第123話 老後の資金

文字数 1,609文字

 夫は買い物についてくる。仕事を減らしたので、週に2度はついてくる。朝は、ウォーキングについてくる。歩くのが遅い。私が速くなったのだが。

 食べることが好きだから、スーパーが好きだ。食品を見るのは好きだが、値段は見ない。私が高いと思うものを、夫は安いと言うのだ。フルーツトマトがあればカゴに入れる。いちごより高くても、安いと言う。却下ばかりしていると、しみったれだと喧嘩になるのでなるべく言わない。食べることしか楽しみがないのだ。持病があるのに、食事制限するなら死んだ方がマシ。長生きはしないと思っている。親父の歳を超えたからもういいか、と。
 
 増えた休みを持て余す。さすがに午前中から酒を飲むのには抵抗があるようだ。やることない? と聞いてくる。包丁研ぎ、壊れたものの修理、加湿器の水の補充(人間のためではなく植物のため)等々。
 趣味がない。いっそ、投稿でもすれば? と勧めようか。

 決定的な違いがわかった。冷蔵庫を開けて、ろくなものがないと言う。
「明日は買い物行かないわよ。今日、使い過ぎた」
「金、あんでしょ?」
「年金生活になるんだから……」
「明日、死んじゃったらどうすんの?」
「90まで生きたらどうすんの?」
「年取ったらそんなに食えないよ」

 我が家の家計は私がやりくりをしている。結婚当初から給料袋を寄越し、小遣いを渡す。いまだに現金だ。うち、1万円は千円札で渡す。小遣いに不満がなければ平和だ。貯金とは無縁の人だ。結婚前は給料から財形貯蓄が天引きされていた。あとは全部使っていた。時々は私から借りていた。

 60歳で退職金が出たときに(多くはない)1割取った。お疲れ様……どうぞ、大事にお使いください。でも、たぶん残っていないだろう。気前がいいともいう。 

 65歳で給料が半分になった時も小遣いはそのままだった。大喧嘩した。給料が半分になっても、厚生年金も住民税もすぐには減らないのだ。辞めたあとは、健康保険に住民税。半端でない額が出ていく。そういうことを知らない、知りたくないのか?
 私は辞めたあとのために、コツコツ別に貯めていたのだ。それを喧嘩のあとに渡した。お疲れ様。まだ働いてくれるのだものね。

 今さら離婚は考えないが、別居してやろうかと、アパートを検索した。仕事を増やし、年金が入ればやっていけないことはない。2、3日考えてやめた。安いアパートにはウォシュレットが付いてない。だから我慢することにした。

 夫は引き算が苦手なのだ。使っても残っていると思っている。渡した金でゴルフクラブを新調した。私には、一緒にやろうとハーフセットを購入してきた。そして言った。
「もう、金がない」

 ゴルフの前には両替してくれ、と言う。車を運転していく人に渡すのだ。いつでも両替ができると思っている。自分が運転していく時はETCだから、家計費から出てるんですが。あなたが稼いだお金だから、細かいことは言わないけど。

 年金をいくらいただいているかも知らない。まあ、少なめに言ってある。確定申告も私がする。今までは医療費控除が戻ってきたが(内緒だが)、去年度分は払う羽目に。税金もクレジットカードで払えるなんて……知らなかった。

 老後資金がどれだけあるのかも知らない。知らなくて平気なのだ。怖くないのか? 知るのが怖いのか? 妻を信頼しているのだろう。質素だから貯め込んでいると思っている。ありません、と言ったらどうするだろう? あとはあなたの生命保険だけ……

 この間はホームベーカリーを買い替えた。高いほうは5万円弱。パン焼き機に5万円? 迷っていると、高いほう、買っちゃえ……だからね。はい、そうします。パンは、焼くからね。その代わり、食費減らすわよ。わからないように。うまく……

 趣味がないから暇なのだ。暇だからと洗い物をし、洗濯物を畳んだ、風呂まで入れていた。それに、広告を折って、ごみ箱を作るのだ。お駄賃をあげたくなる。
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