん…

 そういうことだ…

 それを、思うと、

 …いよいよか…

 と、思った…

 このバカ、バニラとも、短い間だが、色々あった…

 が、

 すべて、水に流そう…

 とも、とても思えんが、まあ、このバニラとも、お別れだ…

 もはや、二度と会うことは、あるまい…

 バカ、バニラ…

 目の前にすると、リンダ同様美しいが、嫌なヤツであることは、たしか…

 この矢田トモコの天敵であることは、たしか、だ…

 が、

 それも、今は、ただ、懐かしいというか…

 すべて、終わったことだった…

 バニラは、たしかに、バカだが、すべて、終わったことだった…

 …バカ、バニラ…

 今は、ただ、懐かしかった…

 オマエのことは、忘れん!

 いや、

 忘れたくても、忘れん!

 忘れたくても、忘れることが、できんかったのだ(激怒)…
 
それほど、私の人生に、汚点を残したとまでは、いわんが…

 とにかく、気に入らん…

 気に入らん相手だった…

 が、

 それも、今日、終わる…

 今日を最後に、二度と会うことは、あるまい…

 それを、思えば、我慢するしかないか?

 耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、我慢するしかないか?

 私は、思った…

 そして、今、私の脳裏に、このバカ、バニラとの日々が、走馬灯のように、浮かんだ…

 このバカ、バニラとの日々が、走馬灯のように、浮かんだのだ…

 思えば、このバカ、バニラと、知り合ったのも、なにかの縁かも、しれんかった…

 ホントは、こんなバカとは、知り合いたくは、なかったが、それも、縁かも、しれんかった…

 考えたくはないが、それも、縁かも、しれんかった…

 腐れ縁かも、しれんかった…

 私が、そんなことを、考えながら、目の間の、バニラを見ていると、

 「…お姉さん…なにを、そんな細い目で、私を見ているの?…」

 と、バニラが、言った…

 …なんだと?…

 内心、激怒した…

 自分が、このリンダ同様、大きな青い目をした美人だからと、いって、この矢田の目のことを、口にするとは…

 許せん!

 許せんのだ!

 「…お姉さん…目が細いんだから、考え事をするときは、気をつけた方がいいよ…誰でも、そうだけど、考え事をするときは、つい目を細めちゃうけど、そうすると、お姉さんは、目が、なくなっちゃうから…」

 バニラが、真顔で、忠告した…

 その途端、私の頭の中で、なにかが、プチッと切れた…

 それは、

 …理性…

 だったのかも、しれんかった…

 あるいは、

 この矢田が、これまで、我慢していた、なけなしの、

…忍耐…

かも、しれんかった…

 だが、それが、今、プチッと、切れた…

 私の中で、ブチッと、音を立てて、切れたのだ…

 もはや、離婚式もなにも、なかった…

 この場で、このバカ、バニラを殴り殺し、血の海に沈めるしか、なかったのだ…

 それほど、私の感情が、昂った…

 昂ったのだ!

 「…バニラ…貴様…言うに事欠いて…この私のことを…」

 私が、言って、このバカ、バニラに、まさに、鉄拳制裁を、加えんとするときだった…

 「…さあ、二人とも、なにを、しているの…パーティーに間に合わないわよ…」

 と、今度は、リンダが、私を促した…

 私は、内心、

 …運のいいヤツだ…

 と、思った…

 この矢田トモコの本気を見せれんことは、残念だが、運のいいヤツだと、思った…

 「…さあ、二人とも、急いで…」

 リンダが、またも、催促した…

 が、

 私は、動かんかった…

 無言で、バニラを見た…

 見たのだ…

 …この女、許せん!…

 と、思い、無言で、このバカ、バニラを見たのだ…

 すると、だ…

 「…さあ、お姉さん…急いで…」

 と、再び、リンダが、声をかけた…

 そして、私が、その場から、動かんことを、見て、

 「…バニラ…お姉さんが、動かないようなら、さっさと、お姉さんのカラダを担いで…」

 と、言った…

 私のカラダを担いでだと?

 私は、一瞬、リンダが、なにを、言っているか、わからんかった…

 が、

 そのときだった…

 180㎝のバニラが、私のカラダを背後から、持ち上げた…

 159㎝と、小柄な私は、バニラに、まるで、小さな子供のように、呆気なく、簡単に、持ち上げられた…

 そして、長身のバニラは、まるで、自分の娘のマリアを抱えるが如く、普通に、歩き出した…

 ありえん!…

 まさに、ありえん光景だった!…

 悪夢のような光景だった(涙)…

               
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