第19話 勉強しない子供達

文字数 1,348文字

 母は真面目だった。真面目過ぎて思い返すとつまらない。小学校の通知表。
『忘れ物をしたことがない、クラスでただひとりだけである。几帳面すぎて逆に心配だ……』
 もちろん、遅刻などありえない。宿題を忘れたこともない。予習も。塾に行かなくても成績は中の上かそれ以上。数学は好きだった。歳をとっても。

 3人の子供達。揃いも揃って勉強しなかった。中学までは部活に夢中。上から、サッカー、陸上、吹奏楽。試合に、コンクール。充実していた分、勉強する余力がない。高校は……
 
 高校の部活は、上から釣り同好会、水泳、1番下は忘れた。3人ともアルバイトをした。コンビニ、いろいろ、回転寿司。学業よりアルバイトを優先した。試験前でもアルバイト。
 試験のあとは呼び出しが。留守番電話に伝言が。今回は赤点が○個。
 進級できるか、もうやめるか? 退学していく子が多い環境で母は必死だった。その頃父は仕事にもっと必死だった。朝早くから夜遅くまで。よく泊まりに来ていた息子の友達が心配するくらい。
 親は、やればできるのだと思うのだろうが、やらないのだ。いくら言っても。必死なのは母だけだ。怒りヒステリーに。子供はどこ吹く風……

 上は商業高校。数学が苦手なくせに簿記に算盤。赤、赤、試験のたびに追試験。その頃原付バイクの免許を取りバイクを欲しがった。簿記の3級受かったら買ってやろうじゃないか、まさか、受かるまい……
 やればできるのだ。高得点で受かってしまった。そのあとがひどかった。買ったバイクで禁止されているのに通学。放課後3人乗りを見つかり停学。どこまで母を泣かせるのだ?

 長女は暗記が得意だ。楽譜を何ページも暗譜して弾いた。やればできるのだろうに。やったのは数学の丸暗記。試験は数字さえそのまま出すのだろうか? 丸暗記で高得点。意味もわからず数学の成績はよかった。
 試験が終わると休みになるから髪を染めた。金髪に。そのあとに追試の連絡が。当日、三つ編みにしスプレーで黒く染めた。それですむわけないだろうに。もういい。母も疲れた。やってられない。落第でも退学でも、
「将来子供を産んでも、絶対に絶対に手伝わないからね」
先生も甘かった。バレバレなのにお咎めなし。

 次女は輪をかけてひどかった。幼稚園から英会話を習っていたが……無駄だった。勉強もしないが、態度も悪かった。体育の時間真面目ではなかったのだろう。2年の2学期は赤点。どうすれば体育が赤に?
 追試は学校の周りをマラソン100周。何キロ? 冬休みの間に。どれだけサボるとこうなるのだ? 無理だ。走れるわけがない。行かないで退学した子もいた。
 次女は走りに行った。高校まで1時間、毎日自転車で往復していた。体力はついていたのか? 
 初日、30周したとか。足がパンパン。母は近くの温泉施設に付き合わされた。足をマッサージしてやる。
 根性はあったのだろう。最終日は土曜日だったので、父の車で送り、時間を潰し迎えに行った。
 走り終えた次女は体育教師に根性あると褒められ、シュークリームをいただいてきた。

 今はそれぞれ親になっている。息子は孫に算数を教えていた。3人ともバカだった。勉強しておけばよかったのに。しかし1番バカだったのは母だった。どうすればいいのかわからなかった。





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み