第46話 産後の怒り

文字数 1,367文字

 長男を出産したあと、田舎の姑が手伝いに来てくれた。その7ヵ月後には脳梗塞で亡くなった。田舎の村から外へは、ひとりで電車に乗ることもなかった姑だ。上野駅に着いて夫の顔を見るまでは心細かったろう。滞在中もひとりでは外に出なかった。
 穏やかな方だった。会ったのは結婚前の挨拶、結婚式、今回……それだけだった。友人が赤ちゃんを見にくると、
「向こうの部屋にいってようか?」
と、遠慮がち。
 義母がありあわせで作ったうどんは、居合わせた私の姉が未だに絶賛する味だった。初めて田舎に行った時には大きな寿司の盛り合わせがあった。頼んだか、買いに行ったのか? 歓迎してくれたのだろう。しかし、枝豆やとうもろこしの色、小ナスの漬物の色に驚いた。鮮やか! 焼いた茄子の皮をむいて、さいただけ……それがとてもおいしかった。あとは山菜の煮物、歯ごたえがあり味付けが絶妙。素朴なものばかりだったが。

 私の父はその頃ひとり暮らしだった。姉には子供がいない。初めての孫は男の子。父は娘ふたりだったので大喜びだ。大喜びで孫を見た帰りにスナックに寄り飲んだ。そして酔っ払って赤信号を渡り車にはねられた。夜中に病院から電話がきた。日頃酒にはだらしのない父だった。私は怒り心頭。母乳が出なくなるのでは、と思うくらい、はらわたが煮えくり返った。
 義母はどう思っただろう? 産後の忙しい中、夫は父の入院する病院へも行くことに。幸いにも2週間、車椅子に乗るだけで快復したが。

 ふたり目の出産のときは義母は亡くなっていたので、義父と義妹が来てくれた。長男の子守に。
 義父は早起きだった。私が起きていくと、もうソファーに座っていた。茶を入れないわけにはいかない。義妹は朝が弱かった。夫は私に味噌汁を作れ、と命令した。洗濯は自分でした。義妹が起きてくるのを待っているわけにはいかない。たくさんの量だ。おしめは布だった。内心は穏やかではない。何しにきたの? 手伝いにきたんじゃないの?
 義父と義妹は長男を遊びに連れていってくれた。布団を干していった。綿の重い布団だ。ありがたい。しかし日が暮れても帰ってこない。産後の私が取り込んだ。
 干してくれないほうがよかった……産後の精神状態は違うのだ。
 亡くなった義母も……
 結婚式前日、夫の両親はアパートに泊まった。息子に朝、炊き立てのごはんを食べさせたかったろう。夫から聞いた。私は思った。食べきれまい。残ったごはんはそのままか? コンセントは抜いてきたという。
 
 義父と義妹には交通費と小遣いを渡した。大きな金額だった。帰った後、夫と大喧嘩をした。

 娘も2度の出産のあとは、旦那と大喧嘩をして家から追い出した。旦那は車で寝て、翌日には帰ってきたが。
 ふたり目の出産の後は我が家に来た。女は大変だが、男は嬉しくて酒を飲んだ。夫は喜び娘の旦那に聞いた。
「何が飲みたいか?」
「……僕は、ウイスキーかブランデーですね」
そんなものはない。間……わかりましたよ。買いに行けばいいんでしょ。
 酒盛りの間、暑いからとエアコンの温度を下げた。赤ちゃんがいるのに。人が来るたび下げた。夫は暑がりだ。生まれたばかりの孫が検診の時、低体温になっていて、体重が増えていなかった。娘は早々に自分の家に帰った。
 産後、男はいらないね。実家に帰れば? と。娘は怒っていた。


 

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